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視線  作者: 木の実
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意識させる視線③

九頭先輩が感じている視線の犯人は僕と長谷川さん以外にもいるらしい。

犯人を限定していたから、視線探しに全く協力していなかったけれど、今度こそ本格的に探すことにした。


客観的に。

九頭先輩の周りを見渡す。


「なんだ、これ」


思わず声が漏れた。

頭の中は疑問符だらけだ。


え?と九頭先輩が怪訝な顔をしたので、また何か分かったら報告します、と適当なことを言って足早に教室に戻る。

そして。

すぐさま机に突っ伏す僕。


なんで今まで見えなかった。

視線が一時的に見えなくなっていたのか?

九頭先輩に向けられている視線が、今になってようやく見えただなんて。

意識の問題?

犯人を特定したが故の思い込み?

視線はもう無いと決めつけてたから?

だけど、それにしたって。


僕が視線から意識を外すなんて。


「緒川くん」


しかし、予想以上に九頭先輩に視線が集まっていた。

一時期の長谷川さんには遠く及ばないけれど。

そわそわ。

落ち着きのない視線。

何かに気付いて貰いたがっているみたいな。

そう、言うなれば。


意識させる視線―――


「緒川くん!」

「え?」

長谷川さんの顔がドアップで映る。

「え?えと、あー…何かな?」

「何かな、じゃないよ。顔色悪いけど、九頭先輩になんか言われた?」

「あーいや、違うよ。ごめんごめん。ちょっとね」

長谷川の周りにはやっぱり視線がまとわりついていた。

だけど。


「視線、少なくなったね」


呟いて。

そしてすぐ、しまったと思う。

デリカシーの無い発言をしてしまった。

長谷川さんはそんなこと分かりきっているだろうし、僕なんかに触れてほしくないだろう。

でも彼女は、お陰様でね、と微笑んだ。

その言葉の真意はよく分からなかったけど、とりあえず不愉快な思いをさせなかったことにほっとする。


「で?九頭先輩は何だって?」

長谷川さんが話を元に戻す。

「まだ視線なくならないって」

「…そうなんだ」

「犯人は長谷川さんだけじゃないみたい」

…また、口が滑った。

彼女の顔をこっそり伺う。

一瞬だけ驚いた表情をしたけれど、確信犯のようなイタズラな笑顔で。

「ありゃりゃ、バレてましたか。さすがだね」

そう言った。


「でも、緒川くんも便乗してたでしょ」


この言葉に、今度は僕が驚いた。

「な、なんで?」

「見てたら、分かるよ」

「はは、分かりやすいのかな僕って」

「…そうじゃなくて」

「?」

「ずっと見てるから、分かるよ」「え、と?」

それは、どういう意味だ?

まじまじと彼女の顔を見つめる。

彼女は何も言わずに僕を見つめ返す。

何かを伝えたい、みたいな。


…意識させる視線?


僕は人に見られたことないから、よく分からないんだよなぁ。まぁでも、見つめ合ったというのはほんの一瞬で、すぐに長谷川さんは視線を逸らして。

「ま、結局は緒川くんが分かり易すぎなんだけどね」

そう言って、いつも通り笑った。


「さて、気を取り直して視線探し再開しますか」


今度は本格的に、手当たり次第メモを取っていくことにする。

5秒以上九頭先輩に視線を送っている人を調べて、一番回数が多い人が犯人ってことで。


「ホントに本格的だな。大変じゃない?」

と、大橋くん。

「ベッタリついている必要はないよ。僕達がたまたま見たときに、たまたま視線送ってるのが何回も見受けられる人っていうのは頻繁に見ているものだからさ」

「ふーん」

「ま、気楽にやればいいよ」


とは言ったものの、実際は上手くいかなかった。

いや、犯人候補は見つかった。

だけど。

候補が多すぎるのだ。


「なんでこんなに…」


確かに九頭先輩はかっこいい部類だけど…。

熱狂的なファンといった感じでもなく。

ただ、なんとなく。

特に意味もなく。

見つめてしまう。

そんな印象だ。


そういえば。

視線に慣れているはずの長谷川さんが、九頭先輩にだけ執着したのもおかしくないか。

そう、僕でさえも。

周りの視線が見えなくなるほどに、関心が奪われていた。

もしかして僕達は、意識させる視線を送っていたのではなく。


意識させられていた?


もしそうなら、九頭先輩は元からある程度の視線を受け続けているはずなんだけど。

なんで今更―――。


ふと、長谷川さんが目にはいる。

もしかして、もしかして。


僕は三年の教室に向かって走った。

普段の僕なら、他学年どころか他クラスの教室にすら入れないのだけど、今日は一味違う。

階段を一段飛ばしで降りて、九頭先輩のクラス…確か3-2だったよな…そう、そのクラスのドアを勢いよく開ける。

休憩中なので、ざわざわしているが、それでもドアの音に反応して僕に三年生の視線が突き刺さった。

ぐぁっ、痛い…。

「えと、失礼しまーす…」

自分でも聞き取るのが困難なくらいの声で呟く。

く、九頭先輩はどこだ…。

辺りを見渡す。


「あれー?後輩くんじゃないか」

この脳天気な声は…。

「軽沢先輩っ!!」

「いやっ、唐沢だからな!?」

今日ばかりは軽沢先輩の登場に感謝した。

こんな見知らぬクラスで、知った人を見るのは凄く安心する。

「軽沢先輩、九頭先輩どこにいるか知りませんか?」

「だから、唐沢だって…。九頭?あーあいつは…。あり?居ないな、どこ行ったんだろ」

留守みたいだ。

「そうですか…。ん、じゃあ軽沢先輩に質問なんですけど」

「だーかーらー…はぁ、もういいや。何?」


「九頭先輩が視線気にし始めたのっていつ頃ですか?」


「え?うーん…いつだったっけ…?1、2ヶ月前?…あっそうそう!女子が夏服になり始めた頃だ」

…普通男子も夏服になり始めるものだが、そこは突っ込まないでおく。

何はともあれ疑問は解決した。


「一応九頭にも言っとこうか?」

「いや、大丈夫です」

僕は軽く礼をする。

「ありがとうございました、唐沢先輩」

「いやだから!唐沢だって言って…あれ…そうだよ唐沢だよ!正解だよ!ったく、ボケるんなら最後まで責任もってボケろ!ちきしょー」

うん、やっぱり面白い人だ。

そうして、三年の教室を後にした。


さて、どうしようか――。



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