12.
いつもありがとうございます!リアクション&評価やしおり大変嬉しい(≧▽≦)亀更新申し訳ありません……。
特別狭くも広くもない個室には1人分のベッドが2つ並んでいる。
壁際には小さなデスクと備え付けのベル。
部屋の奥には大きな窓があり、そこからは表を往来する人々の様子が伺えた。
海に近いこの宿場町は人の出入りが多く、外からは賑やかな声が聞こえてくる。
元々の旅のルートからは大幅に外れてしまったが、2日目の今日こそきちんと宿で身体を休めるために、山をひとつ越えた宿場町にホノカたちは訪れていた。
アオイ曰く、ホノカ様たちに二日連続で野営をしていただくなんて有り得ない!とのことで。
ベッドに腰掛けると凝り固まった身体をほぐすようにして軽く伸びをした。
今日は1日のほとんどを馬車の中で過ごしていたため、体はバキバキに固まってしまっている。
若い頃ならいざ知らず、同じような姿勢を取り続けるのは中々に体にこたえるものだ。
肩を回しながら深いため息を一つついたホノカに、隣のベッドに腰掛けていたジェイルが心配そうに首を傾げた。
「ホノカ様……大丈夫ですか?」
「ずっと座りっぱなしだったから少し疲れてしまっただけよ。ジェイルは平気?」
「はい、僕は大丈夫です。確かに今日はほとんど馬車に乗りっぱなしでしたしね」
さすが子どもの体力と言うべきか。
確かにジェイルの顔には疲れひとつ浮かんでいない。
(若さってすごい……)
対してホノカの顔はげっそりとやつれている。
己の体力の衰えを感じてなんだか複雑な気持ちである。
「うーん……それにしても、昨日今日と慌ただしい1日だったわ」
「そうですね……中々思い描いていた予定通りにはいかないものです」
「えぇ、せっかくの花の町を楽しめなかったのは残念」
ホノカは心底残念そうに深いため息をついた。
密かに観光も楽しみにしていたので町を見て回れなかったのも惜しいが、町を出てからも中々大変だったのだ。
昨日、花の町を発ってすぐ1日目の宿泊予定地である宿場町にホノカたちは向かった。
馬車での長距離移動は乗り慣れていないホノカには中々にキツイ。
(これでようやく落ち着いて休める……)
宿場町に到着し、ほっと胸をなでおろしたホノカであったが、その希望は無情にも打ち砕かれることになる。
フルラージュ同様に原因不明の疫病が蔓延しているせいで、内外の出入りが一切禁じられていたのである。
門番にすげなく立ち入りを断られ、ホノカ一行は途方に暮れた。
この先にも宿泊施設を備えた町はいくつかあるものの、そこまで足を伸ばすには時間がかかりすぎる。
空はすっかり日が沈み、暗い中馬車で移動するのはあまり現実的ではなかった。(そもそも街に着くまでに朝が来てしまうだろう)
困り果てたホノカたちであったが、馬車の積み荷の中に非常時に備えてテントやらのキャンプセットが積み込まれていたのを思い出し、町から少し離れた草原で野営をする事にした。
貴族のジェイルはもちろんのことホノカだって野営は初めてである。
インドアな性格ゆえに鈴木ほのかの時ですらキャンプはした事がなかった。
アオイはジェイルやホノカに野営をさせることを不服に思っていたようであるが、ホノカの心はうきうきと弾んでいた。
アオイがテントの設営をしてくれる横で、メイドのステラが食事の用意をしてくれた。(手伝いを申し出たホノカであったが丁寧に固辞されてしまった)
設置された焚き火を囲み、温められた缶詰やステラが持ってきてくれたお弁当を広げ夕食をとった。
その頃にはすっかり日は沈み、あたりは暗くなっていた。
しかし近くに人工のあかりがほとんどない野外では、星がとても綺麗によく見える。
満天の星空の下、ジェイルと共に夜空を眺め星を数えたあの夜は、ホノカにとってはかけがえのない時間であった。
「ジェイルは野営って初めてだったでしょう?」
「はい」
「私もなんだ……寝袋なんて使うのも初めて。よく眠れた?」
「……実は少し寝不足です」
「そうよねぇ」
「だけど、外で眠るのも、事をとるのも……とても新鮮で、……楽しかったな」
昨夜を思い返し穏やかな表情を浮かべるジェイルに、ホノカの顔も思わずほころぶ。
イレギュラーの多い旅路ではあるが、せめてジェイルが楽しめるものであればいい。
「また、みんなでキャンプをしましょう。今度はユリウス様もご一緒に」
執務で忙しいユリウスではあるがジェイルが行きたがっていたと言えば予定を開けてくれるだろう。
素直でないところもあるがなんだかんだジェイルのことはとても大切に思っているようなので。
ホノカの言葉に、ジェイルは1度目を丸くしたが
「はい……次は父様とも」
そう言ってとても嬉しそうに笑った。
**********
幼い頃から暮らした邸宅はもはや廃墟のようにさびれはて、生きているモノの気配はない。
領民達に追われた数日前、逃げるように地下へ続く階段をレティシアと2人で駆け下りた。
(……どうしてこんな事になってしまったんだ?)
疑問がぐるぐると脳内を逡巡するばかりで、答えなんてでない。
男のシンヤですら、こんな得体のしれない状況に恐怖が湧くのだから、レティシアが怯えていないはずはない。
シンヤは気取られないようにレティシアへと視線を移した。
(……なんだ?)
胸がざわざわする。
シンヤの目に飛び込んできたのは、ビスクドールのように無表情なレティシアだった。
「お前……どうした?」
口から滑り落ちた言葉に先程まで人形のようだった女が、口角を上げ笑みをみせる。
「シンヤ、あなたこそどうかしたの?」
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