壁の花と…。
いつもありがとうございます!
「ホノカ母様」
ユリウスとホノカが立っている壁際に護衛騎士のクラークを従え、髪の色と同じタキシードでジェイルがホノカに近付き微笑み掛ける。
「ジェイル!まぁ、タキシードがとても似合ってるわ」
「ありがとうございます。あの…ホノカ母様もとっても綺麗です!」
ジェイルは頬をピンクに染めはにかんだ。
「嬉しいわ!あ、そうだわ。何か飲む?」
ホノカは近くにいた使用人に声を掛けようと手を上げかけたが、その手をジェイルに掴まれ動作が止まった。
「あの!」
「なぁに?」
「飲み物よりも、僕とダンスを踊っていただけませんか?」
「ダンス⁉」
さっきまで無関心を装いながらもチラチラと横目で見ていたユリウスが驚きの声を上げる。
「どうかしましたか?」
ジェイルに掴まれながら、訝しげにユリウスを見るホノカのピンクルビーの双眸は潤み、ユリウスは言葉を失った。
「いや、あの」
「父様、ホノカ母様とダンスをしてきても良いですよね?」
無邪気に笑うジェイルの問いかけに、ユリウスは口をつぐむ。
自分が先に踊りたいという願望はあるが、先日ホノカに対して『好きになることは無い』と言ったばかりだ。今更、惹かれ始めているなんて言えない。
そんなのは、あまりにも自分勝手で図々しい。
「行ってくると良い…」
ジェイルのダンスの申し込みを止める権利は今の自分にはない。
だが、仮にも自分はホノカの夫であり、ジェイルは息子。
有利なのは自分だし、ジェイルはホノカへの母への感情を恋だと勘違いしてるんだと思う。だからきっと、成長していけば自分にぴったりな年相応の令嬢と恋をするだろう。
たから、それまでは大人の自分が譲れば良い。
「ホノカ様、お手をどうぞ」
(ホノカ様?)
ユリウスはジェイルの呼び方に引っかかりを感じる。だが、自分が過剰に反応してしまっているのではないかとも思う。
まさかジェイルがこんな露骨に喧嘩を売るわけはない。
ジェイルは恋人にする様に恭しく手を差し出す。
「ありがとう。よろしくね」
と言いながら、ジェイルの手を取るホノカを見ていた。
(あぁ。面白くない)
憮然とした表情のユリウスに、
「あ、そうそう。これからも、引くつもりはありませんよ」
と、ジェイルが悪魔の様な笑みを浮かべた。
「は…?」
呆然とするユリウスへ背中を向け、二人はダンスの輪の中へと入って行く。
「ジェイル、私、あまりダンスは得意ではないの…。もし、足を踏んでしまったらごめんなさい…」
「大丈夫です。僕がエスコートしますから」
ホノカとジェイルが場に着くと、婚姻式の為に呼ばれたミラージュ王国では有名な楽団がワルツを奏で始める。
ゆったりとしたスローな曲はダンスを習い始めたばかりの子供や鈴木ほのかにもぴったりだったので、緊張しながらも曲に合せステップを踏み始めた。
(ワン、ツー、スリー。ワン、ツー、スリー…)
「ホノカ様、お上手です」
「あ、ありがとう…」
傍から見れば継母と義理の息子の仲の良いダンス。
しかし、ユリウスからしてみたら、大切に可愛がってきたつもりの息子に喧嘩を売られた様なものだ。
ギリギリと歯を食いしばるユリウスを見て、これからどうしたもんかと頭を痛くする護衛騎士クラークであった。
(だけど、このお方は自分がこんなに人間臭くなっているだなんて知らないんだよな。ここは私がなんとかしなければ…)
「ユリウス様…」
「なんだ?」
即座に平静を装い腕を組むユリウスだが、その両手は苛立だし気にタンタンとリズムを刻んでいる。
「ご自身がファーストダンスを踊りたかったのなら、何故正直に仰られなかったのですか?」
「……。」
何やらボソボソと呟いたユリウスだが、あまりにも小さな声であったし、人で溢れた雑踏の場であったのでクラークは主の言いたいことを理解できずに頭を捻った。
「だから、言わなくても私と踊ると思っていた…」
耳たぶを赤く染めたユリウスは気恥ずかしさから、両掌で顔を覆って俯く。
(なんだ…これは…?)
初めて見る主の情緒不安定振りにクラークはポカーン。こちらも情緒不安定になりそうだ!だけれど、主君のフォローをすべき事を感じていた。
「あ、あぁ。そうですね。ユリウス様はホノカ様のお連れ合い様です。そう思って当然でございます」
「だよな?…だが、ジェイルが初めて私に見せた本心を嬉しくもあるんだ。それに、ジェイルのこの気持ちは一時的なものであるわけで…」
はたしてそうだろうか?
どこからか、聞こえる声に首を振るとユリウスはホノカの方へと視線をはせながら、クラークへと告げた。
「ベルツリー夫妻の動向に注視しろ」
「は!」
主君に忠実な男クラークは、一礼すると颯爽とベルツリー夫妻が標的にしている貴族達の輪の近くへと向かった。
(何かしでかす前にホノカ嬢から距離をあけねばならないな。彼女に害が及ばないようにする。これが、今のわたしが出来る夫たる事だ…)
遠目でもよくわかる派手な衣装に苦々しい気持ちが湧き上がり、眉間を押さえ大きな溜息を吐いていた。
気が付けば一曲目が終わり、二曲目に入ろうとしている。ジェイルと彼女は戻って来る気配もなく、また続けて踊るのだろうか?
一人掛けのソファーに腰掛け、腕を組んで目を閉じていると、視界に影が差した。
「頭でも痛いのですか?」
清らかな声が耳をくすぐりユリウスらしくないほどびくっとし瞳を開けば、先程までジェイルと親しげにダンスを踊っていた彼女が覗き込んでいる。
「いえ、少し疲れたので休んでいるだけだ」
ふいっとまた正面を向くと、ホノカも同じ様にぼんやりと遠くを見た。
彼女の視線は敢えて両親が映らないように宙を泳ぐ。少しでも彼等を認識しただけで、公爵家に輿入れする前までの重く辛い記憶が心を支配してしまうから。
(…私にはここへ来てからの記憶しかない筈なのに…。ううん。実体験はが正しいわね。ホノカとシンクロしているから、彼女の過去の記憶も私にはあるもの…)
はぁと小さく溜息を零すとユリウスがちらりとこちらを見て尋ねた。
「貴女は疲れてはいないか?」
「…私は特には…」
「じゃあ、」
こほんとユリウスは一度咳払いをしてソファーから立ち上がると、右手をホノカへと差し出した。
「貴女さえよければ、私とダンスを踊らないか?」
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