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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
1.物語の始まり

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守りたい人がいるという事…。

いつもありがとうございます!

 ジェイルに怪我が無いか確認したが、幸い小さな擦り傷くらいで目立った損傷はない。


 だが、胸を押さえたり所在なさ気にソワソワとし、ホノカを気にしている。


(やっぱりどこか苦しいのかしら…?)


「あの…」

「父様がごめんなさい」


 ホノカの言葉と重なるボーイソプラノは不安そうに震えている。


 何故だか、ジェイルは自分のせいだと思っている様で、胸に押しあてた手に力が入った。


 俯き謝罪するジェイルを優しい目で見つめそっと頭を撫でると、体がビクッと硬直するのが分かり胸が痛んだ。


「ジェイルが謝る事ではないわ。…それに、ユリウス様の仰る事は間違いではないの」 

「待って!もう僕とはお出かけしてくれないのですか!?」

「そうじゃないわ」


 ジェイルを両腕でそっと包み込むが、不安を拭えないようで、縋る様にジェイルの小さな手がホノカのドレスの袖を掴む。


「ホノカ様、僕を一人にしないで…」


 は?


 どうしたら、そんな発想が出てくるのだろう。


 失敗すれば人は離れて行くと思うなんて、そんな風に考えてはダメだ。


 ジェイルの頬を両手でつねった。


「ホノカ様?」

「一人になんてしないわ」

「本当?」


 つまんでいたほっぺをムニュムニュと動かしジェイルに向けて笑った。


「この可愛いホッペがしゅっとするまではジェイルが嫌がっても離れない」 


 きょとんとホノカを見ていたジェイルだったが、ふんわりと花が咲いたように微笑み、


「約束ですよ」


 と訴えかけた。


 両頬から手を話すとホノカは自身の小指をジェイルの小指に絡め歌い出す。


「ええ。約束。指切りげんまん~嘘ついたら針千本のーます」

「何の歌ですか?」

「これはね、私の地方の約束の歌なの」

「約束の歌?」


 ホノカは小さく頷き、


「そうよ。約束を破ると針を千本飲ませるぞっていう怖い歌なの」


 と、何故か自分の頭に人差し指を立てて鬼をあらわして怖さを表現しているようだ。


「怖い歌ですね。…じゃあ、約束を破ったら」


 後ろの方は小さく呟いたので、ホノカの耳には届く事はなかったが、ジェイルは子供らしくない微笑みを浮かべ彼女を見つめている。


「あの、ジェイル?」


 ホノカとジェイルの約束。


 ジェイルにとっては他者とする初めての私的な約束だった。


「ジェイル様、ホノカ様、お屋敷に戻っていただきます」 


 赤毛の護衛騎士クラークが畏まった口調だが、優しげな笑みを浮かべて馬車への乗車を促してきた。


 風に吹かれ揺れるクラークの赤毛は彼を守る羽根の様に包み込んでいる。

 

 カートレット家第一騎士団のナンバー3。赤毛故、ついた通り名がブラッドナイト。


 火の魔法を得意とするが、剣術も得意であり、攻略対象の一人だ。ゲームの中ではヒロインにとって年が離れた大人キャラ。

 年上のお兄さんは一定のプレイヤーに人気があるので、各ゲームに大体一人はいるのではないか。

 

 細身の長身で、真紅の長めな髪、すっと通った鼻筋、髪と同じ赤い瞳をこれまた、深めの赤いまつげが縁取っている。

 こちらもやっぱりイケメンだ。


(『恋勝』はビジュが良い事でも人気だもんね!有り難い!)


 だが、クラークが一筋縄ではいかない事をホノカはよく知っている。


「敬語は使いたくないのでは?」


 笑みを張り付けたままだったクラークの頬が微かに引き攣った事をホノカは見逃さなかった。


「何を仰るのですか?」

「そう見えただけだから、気にする必要はないわ」


 二人の間に見えない静電気の様な稲妻が走った。

 クラークは表情を変えなかったが、ホノカへの苛立ちがひしひしと伝わるが、動じる事はない。


 彼もまたユリウス側でホノカの味方ではない事は最初から分かっていたから。


 どんな態度だって構わない。


 ホノカはふいっと赤毛の騎士から顔を逸らし、何事かと不審な顔で見ていたジェイルへと言葉を発した。



「ジェイル、取り敢えず今日はお屋敷に戻りましょう。また、予定を立てて遊びに行けば良いもの」

「…わかりました。あの!」

「なぁに?」


 落ち着きなく指をもじもじとするジェイルにホノカは優しく尋ねる。


「明日…またお会いできますか?」

「勿論!そうだ、明日はジェイルが何をしたいか、考えてくれる?」

「僕が…?」

「何でもいいの」


 ジェイルが深刻そうに黙り込んでいたので、少し心配になる。


「少し考えてもよろしいですか…?」

「えぇ。明日までの宿題ね」


 お屋敷に戻る前に約束をしたのは、ジェイルなりの思いがあったからだろうと気がついた。


 ただ、その意図を汲み取るには関係がまだ浅くホノカは自分には何が出来るだろうと考えるが、すぐには答えは出ない。


 側にいれば少しは変わる?


 でも、自分がいる事でジェイルは救われるのだろうか…。


 幼かった頃、助けてくれる人が誰もいなかったホノカは、側にいてくれる誰かがいればいいと思っていたから。


 ジェイルとホノカが一緒だとは思っていないけど、どこか大人になる事を急いでいるような彼が自分と重なってついつい手を伸ばしたくなる。


(ダメよ…。断罪を逃れる為にはユリウスと敵対してはいけないのに…)


「ホノカ様、もうよろしいですか?」


 ホノカの思考を遮断したのはクラークの事務的な一言。


「少し考え事をしておりました。もう大丈夫です。ジェイル、明日楽しみにしてますね」

「はい!」


 ホノカに笑いかけたジェイルは眩しくその存在はまるで一粒の宝石みたいだ。


 この子の笑顔を守りたい。


 漠然とした思いにホノカも戸惑うが、歯痒いばかりではっきりとした明確な気持ちは見つけられない。


 だけど今は、少しでもジェイルの役に立てればいいと思う。


 ホノカとジェイルを乗せた馬車は、新緑のあぜ道をゆっくりと走り出したのだった。




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