悪夢と…。
いつもありがとうございます!
「夢の様だ…」
夢といっても良い意味ではなく、悪夢の方だ。
今日は父ユリウスとホノカ様の婚姻式だ。
あっという間に決まった婚姻の準備は、ホノカ様の意見は反映されず業務的に進んでいった。
メイドのステラが言うには、ドレスや身の回りの物はホノカ様のご希望らしい。
昨日出来上がったドレスを試着したホノカ様を「まるで夜空の女神のようです!」とステラが、目を輝かせて話していたが、僕にはいつも女神や天使のように見えるから、何を当たり前な事をと思った。
(それにしても、最近のユリウス父様の態度は何だ?)
外出してから、隠れて僕達を見ている。いや、隠すつもりはないのか、わざとなのか、それとも気がついていないのかと思う程に、偶然を装ってティータイムに現われる。
どうやら鈍感であるホノカ様は父の行動を不信には思っていない。
「こんな偶然もあるのね」と僕に小声で耳打ちする。
偶然?僕はそうは思わない。
だって、明らかにホノカ様を見る目が違っているんだ。
ホノカ様は気がついていないが、周りはユリウス父様の変化に戸惑っている。
ホノカ様の良さを知ったのか?
今更、ホノカ様の良さを知った所で、過去の言動が無いものになるわけでもない。
あきらかにホノカ様が心を許しているのは僕なのに。
それに、薄く闇の力を感じるあの動物も気になる。
あれから、当たり前の様にホノカ様が過ごす別邸で飼われている。一応、飼い主が見つかるまでとホノカ様は仰るが、あれは多分本物の犬ではない。
近くに置いておくと、いずれ大変な事にならないだろうか…?
僕はこめかみに手を置いて、この問題達をどうしたらいいかと悩むが結論には辿り着かなかった。
いや、着けなかったんだ。
ここ王都の外れにある神殿で今日婚姻式が行われる。
新郎の名はユリウス·ド·ラ·カートレット。そして、新婦の名はホノカ·ベルツリー。
表では美男美女と社交界で評判の2人だが、裏ではベルツリー家が娘を売ったと噂されている。
まぁ、貴族間での契約結婚は珍しくはないし、寧ろ恋愛結婚の方が稀だと言われている。
最初は愛が無くても夫婦円満に過ごせればいいし、お互いが満足出来ないなら心の隙間を埋める為に愛人を作っても良いではないかというのが貴族の常識だ。
愛を得る為じゃない。家を未来永劫に繁栄させる事が結婚の理由だから。
ごく一般的な貴族の夫婦でもそういう考えなのだから、悪い噂の絶えない2人はじきに夫婦共に愛人を作るだろうと言われていた。
だから、婚約期間のこの1ヶ月、婚約者としてユリウスと共にパーティに出席して、貴族達から褒め言葉を掛けられても本心では無いと分かっていた。
白々しい褒め言葉は虚しいだけ。
そう思っているのはホノカだけではなく、きっとユリウスも同様だ。
ユリウスだって散々裏では悪評を流されていたのだから。
さて、今日はそんな2人の婚姻式だが、それぞれの気持ちなんて赤の他人である2人には分からない。夫婦になるとしてもだ。
もしかしたら、他の夫婦よりもお互いの事を分かっていないのかもしれないとは、ユリウスは感じてはいる。だからこそ、ホノカが恥ずかしくない程度には人が羨む婚姻式にしようと執事と相談した。
その結果、ホノカが好きだと言っていた花をたくさん使う事にした。
(喜んでくれるだろうか?)
赤い絨毯は縁を色とりどりの花で埋め尽くされていて、まるで花畑を歩いているように作ったし、白い柱にも華やかな薔薇をたくさん装飾し、ホノカ達が退場する際にはフラワーガールがフラワーシャワーをする事になっている。
今やれる事はやった。
あとは、ホノカが気に入ってくれると嬉しいとユリウスは思う。
「わぁ」
ホノカの思わず漏れた感嘆の溜息にユリウスは、
「気にいったか?」
と、ちらっとホノカを一瞥した後、まっすぐ前を見据え尋ねた。
「素敵です。花畑を歩くみたいですわ…」
今日ここから、カートレット家の女主人としての生活が始まる。
そう思うと、今まで以上に気を引き締めないといけない。
(それに、今日はベルツリー家の父と母も来ているんだから…)
見つけようと意識しなくともわかる。
背の低い小太りでブラウンの髪と瞳の男。その傍らには赤い派手に胸元が開いたドレスを纏うホノカと同じシルバーの髪とピンク色の瞳の中年女性がいた。
婚姻式にはそぐわなく、誰よりも目立とうとしている事が傍目からみても痛々しい。
自分の親なら、恥ずかしさで逃げ出したくなる…。
今のホノカはまさにその心境で、新婦だからこそ、その場に留まっているが、本当は逃げ出したかった。
「申し訳ございません…」
俯き両手を握りしめ、謝罪の言葉を口にするホノカに、ユリウスは他者には聞こえない声で、
「気にするな。貴女は毅然とした態度で前を向いていれば良い」
と、言った。
胸にじわーっと温かい何かが溢れてきて、まるでお腹がいっぱいになった時の様に満たされていく。
「…はい」
ホノカは頷くと顔を上げ、真っ直ぐに大神官が待つ誓いの場所を見つめた。
(悪く言われる事になれているホノカ·ベルツリーとは違う。だけど…)
隣に並ぶユリウスに目を向けると、不思議と安心した。
(何故だろう…?)
自分では理解できない感情に鈴木ほのかは戸惑うが、これはホノカ·ベルツリーとシンクロしているから、芽生える感情であり、私の気持ちではないと結論付ける事にした。
今、この気持ちを探ったところで、良いことなんて無い。
(彼は私が嫌いだもの)
ちらっと彼の横顔を覗けば、彫刻の様に美しい顔は強張りホノカが手を添えていた左腕には力が入っていた。
自分を拒絶している事がありありと感じられ悲しい。
(だけど、私は私の責務を果たすだけだわ…)
「では、今から新郎新婦のご入場です」
義務的な神官の声をきにホノカ達へと、参列者の沢山の目が2人を捉えた。
2人を祝う純粋に好意的な目は少ない。
好奇の目が殆どではないだろうか。
「いくぞ」
ユリウスの緊張した低い声にホノカはただ頷く。
そして、
一歩二歩と誓いの場所に向かい歩き始めたのだった。
そして、大神官の目の前に行くと、厳かな雰囲気を出す様に右掌をホノカ達に向けると大神官は口を開いた。
「病める時も健やかなる時も共に2人で分かち合う事を誓いますか?」
「「誓います…」」
満足そうに笑みを称える神官は、2人にそっと指輪の載ったリングケースを差し出す。
「では、指輪の交換を…」
まずはユリウスが指輪を取りホノカの左手薬指に指輪をはめる。次はホノカの番だ。同じ様にユリウスへ指輪をはめる。
誰からともなく鳴り始めた拍手。
「近いのキスを…」
ユリウスはホノカのベールを緊張した面持ちで上げると、顔を傾けて頬に唇を押し当てる。
夫婦としてのホノカ達の生活が今幕を開けたのだ。
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