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第5話 もうひとつの息

==========

アルヴィスが眠ったあと。シリルは眠れなかった。

「彼が一体何者なのか」と、気になったからだ。

寝息だけではない。

森へ来た理由、胸元にある呪い、そして彼の匂い。謎が深まる。


夜が明け、朝食を済ませたあと、小屋の外から陽気な男性の声が聞こえてきた。

==========


 夜が更け、炉の火はすでに落ちている。

 

 シリルはまだ起きていた。


 最初は眠るつもりだったが、寝付けずに寝室を出て机の前に座っていた。


 紙に書いてあるのはアルヴィスについて。分かっていることと、シリルの憶測を分けながらびっしりと書き込まれていた。


 ちょうど、アルヴィスにかけられている結び目の呪いについて書き終えたところだった。

 

「なぜだ」


 眠れない理由を探したが見当たらない。


 結び目以外にも気になることがあるのか。

 

 体調に異常はない。魔力も安定している。環境も変わっていない。


 変化といえば、この小屋に自分以外の者がいるということ。


 その寝息が聞こえている。それだけだ。

 

「ただの寝息だろ」


 だが、それは理由にならない。


 受け入れてから二度目の夜だ。

 

「昨夜は、何も感じなかった」


 長いあいだ、この小屋は己の息と、火の音と、骨の軋む音がほとんどだった。だが、決して他者の存在が不快ということではない。


 シリルは立ち上がり、地下へ降りて行った。


 地下一階。奥にある「一部分だけ変色した床」を見つめる。


「異常があるなら、ここも反応するはずだ」


 何も変化がない。


 光ることも、開くこともしない。過去に強い魔物が小屋に接近した時、床周辺の模様が輝いていた。


 アルヴィスが無意識に放つ魔力は、その魔物に近いものだった。


「無意味だったか」


 シリルは一階に戻る。ふと、部屋の匂いに気づく。

 

「匂い、なのか」

 

 雷雨のあとの空気のような、鼻を抜ける透き通った匂い。

 

「一体、おまえは何者なんだ」

 

 黒髪。ハイエルフ。

 育ちのいい服。

 死ぬために「この森」に来た経緯。

 胸元の呪い。彼の匂い。


 まだ噛み合わない。

 ただ、黒髪という一点だけが、遠い記憶に引っかかる。過去に、思い当たる人物がひとりいた。


「……ウルヴァル・リンドグレン。黒髪のハイエルフ」


 保護領の隅で、かつてその名を聞いたことがある。

 ラートネクに抗議していた、エルフの男。

 顔も声も知らない。

 ただ、その名だけは記憶に残っている。


「それでも、俺は助からなかったがな」


 苦笑する。

 厳しい情報統制の下にある保護領内で、シリルの存在は闇に葬られてきた。見つかるはずがない。


 次に、アルヴィス自身。彼も黒髪だが、初めて出会った時、シリルは不思議とそこまで驚かなかった。珍しいだけだろ、とだけ思っていた。今はその特徴でさえ気になる。

 色々聞けば答えるかもしれない。だが、今はその時ではない。


 胸元にある呪いと、雷雨のあとのような匂いの謎もある。


「きりがない。あとで考える」


 シリルは浴室へ向かう。

 湯で体を洗い流していると、ふと疑問が浮かんでくる。


「あの男、どんな魔法を使うんだ」


 アルヴィスの魔力は戻っていないが、特徴だけでも聞くべきだと思った。


「回復してから。だな」


 身を清め終えると、木桶に湯を張る。その手つきは誰かのために行うもののようだった。


 浴室から出る頃には夜が明けていた。

 アルヴィスのいる場所へ向かう。声をかけると、眠そうな目で体を起こす。


「おはよう。朝早いんだね」


 ふわりと話しかけるアルヴィス。その顔はおだやかで、昨晩の緊張がほどけているようだった。


「眠れなかっただけだ」


 シリルは濡れた布をアルヴィスに差し出した。

 

「拭け」


 アルヴィスはそれを受け取る。熱すぎず、適温だった。

 

「あたたかくて、気持ちがいいよ」


 自分で体を拭いていく。

 シリルはその様子を見ていた。

 適度についている筋肉が、脂肪の層で覆われている。傷はほとんどないように見える。皮膚は張りがあり、見てわかるほどに水分に満ちていた。


「これが若さか」


 シリルは小声でつぶやいた。


 ――


 アルヴィスは身支度を軽く整える。鏡がなくてもどうにかなりそうだと思い、調理場から漂う香りに鼻を寄せる。

 

 しばらくして、卓に料理が並べられた。あらゆる食材を炒めたものと、香ばしい匂いのする茶だ。

 炒め物の中にはきのこを薄切りにしたものが入っていた。それをアルヴィスはじっくりと見つめる。


「これは、きのこ?」

「そうだ。そんなに珍しいか」

「庶民は食べていたけど、僕たち王族は禁止されていたんだ」

「きのこでそうなるのか。お前の家は厳しいんだな」

「まあね。きっと僕は体を壊すことはないだろうけれども」


 ひと口、食べてみる。

 ぷりっとした弾力。葉物とは違う。根菜とも違う。

 噛んでいくと旨味が広がっていく。

 

「これ、おいしいね」


 素直に出た言葉。


「気に入ったか」

「うん。僕はこれ、いけるかも」

「それはよかった」

「シリル。この料理はどこで覚えたの?」

「この小屋に住んでた者からだ」

「ここに君以外の人が住んでいたの?」

「ああ。すこし世話になった人たちだ」

「ひとりじゃないんだ」

「そうだな。あとで話してやる」

 

 そのあと、アルヴィスは少しだけ迷い、質問する。

 

「シリルは親からも料理を教わっていた?」


 シリルの箸が止まった。

 

「……母か」

「聞いても、いい?」

「別に」


 目を閉じて話しだす。

 

「料理。最初は見様見真似で作った。それを見た母は必要な時だけ様子を見てくれた」

「こんな感じの料理?」

「もっと雑。家にあるものを適当に炒めたやつだ」

「他の家もそんな感じ」

「まあ、な。俺の故郷はどこも貧しい」

「貧しい。か」


 その言葉で、空気が止まった。

 シリルは視線を落としたまま沈黙する。

 その沈黙の形を見て、アルヴィスもそれ以上は踏み込まなかった。

 

 朝食のあと、アルヴィスは棚の前に立ち、標本や瓶を一つずつ眺めはじめた。

 標本が静かに並べられているのを見て、アルヴィスは尋ねた。

 アルヴィスは頷きながら、棚の端から端まで視線を動かした。


 瓶の向きも、骨の置き方も、ほとんど乱れていない。

 配列は、規則というよりも芸術品のような並び方に見えた。


「きれいに並んでいるね」


 言葉が自然に出た。まるで、花を見るように。

 

「散らかると分からなくなる」

「分からなくなるのは、嫌?」

「嫌というより、面倒だ」

「僕も、そういうのは分かる気がする」


シリルは一瞬だけ、アルヴィスの方を見た。


「おまえも死霊術を学びたいのか」


 その言葉にアルヴィスは少し考える。


「ただ、興味があるだけ」

「術に、か?」

「君に」


 その言葉にシリルの瞳が揺れた。耳先がわずかに色づいているように見える。それを隠すように、こほんと咳払いをしていた。


「ところで、あの夢の後は眠れたか」


「眠れた。君のおかげだよ。感謝している」

 アルヴィスは、ゆっくりまばたきをした。


 目を合わせすぎないまま、敵意がないと伝える仕草だった。


「……そうか」


 シリルはそれを見て、同じようにまばたきを返す。そのあと顔をゆっくりそむけた。


 食後。茶のお代わりをアルヴィスは啜り、口を開く。

 

「あの……」

「なんだ」

「夢の話、今なら話せるかも」


 シリルは茶器を置いた。


「聞く。話せ」


 アルヴィスは少しだけ目を伏せる。


「場所は砂漠だった」


 その時だった。


「おーい!」


 小屋の外から、場違いに明るい声が飛び込んできた。


「……あいつか」


 ぼそりとシリルがつぶやく。

 

「お客さん?」

 

 アルヴィスは出入り口に目をやる。


「いるのは分かってんだぞ。開けろよ」

 

「今、出る」

 

 シリルが扉を開けた。


「おう、久しぶり」


 外には、背の低いダークエルフの男が立っていた。


 無造作な薄暗い色の短髪に、どこか野暮ったく簡素な格好をしていた。

 そして、妙に陽気な空気を振りまいている。


「……ディーか。何の用だ」

「ちょっと話したいことがあってな。ん?」


 ディーの目がシリルの背後でピタリと止まった。

 陽気な笑顔のまま、瞳の奥が一瞬細くなる。


「最近、森の奥が妙だ。変なもんが入ったって話もある」

「それを伝えに来たのか」

「それもある。だが、もうひとつ気になることがあってな」

「え、僕?」


 突然自身のことを言われたアルヴィスは動揺する。

 

「なあシリル。いつからそんな目立つもん拾ってんだ」

「アルヴィスのことか。森で拾った」


「ふーん」


 ディーはアルヴィスをじっと見つめる。


「アンタ、見たことあるぞ」


「僕を?」

「おう。あの綺麗な花壇を作ってた子だな」


 花壇。その言葉に胸がどきどきする。


「知っているのか」

「仕事のついでに見ていたからな。まぁ、綺麗な花壇なんてあの国じゃあ珍しいから、つい足が止まっちまったよ」


「意外と見られているんだね」

「アンタは目立つからな」


 アルヴィスは、ディーとシリルのことがふと気になった。


「シリルとは友達なのか」

「命の恩人、ってやつだな」

「そうなの」

「本人は絶対認めねぇけど。な」

「余計なことを言うな」


 シリルは視線を逸らしたまま動かない。ディーは呆れたように笑う。


「ま、アンタに言っておくけどよ。シリルのとこにいれば安全だ」


「それは言い過ぎだ」

「オマエのイカした魔法は凄えからな。でも魔力の枯渇には気をつけろよ」


 ディーはニヤリと笑い、今度はアルヴィスを見上げた。


「それに、そこの大きいのもいるしな」


「僕?」


「森のモンスターも逃げるだろ。でっけえヒト型モンスターがいるって」


「そ、そんな」


「冗談だ。まともにうけんな」


 ディーはケタケタと下品に笑った。

 

 冗談と本音の境目が曖昧なまま、ディーは腰に下げていた袋をシリルに差し出す。


「土産だ。ラートネク製の干し肉」

「フン、干し肉か。いいな」

「四本ツノの家畜な。うんめえぞ」


 シリルが袋を受け取ると、ディーは既に小屋の外にいた。


(いつの間に……)


 アルヴィスは自分の目を疑った。

 足音はなかった。

 まるで、影のように静かすぎた。


「そういや、そこの大きいの」


 ディーは扉の外から、ひょいと顔だけを戻す。


「アンタ、アルヴィスって名前だったな」

「うん。そうだけど」

「へえ。他の国にいそうな変わった名前だな。オレのことはディーって呼んでくれ」

「よ、よろしく」

「おう。敬語はいらねえかんな」

「わかった。うっかり言うかもしれないけど」


 ディーはそこで笑った。


 だが、次に口を開いた時、その声から軽さが少し抜けていた。


「で、アルヴィス。あの花壇のことなんだけどよ」


 アルヴィスの指先が、わずかに止まった。


「……花壇?」

「ああ。今は、前みたいな様子じゃねぇ」


 小屋の中の空気が、少しだけ重くなる。


「どういうこと?」


「荒らされてた。土も、花もな」


 アルヴィスは、すぐには返事ができなかった。


「誰が」


 ようやく出た声は、思ったより低かった。


「噂じゃ、アゾルって女だ。ローザって偽名を使ってたらしい」


「……アゾル」」


 その名前を口にした瞬間、アルヴィスの表情が硬くなる。


「ローザ、じゃなくて」


「ああ。アゾル」


 ディーは軽く言った。

 だが、目だけは笑っていなかった。


「花壇が、荒れていた」


 アルヴィスは同じ言葉を繰り返した。

 確かめるように。あるいは、まだ信じられないように。


「あれはオレの胸も痛むやつだった」


「そんな……」


「まあ、アンタにも事情があったんだろうよ」


 アルヴィスは答えられなかった。


 アゾルと別れてから、あの花壇のところには行っていない。

 行けなかった。

 見に行けば、何かが終わってしまう気がしていた。


「また行ったほうがいいかもな」


 ディーはそう言って、扉の前で一度だけ振り返った。


 陽気な笑顔はそのままだった。

 けれど、目だけがシリルに向かって冷たく細められる。


「……あまり無理すんなよ」


 小声だった。


 ディーは硬い視線を残して、森の影へ消えていった。


 扉が閉まる。

 

 アルヴィスは、その閉じた出入り口をしばらく見つめていた。


「……僕が逃げたんだ」


 その声で、空気が変わった。


 アルヴィスの視線は、もう小屋の中を見ていない。

 もっと遠い場所を見ている。


 砂の匂い。

 乾いた風。

 小さく区切られた花壇。


 そして、花を踏み荒らされた土。


「さっき、話そうとした夢」


 アルヴィスは、ゆっくりと言った。


「あれも、この花壇の夢だった」


 シリルは何も言わなかった。

 ただ、聞く姿勢だけを残している。


「場所は砂漠だった。ラートネクの国境に近い場所。そこに、僕は花を植えていた」


「なぜ」


「仲良くなれると思ったんだ」


 言葉にしてから、アルヴィスは少しだけ笑った。

 自分でも幼いと思ったのかもしれない。


「土を調べて、水の流れを変えて、風で砂が動かないようにして。何年もかければ、少しずつ緑が戻ると思っていた」


 シリルは黙っている。


「ラートネク語も覚えた。言葉が通じれば、心も近づけると思っていた」


 そこまで言って、アルヴィスの指先が止まった。


「ローザは、最初は笑っていた」


 名前を口にした瞬間、胸の奥がきしむ。


「花が咲いた時、嬉しそうに見えた。少なくとも、僕にはそう見えた」


「今は」


「分からない」


 アルヴィスは首を振る。


「でも、最後に言われた」


 夢の中の声が、もう一度蘇る。


『ほら。あんたの希望通り、正直に言ったわよ。これで満足?』


 アルヴィスは息を吸った。

 うまく吐けなかった。


「あの声だけ、まだ夢に出る」


 小屋の中に、沈黙が落ちた。


「花壇が荒らされていたなら、きっと僕が去った後のことだ。僕は見に行かなかった。怖くて、行けなかった」


「だから逃げたと言ったのか」


「うん」


 アルヴィスはうなずいた。


「僕は、花壇からも、ローザからも、父上からも、国からも逃げた」


「違うな」


 シリルが短く言った。


 アルヴィスが顔を上げる。


「お前は死に場所を探して森に来た。逃げたのは、その前だ」


「……同じじゃないの」


「違う」


 シリルは窓の外を見たまま言う。


「逃げた者は、まだ戻る場所を見ている。死に場所を探す者は、それすら見ていない」


 アルヴィスは何も言えなかった。


「だが、言っておく」


 シリルの声は低い。


「お前は、必要とされていた」


「本当に?」


「その女、最初は嬉しがっていたんだろ」


「たぶん。今は、もう分からない」


「なら、そこまで消すな」


 アルヴィスは目を伏せる。


「でも、利用されていた」


「利用されたことと、何もなかったことは別だ」


 その言葉は慰めではなかった。ただの切り分けだった。


 アルヴィスの胸に、別の痛みが生まれる。


「話したら、楽になると思った」


「なるとは限らない」


「……そう」


「だが、ここに居ろ」


 突然の命令だった。


「なぜ」


「今のお前は、ひとりにするとまた森の奥へ行く」


 アルヴィスは否定できなかった。


「それに」


 シリルは少しだけ間を置いた。


「俺にも、お前が必要だ」


 アルヴィスは言葉を失った。


「すぐに別れるかもしれない。アゾルみたいに、合わなくて」


「別れはまだ先だ。合わなければ、その時だ」


「……まだ、いてもいい?」


「言わせるな」


 お互いに黙り込んだ。


 部屋の影はゆっくりと伸び、二人のあいだに落ちていく。


 夕暮れ。炉の火が、ゆるやかに揺れていた。

 シリルは棚から乾いた切り餅を取り出すと、網の上に並べ、火にかける。


 しばらくして、表面がゆっくりと膨らみ始めた。


 アルヴィスは、それを黙って見ていた。

 火が、餅のふちを焦がしていく。


 まるで、アルヴィスの記憶の「角」を焼いているようにも見えた。


 シリルが餅を裏返す。角張っていた切り餅が丸く膨らみ、形を変えていく。

 軽く焦げ目がつき、香ばしい匂いが広がった。

 餅を皿に乗せて、卓へ置いた。


「食え」


 相変わらず雑な声かけに、アルヴィスは一瞬だけ笑い、箸を取る。


 餅をつまみ、少しだけ冷ましてから口に運んだ。

 外は香ばしく、中はやわらかい。醤油の味が、ゆっくり広がっていく。


「……おいしい」


 シリルは何も答えない。自分の分の餅をひとつ、無造作に口へ運ぶ。


 しばらく、火の音だけが続いた。

 アルヴィスは、餅を少しずつ食べながら訊ねる。


「君の知ってるラートネクについて、聞いてもいい?」


 シリルは醤油皿に餅をどっぷりつけながら答える。


「少し長くなるが、いいか」

「いいよ。食べながら聞いても平気?」

「構わん。だが、喉には詰まらせるなよ」

「大丈夫だよ」

「では、ラートネクの何を聞きたいか言え」

「シリルが、実際に彼らを見て感じたこと」


 少しだけ間を置いて、シリルは餅を飲み込む。


「あの国は、個を嫌う」

「個を、嫌う」

「そうだ。揃えることを強制する」


 アルヴィスはうつむく。

 

「……揃うのは、悪いことなのかな」

「悪いとは言っていない」

「じゃあ」

「揃え方の問題だ」


 喉につかえないように、ゆっくり噛む。


「……でも」


 ようやく飲み込んで、言葉が出る。


「周りと合わせた方が、生きやすいかなって」


 アルヴィスは続ける。


「僕らが彼らに頑張って合わせればいい。そう思っていた」


 アルヴィスの指先が、わずかに強く餅をつまむ。


「でも、うまくいかなかった」


「すべての者がお前と同じ思考をしているわけではないからな」

 

 まさしくその通りだった。

 

「……そう、だよね」

「考え方は育つ環境で変わる。が、おそらく、もうひとつ理由がある」

「もうひとつ?」

「生まれもった、根の部分だ」


 シリルは自分の頭部を指差す。

 

「根本的な思考が違う。優劣ではなく、仕組みの違いだ」


「生まれもったもの、か」


 アルヴィスは、もう一口餅を取る。

 さっきよりも、味を感じにくい気がする。


「種族ごとに違うと断定したくないが、俺たちが目を合わせるのが苦であるように、何か違いがあると感じた。俺の憶測だから、なんとも言えないが」


 そう言うと、シリルは茶をひと口飲んだ。

 

「ラートネクは、どうしてそうなったんだろう」

「おそらく、必要だったからだ」

「必要?」

「均一であることが、生き残る条件だった」


 アルヴィスは聞きながら、齧った餅を醤油に絡めて食べる。


「だからあの形になったとも、言える」


 説明は、そこで終わる。


 アルヴィスは何も言えなかった。胸の奥で、何かが小さく疼いた。

 

 完全には否定できない何か。


 花壇で笑っていたアゾルの顔が、一瞬だけよぎった。

当時人物


アルヴィス(まだ魔力枯渇中)

シリル(不眠)

ディー【NEW】

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