10話「妹たちと修学旅行」 中編
博多に着いた俺たちは一度ホテルに行き、一旦荷物を預けたところで事前に決めていたグループ別に行動することになった。 偶然にもこれまたレナと同じグループだ。
「はあ、もう疲れた。 レナ早くお家帰りたい」
レナは深い溜息をつく。 それもそのはず、レナは俺以外のクラスメイトには常に猫をかぶっている。 故に俺の前だけ素でいられるというわけだ。 レナにとっては休息地ということになりわけだが……俺にとっては全くありがたくない。ちなみに今は、グループ内で二手に別れることになり、俺とレナは二人で観光地を巡っている。
「疲れたって、お前まだ1日目だぞ。 先が思いやられるな」
「うるさいわね。 あんたは黙ってわたしの荷物持ちでもしてなさい」
「……お前お土産買いすぎなんだよ」
「仕方ないでしょ。 お父さんの知り合いとか会社の関係の人とかとにかく頼まれてるんだから」
さすが社長の娘だ。 ちゃんとお土産を買って父のメンツを立てようとするところは偉いな。 だが少しは俺にも感謝してもいいんじゃないか? 両手に抱えきれないほどの荷物を持ちながら俺はそんな願望を抱く。 まあ、抱くだけ無駄なんだろうけど。
「ねえ、あんたの妹ちゃんたちへのお土産は何がいいかしら?」
「え、お前うちのエンジェルたちに何かくれるのか?」
「勿論よ。 あんたの妹ちゃんたちの好感度アップ大作戦なんだから」
なんだそのあからさまな作戦名は。 まあ、茜は攻略が難しそうだが。 妹たちとレナが仲良くなることは俺も大賛成だだ。
「そうだな、茜は甘いものが好きだな。 飴とかチョコレートとか。 智咲は可愛いものが好きだな。 例えばあれとか」
俺が指差した先にあるのは両手じゃないと抱えきれないほど大きなホッキョクグマのぬいぐるみだった。
「リ、リンちゃん!?」
「いやリンちゃんじゃねえよ。 お前の大好きな動物園のホッキョクグマじゃねえぞあれは」
ホッキョクグマぬいぐるみは何かの景品らしく店の棚の上の方にポツンと寂しげに置かれていた。
店の方をよく見ると「カップル限定!あなたの恋人自慢聞かせてね♡イチャイチャラブラブくじ引き」
……なんとも頭の悪そうなネーミングセンスだ。
「ほらあんた、ボサッとしてないで引くわよくじ引き!」
「は? っておい待てって!」
強引に俺の手を引っ張るレナ。 ダメだ。 もうこいつホッキョクグマのことで頭がいっぱいだ。
「お、いらっしゃいお兄ちゃんたちもしかしてカップルかい?」
「いえ、ちが……」
言いかけた言葉を遮るようにレナは俺を睨んだ。 まるで蛇に睨まれた蛙のように俺は怯んでしまう。
「はい、そうなんですよ〜。 ね、ダーリン」
まるで語尾にハートマークがついてるようなイントネーションで俺に問いかけるレナ。 怖い怖い怖い。
「あ、ああ。そうだな。 ハ、ハニー」
「んー? お兄ちゃんたちもしかして……」
店主のおじさんが勘ぐったような目で俺たちを見つめる。 バレたよな。 そりゃあそうだ。 実際付き合ってないわけだし。
「まだ付き合ってまもないだろ?」
全くお前らバカばっかだ!
「はい、そうなんですよ〜。 今日が一カ月記念日なんです〜」
「いいね初々しいね〜。 おじさん眩しくて見てられないよ〜」
「それでおじさん、どうやったらあのくまちゃんもらえるんですか?」
「よくぞ聞いてくれた! まず題名通り君たちには恋人自慢、すなわち惚気話をしてもらう。 それでおじさんが悶えるほどの惚気話だったらくじ引かせてあげる。 そして運良く大当たりが出たらあのクマちゃんをあげよう」
難易度高すぎだろ。 本当のカップルなら惚気話の一つや二つ容易いだろう。
……いや普通恥ずかしくてやらないよな……
当然やらないよなレナ……
ニコッとした蔓延の笑みでレナは俺の方を見て、
「やるわよ」
と、レナは俺の手を強く握った。
これは新手の地獄か何か……?




