02
*再会*
目を覚ますと、何故か貴方がいる…夢の様な感覚の現実
私の体は何処も彼処も思う通りには動かず
私の自由になるのは、目だけしかなかった。
静かな中に定期的に鳴る電子音と、機械の起動音
私の視界の中に存在する貴方は
『おはよう』と、私に優しく微笑み掛ける
私は貴方と一月振りに合う筈なのに
貴方の姿は、何年も苦労して来た様な感じの容貌で
痩せ白髪交じりになっていた。
貴方は私を、もう一人の私の名前で呼び
『大丈夫だよ何も心配する事は無い
美花は何の罪の意識を持つ必要はないんだよ』と、囁いた。
貴方は私が犯した罪の種類をちゃんと知っているのだろうか?
死を齎す赤い花の種を蒔く事は
普通に、高額な賠償金を請求されるレベルの罪なのである
私は自分の意思で声を出す事が出来ず
黙ったまま貴方を見詰めていた。
*環境変化*
私の知らない所で世界は動き
私が嘗て発した小さな嘘で、小花であった私は何時の間にか殺され
死んだ美花が、私と言う存在で生き返っている
本来の私は「赤い花が齎した死へ向かう眠り」の間に
貴方の行動によって殺され…
私に「死を齎す花」も、貴方の行動によって枯らされかけている
残ったのは、美花と成り代わった私だけだった。
総ての罪は、冤罪も含めて・・・
美花を死へ追いやった者達
直接の原因を作った者達と、それを提案した者達の元へ
法律の名の元、しっかりと送り届けられた。
貴方は私に美花への愛を語りながら・・・
貴方は出来るだけ多くの者達に
小さな罪悪感と、ちょっとした恐怖を届ける為
貴方を愛し、貴方の心を奪った美花を「傷付け・陥れた」者達と…
そんな者達の邪悪な願いに賛同した者達は勿論
賛同せずとも、美花を傷付ける事に、知らぬ内にでも
参加してしまった者達の元へ
「自分の恋人が死んだのではなく、その双子の片割れが
人違いで虐めの対象に成り、死んでいた事」
「これから、人違いをした上に一番酷い事をした者が
法律によって裁かれる事」
「自分が自分の恋人を取り戻し、その恋人を虐める事に先導した
その他の者を捜している事」を告げる手紙を
小さな携帯端末を使い、送り贈るのを見せてくれる
貴方の御蔭で、彼等彼女等に穢された美花の汚れは
小花の名に降り注ぎ、雪がれた美花の名は綺麗になって
私の名前になっていた。
*餌*
貴方が配信するメールに、美花にされた私が入院している事と
その入院先を送付していたのだろうか?
どんな事でも「謝れば許して貰える」と勘違いした者達と
「高学歴・高収入」な貴方を目当てにした人達が
貴方の罠とも知らずに、録画される私の病室へと御見舞に来る
「謝れば許して貰える」と勘違いした者達は
半分寝たきり状態で、喋れなくなった私に懺悔して
その後、貴方が現れると・・・
私に向かって懺悔した事をオブラートに包んで話して許しを請う
それ以外の人達は・・・
女性であれば、私の死を望み後釜を狙っている事を滲ませ
男性であれば、貴方との仲を取り持つ様に御願して来る
私は改めて世界の汚さを知り
総てを知り、貴方を見守る傍観者となった。
*後悔*
ある日、ある時…私を閉じ込める病室で
私が今まで見た中で
一番、綺麗な心を持った人と出会い再会した。
彼は昔、自分が犠牲になっても
何度も何度も、私やもう一人の私を助けてくれた人
とても優しい、私の恋した人
彼は悲しい瞳で私を見て、静かに謝り
嘗ての私「小花」への思いを告げ
当時、「小花を受け入れられなかった理由」を話す
彼はとても後悔していた、でも・・・
「あぁ…アナタも私で無くて、美花が好きだったんだね」
私はその理由に涙した。
彼は懺悔する様に
『受け入れていれば、君の片割れを守ってあげられたのに…』と
『守ってあげられなくて、ごめん』と謝る
でも、それは…とてもとても残酷な事
私は首をゆっくり横に振り、動きの悪い手で彼の手を取った。
*離反*
汚い者を見過ぎて、汚れていた私の目から鱗が落ちて
総ての罪を私は洗い流したくなる
貴方は、私が探し出した赤い花より
もっと、目立たない見付けられ辛い赤い花を見付け出して
培養しペットボトルに詰めたその種を、加害者達に蒔いていた。
「そして貴方は彼にも、赤い花の種を蒔こうとしている」
私はそれを止める為に
貴方が運んできた御茶に手を伸ばし、床にぶちまけ
ゆっくりと『もう、御終いにしましょう』と、震える声で囁く
貴方は凄く驚いている様子だ
私自身を見ない、表面上の私しか見なかった貴方は
赤い花によって死に掛けた私に
ちゃんとした、考える力が残っているとは思わなかったのだろう
私は自分の意思で普通に体が動かせなくなっただけ・・・
肢体不自由になっただけであって、知的障害にはなっていない
それに気付きもしない貴方が、繰返し私に向かって
『どんな風になっても、愛している』と、言っていても
私には、虚しさと愛されない切なさしか残らないのだ
貴方の様に彼も、私では無く美花しか愛さなくても
私にとって、残酷な慈しみ方でも
美花の為であっても、「小花」の事を考えてくれた彼を
私は守りたいと思った。
*決断*
貴方に総てを委ね、貴方に生かされていた私は
貴方からの差し伸べられる手を無くせば、生きてはいけない
それが分かっていても、私は彼の為に動く
彼を護ろうとする私を見て
貴方は、彼に何の説明も無く彼を強引に追い返し
『二度と来ないでくれ』と、言い放ち
彼が病院を出て見えなくなるのを病室の窓から確認すると
突然に裏切った私を断罪する
貴方の怒りはなかなか収まらず・・・
罵倒、罵りの中で…貴方は私に『出て行け』と言っている
今回の事で・・・
このまま此処に居続けられなくなったかもしれないし
出て行けば、逆に怒らせてしまうかもしれない
不確定な状況に陥った。
だから私は、貴方が病室を出て行った後・・・
貴方に犯させてきた、私と同じ罪を
これ以上、貴方に続けさせてはいけないと思ったから
即座に貴方の言葉に従って、出て行く事にする
後々、追い出されるにしても
今、出て行けば…確実に、貴方が怒るのは目に見えていたけれど
貴方の罪の証拠を持ち出すには今しかなかった。
私は、貴方が持ち込んだ証拠となるであろう
御茶のペットボトルを持って立ち上る
そして、私の私物は此処には無い
もしかしたら、何処にも存在しないのかもしれない
私は自分に繋がった線に繋がる機械を総て停止させてから
繋がった線や点滴を引き剥がし
貴方へのメモを残して
証拠と、着ている下着にパジャマとカーデガンにスリッパを貰って
足取り重く病室を旅立った。
*隠れ場所*
大きな病院の近くの商店街では
患者がそのままの格好で、買い物に来る事が時々あるので
少し薄着でも、パジャマ姿でも…
気にした様子を見せても、誰かに呼び止められる事は無い
私はこれ幸いと、商店街の中を歩いて行き
上の方に空き店舗の有る
下の方の階が、深夜まで営業をしている食べ物屋が入った
古そうなビルを見付けて、中に入り込む
古いビルには、防犯設備が整っておらず
上層階の空き店舗には、人が来ない
更に下の方の階が出入りの多い店なら、温かさが上に登り
他の場所よりも、少しは暖かいのだ
私は人目が少なくなる深夜を待つ事にした。
階段の踊り場にある窓の外を眺めながら
私は一人、不意に過去を思い出す
貴方の女友達を中心としたグループに虐められ
続いて、貴方に捨てられ
それでも、貴方の恋人であったと言う理由で虐められ続けた
私の双子の片割れであった、今は亡き…もう一人の私と一緒に
学校帰り逃げ隠れしていた時の事を思い出ていた。
もし、この手の逃げ場所を私が見付けていなければ…
もしも、もう一人の私が逃げ込む所を見付かっていなければ…
貴方と、もう一人の私が恋人同士にならなければ…
貴方がもう一人の私に告白して、恋人同士にならなければ…
「あんな事にはならなかったのに…」
無意味な仮定が脳裏を過ぎる
虚しくなって、私は目を閉じ仮眠を取る事にした。
*逃走*
遠くで、シャッターを閉じる音が聞こえて来る
私は身を縮め、はぁ~っと息を吹きかけ
冷たくなった指先を温め、手と手を擦り合わせる
私の見通しが甘かったらしい・・・
見知った街並みだから、大丈夫だと思ったのに
季節と天候を読み間違ってしまい
ちょっとヤバイレベルで、外は寒くなっているかもしれない
真っ暗な階段、踊り場から見える外も真っ暗で
遠くの電飾看板の明かりに照らされ、粉雪が
チラホラ振っている様子が見て取れる
でも、此処でジッとし続け
此処で死んでしまうのは、迷惑極まりないだろう
「せめて、もう少しだけでも
他人様に迷惑が掛からない所へ移動しなくては…」
私は立ち上り、ヨロヨロと階段を下りる
さっきの音が、このビルのシャッターの音だとしても
内側からなら、鍵が無くても開く筈だから
ビルの外に出ていける筈…
私は自分のタイムリミットがどれくらい残っているか分からない
まだ、私の中の赤い花の種は残っている
貴方の準備した花の種とは違う、似て非なる赤い花の種
私は私が死んでしまう前に
貴方を止める為、脅しのつもりで持って来た
花の種の混入した御茶を捨てておかねばならないだろう
私はソレを捨てる為に持って歩きだした。
*空虚*
頭痛が酷く、とても億劫になってきた
私は…近々、溝掃除が無い事を願いながら手っ取り早く
液体を側溝に捨てる事にする
手元に残ったペットボトルは、店が出したゴミに紛れ込ませる
後は自分の身体なのだが…どうしたら良いのだろうか?
私が寒空の下、一人ぼっちで途方に暮れていると
『美花』と呼ぶ、聞き覚えのある声が背後から聞えて来る
私は振り返る事が出来なかった。
私はどう足掻いても、愛される美しい花には成れない
同じ似た花でも、私は小さな花なのである
振り返りもしない、動きも、逃げもしない私に業を煮やし
アナタは、私の正面に回り込みがてら私の肩に触れ
『君はとっても、冷たいね』と言った。
それは、気持ちの事だろうか?
体の事だろうか?それとも、態度の事だろうか?
どれか分からないが、私はそっと溜息を洩らす
アナタは静かに笑う
『所で、君の望みは少しでも叶った?』
これまた、どの望みの事だろうか?
復讐?救済?それとも、仇討の終焉?
私はその考えが可笑しくって、自嘲気味に笑った。
私は何の為に誰の為に、赤い花の種を蒔いたのだろうか?
同じく、赤い花の種を蒔くのを止めさせようとするのだろうか?
一時の感情で、復讐を思い立ち
一瞬の感情で、もう止めたい止めて欲しいと思い
今、この瞬間で…総てが虚しくなった。
*私が赤い花*
もう一度、自分の中に残っていた赤い花に侵されて
私は、新しい赤い花を生み出していた
既存の薬の効かない赤い花を…
私が最初に探していた
本物のマクロライド耐性を持つ赤い花を…
そしてそれは、早期で「死を齎す赤い花」
私が貴方に贈り・・・
貴方を通じて、もう一人の私を死に追いやった
貴方の女友達に贈りたかった「報復の赤い花」
今は真っ白い四角い部屋のビニールカーテンに囲われた
狭い空間に、私と一緒に閉じ込められている
『マルデ、温室栽培シテイルミタイダネ』
私が素直な感想を述べると、アナタが笑った。
『確かに、その通りかもしれないね
君は、君が生み出した新しい赤い花のサンプルだから』
私はアナタの言葉を訊き、少しだけ嬉しくなった
私は今になって小さな「必要とされない花」から
標本としてでも、「必要とされる花」になったらしい
目を閉じると目尻から温かい液体が流れた。
『これ、プロットじゃね?』と、思った人!ほぼ、正解!
ちょっと書き足しただけの作品です。
そのままのが、面白い気がしたので投稿してみました。




