夢恋路 ~青年編~13
【桂小五郎】
夜に抜け出すこと自体はそんなに難しくもない。
晋作にさえ見つからなければ・・・
しかし、最近はこれが事の他大変だ。藩邸に帰った後の晋作は僕にべったり張り付いていて、滅多に一人にはなれない。普段は何とも思ってはいないが、今日ばかりはちょっと困った。
正直に言えば行かせてくれるんだろうけれど、何となく言えなかった。
「小五郎さん、なんだかそわそわしてない?」
「そうか?」
こんな所は目ざといから困ったものだ。思わず笑ってしまう。
もう、隠すのはやめた。
「出てくる。」
僕はきっと、笑いながらそう言っている。
「こんな刻にどこに?」
晋作は首をかしげている。
「野暮なことは言わない、じゃなかったのか?」
僕はそう言って晋作に背を向けて藩邸を出た。背後で晋作が喚いている気がするけれど、続きは後でいくらでも聞いてやるよ。
お酒を少し飲んできたけれど大丈夫かな、何となくだけど今日は、飲んでないと、上手く話せない気がして・・・
今日、だいぶ大口叩いちゃったな・・・
藩邸から歩いてわずか、夏の宵だけあって家々から灯が漏れていて窓辺に座っている女性がこちらを見ている。
姉さんもこんな風に待っているのかな・・・・
そう思って入った姉さんの部屋の光景に、僕は多分、ポカンと立ち尽くしていたんだと思う。
姉さんの部屋にいたのは姉さんじゃなくて、見た事のない着物を着て、ふわふわの髪をした細い・・・人間?
「・・・あの、」
「なぁに?」
「!!!姉さん!?」
姉さんの声だ!
僕は意味がわからなくって狼狽えていた。
こんなに体の線が出る着物なんて見た事がない!
固まっている僕に、姉さんと思われる人は僕を手招きして、戸を閉める様に促した。
僕は言われるままに戸を閉めて、戸の前に立ち尽くしたまま。
ちょっとお酒、飲み過ぎたのかな・・・
「これが白石流華の服装なの。どう?」
白石流華、姉さんだ・・・
これは、姉さんの国の着物なんだ。
「初めて、見ました・・・」
よく見ると上はとっても薄い布で胸元がとても強調されていると言うか・・・何と言うか・・・
下は股引とはちょっと違うけれど、足そのものに布を張り付けた様な袴。何だか裸に色を塗った様な服装で、ちょっと目のやり場に困ってしまう・・・
「小五郎が未来なんて創らないってわがまま言うから、創りたくなるようにもうちょっとだけ未来を教えてあげようと思ってね。」
未来は・・・いったいどんな世界なんだろう・・・。
だいぶ、乱れてしまっていないだろうか・・・?
「姉さん、だよね・・・?」
「そうよ、まだピンとこないかしら?」
「・・・うん、」
良くわからないけれど、まるで別人の様だ。
こんな事なら酒なんて飲んでくるんじゃなかった・・・
姉さんは携帯電話を取り出して僕に写真を見せ始める。
そこに映っている人達はみな、見た事のない着物を着ていていろんな色の髪をしていて、その後ろに見えている景色に至ってはさっぱり何だかわからない物だった。
「これは自動車よ。聞いたことはある?」
「いや・・・」
「異国の船はわかるのよね?」
「うん、わかるけど・・・」
「船は水の上を走る物でしょ?自動車は陸を走るもなの。」
「陸を走る・・・?」
陸を走る船・・・?
「小五郎って、そろばんを転がしたことある?」
・・・そろばん?
「裏返して。そうするとよく滑るでしょ?」
確かにそろばんはひっくり返すとよく転がる。よく廊下を転がして怒られた気が・・・
「じゃぁ考えてみてね、船の下にそろばんの様なよく転がる丸い物をくっつけたらどうなるかな?」
・・・・・・・・?
「動くと思わない?」
思う!
すごく思う!!
「車には車輪が4個、四隅についているの。運転する人は船を動かすみたいに車輪を右や左に動かして曲がったり止まったりするのよ?」
すごい・・・未来ってそんなにすごいんだ・・・
姉さんは唖然としている僕に微笑んでいる、この微笑みはいつもと変わらなくて、姉さんだって思えた。
そして僕に未来の街並みの写真を見せながらわかりやすく説明をしてくれる。
説明をすると言う事は簡単そうで難しい、相手が解る様に相手に合わせた言葉や表現を用いなければ理解は得られない。賢くなければできないんだ。
姉さんはやっぱり僕なんかが考えるよりずっと賢い人だ・・・
「はい、これ。」
「・・・・・なに、これ。」
姉さんが僕に渡したものは・・・黒い線の先に、丸い物が付いていて、その線は途中で二股に別れていて、姉さんの携帯電話とやらから伸びていて・・・?
「これをね、こうやって耳にはめて?」
姉さんは僕にぴったりとくっついて来たかと思うと二股に別れた線の先っぽを耳に入れて見せる。
そして、
「・・・あら?」
と言うと姉さんが急に僕の口元に顔をくっつけてきた!
な、なに!?
「小五郎君、お酒飲んできたの?」
・・・・は、はい。
僕は声が出せずに頷いた。
「一丁前に大人になって。」
そう言って姉さんが笑うんだけど・・・あの、姉さん、あのね・・・ここからだとね、いろいろと、見えるんですよ・・・
僕は視線を泳がした。
姉さんが僕の耳に丸い栓をはめる、それは思いのほかぴったりとはまって違和感はない。二股に別れた線は長さが限られているから、片方ずつはめている僕たちは必然的に身を寄せた。
「音楽って、わかるかな。」
「おんがく・・・?」
おんがくって、なんだろう?
「音を楽しむと書いて音楽、雅楽とかの楽と同じよ。」
雅楽はわかる。
「日本に琴や三味線があるように、異国にも楽器はあるの。それはピアノだったりバイオリンだったり。」
「ぴあのと・・・ばいよ・・・・?」
「琴に似ている物がピアノ、三味線に似ているのがバイオリン。この二つの楽器を使った曲があるから聞かせてあげる。」
そう言って姉さんは携帯電話なる物を触って・・・
「えぇ!?」
突然音が聞こえて、驚いて周囲を見渡すけれどそこには何もない。
横にいる姉さんが楽しそうにしているだけだった。
「これから、聞こえているのよ?」
そう言って姉さんは携帯電話なるものと耳を指さした。
僕は耳にはめたそれを外してみる、すると音は聞こえなくなり、再び耳にはめると音が聞こえた。
「なんで・・・!?」
「細かくは説明できないんだけど、未来ではこうやって音楽を聞いたり写真を見たりするの。ねぇ、良い音だと思わない?」
姉さんに言われてふと音に耳を向けた、すごくきれいな音・・・
聞いたことのない高くて澄んでいる音は軽やかで、あまりに美しい音だった。
日本の楽器たちが夜や静寂を表現するのであれば、この音は朝の輝いている音だ。
集中して聴いている僕の肩に、姉さんは頭を乗せてきた。
切なそうな表情・・・・・
どこか、遠くを見ている様な・・・・
何か、思い出しているのかな・・・・
元の世界に、帰りたいのかな・・・・
僕は、残酷な事を言ったのかもしれない・・・でも・・・でも・・・・・
「別の時代にいる時はね、未来の物は使わない様にしてきたの。だって、違う時代に想いをはせてもどうなるって訳じゃないしね、それに、大体いつも手持ちは何もなかったから。今回はきっと、外出先で意識を無くしたのね。だからバッグがあるんだわ。」
「未来の姉さんは、どうしているんだろうね・・・」
そう、未来の姉さん。
未来の、もう一人の姉さんは、無事なんだろうか・・・?
「さぁね、でも・・・考えたの。」
姉さんが考える?
姉さんが考え出したらきっととんでもない事がわかるんじゃないかと思う。例えば太陽がどこにあるのかとか、月がどこにあるのかとか。
「もし、私や私の持ち物が全てコピーだとしたら・・・」
「こぴー?」
「複製ってことよ。もし、私が私の複製なのだとしたら、向こうの時間が進まない限り私の時間は進まない。ならばここにある物を傷つけても、壊れる事はないと思うの。私もそう。向こうの時間が私の時間と違うから、だから私は長州の時も一度も月モノがなかったのよ。現世の私がないからね。」
・・・・・・・・・。
そう、だったのか・・・?
「ぶっ倒れている本体がどんなふうに時間を進めているかわからないけれど、また前回の様に数刻しか進んでないのなら、私は老けもしないし、病にかかる事もない・・・」
そうか、そうなるんだ・・・
でも僕には少し難しくて、耳に入ってくる音楽の音色とは裏腹に頭の中はだいぶぐちゃぐちゃだ。
姉さんが、僕を見上げて微笑んだ。
「ごめんね、小五郎・・・だから私はきっと、これから先もずっと、あなたの子を産むことはできないと思うの・・・」
その言葉は、僕の理性を吹き飛ばすには十分で、僕は姉さんを抱きしめて、荒く口付けをしていた。
息を切らせて目を開くと、姉さんは僕の下に組み敷かれていて、この光景は二度目だった。
姉さんは目を細めて、じっと僕を見ている。
また僕を、試している・・・
「僕は姉さんを未来に返すつもりはないと神仏に誓った。だから、割り切る必要なんてないんだ・・・」
僕の言い訳は、子供じみているのかな・・・?
姉さんはクスッと笑う。
「そう言われたら、私に断る理由はないわね。」
僕は再び口付けをして、そして再び姉さんを見つめる。
「僕で・・・よかった?」
すると姉さんは笑って・・・
「それは、終わってから考える事にするわ。」
・・・えっ。
今、姉さん、すごいこと言わなかった・・・?
それは男として、試されているって、事・・・だよね?
「お隣のさっちゃんは、里帰り中なの。」
「じゃぁ、女将に告げ口する人はいないね。」
「えぇ、そうね・・・」
姉さんの両手が、僕の首の後ろに回った。
「・・・・・・おいで、」
僕は姉さんに、身を預けた・・・
得た事のないような幸福感と高揚に疲れ果てて、いつの間にか意識を失って、夜明け前の深夜に気が付いた。
僕達はとても人に見せられるような姿をしていなくて・・・顔が真っ赤になった気がした。
僕は、この人の為に、日本を変える・・・
この人が住みやすい世界にするために日本を変えるんだ・・・
姉さんの上に僕の着物のかけた。何も着ていない姉さんの姿は、ちょっと、刺激が強いと言うか・・・
勢いでそのままだったから、ごめんね、布団も敷いてあげてないね。
僕の腕の中で小さくなっている姉さんはやっぱり綺麗だ。肌も全部きれいで、年齢を聞かなければ僕と同じくらいだ。
ただ、何と言うか、不思議な日焼けの痕?があるけれど・・・?
数刻ほど前の姉さんは、ちょっと大人の余裕があって、ちょっと危険な感じがして、でも子猫みたいな声で鳴いて、僕はその全てに煽られて踊らされていた。
このまま永遠に共に朝を迎えられるのなら僕は何も惜しくない。
今ある全てを捨てたってかまわない。
「姉さん、」
優しく声をかけたぐらいじゃ起きなくて、僕は姉さんの髪を指でといてみる。ふわふわした巻き毛、とっても似合ってる。
「・・・流華さん、起きて。」
初めて、名前を呼んでみた。
すると、姉さんがパチッと大きな目を開けた。
「・・・今、呼んだ?」
「はい、呼びました。」
名前を呼ばれて驚いちゃったのか姉さんは寝起きとは思えないほどにきょろきょろしている。
「やだ、寝ちゃってた?」
姉さんが笑う。
「僕も、寝ちゃってた。」
僕も笑った。
クシュン!
「寒い!?」
姉さんがくしゃみをして、僕は慌てて体を起こしたけれど、そんな僕を見て姉さんが笑っている・・・なぜだろう?
「そんな恰好で寒いって聞かれてもねぇ。」
・・・・。
そうだった。
着物、着てないんだった・・・
袴は一応着てるよ・・・って言いたいけど、こらは着ているうちには入らないよね。
「今はまだ風邪をひくような気温じゃないから、大丈夫よ。」
そう、なんだけどね。
「それに、これがあるから。」
そう言って僕の着物をぱっと取ってしまう姉さん。
いや、まって・・・それは返してください・・・
「これ、くれたのよね?」
あぁぁぁ、姉さんが悪い顔をしている。
「だめです、返してください。」
姉さんを後ろから着物ごと抱きしめる、すると姉さんはケラケラ笑いながら僕に体を預けてきた。
どうしよう・・・帰らなきゃいけないのに・・・
「・・・帰りたくない・・・」
思わず、言っちゃったよ。
また、子供だって笑われるのかな・・・
でも・・・帰りたくないんだ・・・
「そうね・・・」
・・・えっ!?
思いもよらなかった姉さんの言葉に、僕はポカンとした。
姉さんはそんな僕を見上げて微笑んでいる。
「ね~ぇ、思ったんだけど。私だってわがまま言ってもいいと思わない?」
もちろん、でも、それは、どういう事・・・?
「小五郎が神様にわがまま言ってるのを見て、私も言って良いんじゃないかって思ったの。だって私は神様の悪戯でいろんな時代を飛んでいるんだもん、わがままの一つや二つ、言っても許されると思わない?」
「もちろんだよ。」
そう言って僕は笑ってしまった。
姉さんもこんなに駄々っ子みたいにわがまま言うんだね。
ちょっと新鮮かも。
「だったら私は・・・私は、小五郎と離れない。」
その言葉に驚いたのは神様もだと思う、僕は、言葉すら出なかったけれど。
姉さんは後ろから抱きしめている僕を見上げる様にしてじっと見つめている。
「私は小五郎と離れない、そう決めたの。それでももし神様が歴史通りじゃないとダメだと言うんであればきっと私たちは自然と離れていくはず。だから、神様に任せる事にしたわ。」
僕は姉さんを強く抱きしめた。
「それは、僕が良かったって事?」
「えぇ、良かったって事ね。」
姉さんが僕に口付けを誘ってくる、どうしよう、このままじゃまた押し倒しちゃうよ・・・
僕は姉さんの口付けの誘いに答えた。
「お酒の匂い、結構飲んでから来たの?」
「いや、少しだよ。なんだか、そのままじゃちょっと、行きずらくってね。」
苦笑する僕に姉さんが笑う。
「小心者。」
「本当に。」
本当にその通りだ。
姉さんの前だとどうしてこんなに臆病で怖がりで、弱いんだろう。
「後でお酒のせいでしすみません!なんて言わないでよ?」
「お酒のせいにするぐらいだったら寝ている姉さんの事起こしたりしないよ~。」
「そうね。」
笑う姉さん。
「で、一応確認なんだけど・・・もちろん初めてじゃ、ないよね?」
「まぁ、ね・・・」
一応、そこそこはね・・・勉強させていただきました・・・
「よかった、初めてだったらどうしようかと思ったわ。」
ケラケラと笑う姉さんは僕の着物を巻いたまま立ち上がりそれで身を隠すようにして手早く浴衣に着替えた。
いつも思うけれど、こんな時の女の着替えって、早いよね。
僕は笑った。
「あら、なぁに?」
姉さんはすでに帯をまいている。
「いや、肌すら見えなかったなって思ってね。」
あのきれいな肌、ちょっと名残惜しいかな。
「こんな時は女の方が早いわよね。」
「本当。」
着替え終えて、裸のまま壁にもたれて座っている僕に向く姉さん。
「どっちがいい?」
どっち?
どっちって、何と何かな?
ポカンとしている僕に姉さんが笑う。
「この格好と、さっきの。」
・・・う~ん、悩ましいなぁ。
どっちも良いんだけど、印象が全然違うんだよね。
でも・・・
「僕はやっぱり、こっちかな。」
そう言って、僕は両手を広げる。まるで、子供においでと言うみたいに。
姉さんはクスクス笑いながら僕の腕の中にやって来て、猫が擦り寄るようにして僕を見上げている。
悪い猫だ。
「で、あなたはいつまでその姿でいるの?」
「そうだね、姉さんが着物を返してくれるまでかな。」
姉さんは僕の着物を抱えて笑っている。
「返してくれるかな?」
「残念ね、きれいな体なのに。」
・・・・・きれい?僕が?
きれいって言葉は男にも使うんだろうか?
「まぁ、傷痕はないよね。」
「そうね、傷一つない。」
姉さんが僕の胸にそっと手を置く、一瞬、体の中が、ゾクッてした。
・・・本当にこのままだと危ない。
「これ以上ここにいるのは体に悪いから、着物、返して?」
「あら、体に悪いことはしない方がいいわ。」
この猫は本当に悪い猫だ。
「誘わないでよ、本当に帰れなくなっちゃう。」
これは本心、帰れなくなっちゃったらどうしよう。
それでなくたって帰りたくないのに。
「女将と晋作くんに言い訳するのは大変そうね。」
「そうだね、だから返して?」
「仕方ない。」
そう言って笑って、姉さんは僕に着物を羽織らせた。
着物を着る事がこんなにしんどいなんて初めて知ったかも・・・いろんな意味で体が重い。
「姉さんはここで。」
僕は姉さんを部屋の前で足止めする。
「ちゃんと帰れる?」
「まだ子供扱い?僕だって宗次郎君に負けないぐらい強いよ?」
わかってるよ、姉さんはわざと子供扱いするんだよね、僕を気にしてくれているときは特に。
「そうだったわね。小五郎先生だったわね。」
「そうだよ?じゃないとこんなに自由な姉さんを、守りきる事なんてできないでしょ?」
「まったくよねぇ~。」
「もぉ、他人事のように。」
僕達は明日を誓って、笑って別れた。
藩邸に帰るなりなぜか晋作が起きていて僕をコソコソと呼ぶ。
ってか、なんであいつ起きてるんだよ!?今何刻だと思ってんの!?
驚いて目を丸くしている僕を晋作が無理やり部屋に連れ込んだ。
なんだ!?なんだ!!
「もぉ遅いよ~、じゃとりあえずこれ飲んで。」
「・・・・・・・・?」
えーっと、なんで酒かな?
晋作が出してきたのは一升と枡で、枡には酒が入っている。
「晋作、訳を聞かせてもらえるかな。」
晋作との付き合いも長いけれど、全ったくわからない・・・
「だって、小五郎さん飲みに行ってることになってるからさ、酒臭くないとおかしいじゃん?」
それは、どうも。
・・・なんだけど。
「はい、飲んで。」
・・・飲まざるを得ない訳ね、と、言うか、晋作もだいぶ酒臭い!!
「お前、結構飲んでる?」
「へへっ。」
こいつ、酔ってるんだな・・・
「さっ、あと2杯一気にどーんと!」
「はぁ!?」
結局、余韻も何もなく晋作に飲まされて・・・
【おリョウ】
「あら、晋作くんおかえり。小五郎とは別?」
私の言葉に晋作くんが何やらニヤニヤ。
「ん。どうかした?」
私、何かついてるの?
「小五郎さんなら今日は休みです。」
休み?聞いてないけれど・・・藩邸で仕事かしら。
「藩でお仕事?」
「二日酔いで立てないんです。」
「・・・・・・・・?」
えっと、どー言う、事なのかな・・・?
昨日、そんなに飲んで来たの?そんな風には、見えなかったけれど・・・・・・ちょと激しかった?
「小五郎さん昨日の夜、どうも飲みに出たみたいで、朝から寝込んでます。」
「・・・・・・・・。」
あらまぁ、そう言う口裏合わせだったの?
「あらそう、どのくらい飲んだのかしら?」
「うんとねぇ、日本酒三合かな。」
「はぁっ!?」
ごめん小五郎、吹き出してしまった。
「三合で二日酔いなんてならないでしょ!?」
「小五郎さん結構弱いんだよね。」
「それでも三合って・・・」
いくら口裏合わせでも少ないんじゃないの?
「おリョウさんはお酒好きなの?」
あっ、それ聞いちゃう?
「晋作君は?」
「僕?僕はお酒好きですよ。」
確かこの子まだ十代だった気がしたけれど、この時代は良いのかな?
「あら、じゃぁ今度私と飲んでみる?小五郎じゃ相手にならなそうだから。」
ごめんね小五郎、あなたとじゃさしで飲めないわ。
「おリョウさん強いの?」
「そうねぇ、小五郎を殺しかねないわね。」
「おリョウさん強そうだよね・・・日本酒は好き?」
「好きよ、日本酒は飲んでる感じがあるから温でも冷でも。焼酎なんて飲みやすいからあんなの飲んでるうちには入らないわ。でもこの時代のお酒ってどれも薄くってダメね。」
・・・あら、晋作君ちょっと引いちゃったかな?
「それは僕も殺されちゃうかな。」
「ちょっとぉ、女に飲み負かされないでよね。」
「がんばります!」
いい子いい子、でも小五郎がやきもちやきそうね。
「ねぇ、おリョウさん?」
「なぁに晋作君、」
どうしたかな、ちょっとモジモジしているけど。
「その、ですね、おリョウさんと小五郎さんって、どうなってるの・・・・・・かなぁって。」
それも聞くの?
そうよね、この子もまた私の素性を知っているんだから、聞く権利はあるわよね。
それに、いろいろと迷惑かけちゃっているみたいだし・・・楽しそうだけど。
「聞きたいの?」
「・・・う~ん、まぁね。」
嘘付け、すっごい聞きたいくせに。
この辺がまだまだ大人の男には遠い感じがしてかわいいわね。
「どう言ったらいいかしらねぇ・・・一言で言うんなら・・・」
「言うなら・・・?」
晋作君、見すぎ。
笑っちゃうじゃないの。
「私も、和田家に帰るって事かな。」
「!?・・・和田家って、小五郎さんの実家の・・・?」
「そうなるわね。」
「やったぁ!!!本当!?」
晋作君が飛び上がっている。
この子は本当に感情表現の豊かな子、どんな人とも同じ目線に立てる子、確かに、人を引き付ける力のある子だ。
私は懐に手を入れて、クシを取り出す。
「この時代だと、クシをもらう事に意味があるんでしょ?」
そのクシを見て一層目を輝かせる晋作君、そして私に抱きついてぴょんぴょんと喜んでいる。
この子、小五郎の事がとっても好きなのね。
私も自然笑みがこぼれた。
「・・・くっつきすぎだ。」
「えぇっ!?」
「あら小五郎、おはよう。」
小五郎は晋作君の襟を引っ張って私から晋作君をはがした。
ちょっと、目が座っているかな?
「昨日は災難だったみたいね。」
「全くです・・・・」
「おリョウさん、お酒とんでもなく強いみたいだよ?」
「・・・・まぁ、そうでしょうね。」
呆れている呆れている、私は黙って微笑んだ。
ギャーギャーと喚く晋作君に小五郎がどんどん険しい顔になって行く、これ、本当に二日酔いね。
「さぁさぁ、帰りなさい。晋作君見てごらん、小五郎先生が暴れ出しそうよ?」
「わわわっ、小五郎さん帰ろうか!ねっ!」
「・・・姉さん、帰るね。」
「えぇ、その方が良さそうね。晋作君よろしくね。」
「はい!」
その声すら頭に響くのか、小五郎は眉間にしわを寄せる。
「じゃぁ二人とも、また明日。」
連れ立って帰る二人はとても若く見えて微笑ましい。
私、子供に、手出しちゃったのかな・・・




