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1話 効率を追求した結果、パーティを追い出されました

「カイル。お前、今日限りでクビだ」


 王都の一等地に構える高級ギルド『黄金の翼』の最上階。

 金に糸目をつけぬ装飾が施された応接室で、リーダーの勇者ゼクスが鼻を鳴らした。

 彼の背後には、かつての仲間たちが冷ややかな笑みを浮かべて座っている。


「……クビ、ですか。理由を伺っても?」


 俺は手に持っていた魔法帳簿を閉じ、静かに問い返した。

 正直、驚きはなかった。最近の彼らが、事務方である俺の管理を「口うるさい束縛」だと感じていたのは、帳簿の不自然な使途不明金から察していたからだ。


「理由は単純だ。お前は戦えない。魔法も使えない。ただの『万能事務員』だ。俺たちのような、選ばれしSランクパーティに、平凡な事務屋は必要ないんだよ」


 ゼクスが机に投げ捨てたのは、俺が昨日まで寝る間を惜しんで書き上げた『次期遠征の最適化計画書』だった。


「ですがゼクス。俺がいなくなれば、備品の調達や税金の申告、魔物素材の換金交渉はどうするのですか? 現在のパーティ収益が昨対比で二〇〇%を超えているのは、俺の交渉術とルート管理があってのことですが」


「ハハハ! そんなの、誰でもできるだろうが!」


 魔導師の女、ミレーヌが小馬鹿にしたように笑う。


「カイル、自意識過剰よ。あなたのやってることなんて、少し頭が回る商人なら誰でも代わりが務まるわ。それよりも、私たちはもっと派手な大魔導師や、伝説の聖騎士を雇いたいの。地味なあんたが横にいるだけで、私たちのブランドイメージが下がるのよ」


 ……そうか。ブランドイメージ、か。

 彼らには見えていなかったらしい。

 俺が単に「安く買っていた」のではなく、スキル**【概念改変】**によって、市場の商品の「価値」を定義し直し、自分たちに有利な相場を作り出していたことに。

 彼らの剣が折れないように「耐久」の概念を書き換え、彼らの魔法が必中するように「因果」の概念を修正していたことに。


「分かりました。契約通り、今月までの給与を頂ければ即刻立ち去ります」


「ケッ、しけた面しやがって。ほらよ、手切れ金だ。二度とそのツラを見せるなよ」


 投げられた数枚の金貨を拾い、俺は静かに立ち上がった。

 パーティの紋章が入ったバッジをテーブルに置き、部屋を出る直前、俺は「後片付け」をすることにした。


(――定義解除。対象、パーティ『黄金の翼』に属する全装備、および全付与効果。……『通常』に戻れ)


 パキリ、と。

 背後で、ゼクスの愛用する聖剣から不吉な乾いた音が響いた気がしたが、俺は振り返らなかった。


 ◇◇◇


 王都の重厚な門をくぐり、俺はあてもなく北へと向かった。

 空はどこまでも高く、皮肉なほどに澄み渡っている。


(……さて、まずは自分の生活基盤を整えるか)


 街道から少し外れた深い森。本来なら低級の魔物が徘徊する危険地帯だが、今の俺にとっては絶好の「実験場」だ。

 俺は自身のステータス画面を、誰にも見られないように展開する。


 【固有権能:概念改変コンセプト・リライト

 【深度:測定不能】


 この力は、対象の本質を定義し直す。

 例えば、そこらに落ちている『ただの石ころ』。


「定義:この石は、半径一〇〇メートル以内の魔物を寄せ付けない『聖域の核』である」


 俺が指先で触れると、石ころが淡い黄金色の光を放ち、周囲の空気が一瞬で清浄化された。

 これで今夜の野宿の安全性は確保された。

 次に、旅の汚れでボロボロになった自分のブーツ。


「定義:この靴は、歩くたびに体力を回復させ、地形の抵抗をゼロにする『神速の長靴』である」


 スッと足が軽くなる。

 軽く地面を蹴るだけで、景色が飛ぶように後ろへ流れていく。

 

「……よし。まずは誰もいない辺境へ行こう。そこで静かに、効率的な理想の暮らしを作るんだ」


 俺の目的は「効率」だ。

 無駄な争い、無駄な税金、無駄な人間関係。

 それらを排除した、完璧な安住の地。

 あのアホな勇者の浪費癖に頭を抱える必要もない、自分だけの王国。


 ――そんなことを考えながら、森の奥深くへと進んでいた時だった。


「――っ! 来るな! 穢らわしいオークどもが!」


 鋭い剣鳴と、少女の叫び声。

 茂みを抜けた先の開けた場所で、一人の騎士が窮地に立たされていた。


 銀髪を乱し、鎧の各所を砕かれながらも、彼女は背後にいる幼いエルフの子供たちを庇うように立っていた。

 彼女を取り囲むのは、十数体の巨大なオーク。

 

「はぁ、はぁ……ここまで、か……。神よ、どうかこの子たちだけでも……」


 彼女の持っていた剣が、オークのこん棒によって叩き折られた。

 絶体絶命。

 本来なら、関わらずに通り過ぎるのが「効率的」な判断だ。


 だが、彼女の瞳に宿る不屈の光と、泣き叫ぶ子供たちを見て――俺の脳内にある「効率計算」が、別の答えを弾き出した。


(ここで彼女を助け、恩を売っておくことは、将来的な領地運営における『防衛コスト』の削減に繋がる。……よし、投資価値ありだ)


 俺はゆっくりと、折れた剣を拾おうとする彼女の前に足を踏み出した。


「おい。そこの騎士さん」


「え……? 逃げて、民間人が……!」


「いいから、その折れた剣を貸してくれ。三秒で『最強』にしてやる」


 俺の手が、地面に転がった剣の破片に触れる。


「定義:この鉄屑は、あらゆる因果を断ち切り、神の雷を纏う『一撃必殺の聖剣』である」


 瞬間、森の木々が震えるほどの膨大な魔力が爆発した。

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「理由は単純だ。お前は戦えない。魔法も使えない。ただの『万能事務員』だ。俺たちのような、選ばれしSランクパーティに、平凡な事務屋は必要ないんだよ」 →ただの万能事務員とは? その後平凡な事務屋はいらな…
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