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ゼロ点満点 3

 

「なんだ、全部、話しちまったのか」

 

 リンクスが、残念そうに言う。

 オリヴァージュは、リンクスの私室を訪れていた。

 リンクスは、カウチに寝転がっている。

 両腕を頭の下で組み、仰向けになって、足を投げ出していた。

 イスに座っているオリヴァージュに、視線だけを向けている。

 

 ウィリュアートン公爵家と王族との関係は深い。

 リンクスとは幼馴染みであり、ほとんど生まれた頃から、一緒にいた。

 ジョザイアのところにも、よく2人だけで行ったものだ。

 だから、リンクスもジョザイアとは気安く話す。

 むしろ、魔術師ではないリンクスのほうが、ジョザイアに懐いているかもしれない。

 

 魔術師でもあるオリヴァージュは、ジョザイアの力の大きさを知っていた。

 そのため、どうしても踏み込めない領域を感じずにはいられないのだ。

 それが、畏怖となり、オリヴァージュを踏みとどまらせてしまう。

 

「オレの見立てじゃ、彼女、お前に気があったぜ? なにも、古臭い話を持ち出す必要なかったんじゃねーか?」

「不公正なことは、したくなかったのさ」

「不公正ねえ」

 

 リンクスが疑わしげな目で、オリヴァージュを見ていた。

 つきあいが長いので、リンクスには、バレているらしい。

 オリヴァージュの中にある、もうひとつの本音。

 

「しかたがないだろう?」

 

 オリヴァージュは、リンクスに肩をすくめてみせる。

 リンクスが呆れたように、目を細めた。

 

「ガルベリーの男の大半は、嫉妬深くて執着心が強過ぎるんだよな」

「私も、最近まで、自分が、ガルベリーの大半に含まれているなんて思っちゃいなかったよ」

 

 リンクスの言葉に、同意する。

 セラフィーナに対しての感情を考えると、反論はできないからだ。

 

「自分に妬いてる時点で、どうかしてるだろ」

「彼女は12年も想い続けていたのだぜ? ああ……また嫌な気分になってきた」

「お前さぁ。だからって、思い出にまで嘴を突っ込むかね?」

「私は、独占欲に頭まで浸かっているのさ」

 

 リンクスが、やれやれといったように、鼻を鳴らす。

 呆れられてもしかたがないが、我慢できなかったのだ。

 

 リンクスの言うように、オリヴァージュが「彼」だと告げる必要はなかった。

 状況次第で、切り札として使おうとの気持ちはあったけれども。

 セラフィーナはオリヴァージュと恋に落ちたのだから、あえて告げなくてもかまわなかったのだ。

 

 さりとて。

 

 仮に、オリヴァージュが「彼」だと知らないままでいたら、どうなるか。

 いつまでもセラフィーナの心には「思い出」として彼が残り続けることになる。

 大事な宝箱にしまわれて、時々は、取り出したりやなんかして。

 

「ああ、嫌だ。ものすごく、嫌な気分だ。自分だとしても、彼女の心に、私以外の男がいるのは、絶対に許せない。我慢ならない」

「これだから、ガルベリーの男は……どれだけ心が狭いんだよ」

 

 リンクスが向けてきた、ちらっという視線に、嫌な顔をした。

 リンクスに対して、ではない。

 思い出すと、どうにも嫌な気分になるのを抑えられないのだ。

 

「その思い出も、蹴り出したんだろ? なら、それで納得しろよ。面倒くせえ」

「ほんのちょっぴりでも残っていなけりゃいいのだが……」

「彼女は、令嬢らしくなかったけどな。紳士としては、お前、ゼロ点だぞ」

「わかっているさ」

 

 セラフィーナの前では、紳士ぶってなどいられなかった。

 いつも必死になっている。

 みっともないとか情けないとか恰好悪いとか。

 体裁など、どうでもよくなるのだ。

 

 なりふり構わず、といったところ。

 

 セラフィーナには、身分や立場など通用しない。

 気持ちひとつで勝負する必要があった。

 もちろん、この先も、誰にも負けるつもりはなかった。

 

「あーあ」

「私に、追い打ちをかけるつもりだろう?」

「そういうつもりはねーよ。ただ、お前なんぞに見初められて、気の毒だなーって思ってるだけサ」

 

 オリヴァージュは、わざとらしく溜め息をつく。

 

「実は、私も、そう思っている」

「だろーね」

 

 自分の真剣さをすべてぶつけたら「ドン引き」されるかもしれない。

 そうした危惧があるので、少しずつ小出しにしていた。

 自分の手の中にいる小鳥に、逃げられたくはないので。

 

「そういや、気の毒って言えば……」

 

 リンクスが、意味ありげな目つきをしている。

 視線は天井に向けているが、別のものを見ているようだった。

 

「夜会のあと、ラウズワース公爵令嬢がいなくなったらしいぜ?」

 

 夜会の最中に、オリヴァージュとセラフィーナはホールを出ている。

 その後はオリヴァージュの私室にいたので、夜会がどうなったのかは知らない。

 

「いなくなった? ネイサンと婚姻する気が失せて、帰ったのじゃないか?」

「いいや。夜会から帰るのを見た奴はいるんだ。屋敷までの道中で、パッと消えたってカンジ」

 

 リンクスが、オリヴァージュを見て、眉をひょこんと上げた。

 それで気づく。

 

(ラフィを襲わせたのは、キャサリンだったのか)

 

 ということは、何が起きたのかは、わかる。

 キャサリン・ラウズワースは、2度と見つからない。

 どこかで生きているかもしれないし、生きていないかもしれないし。

 それはわからないが、見つからないということだけは確かだ。

 

 あの魔術師の女性は、ヴィクトロスが正しい手順に則って、後片付けをしているだろう。

 が、ジョザイアには、そうした基準がないと知っている。

 キャサリンは、一線を越えてしまった。

 ジョザイアが容赦するとは思えない。

 

「いなくなってしまったものは、しようがないさ」

「オレも、そう思う」

 

 オリヴァージュにとっても、悪くない結果だ。

 セラフィーナを危険に(さら)した罰は必要だと思っている。

 罰の軽重を問うことはしない。

 

「ていうか……お前、いつまで、ここにいるんだよ」

「まぁ、ひとまず、朝までかな」

「朝まで居座るってのか」

「その通り。屋敷にいると、彼女に手を出しかねないのでね」

 

 夜会での予定を台無しにされた「借り」を返すつもりでもあった。

 リンクスのうんざりした顔を見ながら、オリヴァージュは「にっこり」する。

 

「今夜は私につきあって、女性を呼ぶのは諦めろよ、リンクス」


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