表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/60

ちっちゃな小鳥 4

 なにがなんだか、わからない。

 わからないが、腹は立てている。

 

(殿下ってなにっ? 婚姻とか許婚(いいなずけ)とか! 聞いたこともないわよっ!)

 

 そもそも、ナルがオリヴァージュ・ガルベリーだったなんて知らなかった。

 セラフィーナにとって、ナルは魔術師であり教育係。

 こんなふうに「甘い」言葉を、スラスラと吐くような奴でもない。

 いつも嫌味と皮肉を言い、セラフィーナに意地悪ばかりしていた。

 

 まるっきりの別人。

 

 少なくともセラフィーナにとって、オリヴァージュはナルではない。

 ナルはナルだ。

 彼女が好きだと思ったのも。

 

 意地悪だけれど、大事なところでは、いつも助けてくれる。

 優しくもなく、いけ好かない奴だけれど、素の自分を見てくれる。

 

 そういうナルを好きになったのだ。

 王族であるオリヴァージュを好きになったのではない。

 爵位がなくても、一介の魔術師でも、ナルのほうが良かった。

 

(意地悪ってレベルじゃないわ! 私のことを騙して……馬鹿にして!!)

 

 ナルに扮したオリヴァージュに、からかわれていたとしか思えずにいる。

 どうして、彼が、自分にそんな真似をしたのかはわからないけれども。

 

「ナル……」

 

 呼びかけようとして、言葉が止まった。

 彼は「ナル」ではない。

 オリヴァージュ・ガルベリー「殿下」だ。

 セラフィーナが文句を言えるような相手ではないと気づく。

 だとしても、何か言ってやらなければ気がすまなかった。

 

 セラフィーナは、内心で、深く傷ついている。

 

 からかわれていただけだと、わかったからだ。

 彼女が好きになった、ナルの姿は偽物だった。

 きゅっと唇を引き結び、それでも、オリヴァージュを睨む。

 その視線を、こともなげにオリヴァージュに受け止められ、イラっとした時だ。

 

「よう! ナル!」

 

 大声に、びっくりして、反射的に、そちらに顔を向けた。

 周りの貴族たちも同様に、振り向いている。

 その中を、ずかずかと歩いてくる男性がいた。

 

 めずらしい、ブルーグレイの髪と瞳。

 細身で背が高く、ひょろりとした体格。

 

 1度でも会っていれば、絶対に忘れないだろうと思える印象がある。

 オリヴァージュの知り合いらしいが、驚き過ぎて、声も出なかった。

 

「リンクス、声が大きいぞ。私の小鳥が、驚いているじゃあないか」

 

 リンクスと呼ばれた男性が、ニッと口元を緩める。

 ナル、ではないが、ナルをやっている時のオリヴァージュ以上に、意地悪そうな表情だった。

 キツネのような目を、さらに細めている。

 

「文句を言うなら、このあとにしろ」

「なにやら嫌な予感がするが、気のせいだと言え」

「気のせいじゃねーよ。なにしろ、お前が婚姻するなんざ、それこそ驚いちまったからなあ。もちろん、驚いたのは、オレだけじゃねーんだぜ?」

 

 セラフィーナは、オリヴァージュの許婚であったことはない。

 婚姻だって、オリヴァージュの口から出まかせだと思っている。

 意味はわからないが、ともあれ、自分をからかうためのものに過ぎないのだ。

 なのに、周りは、彼の「嘘」を信じているらしい。

 早く否定しなければ、とんでもない恥をかくことになる。

 焦るセラフィーナの周りが、さらに、ざわつき始めた。

 

「こ、これは……これは、へ、陛下……!!」

「国王陛下が、お出ましに……っ……」

 

 は?と、セラフィーナの頭は真っ白になる。

 周りから聞こえてくる言葉に、理解が追いつかない。

 

「リンクス……やってくれたな」

「オレだけ楽しむのも悪いと思っただけサ」

 

 2人の会話も、頭に入って来なかった。

 そうこうするうちに、2人の男性が輪に加わってくる。

 2人とも、ずいぶんと年上のようだ。

 1人は「国王陛下」なのだから年上なのはあたり前なのだが、それはともかく。

 

「叔父上……」

 

 呆れたような口調で声をかけられたオリヴァージュの「叔父上」は、目が覚めるような金髪に、青い瞳をしている。

 セラフィーナも、新年の祝辞を述べる国王陛下を遠目から見たことがあった。

 確かに間違いない。

 目の前にいるのは、ロズウェルド王国の現国王、フィランディ・ガルベリーだ。

 

「ジョザイアおじさんまで……」

 

 はあ…と、オリヴァージュが大きく溜め息をつく。

 国王陛下と一緒に来た男性は、まったく知らない。

 見たこともなかった。

 が、ナルに教わった歴史が頭をかすめ、ハッとする。

 

 黒髪、黒眼。

 

 穏やかな風貌からは想像もできない。

 されど、その2つを合わせ持つのは、たった1つの系譜にいる者だけだ。

 ロズウェルドのみならず、この世界で、最も知られている名。

 

 ローエルハイド。

 

 すでに伝説と化しているため、実際に姿を見ることは、ほとんどない。

 ここにいる貴族たちにしても、初めてのことなのだろう。

 誰もが、現実感を失っているのか、ひたすら男性を見つめている。

 

「リンカシャスから、お前が、嫁を迎えると聞いてな。なに、案ずることはない。俺は、お忍びで来ておる」

「……まったく忍べておりませんよ、叔父上……」

「彼は間が抜けているからねえ。髪の色くらい変えればいいものを、服さえ着替えれば、お忍びだと思っているのだから、困ったものだよ」

「ジョザイアおじさんも……髪の色くらい変えられたでしょうに……」

 

 オリヴァージュは、ローエルハイドとも知り合いらしい。

 口調に「ナル」が出ている。

 いささかの気遣いもない。

 悪びれもせず嫌味を言うのは、彼らが親密な間柄だと示していた。

 

「あの小さかったナルが婚姻するというのだから、私たちも驚いてしまってね」

 

 ジョザイア・ローエルハイドは、どう見ても落ち着いている。

 驚いて駆けつけたといった様子は、微塵も感じられなかった。

 セラフィーナの頭の中は、混乱で、真っ白になっている。

 

(国王陛下に……ローエルハイド……? ナルっていったい……)

 

 もとよりナルは自分のことを話したがらなかったし、謎が多かった。

 だとしても、謎過ぎて、理解不能だ。

 オリヴァージュに支えられていなければ腰を抜かしていたかもしれない、と思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 男性陣の話し方、行動から血を感じますね! セラフィーナ、羨ましいぞ!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ