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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
2.オセロ

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33.

こちらの話で第2部完結となります。

次回更新は年明け以降の予定です……!


気長にお待ちいただけると嬉しいですm(*_ _)m

 フェリアナを包み込む目も開けていられないほどの強い光に、その場にいた人々は思わず目を強くつぶった。


 そうしてわずか数分にも満たない時間が過ぎ、段々弱まっていく光の中でやっとのこと目を開けたその矢先、ホノカの目に映ったのは信じられないような光景であった。



「っ……!?」



 口を手で押さえ、息を呑む。



 数分前と変わらずにそこにいるのは白髪の少女とシンヤである。


 違うのはシンヤの姿だ。


 露出する素肌のほとんどが赤い発疹で覆われ、さらには口から吐き出される血液によって汚れていたはずの体から、発疹や血の跡が消え去り、嘘みたいに綺麗になっていたのだ。



 赤い発疹ひとつ残されていない肌はつるりと滑らかであり、静かに眠っているかのように瞳を閉じている。


 ……いや、実際に眠っているのだろう。


 横たわるシンヤの胸の辺りが、一定間隔で上下している。




 まるで、魔力中毒なんて最初から無かったかのように、ホノカのよく知る兄の姿がそこにはあったのだ。



(な、何が起こったの!?)



 重大な魔力中毒に陥っていたシンヤの症状は、もはや治癒魔法ではどうにも出来ないほどに進行していた。


 この一瞬の間に起きた、奇跡のような出来事にホノカは目を見張った。



 混乱するホノカらを他所に、フェリアナははらはらと大きな瞳から涙を流したまま、ゆっくりとシンヤの頬へと口付けをした。

 そして宝物を扱うように丁寧な手つきでシンヤの頭をそっと撫でると、シンヤの体へ覆い被さるようにしてフェリアナも意識を失ったように倒れ込んだ。




 あたりはしんと静まり返っていた。


 誰も状況が理解できないまま、混乱しているのだ。


 そんな中、ホノカの耳にユリウスの独り言のような囁きがポツリと届いた。




「あれは、まさか××魔法か……?」



 それはすぐ側にいたホノカにしか聞こえないほどの小さな声であり、ホノカは聞き返そうとユリウスの顔を見あげようとして……




(あ、れ……)



 ぐら、と視界が大きく揺れたと思ったら、ホノカの目の前は真っ暗になっていた。





 **********





「はい、口開けてー。……よし、これでおしまい」


「ありがとうございます……」


「昨日よりも魔力濃度の数値がちゃんと下がってきている。この調子ならもう心配はないだろう」


「よかった……!」



 医療班のアルマ・ガルシアは満足気に頷くと、安心させるようにホノカへと微笑みかけた。



 ここは医務室。

 治癒魔法に特化した医療班の人々が常駐しており、毎日怪我や病気など体の不調を訴えるものがこぞって訪れる。



 かくいうホノカもとある理由によって医務室のお世話になっているところだった。







 闇族による襲撃があったのは昨日のことだ。


 無事に襲撃者が捕らえられ無力化されたが、それで全てが丸く収まったわけではなかった。


 重度の魔力中毒に侵されていたシンヤの体内には、溢れんばかりの大量の魔力が蓄積していた。

 そのせいで、シンヤを拘束していた騎士や目の前まで近づいたホノカも魔力酔いの影響が出てしまったのだ。


 そのため該当の騎士とホノカ、そして最初に爆発の被害にあった騎士の二人もこの医務室へと運び込まれてきたのだった。



「え、奥様釈放ッスか?」


「おめでとうございます!いいなー、俺も早く戻りてー」


「医務室を牢獄みたいに言うな。そもそも重病人どもは大人しくベッドで寝ていろ!」




 アルマと患者たちの間で交わされる軽妙なやりとりに、ホノカは頬を緩める。


 彼らは爆発で大火傷を負った二人だ。

 医療班による懸命な治療により、今ではこの通りすっかり軽口を叩けるほどまでに快復していた。


 屈強な騎士である彼らにとってただベッドで眠り続けるのは退屈なようで、昨日の晩からこんな調子である。




 楽しそうな掛け合いを眺めていたホノカの耳に、コンコンとノックの音が聞こえた。




「あぁ、ほら。直々にお迎えだ」



 アルマはそう言いながら、医務室の扉を顎で示す。

 ホノカが振り返るとそこにはユリウスが仏頂面で立っていた。



「ユリウス様!」


「診療は終わったか」


「はい、今ちょうど」


「ホノカ様の数値は安定している。もう部屋へ戻ってもらっても構わないぞ」


「そうか、なら失礼する。ほら、ホノカ嬢あなたも」


「え!?あ、ありがとうございました!」



 用は済んだとばかりにさっさと医務室から出ていくユリウスを追いかけるため、ホノカはアルマにぺこりと一礼をすると同じように医務室を後にした。







 騒動から一夜明け、屋敷は既に通常運転に戻りつつある。


 ユリウスの一歩後ろを歩きながら廊下に備え付けられた窓から正門の方向を覗き見るも、爆発炎上により地面に焦げ付いた跡はすっかり消え失せておりまるで何事もなかったかのようないつも通りの光景が広がっている。



(なにもかも、夢だったみたい)



 そうはいっても昨日の出来事は全て現実だ。


 闇族の人間がカートレット家を襲ったことも、兄の身に起こったことも。


 ぼんやりと外を眺めるホノカに、黙り込んでいたユリウスが声をかけた。



「体の具合はどうだ?」


「もうなんともありません。お医者様にも数値は問題ないと仰っていただけましたから」


「ならいい。……あとでジェイルに顔を見せてやりなさい。ひどく心配していたから」


「そうですよね……」


 心配するジェイルの顔がありありと脳裏に浮かんで、ホノカは小さくため息を着いた。



 ホノカが医務室に連行されたのは騒動からすぐの事だ。


 いきなり意識を失ったホノカは急遽医務室に運ばれることになったが、そこで魔力酔いの診断を受けた。


 幸いにも症状は軽かったものの、そのまま放置しておく訳にもいかず、今まで医務室で治療(という名の隔離)を受けていて、たった今ようやく解放されたところである。


 そのためジェイルと言葉を交わす機会はほとんどなかった。



「この後ジェイルのところに行きますね」


「そうしてやれ。だが、その前に……」



 少し先を歩いていたユリウスがぴたと足を止めたのに釣られてホノカもその場へと立ち止まる。

 ユリウスの表情は固く、今から大事な話をするのだとホノカにもありありと伝わった。



「襲撃者について話しておくことがある」



 ユリウスの真剣な瞳にホノカはごくんと喉を鳴らした。

 ホノカはあれからずっと医務室で過ごしていたため、事態がどのようにして収束したのかは知らない。


 カートレット家にも一時的に襲撃者などを捕らえておく牢屋のようなものがあるのだが、もしかしてふたりともそこにいるのだろうか。



「まず、女の方だが……今朝死亡しているのが発見された」


「えっ!?」


 思わず大きな声をあげてしまい、ホノカはあわてて手のひらで口を抑える。


 キョロキョロと周りを見渡すも廊下にホノカたち以外の人影はないため、ひとまず胸を撫で下ろした。



「……どういうことですか?」


「今朝見張りの騎士が牢屋を確認した時には既に死んでいたらしい。恐らく尋問をされる前に自死を図ったんだろう。魔法を使えないように制御首輪をつけていたんだが……」



 ユリウスは悔しそうに奥歯を噛み締める。


 女には聞かなければならないことが山のようにあった。

 尋問をするためにも生かして捕らえていたのだが、それも無駄になってしまった。




「あぁ、それからもう一人、シンヤ・ベルツリーについても話しておこう」


「!」




 今、一番気になっていた名前にホノカは大きく反応を示した。



 気を失ってしまったからあの後シンヤがどうなったかをホノカは知らずじまいだったのだ。


 あの様子だと死んでしまったようには思えないが、それなら今はどこにいるのだろうか。



「まず、シンヤ・ベルツリーはこの屋敷にはいない。カートレット領地の別の屋敷に幽閉している」


「別の屋敷……」


「そうだ。……幸いというべきか、シンヤ・ベルツリーには魔力中毒による症状がほとんどみられなかった。しかし意識が戻らないため、数名の医療班と騎士に治療と見張りを任せている」


「そう、ですか……」



 シンヤが生きていることがわかって、ホノカは無意識のうちに安堵のため息を漏らしていた。


 自分を虐げ、挙句の果てには殺そうとしてきた兄とはいえ死んでほしいと思っていたわけではない。



「それにしても、なぜ兄からは症状が消えていたのでしょうか」


「わからない。……だが私の憶測でよければ考えられることがひとつだけある」


「聞かせてください」



 ホノカは前のめりになる勢いでユリウスの方へと身を乗り出した。

 その勢いに圧倒され、ユリウスは渋々と言ったふうに語り始めた。



「……ならば話すが、あれは恐らく禁術のひとつ、時間魔法である可能性が高い」


「時間魔法……」



 見たことも聞いたこともない言葉にホノカは首をひねる。



「危険な魔法であることからはるか昔に人間と闇族との間で禁術に指定された魔法のことだ。昔は使い手が何人かいたそうだが、そういった経緯によって根絶されたときく」



 その名の通り時間に干渉する魔法であり、対象の時間を進めたり、はたまた戻すことが可能である。




「でもその時間魔法は根絶されて現代には残っていないんですよね?」


「ああそのはずだ。少なくともあの場には時間魔法を使えるような人間はいるはずもない」


「だったら」


「古い文献に記載されているのを目にしたことがある。闇金糸雀の雌の中にごく稀に時間魔法の力を持つ個体が生まれることがあると」


「! そ、それってまさか……」




 闇金糸雀の雌といえばホノカにも心当たりがあった。


 ベルツリー家で発見され、鳥かごに捕らわれていた白い小鳥であり、そして人型に変化してシンヤの元へと駆け寄ったあの白い髪の美しい少女。



 思い返せばシンヤの体に変化が起こる直前に、彼女の体は激しく発光していた。


 ならば闇金糸雀が時間魔法を使ったというのか。




「時間魔法の力を持つ希少個体がたまたま彼女だった……なんてそんな都合のいいことがあるんでしょうか」


「さぁな。だが、もしシンヤ・ベルツリーの肉体の変化が時間魔法によるものなら説明もつく。魔力中毒の症状が消えたのは、肉体が魔力が蓄積する前の状態へと戻ったから。そして、中毒症状が消えたにも関わらず今なお目覚めることがないのは、時間魔法による過大な負荷を脳が受けたから……とな」



 時間魔法が禁術とされたのは、魔法を受けた対象の脳に大きなダメージが与えられることが分かったからという理由がひとつあった。


 過去には何人もの人間や闇族が、時間魔法によって意識が戻らないというケースに見舞われたという。



「……最初に言った通り、これらは憶測にすぎない。確かめようがないからな」


「……そういえば闇金糸雀の彼女に直接聞くことは出来ないんですか?」



 はっとした顔でホノカはユリウスを見つめた。


 バタバタしていてすっかり忘れていたが、あの後あの闇金糸雀の少女はどうなったのか。


 人型に変化した際にシンヤに言葉を掛けていた様子からも、意思の疎通を図ることはできるように見えた。


 ならば魔法を使ったかどうかを聞けばはっきりするのではないか?



 そう思ったホノカだったが、ユリウスは無情にもその首を横に振った。



「それはできない」


「なぜです?まさか、彼女の身になにか……」


「いや、命に別状はない。ただ、声が出ないらしい」


「え?」


「何かを喋ろうと口をぱくぱく動かしはするんだが、声が出ないようだった。もしかしたら時間魔法による代償かもしれない」


「そんなことが……」



 愛する人にただ生きていて欲しいと願う。

 彼女の純粋な思いに対する結末がこれだというのなら、こんなにも悲しいことはない。



 闇金糸雀の少女のことを思い心を痛めるホノカに、ユリウスは優しくその背に触れた。

 そしてホノカを慰めるようにつとめて優しい声を出した。



「声が出せないのもあくまで一時的なものかもしれないよ」


「そうならいいんですが……」


「それに案外幸せにやってるかもしれない」


「?」


 不思議そうに首をかしげたホノカに、ユリウスはとても優しそうな笑顔で笑った。


「やっと心置きなく愛した男のそばにいられるんだからな」


「それってもしかして……」




「おい!!」



 と、その時ホノカの後ろの方から耳をつんざくほどに大きな声が廊下へと響き渡った。

 突然の大声にくらりと目眩がしたものの、なんとか声の方向へと顔を向けるとそこにいたのはくすんだ金髪の少年だった。



 全く身に覚えのない少年だ。


 屋敷の使用人の中にも見たことない顔に、ユリウスがホノカを護るようにして前へと出る。


 そうこうしている間にも少年はどんどんホノカたちと距離を詰めていき、やがて目の前までやってくるとその瞳を吊り上げながら大きな声で、



「妹をどこへやった!!!」



 かみつかんばかりの勢いに、二人は顔を見合せた。

 妹どころか、そもそも少年に見覚えがないのだから答えようがない。



「……おい、貴様何者だ。侵入者なら即刻排除を」


「侵入者だぁ!?お前らが俺をここまで連れてきたんだろうが!!」



 激しい怒りを露わにする少年にユリウスは怪訝そうに眉を顰めた。


 しかしそれに対して、ホノカの頭の中にはある光景が頭を過ぎった。



 それはあの港町で、アオイとともに見つけた雄の闇金糸雀の姿だ。




「ま、まさか。あなた私が連れてきた闇金糸雀の……?」



 思い返せばあの闇金糸雀はくすんだ黄色のような羽の色をしていた。

 そう、ちょうど目の前にいる少年の髪の色に似た……。



 そんなまさかと思いながらも恐る恐るというふうにホノカが言葉に出すと、少年はふんぞり返りながら



「ようやく思い出したか!」



 と言って、鼻を鳴らした。







 **********




 こじんまりとした小さな屋敷の一室で、男は広いベッドにひとり横たわって眠っている。


 瞳は固く閉じられ、指先一つ動かすことはない。


 しかしその寝息はひどく穏やかであり、安らかな夢を見ているかのようだ。




 やがて男一人きりだった部屋の扉が、ゆっくりと静かに開かれると一人の白髪の少女が姿を表した。


 その手には花が二輪握られている。


 男の寝顔に視線をむけた少女は嬉しそうに微笑むと、真っ直ぐ窓際へと向かい締め切られていたカーテンを開けた。



 真冬だというのに太陽の光が差し込む、とてもあたたかな朝だった。


 窓を少しだけ開けると吹き込んでくる風は、身を刺すような冷たさはなく心地良さを感じさせる。




 窓際に置かれていた空の花瓶に花を飾ると、ベッドサイドに置かれたチェアーに少女は腰掛ける。



 そして男の手を両手で優しく包み込むようにして握ると、少女はその傍らでゆっくりと目を閉じた。



 二人の間に言葉はない。

 けれどとても穏やかな時間がひたすら流れていた。




 窓際に飾られた花瓶の中、寄り添う二輪の花が風に吹かれて小さく揺れている。






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