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ウソつき殿下の真の愛 4

 夕食をすませたあとだ。

 いつもオリヴァージュと、しばらく話す。

 彼が、そのあと私室を出て行くのが、日課のようになっていた。

 この2ヶ月、そんな毎日を繰り返している。

 

 婚姻の式まで、ひと月。

 

 王族とはいえ、オリヴァージュは即位するわけではない。

 よって、式も国王がする婚姻の儀よりは控え目だった。

 セラフィーナにとっては初めてのことなので、控え目かどうかの判断はできずにいるのだけれども。

 

「3ヶ月が、これほど長いなんて知らなかったよ」

 

 カウチに、2人で腰かけている。

 日課になっていても、まだ慣れることができずにいた。

 オリヴァージュが平然としているのが、憎たらしいほどだ。

 セラフィーナは、彼に体を寄せられただけで、どきりとするのに。

 

(……ここに来てから、ナルと……口づけしていないわよね……)

 

 というか、オリヴァージュからの口づけは、たった1回。

 しかも、セラフィーナが、不満に口を尖らせていた時だった。

 以来、額や頬、耳などに口づけられることはあれど、口づけは交わしていない。

 無意識に、セラフィーナは、ちらっとオリヴァージュの唇に視線を投げる。

 

(したくない、ということも、なさそうだけど……ベッドがどうこうとか、寂しく1人で眠るとか。そういうことは、言っているもの)

 

 相変わらず、オリヴァージュは、フクロウをやっていた。

 私邸は広いのだから、別の部屋を使えばいいのに、と思う。

 が、屋敷内にいるのが耐えられない、などと、彼は言うのだ。

 そして、ちょっぴり恨めしげに「きみがいいと言ってくれたら」という目で見てくる。

 

「きみは、私の自制心を試しているのかい?」

「なんのこと?」

「さっきから、私の口元ばかり見ている気がするのだがね」

 

 指摘に、ハッとする。

 すぐに視線をそらせた。

 

「夕食のあと、口元を拭き忘れたかと、不安になったよ。きみが、あんまり、しげしげと見つめるものだから」

「そ、そんなには見ていないわ」

 

 オリヴァージュが、セラフィーナの手を握ってくる。

 いつもより少し熱い気がした。

 

「そんなに、ということは、やはり唇を見ていたわけだ」

「う……」

 

 うっかりオリヴァージュに誘導されてしまったと気づく。

 鼻を見ていただけだ、と言ってやればよかったのに。

 

「きみが、口づけをねだってくれるとはなあ」

「ねだってないわよ!」

「じっと見ていたじゃないか」

「それは……あなたの、その形のいい唇から、なぜ、ああも、嫌味しか出てこないのか、不思議に思っていたの!」

 

 咄嗟に答えたせいで、褒めているのか、(けな)しているのか、わからない言いかたになってしまった。

 オリヴァージュが「にっこり」する。

 セラフィーナは、嫌な顔をしてみせた。

 

「私の唇に、そんなに興味を持ってもらっているとは、望外の喜びだね」

「あなたを喜ばせることができて、とても光栄よ」

 

 ツンッと、そっぽを向く。

 オリヴァージュは、なにしろ「まっすぐ」に話すということをしないのだ。

 嫌味を含ませ、軽口めいた言いかたをする。

 それが、彼の個性だと、わかっていた。

 

(こういう人だってわかってて好きになるなんて……私もどうかしているわ)

 

 魔術師のナルと、王族のオリヴァージュ。

 話しかたや振る舞いは違っていても、本質は変わらない。

 その本質に、セラフィーナは恋をしたのだ。

 

「私のちっちゃな可愛い小鳥。こっちを向いてくれないか?」

 

 不意に、セラフィーナの中に、小さな疑問が浮かぶ。

 オリヴァージュの頼みを聞いたわけではないが、彼のほうへと顔を向けた。

 それから、首をかしげる。

 

「前から思っていたんだけど、どうして小鳥なの? それに、私、それほど小さくはないでしょ?」

 

 オリヴァージュが、肩に流れているセラフィーナの赤い髪を、手ですくった。

 その髪に唇を寄せつつ、視線だけをセラフィーナに向けてくる。

 

「きみの、この赤い髪がロビン……コマドリのようだからさ」

 

 意味があったことに、驚いた。

 聞いておきながらも、セラフィーナは、実は、単なる甘ったるい呼びかけに過ぎないと思っていたのだ。

 貴族の男性は、女性に対して呼びかける時に「愛しい人」とか「麗しきご婦人」などという台詞を使うことがある。

 それと、同じ意味合いとして、認識していた。

 

「実際のコマドリは、橙褐色だがね。まぁ、そこは印象ってところかな。すぐに、目を真ん丸にするところやなんかも、コマドリの目に似ているし」

 

 ふっと、オリヴァージュが言葉を切る。

 それから、セラフィーナの手を離して立ち上がった。

 なにかあったのかと思ったのだが、彼は、少し動いただけだ。

 セラフィーナの真正面に立っている。

 声をかけることは、できなかった。

 

 オリヴァージュが、セラフィーナの前に(ひざまず)く。

 

 顔を上げ、ダークグリーンの瞳に、セラフィーナを映していた。

 真剣なまなざしに、ひどく緊張する。

 

「皮肉ばかり言う可愛げのないきみを、愛している。たとえ、きみの首の上にあるのがカボチャでも、中に詰まっているのがピーマンでも、私は、きみを心の底から愛している。私と婚姻してほしい。セラフィーナ・アルサリア」

 

 そして、そっと、手を差し出してきた。

 パッと、リングケースが現れる。

 中には、セラフィーナがオリヴァージュにあげた指輪とそっくりな指輪が入っていた。

 

「意地悪で、嫌味しか言えないあなたを、私も愛しているわ。たとえ、あなたが、乗馬鞭を使う教育係でも、人(さら)いの魔術師でも、私は、あなたを心の底から愛しているの。求婚は私が先にしたことを忘れないで、オリヴァージュ・ガルベリー」

 

 オリヴァージュが指輪をケースから取り出し、セラフィーナの薬指にはめる。

 嬉しくて、心臓が痛かった。

 セラフィーナの頬が、オリヴァージュの両手につつまれる。

 そっと、唇が重ねられた。

 

 しばしの間のあと、唇が離れる。

 目を開いたけれど、視界がぼやけていた。

 それでも、彼が微笑んでいるのはわかる。

 セラフィーナを抱き寄せ、オリヴァージュが、その耳元に囁いた。

 

「私のちっちゃな可愛い小鳥。きみのチョコレートを溶かすのは私だと決めていたのだよ。もうずっと前からね」


全15話(60部分(頁))まで、お読み頂きまして、ありがとうございました。


ほんの少しでも、楽しんで頂けていれば、嬉しいです。

ご感想、ブックマーク、評価をいただけましたこと、とてもありがたいです。

いつも書き続ける気力にさせていただいております。

お忙しい中、足をお運びいただけたこと、心より感謝しております。


皆々様、おつきあい頂きまして、本当にありがとうございました!


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