意識させる視線②
「視線を探せって言われてもなぁ」
深いため息をつく。
とりあえず一週間、九頭先輩の周りを監視するはめになってしまった。
何の手がかりもないので、付きっきりで監視しなければならない。
「厄介なことになった…」
「まぁまぁ。こういうのなんか少しだけ楽しくない?探偵ごっこみたいで」
そう言って、長谷川さんは僕をなだめる。
「そうだよ、緒川。楽しまなきゃ損…あ!ちょっ見てみろって。これヤバいぞ!」
大橋くんは双眼鏡を手に、窓から隣の校舎をを見ている。
一体何を見ているんだ?
双眼鏡越しでは視線が見えない。
ん…?
その先は確か…。
女子更衣室じゃありませんでしたか!!!??
え!マジで!大橋くんが!?
まさか覗き!?
というか、え!?
着替えてるの!?
女子着替えてるの!!??
「ほら早く見てみろって!」
「え!でも……マジですか!?いいんですか!!」
「早くしなきゃ消えるぞ!」
………!!
それはいかん…!!
双眼鏡を手渡され、無駄のない流れるような動作で目に当てる。
しかし、更衣室のカーテンは隙間なく閉めてあった。
「な…!!遅かったか…!?」
「いや、もうちょい下」
「へ?」
大橋くんに角度を調整される。
更衣室の下の教室。
整然と並ぶ机。
人気はない。
窓側の机の一つに何かが積んである。
それは、危うくもあり。
しかし、完璧なバランスで積み上げられているトランプのピラミッドだった。
「……おぉ」
なんだろう。
すごいけれども。
残念でならない。
「あっ」
風が吹いた。
ふっ、と。
息を吹きかけるように。
「あぁ…」
ぱたぱたと。
バランスを崩して。
ピラミッドは姿を消した。
「な?」
いいもん見ただろ、と言いたげな大橋くんの顔を直視できない。
大橋くんは、やっぱり大橋くんだった。
つーか。
「いったいなんの描写だよ!!」
とりあえず僕は叫んだ。
「まぁまぁ。緒川くん落ち着こう」
気を取り直して外を見る。
九頭先輩は友達とグラウンドでサッカーをしていた。
「はー、アクティブだなぁ」
僕は小学生のときでも、先生に外で遊びなさいと注意される部類の子供だった。
短い休憩時間に体力を使って大丈夫なのかと不思議に思うのだけど、きっと大丈夫なんだろうな。
ん、あれは…。
グラウンドの端で砂を蹴り続け砂煙を起こすという嫌がらせを実行中の真中君がいた。
視線の犯人はもしかして真中君!?……なわけがないことは、なんとなく本能で分かる僕だった。
そんな感じで何の収穫もなく、あっという間に一週間が過ぎ。
僕は九頭先輩に呼び出しを食らった。
「なんか分かったか?」
「いえ…。あの、まだ視線感じますか?」
「ああ」
「え!?」
「え…ってなんだよ。当然だろ?犯人見つかってないんだから」
「…あ、はい。そういえばそうですね」
「…?」
おかしい。
他にも九頭先輩を見続けていた人物がいたというのか。
実のところ先週で九頭先輩の悩みは終了したはずだった。
何故なら。
犯人は長谷川さんだったからだ。
彼女なりの復讐。
真中君が言うところの嫌がらせ。
視線を与えられ続ける不愉快さを知ってもらうための、意識させる視線を彼にずっと送り続けていたのだった。
ちなみに僕もこっそり便乗していた。そのことは長谷川さんは知らないのだけれど。
何はともあれ、九頭先輩は反省したみたいだったし、長谷川さんも視線で攻撃するのを止め、一件落着だったはずなのに。
いったい、誰が?




