お披露目会と…。
いつもありがとうございます!
ユリウスの瞳の色、エメラルドグリーンのマーメイドラインのドレスを身に纏い、アクセサリーもなるべく派手になりすぎないように、アクアマリンの髪飾りで揃えた。髪はシンプルに肩に流している。
(シャーリーはやっぱりセンスがいいわ…)
試着の時には、怯えながらホノカにドレスを着せたが、今日もわざわざドレスに合った香水を届けてくれた。話に聞くと弟さんが調香師だそうだ。
「ホノカ様、笑顔が苦手でしたら、口角を軽く上げるようになさってはどうですか?」
強張った表情のホノカの髪を賺しながら、ステラは一度髪から手を離し人差し指で口角を上げてみせる。
「ホノカ様の笑顔はとっても素敵です!」
ステラやシャーリーがそう言ってくれたから、今日この場に怯むことなく立つことができたのだ。
(今日は壁の花というわけには流石にいかないかな…)
最初にユリウスの上司や知人と挨拶を交わし、今は椅子に座り少し休んでいた。
ユリウスを探すと数人の男性に取り囲まれ話をしていた。
婚姻式のために飾り付けられた室内は綺麗だけれど、慣れない空気に緊張する。
はぁ。と思わず溢れた溜息が来客に聞かれては体裁が良くないので、ピンと背筋を伸ばして椅子に浅く座り直した。
「あの、よろしいですか?」
可愛らしい声に振り向くと、華やかなドレスを纏い着飾った女性が3人口元を扇子で隠し立っていた。
「はい。今日はようこそ」
優雅に見えるように立ち上がり、カーテシーをした。一応、公爵家の家庭教師にも褒められたので、恥ずかしくはない筈だ。
「こちらこそ、ご招待いただきありがとうございます」
令嬢達も同じ様にカーテシーを返してくれる。
「あの、ウェディングドレス姿とっても素敵でしたわ〜」
「あら、今着てらっしゃるお披露目のドレスも素晴らしいと思いますけど」
「そうですわね!シンプルなデザインが上品で、今年の流行になるのではありませんか?」
矢継ぎ早に話してくる令嬢達は誰1人友達という関係ではなく、社交パーティであった程度の顔見知りに過ぎない。
何故こんなにグイグイとホノカに話しかけてくるのか、不思議である。
「ありがとうございます」
ステラに教わったように、少しだけ口角を上げてみる。
(おかしくないかしら…?)
自分の表情が不自然になっていないか不安になる…。
吊り目で表情に乏しいホノカは怒っていると思われがちだった。
薄水色の巻き毛のご令嬢は惚けたような顔をしたが、
「今までホノカ様の事を誤解していたんですね」
と、はにかんだ。
「誤解とは?」
「あの…ですね…」
言いにくそうにご令嬢三方は目配せをして、
「いつも何か怒ってらっしゃるのかしらと…」
金色の髪を一つに纏めたご令嬢が小さめな声で答える。
「そういうわけでは…」
ホノカは肩に流した髪を一房、いじいじと触りながら言葉に詰まった。
自分がどう思われているかは認識しているつもりだし、それはこれからも同じだと思っていた。
人の印象はやはり第一印象がその後も大きく関わっていき、それを覆す事は難しい事は知っている。
ホノカ·ベルツリーがデビュタントからつけたイメージはあまりに悪く、人を遠ざける理由には十分だったから…。
だけど、出来たら、鈴木ほのかは自身が現実世界に戻る迄に少しでもホノカの印象が変えられ、断罪を回避したいと切に望んでもいる。
(少しは世界を変える事ができるかもしれないと思ってもいいの?)
もしかしたらという希望から、いつの間にかホノカから柔らかな笑顔が溢れる。
「まぁ!」
「え?」
令嬢達は瞳を大きく見開きパチパチと瞬きしている。
「ホノカ様、今の笑顔とても素敵です!」
「ね、とても柔らかな笑顔でしてよ」
「ええ!目に変に力が入ってなくて、素敵ですわ!」
普段あまり褒められ慣れていない鈴木ほのかは、顔を赤らめて頭を左右に振った。
「そんな!そんな!あ…でももしかしたら、私、視力が悪くて今までは目に力が入ってしまっていたんです。ですが、最近は視力回復のお薬を飲んでいるので、印象が変わったかもしれませんわね!」
ゲームのホノカは実際は視力は悪くないが、そういう理由にしていた方がスムーズかもしれないと思った鈴木ほのかは、自身の視力の悪さを告げた。
「そういう事なんですね!それに、公爵様の愛をたくさん浴びてらっしゃるからかも」
「へ?」
思わず貴族にしてはこんな場で間抜けな声を出してしまい、慌てて口をつくんだ。
「だって」
「「「ね〜!」」」
チョコレート色の肩までのボブヘアーの令嬢がいたずらっぽく笑い、
「こんなに旦那様の瞳のドレスを身に纏っていらっしゃれば、今日が婚姻式ではなくても、声は掛けられませんわ」
とホノカに言った。
「あ!これは…その」
慌てて否定の言葉を口にしようとしたホノカの言葉を遮り、
「否定されなくても大丈夫ですわ」
「ええ。新婚さんですもの」
「私も早くお相手が見つかるといいですわ」
と令嬢達は賑やかに笑う。
「ホノカ」
背中が冷える様な声がホノカの名を呼ぶ。
「あ…、お父様、お母様…」
「あぁ、申し訳ない。お話し中でしたかな?」
人当たりの良さそうな作り笑いを浮かべ、ベルツリー夫妻は令嬢達に声を掛けた。
「こちらこそ、申し訳ございません。ベルツリー子爵夫妻ですね。この度はお嬢様のご婚姻おめでとうございます。私達はそろそろ、公爵様にもご挨拶させていただきますので、失礼いたします」
3人はカーテシーをし、その場をあとにした。
「ホノカ、そのドレスは何だ?華やかさに欠けるではないか」
「本当ね。貴女の良い所なんて、見た目だけなんだから、それを活かすドレスを着ないとね〜。それとも、公爵様を落としたからだらけてるの?」
イヤらしい笑いを浮かべてホノカを貶める言葉を吐く事が、彼らの日常なんだ。
「失礼な事を仰るのはやめて下さい」
「は?」
口元を引きつらせて、ホノカを睨む目は、すぐに蔑む様な色に変わる。
「随分と自分の価値を高いと思ったようだな」
「そうではございません…」
「ふん。お前は学院を維持する為に公爵様から出資を得る為の金蔓なんだ。だから」
「妻を馬鹿にする事はやめていただけますか?」
凛とした低音ボイスが、ベルツリー子爵の言葉を遮る。
ホノカの肩を後ろから掴むと、ベルツリー子爵から守るように背中に隠してくれた。
「あぁ、カートレット公爵様。何か誤解をされていらっしゃるようです」
令嬢達にした笑顔とはまた違った、強者に媚び諂う笑いで、ベルツリー子爵はユリウスへと話す。
「そうでしたか?」
「そうでございます!ホノカは家の可愛い娘です。ただ、可愛いあまり少し甘やかしてしまったと気に病んでおります。公爵家に迷惑を掛けないように注意をしておりました」
余計な事を言うなと牽制している。
「ホノカさんは十分すぎる程に、謙虚だと思います」
「でしたら、よろしいんですが」
「はい。…そうだ、学院への出資の話もまた近々話したいと思ってます。大切な妻の家門の学院ですしね」
金銭の話になった途端に現金にも上機嫌になる父と母に嫌気が差す。
「公爵様に愛されて娘はとても幸せですね。では、また後日よろしくお願いします」
他の金蔓がいると思ったのか、ユリウスに挨拶するとブランドの衣装を纏ったご夫婦に挨拶に向かった。
「ありがとうございます!」
「いや、私の義務だ」
素っ気なく表情を崩さないユリウスに、ホノカは胸の痛みを感じ、こちらも淡々と謝意を示した。
「ユリウス様はそう思われるのかもしれませんが、私はとても助かりましたので、お礼が言いたかったのです…」
「これからも、君を守るから心配ない」
「え?」
ユリウスは慌てたように顔を背けたが、何故か耳たぶがほんのり赤くなっている。それから、すぐに訂正して、
「カートレット家がという意味だ」
と、話すがホノカ以外から見ればホノカに好意がある事は容易くばれてしまう。だが、ホノカには分からない…。人の感情に鈍感だからだ。
(私の恥を表沙汰にしないという事ね…)
「あ、はい。カートレット家の女主人として、ユリウス様に泥を塗らない様に気をつけますわ」
「いや!そういう意味ではない」
ユリウスは何かを伝えようと口をパクパク開いていたが、諦めて壁に沿うように真っ直ぐに立った。
何を話したかったのか、不思議に思ったホノカだったが、考えても分からなかったので、ユリウスの隣に同じ様に立つ。
(不思議ね…。2人だったら壁の花も案外悪くない…)
ユリウスに見られない様に、ホノカはこのくすぐったい感情に笑みを浮かべていた。
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