夢恋路 ~青年編~10
【おリョウ】
ここをまっすぐに行けば江戸城に出る馬車道に入ると聞いてはいるんだけれど・・・馬車道に出た所で帰れるのかちょっと自信はなかった。
歩いて帰ると言ってみて、歩いてみて気がついた。
いきなり拉致られたから裸足に草履だし、道は相変わらず舗装されているわけじゃないし、陽はどんどん傾くし、そもそも草履で長距離歩いたことなんてないから、歩けるのかなぁ・・・絶対に足痛いよなぁ。これ、歩ききれなかったらどうしようかなぁ。
くそー、小五郎迎えに来ーい!
まぁ、小五郎が来たとしても歩くんだけどね。
宗次郎君の家とどっちが近いのかなぁ~・・・陽が、沈むなぁ・・・
【桂小五郎】
夕刻、いつもより少し早めに江戸川屋の前に指しかかると入口でそわそわしている女中の女の子達が見えた。晋作と思わず顔を見合わせていつも通り江戸川屋に向かう。
「あっ、桂様!高杉様!」
女の子の一人が声を上げて、もう一人の女の子もこちらを見た。そして二人は顔を見合わせると、一人が走って屋敷内に入って行った。
「何かあったのかなぁ・・・?」
晋作が僕を見上げる、僕は首を傾げてみた。
すると今度は女将が屋敷内から飛び出してくる、そして僕たちを大きな声で呼んだ。その声が、とても緊急性を帯びていて、僕はとても嫌な予感がした。
「桂様!高杉様!おリョウちゃんは一緒じゃないの!?」
嫌な予感が的中してしまった。
僕は女将の言葉に立ちつくし、言葉すら返せなくなってしまっていた。
「おリョウさん?いいえ、一緒じゃないですよ・・・どうしたんっすか?」
晋作が僕の代わりに受け答えている、そして晋作の言葉を聞いた女将は明らかに動揺していた。
「それが、おリョウちゃんが朝からいないみたいで・・・朝表の掃除に出たのを最後にどこにもいないのよ!だから、桂様達と一緒なのかと思っていたんだけど・・・」
「えっ、行方不明なの!?おリョウさん!?」
目の前が真っ暗になった気がして僕は一瞬足元がふらついた。
姉さんがいない・・・?
「なんか、小柄な男性と話していた姿を見かけたって人はいたんだけど・・・その後はわからなくて、箒は門の横に立てかけてあって・・・どうしましょう!おリョウちゃん、何かに巻き込まれたのかしら!?」
「女将さん落ち着いて、」
取り乱す女将を晋作がなだめてる。
箒が門の横に立てかけてある?
それは姉さんが意図的にやったのか・・・?
小柄な男性と話をしていたとしたら?
姉さんは箒を自分の意志で置いた可能性がある・・・と、言う事は・・・姉さんはまだここにいる可能性がある!!
「ちょっ!小五郎さん!!!」
僕は走り出していた。
晋作が叫ぶ声が背後で聞こえた。
行き先も当ても何もない、姉さんがどこにいるかなんてわからない。でも、姉さんはまだこの時代にいる気がした。最悪の事態は常に心を蝕んでいて、絶望とそれを必死で拭い去ろうとする自分が戦っていた。
姉さんが現世に帰っていたら、もうこの時代にはいなくって、もう二度と会えなかったとしたら、僕はどうしたらいいんだろう・・・この先、何を希望にしたらいいんだろう。
もうすでに、志だけでは、前には進めない気がした。
姉さんが一緒にいてくれないと、ダメなんだ。
「姉さーーーーん!!!」
僕は必死で叫んで、走り続けた。
【おリョウ】
足が痛いなぁ・・・
やっぱり草履だからかなぁ・・・
よくもまぁ、あの時は宗次郎君をおぶって歩こうなんて考えたよね、無知ってすごい。
小五郎は何をしているかな、そろそろ旅館の前を通っている頃かな・・・現世に帰ったって、思っているのかな。
だとしたら、もう諦めているのかな・・・
私とはもう二度と会えないって、諦めて、私の事なんて忘れるのかな・・・
そう思った時、ふと、小五郎の悲しそうな顔が思い浮かんで・・・髪に刺していたクシを外して、見つめてみた。
「帰らないと。小五郎が待ってる・・・・・」
私は足を進めた。
【桂小五郎】
もうじき日が落ちる、僕はずっと走っていた。宗次郎の家の方まで行ったけれどいない気がして引き返した。姉さんはどこに行ったんだろう・・・お願いだから、僕の前に現れて!!!!
僕は馬車道を走っていた。
じっとしていれば姉さんは旅館に帰って来るかもしれない、でもじっとなんてしていられない。
「どうか・・・無事でいて・・・」
走りながらずっと、姉さんを呼び続けていた。
「・・・・!!!!!姉さん!!!!!」
奇跡が起こったと思ったのは、きっと、僕だけじゃないと思う。
月が登り始めて辺りは暗くなってきて、そんな道の向こうに姉さんがいた。
僕の声で足を止めて、こっちを見ている姉さんは、身なりはちゃんとしているのになんだかすごくボロボロで、疲れ切っているようで、僕は大急ぎで姉さんに駆け寄った。
【おリョウ】
「小五郎!!!?」
奇跡が起こったと思ったのは、きっと、私だけじゃないと思う。
目の前には、小五郎が立っていた。
始めは一体どういう事なのかわからなくて、思わず立ち尽くして数度瞬きをしてしまった。小五郎は肩で息をしていて、私の前に突然全飛び込む様に現れた。
私は咄嗟に小五郎の名前を叫んで、小五郎は駆け寄ってきて私に抱きついた。
私も小五郎の背に手をまわして抱き留めた。小五郎が思いのほか強く抱きしめてくる、きっとこの子はずっと私を探していたんだろう、必死に走り回って探してくれたんだろう。
強く打っている心臓の音、上がっている息遣い、懐かしい、小五郎の匂いがした・・・
やっと、帰ってきたんだ、そう思ったら力が抜けて私は目の前が真っ暗になってしまった。
「姉さん!!!」
小五郎の叫び声が聞こえる、私は閉じそうな目を細く必死に開けて、何とか微笑む。
「・・・ごめん、ちょっと、疲れちゃってね・・・・・・」
その後はもう小五郎が私の事をを呼ぶ声は聞こえなくなってしまった・・・・・
【桂小五郎】
突然崩れ落ちて意識をなくしてしまった姉さんを僕は必死で呼んだけれど、姉さんの意識を繋ぎ止める事は出来なかった。その後も何度も呼んでみるけれど姉さんの意識は戻る事はない。
よく見れば服装は女中の姿のままで、足は草履、鼻緒の所からはうっすらと血が滲んでいる。
いったい何が起こったんだろう?
ふと、姉さんの胸元に固いものがあるのがわかって僕は着物の襟にそっと手を入れてみた。
「・・・クシ、」
大切に懐に入れられていたのは僕があげたあの鼈甲のクシで、姉さんは常にクシを持ち歩いてくれていたんだ・・・僕はそのクシを自分の懐にしまい、姉さんをおぶって江戸川屋へと急いだ。
背に乗せている姉さんはとても軽くて、とても小さかった。
子供の時、あんなに大きく見えていたのに、姉さんはこの前背負った宗次郎と同じ程度だ。ただ宗次郎と違うのは体がとてもやわらかいと言う事。暖かくてわらかくて、とても安心する温もりだった。
姉さんの顔はまるで眠っている様に安らかで、心から安堵している、そんな表情だった。
ここから江戸川屋は遠くない。
僕は背にいる姉さんが今この時代で僕の背中にいる喜びをかみしめながら江戸川屋への道を急いだ。身体の横でふらつく足が痛々しくて、早く草履を脱がせてあげたかった。足の甲は擦れて赤くなり、指先は土埃で切れている。
もうじき江戸川屋が見えてくるはず、そしたらすぐに部屋に連れていってあげよう。
提灯が見え始め、そこに集まる人が数人見えてきた。一人が僕たちに気がつき大きく手を降る、そして周囲の人たちが何やら跳び跳ねて喜んでいる様だ。
僕は少しずつそこに近づいて行き、やがて晋作が待ちきれないのか僕の元へと駆け寄ってきた。
「おリョウさんどうしたの!?」
晋作が僕の背にいる姉さんに驚いている。
「理由はわからないけど、ずっと歩いていたみたいで、足が・・・」
「わっ、本当だ、痛そう・・・」
晋作はすぐに姉さんから草履を脱がせる。草履がなくなった足は余計に痛々しい、湯がしみそうな傷だ。
「なんかとっても疲れたみたいで、出会った後すぐに気を失っちゃったんだ・・・」
「えっ、医者に見せた方がいいんじゃないの!?」
「いや、大丈夫だと思う、とりあえず早く休ませてあげたいんだ。」
「わかった、女将達が心配してるから行こう。」
晋作は姉さんの草履を持って僕の横を歩いた。
「おリョウちゃん!!桂様、おリョウちゃんは!?」
狼狽える女将、それが他の女中達にもうつってしまい側にいた女中達まで狼狽えている。
「大丈夫だと思います、たぶん、疲れて眠っているんだと思います。」
「おリョウさん、足痛そう・・・」
女中の女の子が姉さんの足を見てつぶやいた。
「桂様、おリョウちゃんに何があったか聞いてますか?」
「いえ、まだ・・・、出会ってすぐ意識をなくしてしまったので。女将、姉さんを部屋まで連れていきたいんですが構いませんか?」
まずは姉さんを休ませてあげたい、早く部屋へと連れて行ってあげたい。
「そうね、それがいいわ。さっちゃん案内して差し上げて。」
「俺も行くよ、」
晋作が僕の横についてくれた。
屋敷の外階段を登り入った姉さんの部屋は生活感もなく小綺麗にされていた。
物がある訳ではなく布団が一対たたんで部屋の隅に置かれている。おサチがその布団を敷いてくれ、僕は晋作に支えられて姉さんを布団に下ろした。
姉さんの温もりがなくなった背は少し物足りない、離れたくないとさえ思ってしまう・・・
おサチはすぐに降りて行く、僕たちはしばらく姉さんを見つめてから口を開いた。
「晋作、頼みがあるんだけど・・・、」
「野暮な事言うんじゃねーよ。」
晋作は僕の言葉を遮ってきた。
「大丈夫、わかってるよ。わざわざ口にすんな。」
そう言う晋作はどこかちょっと嬉しそうで僕は首をかしげてしまった。
「いつまでも子供扱いすんなよな?俺だって大人だ、あんたの考えることぐらいわかるよ。側に居てやんな。」
晋作が急に大人になった気がして笑いそうになる、それと同時にとても頼もしく思えて、やはり晋作はこの先を担う男なんだと思った。晋作には人を引っ張る力がある。相手に対する思いやりを素直に口にすることができる男だ。
「藩と道場にはうまいこと言っておくから・・・どうせおリョウさんは俺や女将には何も言わないだろ?あんたにしか話さないはずだからさ。」
晋作が姉さんをじっと見つめた。
「帰っちゃったんじゃなくって、良かったね・・・」
「あぁ・・・」
僕はそれだけでいいと思った。あの時、道で出会えた時、崩れてしまいそうだったのは僕も同じだった。何があっても手放したくはない存在、何があっても離れるわけにはいかない人。
それをあの時、改めて思い知らされたんだ。
「あれ・・・?」
誰かが階段を上がってくる音がして僕たちは目を向ける、そこには女将がいて、手には湯気の上がる桶を持っていた。
「お二人とも、お食事の準備が出来ていますから下の間にいらして。」
女将は僕達に微笑んだ。
「いや、でも・・・」
僕は離れるのが心許なくて姉さんを見る、そんな僕を見てか女将は笑った。
「あらまぁ嫌ねぇ、いくらお二人の頼みでも嫁入り前の女の着替えを見せるわけにはいかないわ。」
・・・えっ!?
女将の言葉に僕と晋作は思わず顔を見合わせ赤くなってしまう。
「さぁさぁ、出てちょうだいな。こっちは私に任せて。」
女将に追い出される形で僕たちは下の間に向かった。
【女将】
桂様は本当におリョウちゃんが好きなのね、あの顔、おリョウちゃんにも見せてあげたいわ。
私はおリョウちゃんの髪をほどき着物を寝巻用の浴衣に着替えさせる。
きれいな肌、本当に三十路を超えているのかしら・・・
「あら、妙な日焼けねぇ・・・?」
何かしら、この日焼けの痕は・・・?
胸と腰元だけうっすら痕が付いていて、なんて言うのかしら、見せちゃいけない場所だけ隠して日焼けしたような・・・
「これは、どういう格好なのかしらね・・・?」
記憶がないと言っていたけれど、どこかで何かされたのかしら・・・
いったいどんな辱しめを受けたのかしら、そう思わずにはいられない日焼けの痕、桂様はご存じかしら・・・
しかし・・・なんて細い体なの!?
十代前半の娘の身体もそのまま。小さな胸に折れそうな腰、そして小さい尻、浴衣がこんなに余って・・・これじゃ子供を産むどころか、殿方だって受け入れられるかどうかじゃない!
桂様のお相手なんてできるのかしら・・・
「・・・帯は、ほどきやすいように結った方がいいかしらね?」
あら、私ったら何て粋な計らいを思い付いたのかしら!
奥手な年下男にもきっかけをあげなければ進まないわね。
あの桂様の顔ったら、砂川屋で見かけていた物静かな印象とはまるで違う、感情的な一面、なんて素直で可愛らしいのかしら。
なんて思いながらおリョウちゃんの足を湯で拭く。
ちょっと擦っただけでも擦りきれてしまいそうなほど薄くなった赤い肌、歩き慣れない草履で歩いたのだから仕方ないわよね。
しかしきれいな柔らかい足だこと、もしかしておリョウちゃんはいいところの娘さんなのかしら。幼いときから常に足袋を履いて下駄を履いていればこんな足でしょうね。
桂様はおリョウちゃんの出所を知っているのかしら・・・
調理場用に常備していた中黄膏を赤くなった場所に塗っておきましょう。
【桂小五郎】
「んじゃ、俺は戻ります。」
「あぁ、頼む。」
「明日の夕方また来るから。」
「あぁ、わかった。」
じゃぁねって言って去っていく晋作を見送ってから僕は姉さんの部屋に向かった。きっと女将が部屋で姉さんを看てくれているはず、急いだ足取りで行くのもなんだか決まりが悪い気がしてあえて普通に歩いてみる。
本当は今すぐにでも駆け付けたいのに・・・
「どうぞ、」
女将は僕の足音に気づいていたのか自ら戸を開けてくれた。
姉さんは着替えて寝たまま。
「着替えは済ませましたよ、あと足は拭いておいたけれどあまりに痛そうだったので中黄膏を塗っておきました。」
「ありがとうございます。」
頭を下げて言った僕のこの言葉に女将は笑っているけど・・・
なぜ、笑っているのだろう・・・?
「いいえ、お安いご用です。でも、そうやって桂様にお礼を言われると、なんだかおリョウちゃんは桂様の奥方みたいね。」
・・・・・えぇっ!
僕は絶句して、何かを言おうとしたけれど、間に合わなかった。
「いいのいいの、私こういうの大好きだから。では後程お水とお茶をお持ちしましょうね、桂様、おリョウちゃんをよろしくお願い致します。」
女将は丁寧に頭を下げ部屋を出ていった。
すごく、驚いた・・・
そうか、そうだよね・・・
でもじゃあ、あの場合何て言ったらよかったんだろう・・・。
言葉って難しいなぁ・・・、もっと、勉強しよっと。
寝ている姉さんはまるで死んでしまっている様に静かで、少し不安になる。でもその顔に陰りはなく、本当に安らかだった。
しばらくして女中の子がお茶と水、そして小さな焼き菓子を置いて行った。
姉さん、いったい何があったのかな、僕に話してくれるのかな・・・
窓辺に背を持たれてずっと姉さんを見ていた。目を逸らしただけでも不安に駆られる、姉さんは一体どんな夢を見ているんだろう・・・?
ふと自分の懐にしまったクシを出して眺めてみた。
肩ぐらいしかない姉さんの髪、以前はまっすぐで長かったはずの髪はふわふわと緩やかな弧を描いていて印象が全く違う。姉さんの時代にはこうやって髪をいじって遊ぶのだろうか・・・?
前回と違って、随分と可愛らしく感じるのは僕の個人的な見解なのかな・・・
腰に差していた刀を壁に立てかけて、僕はずっと姉さんを見ていた。
何も考えずにずっと・・・
そして僕は、いつの間にか寝てしまっていた・・・
【おリョウ】
気が付くと、私は布団の中にいて・・・部屋の角には明かりがともされていた。
ここは、私の部屋?
「・・・痛ったぁ!?」
ちょっとだけ動かした足の指、それに伴って激痛がした。まるで皮膚がちぎれるような痛み。
思わず起き上がって布団を退けてみると・・・なんじゃこりゃ。足に黄色いものが塗られている・・・これは、いったい・・・?
服もいつの間にか着替えている、これは誰が・・・?
何気なく、本当に何気なく横を見ると・・・小五郎が、崩れる様に倒れて寝ていた。
えーっと・・・・
この子は、ずっとここにいたの・・・?
目を凝らしてよく見ると、手にあのクシを握っている。
この子はずっとここにいたんだ・・・私をここに運んで、そのままずっと私の側にいたんだ。
何か掛ける物をと思って辺りを見渡すけれど一人部屋にそんな物がある訳がなくて・・・
「・・・・・・・・」
私は、歩み寄ろうとしたけれど足に痛みを感じて、這いつくばった状態で小五郎の元に寄る。そして私がかけていた掛布団を引っ張って、私は小五郎の横に小五郎と向かい合うように横になって、一枚の布団を二人でかけた。
小さい時は普通だったのに、大きくなって歳を重ねるとこう言う事も自然には出来なくなるものだ・・・大人になると言うのは何と不便な事だろう。
本来なら、同じように歳を重ねていたのなら私は40歳を過ぎていて、母と息子の様な位置にいるはずだ。なのに私は32歳で、小五郎は25歳。年齢差は半分ほどに詰まっている・・・
この年齢差なら、今の私たちは男女の関係として成立してしまうのだろうか・・・
小五郎の匂いがする、今日二度目の小五郎の匂い・・・
私はいつの間にか、小五郎にすり寄る様にして再び眠っていた。
【桂小五郎】
明るくなった瞼の外側と山鳥たちの鳴く声で僕の意識はだんだんとはっきりしてきた。
何だかいつもの朝と比べて身体がギシギシ言う気がする・・・?
一度眉間にしわを寄せて、それからゆっくりと目を開く・・・少しずつはっきりとしてきた視界には・・・
「・・・えぇっ!!!!!!?」
僕は思わず飛び上がりバタバタと壁際に体を押し付けて両手を挙げた。
目の前には、姉さんがいる・・・
えーっと、ここはどこで、僕はいったい、何をしたのかな・・・?
何で、姉さんが、目の前に・・・・・・ん?
僕はその時やっと昨日の事を思いだした。
そうだよ、昨日姉さんがいなくなって、見つかった後に意識を失って、それからずっと寝ていて・・・
僕も、寝ちゃっていたんだ・・・
そうだったそうだった・・・・・ん?
「・・・何で、姉さんはこんな所で寝ているの・・・?」
姉さんは、布団の上じゃなくって、掛布団こそ被っているけれど、窓辺の僕の前に転がっていて・・・
僕、本当に何かしちゃったのかな・・・?
ふと気になって姉さんの顔を改めてのぞき込む・・・
姉さんの顔は相変わらず安らかで、特段表情に曇った様子もなく・・・何も、してないよね・・・僕。
全く覚えていない・・・
・・・もしかして、姉さんは布団を引っ張って来たの・・・?
僕の所に・・・?
くははっ!!
僕は思わず声を上げて笑う。
そうだ、そうそう、そんなことあったあった!
子供の時にそんなことあったよ!
僕は笑いが止まらなくなって壁に背をもたれて座ったままケラケラと笑い続けた。
姉さんは何も変わっちゃない、姉さんはやっぱり姉さんだ。
「・・・・ぅんっ・・・・?」
あっ、姉さんが起きた・・・起こしちゃった。
姉さんは眩しそうに目を強く瞑りそして体をぐっと小さくしてから、ゆっくりと目を開けた。
かわいいな、姉さん・・・
そんな姉さんを見て、自然と笑みがこぼれた。
「おはよう、姉さん。」
「・・・こごろう・・・?」
小さくつぶやいて、僕を見上げてくる姉さん。
「痛っ!」
突如上がった姉さんの高い声に僕は驚いて身をかがめる。
「どうしたの!?どこか痛いの!?」
「いや、足がね・・・」
そう言って姉さんは苦笑した。
そうだった、姉さんは足を擦ってしまっていたんだ。僕は姉さんの足に目をやる、赤みは引いている様だけれど相変わらず痛々しい。
「もぉ、ちゃんと布団にいないと。」
僕は姉さんの体をすくい上げた。咄嗟にしがみ付いてくる姉さん、昨日よりも着物が薄いせいか余計に姉さんの身体が、直に感じられて・・・
「・・・ちゃんと、布団にいて・・・」
あまり長い事抱えているのは、ちょっと危険な気がして、僕は姉さんを布団の上にそっと下ろした。
「元気よ?」
姉さんが笑う。
「元気でも。」
僕は座っている姉さんの足に布団をかけた。
そしてその横に座る。
【おリョウ】
「大丈夫?どこか悪い所はない・・・?」
小五郎が不安そうに私をのぞき込んでいる、多分、どこも悪くない。
いや、あるある。足がおかしな色をしていたっけ・・・
「ある。足の色・・・これは何でこんな色になってるの・・・?」
草履で擦れて擦過傷になっているのはわかるんだけど、なんか、黄色のが塗られている・・・
「あぁ、中黄膏だよ。火傷とかすり傷に塗る薬だよ。女将が着替えの時に塗ってくれたんだ。」
「そうよ!何で着替えてるの!?・・・小五郎、じゃ、ないのよね・・・?」
私の視線に小五郎は急に慌てふためき出した、そして頭をぶんぶんと振って否定を始める。
「ちがうよ!女将が僕達が食事の時に着替えをするからって、僕と晋作は追い出されたんだよ!」
「そう、よねぇ・・・驚いたぁ・・・」
なんだかちょっと、ほっとした。
「姉さん、痛いのは足だけ?他は何ともないの?」
「えぇ、大丈夫。他はなんともないわ・・・」
酷い疲労感はあるけれど・・・昨日の私は、どうしていたんだっけ・・・?
えーっと・・・・・そうだ!ハリスとヒュースケンだ!!!
「お二人とも起きてる!?」
わぁぁ!!
女将の威勢の良い声に私と小五郎は思わず悲鳴を上げた。
「朝ごはんを持って来たわ!開けるわよ!?」
そう言って女将はふすまを開けると二人分の膳を持ってきた。
「おリョウちゃん、大丈夫!?」
「はい、ご迷惑をおかけしました・・・」
私は座ったまま頭を下げた。
「無事で本当に良かったわ。今日はゆっくりしていて頂戴。」
「えっ!?でも!」
「いいのよ、その足じゃ今日は痛くて草履は履けないでしょ?それに・・・」
女将はそう言って小五郎を見た、また悪い顔になっている・・・
「桂様がご一緒なさっているんだし、ゆっくりしていればいいわ。桂様、昨晩からずっといらしたのよ?」
小五郎が急に真っ赤になったのがわかる。
私は思わず小五郎を見つめ、再び女将に向き直した。
「何があったかは後で教えてちょうだい。あと、これお薬ね。」
そう言って女将は小さな根付を出してくれた。
「済んだお膳はお部屋の外に出しておいてね、後で誰かに取りに来させるから。じゃ桂様、おリョウちゃんをよろしくお願いします。」
「あっ、はい、わかりました・・・」
小五郎も頭を下げる。
で、ここですんなり帰らないのが女将・・・
「そうそう、湯が必要だったら自由に入ってね。混浴が良ければ湯屋でお願い。籠を呼ぶわ。」
「女将っ!!!!」
私の叫びに女将はぱっと出て行った。
・・・・・・。
くそぉ~・・・。
この空気をどうしてくれる!!!!
小五郎は黙って、入口に置かれていた膳を取り、一つは私の上に、一つは私の横に置いてその前に小五郎は座った。
「・・・・昨日、何かあった・・・?」
「・・・いや、」
「・・・そう、」
私達は、微妙な空気の中、朝食を済ませた。
言われた通り膳を下げて、ふぅと息を吐いた。小五郎は再び私の横にやってきて座る。
そして、じっと私を見つめた・・・
「ねぇ、姉さん・・・」
「なぁに?」
「昨日、何があったの・・・?」
そうだよね・・・・・
こんなに心配させて、朝までいてくれて、迷惑かけて・・・話さないわけにはいかないよね。
でも、あまり事を大きくはしたくない・・・
小五郎なら、その想い、わかってくれるよね・・・
「昨日ね、ちょっと人さらいに合ったのよ。」
「人さらい!?」
しーーーーーーっ!!!!!!
私は思わず小五郎の口を塞いだ。
だからぁ!わかれよ!!!!
「大声出さない!いい!?」
小五郎はコクコクとうなずいている。私はそっと手を離して、話を続けた。
「って言っても、別にひどい扱いを受けたとかじゃないよ。むしろ待遇はめちゃくちゃ良かった・・・ただ、言葉がねぇ。」
私は苦笑して小五郎を見た。
「言葉?」
小五郎が首をかしげている。
「私をさらったのは、この前見た異国人。ハリスさんとヒュースケンさんよ・・・」
「えぇぇ!?」
「しーっ!!!」
小五郎が口を閉じた。
「朝、玄関の掃除をしていたら英語で呼びかけられて、思わず反応しちゃったのよ。そしたらその男にピストル見せられて、付いて来て下さいって・・・籠に乗せられちゃったの。」
「ピストル!?」
小五郎は小声で、でもきっと大声にしたい様な声色で声を上げた。
「えぇ、でももちろん危害は加えられてないし、向こうも加えるつもりはなくて、さっきも言ったけどどちらかというととても丁寧だった。えーっと、善福寺だったかな、そこに連れて行かれてね、ハリスさんとヒュースケンさんと面会して・・・夕方まで延々とお話会よ。」
小五郎が唖然としている、そりゃそうよね・・・
「本当はさっさと帰ろうと思っていたのよ?だって、拉致同然で出てしまったからみんなが心配するってわかっていたし・・・でも、ね、なかなか帰れなかったのよ。」
「帰れなかったって、帰してくれなかったの・・・?」
「ううん、違うの。なんだか彼らの気持ちがね、痛いほどわかって・・・・・。ほら、知り合いも誰もいないこんな遠い異国の地に二人だけで、言葉も通じず、文化も違くて、食べるものも見るものも全てが違う中で国を代表して来ているわけでしょ?帰りたくても帰る事も出来ず、家族と連絡を取る事もままならず、生きていくしかない・・・そんな時に、自分たちと同じ言葉を話す人間が目の前に現れたら、縋りたい位に嬉しく思うのは、当然だもの・・・。私が、あなたにそう思うように、ね。」
そう、私には小五郎がいる。
この世界で唯一、自分の事を知る存在が。
小五郎が複雑な顔をして見せた。
たぶん、私やハリスさん達の気持ちを理解してくれたんだと思う。
「帰りも籠で送るって言ってくれたんだけど断ったの。私がこの人たちとかかわっていると言う事が少しでも知れてしまったらまずいから、裏口から出て道を教えてもらって、歩いてたって訳よ。」
「善福寺だったら姉さんの足じゃ時間かかったね。」
「えぇ、しかも庭掃除用の草履で誘拐されていたから途中で足が痛くなっちゃってね、余計に遅くなっちゃったんだと思う・・・」
「帰って来れて、本当に良かったよ・・・」
小五郎がため息をついた。
「なんかね、ハリスさん達と話していたら、急にあなたに会いたくなったのよ。」
私は小五郎を見て苦笑した。
「僕に・・・?」
「えぇ、そうよ。あなたに会いたいと思った。私の事、現在でも過去でも未来でも全ての世で唯一理解してくれている、あなたに。帰り道いったいどれだけ迎えに来てほしいと思った事か!あなたが目の前に飛び出してきたとき、奇跡だと思ったよ。あまりにホッとし過ぎて、それで意識まで消えちゃったのね。ごめんね、迷惑かけて。」
【桂小五郎】
姉さんは一人でずっとずっと歩いていたんだ。
そしてその間ずっと僕に会いたいと思ってくれていたんだ。
「姉さんがいなくなったって聞いて、元の世に帰ってしまったんだって思って目の前が真っ暗になって。でも、きちんと立てかけてある箒を見て、絶対にまだこの世界にいるって思った。だから絶対に見つけたくて!出会えた時、僕だって奇跡だと思ったよ・・・姉さんに絶対に会いたかったから。」
僕は膝の上に置いていた自分の拳を強く握った。
「姉さんがいなくなってしまったら、僕はどうしたらいいのかわからないって、思い知らされた・・・もしかしたら、いつか本当に、いなくなる時が来るかもしれないんだって、思い知らされた。」
姉さんは視線を落として、悲しい顔をしている。
姉さんも、僕と離れる事を、寂しいと思ってくれているの・・・?
「ねぇ、小五郎、クシは・・・?」
「えっ・・・?」
姉さんの言葉に僕はふと、昨日クシを握っていたことを思いだし、そのクシを探した。そんな僕を見て姉さん笑いながら、自分の懐からクシを取り出した。
「あれ、確か僕が持っていたはず・・・?」
「えぇ、昨日握って寝てたから、返してもらったのよ。」
そうか、握って寝ていたんだ・・・
姉さんはそのクシをじっと見つめている、目を細めて、どこか悲しそうで、それはあまりいい予感はしなかった。
「クシの意味、聞いたよ。」
「誰が教えちゃったの?」
僕はあえて、微笑んだ。
「ハリスとヒュースケン。」
「・・・へっ!?」
姉さんの答えが意外過ぎて僕は思わず間の抜けた声を上げた。そんな僕を見て姉さんは笑った。
「まさか、異国の人に日本の文化を教えてもらうとは思わなかったわ。」
姉さんは笑っていた。
「で、聞いて、どう思った?」
僕は、姉さんの気持ちが、知りたかった。
聞いたのなら、何を思ったのか・・・僕の気持ちに、どう思ったの?
「嬉しかったよ、とっても・・・素直にうれしかった。」
そう言って、姉さんはクシを大事そうに胸に抱えた。
「でも・・・・・」
姉さんの言葉には続きがある、僕はそれを、聞きたくはなかった。
「でも、私にはこれを受け取ることはできない・・・」
「どうして!?」
胸に抱えていたクシを、そっと床に下ろして、姉さんはとても悲しそうで、僕は思わず身を乗り出して声を上げた。
「私は、あなたに添い遂げる人間じゃないのよ。」
「どうして!?」
僕は必死だった。
姉さんを繋ぎ止めるために、必死だった。
「僕は姉さんじゃなきゃダメなのに!姉さんがいない事なんて考えられないのに!姉さんがいなきゃ何もできないのに!!!何で姉さんじゃダメなんだよ!!!!」
僕の強い言葉に姉さんは膝の上で握られていた手をより一層強く握った。
そして、聞いたことないような強い言葉で、僕に声を荒げた。
「じゃぁ教えてあげる!!!あなたは後に京の芸妓である幾松と言う女性と夫婦になるの!!彼女とあなたは一生添い遂げ、彼女はあなたを看取ってから亡くなるわ!あなたは後に名を木戸孝允と変えて日本の政治を動かし!日本の未来を大きく変える!それは決まったあなたの未来で!私には決して変える事の許されない未来なの!!!」
・・・そんな・・・
全身の力が、抜けていく・・・
僕は、姉さん以外の人を選ぶの・・・?
京の芸妓さん・・・
幾松さん・・・
その人は、誰・・・・・?
僕は呆然としていた。
姉さんは若干息を乱して、今にも泣き出しそうな悲しい顔をしている。
「私だって、辛いのよ・・・昨日の事で思い知らされたわ。ハリスとヒュースケンに会って、話をして、私にとってあなたがどれだけ大切な人なのか、どれだけあなたを想っているのか、思い知らされた。こんな事、言いたくなかったよ・・・・・・」
姉さんが悲しい顔をしている事が、悲しかった。
「きっと・・・きっと僕はその人に、とても強い恩があるんでしょうね。」
僕はつぶやくように、答えた。
「全てを投げてでもその人に尽くさなければならないほどの恩が・・・」
そうだ。
そうとしか思えない・・・
僕の為に命を落としそうになったとか、何かとんでもない無理な頼みをさせたとか、でなきゃ、姉さん以外の女性を選ぶなんて、考えられない。
「姉さんが、幾松になればいいのに。」
「・・・えっ!?」
そうだよ、そうだったらいいんだよ・・・
僕の思考はもう、正常じゃないのかもしれない・・・
「無理、言わないでよ。」
姉さんは苦笑している。
でも、僕は本気だよ?
姉さんと永遠に添い遂げる事が出来るのなら、未来なんて変ったって構わない・・・
後の世がどうなったって、僕には関係ないんだ・・・
「クシは、持っててよ。もちろん、嫌じゃなかったらだけど。」
僕はめいっぱい強がって見せた。
返されたら本当に、寝込みそうだと言うのに。
「嫌なわけないじゃない・・・・返すなんてそんなこと、したくないよ。」
姉さんは再びクシを手に取り、強く握った。
「ねぇ、姉さん?」
「なぁに、」
「なんで今朝、僕の横にいたの?」
僕は静かに、今朝の事を聞いた。
姉さんはどんな気持ちで、僕の横で寝ていたの・・・?
「夜に、布団から抜け出して、なんで僕のところに来たの?」
添い遂げられないと知っていて、何で僕の所に来たの・・・?
「なんでかしらね、細かく言うと何か上掛けを掛けてあげたいと思ったとか、でっかい男が転がってる姿がかわいかったとか、いろいろあるんだけど、でも、」
「でも?」
姉さんは一度口を閉じて、そして僕を見て、いつものように笑った。
「たぶん、一番は、私が小五郎の側に行きたかったからだと思う。一緒にいたいって思ったからだと思うよ。」
「・・・・・・」
「クシを大事そうに握って寝ているあなたを見て、愛しいと思ったからだと思う。」
それは、本当?
「それは、子供として?」
「いいえ、長州藩士、桂小五郎としてよ。」
僕は、気がついたら、姉さんの上に覆い被さっていて、僕の下には姉さんがいて、黙って、目を細めて僕を見上げていた。驚いているような表情はなくって、抵抗もせず、僕たちはしばらく、時間にしたらいくつも数える間もないんだろうけれど、見つめ合っていた。
胸が、とても早く打っていた。
「・・・割り切れるなら、いいよ。」
「えっ、」
姉さんの言葉に、僕は耳を疑った。
「割りきれるなら、この先に進んで構わない。でももし、割りきれないなら、止めた方がいい。」
割り切る?そんな・・・
「私はいずれ、あなたの前から消える、その時に、あなたが諦めを付けて、今からのことを思い出として処理できるなら、かまわないけれど・・・、思い詰めて病む可能性があるのなら止めた方がいい。」
「割り切るなんて、そんな!」
割り切るって、どういう事?
姉さんを遊女の様に、その時その場だけの女にしろって言ってるの?
「そう思うなら、やめて。」
そう言うと姉さんは、僕の右の肘の内側をトンと押す。
すると僕の肘は思った以上に曲がって、僕の身体は右側に大きく傾いた。
咄嗟に手を着いたけれど、僕は右側に倒れこんで。唖然としている僕を姉さんは優しく笑って、僕の顔に触れる。
「ねぇ、今日は道場は?」
「えっ、あっ、行かなくても平気、だよ・・・」
「そう。なら、このまま横にいてよ。」
「えっ、」
「横に、一緒にいてくれる?」
「・・・うん」
姉さんの微笑みに、拒否権はない。
「本当に、良い男になったね、小五郎は・・・」
姉さんの額が僕の額にくっついて、姉さんはクスクスと笑った。
「でもやっぱりあなたは、まだまだ長州のクソガキだわ。」
「もぉ!」
僕に反論は許されない、それは昔から変わらない。
変えるつもりもないんだけどね。
「昨日一日、使い慣れない頭を目一杯使ったからだいぶ疲れてるみたい、このまま寝ちゃっても平気かしら。」
「僕がずっと側にいるよ。例え姉さんが、違う世界に帰っても、帰るまで、側にいる・・・約束する。」
「ありがとう。」
姉さんは、僕の額に優しく口付けをした。姉さんは幸せそうに、瞳を閉じて、そのまま静かに眠った。
僕はどうして姉さんじゃなきゃダメなんだろう。
この世にも美しい人はたくさんいるし、この世の人ならずっと側にいられる。
姉さんが言っていた幾松という芸妓、僕の伴侶になる女性、その人は姉さんよりも優れているのだろうか、姉さんより美しくて、賢くて、勇敢で、粋で・・・そんな人いるわけないのに。
姉さんは僕の初恋の人だ、完璧な人、姉さんに勝る人なんて、絶対にいない。
「姉さんは、いつまでいてくれるの?」
返事の帰って来ない姉さんに、ズルい僕は問いかける。
「姉さんがいなくなったら、僕はどうしたらいいのかな、」
僕がどうしたらいいのか、姉さんならわかるのかな・・・
「でも・・・、姉さんも辛いんだよね、僕やみんなと仲良くなればなるほど。」
僕の気持ちは傲慢なのかな。
仲良くなればなるほど、別れた時の喪失感は大きくなる。それは姉さんだって同じはずなのに。
でも、今目の前で寝ている姉さんを見て、例えどんなに姉さんのためであったとしても、僕は姉さんを手放すなんてできないんだ。
「ごめんね。」
僕は姉さんの唇にそっと口付けをした。




