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視線  作者: 木の実
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気付かれない視線

番外編みたいなアレです。

長谷川さん目線のストーリー。

視線は存在するんだ。

そう、言ってくれた人がいる。

その人は。

誰よりも視線に敏感で。

視線に苦しんでいる私の唯一の理解者だ。


だけど、気付いているのかな?

多分きっと、気付いていないんだろうなぁ。



私は学校に行く時間が人より少しだけ早い。

花壇に水をやらなきゃいけないっていうこともあるけど、なんていうか、人の少ない静まり返った教室が好きだからかな。

7時45分。

水やりを終えて教室に入ろうとした時間だ。

朝礼が8時30分だから、多分まだ人はいないだろう。

そう思って、教室のドアを開ける。

しかし、予想に反してもうすでに一人いた。


大橋くんだ。


おはよう、と声をかけようとして思い留まる。

彼は私が教室に入ったことに気がつく様子もなく、ぼーっとしていた。

いや、違うな。

何だろう。

教室の雰囲気を感じ取っているみたいな。

何かを探しているような。

ただひたすら、空気を見つめている。


大橋くんって、たまにどこ見ているのか分かんないときあるなぁ。


そんなことを思いながら、彼の邪魔にならないよう教室の端っこを通って席につく。

ん?なんか違和感。

隣には相変わらずの大橋くんが座っている。

あれ?隣って…。


「ここって緒川くんの席じゃない?」


確か右から、私、緒川くん、大橋くんの順番だったような。

「ん。あ、長谷川おはよ」

「うん、おはよう。緒川くんの席で何してるの?」

「何してるって……。うーん、何してるんだろうなぁ」

「あは、なにそれ」

大橋くんらしいっちゃあらしいけど。

「なんていうかさ、俺が言うのもなんだけど、緒川って変な奴じゃん?」

「確かに」

それには激しく同意。

「緒川の席に座って、緒川の目線で見たら、なんか分かるかなって……。あれ?なんだこれ。何してんだ俺」


あぁ、そっか。

さっきのは、そういうことだったんだ。


「ごめん、何言ってんのか分かんないよな…」

「ううん、分かるよ」

驚いた顔で私の方を向く大橋くん。

こんな顔もするんだね。


「緒川くんのこと、もっと知りたかったんでしょう?」


大橋くんもきっと、緒川くんに救われたんだろう。

私とおんなじように。


大橋くんの変化は、端から見てもよく分かる。

彼が緒川くんと仲良くなったときからだ。

私も、緒川くんと関わってから少し変わった。

男子とは必要最低限しか話さない人間だったけど、だいぶ話せるようになったんだ。少なくとも、今みたいに自分から話しかけることは昔だったら有り得ない。


自分を理解してくれる存在は。

とても、特別で。

だからこそ、知りたくなる。

その人をもっと、理解したくなる。

そして、あわよくば。

その人にとっての特別が自分であるように。


「多分、私も。大橋くんと一緒」


この一言で、伝わる気がした。

大橋くんはただ、そっか、と微笑んだ。



「ふぁ、なんか眠いや」

「まだ時間あるし、少し寝たら?」

「ん。そうする」

大橋くんは、緒川くんの席を離れて自分の席に着く。

机に伏せて一分もたたないうちに寝息が聞こえてきた。


徐々に教室に入ってくるクラスメイト。

おはよう、という声が飛び交い、だんだん騒がしくなってくる。

いつもの光景。

そして、いつもの視線。


大丈夫。

いい加減もう慣れた。

平気平気。

気のせい気のせい。

こういうときは、無心に外の景色を眺めればいい。

他人がどこを見ているかなんて、私には関係ない。

気にするな気にするな気にするな気にするな気に―――


「長谷川さん、おはよう」


目の前に緒川くんがいた。

「あ、と。おはよ」

かろうじて、そう答える。


緒川くんは、ふと何かに気づいたかのように後ろを振り返る。

そして。

悲しそうな。

困惑したような。

そんな、切ない表情を一瞬する。

私を見たとき。

いや、私にまとわりついている何かを見たとき。

いつも、そんな顔をするんだ。

彼が何故そんな顔をするのか分からないけど。

私のためにそんな顔してくれるような気がして。

不謹慎だけど、少し嬉しくて。

不幸であることに優越感を感じてる自分がいる。


同情されているだけなのに。

もしかしたら、特別なんじゃないかなんて思って。

自分の浅ましさに腹が立つ。


緒川くんは、数歩左にずれて私に話しかけた。


「今日は暑いねぇ」

「…うん。もう夏だもん」

「僕、実は結構暑いの好きなんだよ。なんか溶けてしまいそうで」

「あはは、なにそれ」


緒川くん。

私、知ってるんだよ。

いつも君が、私を突き刺す視線を遮ってくれてること。


「…なんか、ありがとう」

「え!?…えーと……何のこと?」

「…なんでもないっすよー」

「えー?」


緒川くんは、少し上を向いて考える仕草をしたけど思い当たる節がみたあたらないようで、まぁいっか、と呟いた。


いい加減気づきなよ。

全く。

鈍いんだか敏感なんだか。

私だけ振り回されてんじゃん。


でも、いつか届くといい。

私や大橋くんのこの気持ち。


緒川くんに、届くといい。


そして、あわよくば。

君も同じ気持ちであってくれたなら―――。



緒川くんはなんやかんやで好かれてますね。

こう、違う人目線で書いたら、物語の雰囲気がちょい違うから楽しいっす。

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