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西階段

 西階段を一人降りていた風雅は額に浮かんだ汗を拭う。階段の踊り場に到着し立ち止まる。


「何なんだろうな……」


 ぽつりと呟く言葉に返事をする者はいない。

 風雅の立ち止まった階段の踊り場からは上下に続く階段が繋がっており、多少の暗さはあれどそれぞれの踊り場を確認できた。

 ため息をつきたくなるのを堪え、階段を降りる。下の踊り場へたどり着き、さらに下を確認するとまったく同じ踊り場が存在していた。らせん状に続く階段の手すりから身を乗り出し下を覗くも、その先はどこまでも闇が広がっている。3階から1階分までの階段は降りているというのに2階にすら辿り着けずにいた。無限に続く階段にさすがの風雅も笑っていられない。


 さらに下に降りた風雅は(おもむろ)に柔道着の帯を解いた。黒い帯が闇にとけこみながら床へと置かれる。そのまま風雅は3階分階段を駆け下りた。そこには何も無く、元の場所へ戻ってみると先程置いた帯が当然の如くその場にあった。


「一応、進んでいるってわけか」


 頭を掻きながら帯を拾い上げ、締め直す。帯を握りしめたまま目を閉じる。風雅には体力よりも精神力の方が先に根を上げてしまうと予測していた。ゆっくりと呼吸を繰り返しその場で精神統一を図る。

 終わりの見えない無限階段。暗く狭い空間が閉塞感と孤独感を生み、足元から疲労感という現実が徐々に声を大きくしている。あらゆる要素が遅効性の毒のように風雅の精神を蝕んでいく。


「……よし、行こう!」


 それら全てを吹き飛ばすよう、ポジティブな言葉を口にした。帯から手を離し自身の頬を叩いて気合を入れる。


 と、そこで風雅は上履きが鳴らすスキール音を聞いた。


 トントンッと規則正しい音が続き、キュッとスキール音がしたかと思うとまたトントンとリズム音が続く。それが次第に風雅のところへ近づいてきていた。


「誰かいるのか」


 応える声は無い。

 風雅は耳を澄まし、ようやく音は上の階から聞こえてきていると分かる。

 そして――。


 ――キュッ。


 一際大きくスキール音が鳴り、風雅は上を見上げた。すぐ上の踊り場に誰かがいる。

 そこで風雅は安堵の息を漏らした。顔は見えずともその姿に見覚えがあったのだ。


 きっちりと着こんだ制服に、緑のスカーフ。赤い腕章。なにより、暗闇の中でもギラリと輝く刀身が、彼女のトレードマークであった。


「蘭ちゃん。よかった」


 こんな状況でも彼女がいるというだけで風雅は心を躍らせる。そればかりかこんな状況だからこそ面と向かって会話ができると、どこまでもポジティブな考えに満ちあふれていた。

 彼女は右足を一歩、後ろに下げた。それからゆっくりと刀を振り上げる。


「蘭ちゃん?」


 風雅は違和感を憶えた。風雅のよく知る彼女は居合抜刀術に長けており、今のような上段の構えを取ることは少なかった。

 そもそも何故、自分に対して攻撃の意を示しているのだろう? もっと言うならば何故自分より先に階段を降りたはずの彼女が上の階から来たのだろう?


 風雅が疑問を口にするより早く、彼女は床を蹴った。


 刀を振り上げたまま飛躍する彼女の表情は狗の面に覆われていて伺うことはできない。しかし刀に込められた殺意で十分であった。


「なっ……誰だ!?」


 振り下ろされた刀を間一髪で回避し、風雅が構える。だが遅すぎた。

 片膝をついて着地した狗が第二刃を放つ。抜き身であるが故に薙ぐだけでその殺傷力は木刀を遥かに超えていた。


「っ……」


 風雅は辛うじて避ける。いや、致命傷だけは避けたというべきだ。

 とっさに体勢を崩し、階段を転がり落ちることを選んだのである。頭部だけを守る様に腕で覆いながら、全身に打ち身と擦り傷が出来るのを感じた。鈍い痛みに呻いている暇はない。すぐに立ち上がり、上の踊り場を確認した。

 狗が悠然とこちらを見下ろしている。呼吸を乱さないばかりか、何の感情も読み取れない。殺意を感じさせる刀の方が生き物らしく感じる程だ。


「蘭ちゃんじゃなきゃ、誰なんだって……」


 風雅の背を冷たい汗が伝う。恐怖よりも戸惑いが大きい。風雅には目の前にいる彼女を蘭ではないと断言できずにいた。むしろ蘭としか思えないからこそ戸惑っている。

 冗談も満足に言えない生真面目な蘭。

 いつだって本気でいる彼女はふざけ半分で刀を抜くことはない。

 だから今、刀と殺意を向けているのはそれに相当する理由があるのだ。風雅はその理由が分からず戸惑っていた。


「なあ蘭ちゃん。俺はそんなに怒らせることをしたのか? 蘭ちゃんが何も言わずに斬りかかってくるっていうのは理由を言わずとも俺が分かってなきゃいけないレベルのことなんだろ? けど俺、本当に分かんないんだ。……俺は蘭ちゃんに告白すら許されないのか?」


 彼女は何も答えない。先程と同じように上段の構えを取る。

 風雅は斬られていないにも関わらず苦悶の表情を浮かべた。彼女を理解できない自分に嫌悪感すら催す。

 それでも刀を持った相手に挑むのは無謀だと彼の中の冷静な部分が必死に叫んだ。聞き入れた風雅は足に力を込め、階段を飛び下りた。一つ下の踊り場に着地すると、じんわりとした痛みが込み上げてくる。心の方が痛いと無理な理屈をこね、下に向かって飛び下りる。


 風雅が逃げたと理解した狗の動きは速かった。狗は風雅と同じように踊り場から跳ぶと、次の踊り場の壁を蹴り、さらに下の壁を蹴って追い始めたのだ。人間離れしたアクロバティックな動きで容易く風雅を追い抜くと、風雅のいる踊り場よりも一つ下の踊り場へと着地する。

 呼吸一つ乱さない狗に対し、風雅は膝をつき肩を上下させていた。


「ははっ……すげぇな……」


 笑っている余裕などない。風雅の笑みは口元を引き攣らせているようにしか見えなかった。

 狗は一段ずつ階段を上り、風雅の前に立つ。

 風雅は覚悟を決め、居住まいを正すと目を閉じた。後悔していないといえば嘘になると分かっていても風雅はそれを受け入れる。心残りがあるからこそ自分に相応しい罰なのだと思ったのだ。


「ごめん蘭ちゃん。困らせるようなことを言って」


 懺悔をし、身体の力を抜く。

 キュッとスキール音がした。


「――私?」


 聞き慣れた声に風雅は目を見開いた。目の前に立つ狗も刀を構えたまま階下を見下ろしている。

 視線の先にいたのは小柄な女子生徒。刀を携え、驚愕の面持ちでこちらを見上げていた。


「蘭ちゃ――逃げろ!!」


 風雅が叫ぶのと同時に狗が蘭へと襲い掛かる。一連の出来事がコマ送りのように見えた。


 狗が跳躍し、刀を振り上げる。虚を突かれた蘭は動けずにいた。狗が蘭の前へ辿り着くより早く、蘭の横から一人の人物が現れる。蘭が立っていたのは無限に続く踊り場の一つではなく、教室へ続く廊下と繋がっていたのだ。

 蘭を庇うように飛び出してきたのは春葵。そしてそのすぐ後に長い髪をなびかせた少女が光を纏いながら狗と対峙した。少女は人差し指と中指を立てた右手で印を結ぶ。途端にまばゆい光が狗を、階段を、全てを包み込む。そこで風雅の目が眩んだ。


 ややあって風雅の視界が復活した時、狗の姿は消えていた。


「風雅君、大丈夫!?」


 少女が階段を駆け上がり、風雅の肩を掴む。そこでようやく風雅は少女が琴音だと気付いた。彼女が髪を下ろしている姿を見るのは随分と久しく、新鮮さすら感じる。


「よかった……会えた」


 琴音がへたりとその場に座り込む。風雅は掴まれた肩から彼女の震えを感じ取り、そっと自身の手を重ねた。

 状況は飲み込めずとも風雅には何を言うべきか理解する。


「琴音ちゃん、ありがとな」

「ううん。まだ、終わってないから……」


 琴音の言う通り暗闇の世界は何も変わっていない。風雅にとってはようやく無限の階段から解放されただけに過ぎず、琴音にとっても当事者が揃ったというだけだ。ようやくスタート地点に立ったとも言うべきである。


「ちょっと待ってね。すぐ、説明するから……」


 俯きながら、乱れた息を整える琴音。風雅は落ち着いた気持ちでそれを待つことができた。

 そこへ春葵の声が響く。


「待てよ! 蘭!」


 先程、春葵と琴音がやってきた方向へ蘭が走り去っていく。踊り場にいた風雅と琴音は思わず息を呑み、視界から消える蘭を呆然と見送ってしまう。蘭と入れ替わるように視界に現れた春葵が踊り場にいる二人を見上げて叫んだ。


「悪い! すぐに連れてくるからそこにいてくれ!」


 叫びきるより早く、春葵は蘭を追う為、走り出した。ようやく理解が追いついた二人は同時に腰を浮かす。


「ちょっ!」

「待って……!」


 残された二人は立ち上がろうとした瞬間にその場へ崩れ落ちた。風雅の足が痺れるような悲鳴を上げ、琴音の全身から気力が抜けていく。

 思うように立ち上がれないのは自分だけではないとお互いに理解する。そして理解してしまった以上、相手に無理を強いることも一人にすることもできないのが二人の共通項であった。


「…………」


 しばらく沈黙が続く。長い呼吸を繰り返し、どうにか上体を起こすと視線を交わった。


「「春葵が――」」


 言葉が重なる。どちらともなく笑みが零れ、声を出して笑いあう。


「いいよ、琴音ちゃんからで」

「うん。えっと、春葵が何とかしてくれるから少し休もうよって言おうとしたんだけど……」

「俺もだ」

「だよね」


 二人は身体を引きずりながら、踊り場の壁に背を預ける。ひんやりとした壁が火照った身体に心地よく、ホッと息を吐いた。

 並んで座り、沈黙が重くなるより先に琴音が口火を切る。


「怪我……足?」

「まあ、ちょっとな。負担をかけすぎたみたいだ。琴音ちゃんは?」

「私は派手な事しちゃったから。そういう柄じゃないんだけどね。でも風雅君の怪我とは違って少し休めば動けると思う」

「俺もちょっと休めば治るって」

「無理しちゃだめだよ?」

「琴音ちゃんこそ」


 風雅は琴音について聞きたいことが山のようにあった。しかし疲弊している彼女を問い詰めるわけにもいかないという考えもある。琴音に配慮しつつ疑問の中から軽いものを一つを拾い上げ、琴音の方に投げてみた。


「いっつも春葵とこういうことしてんの?」

「ほえっ!?」不意を突かれた琴音が素っ頓狂な声を上げる。

「えって……。春葵と一緒に居たし、春葵も慣れてるみたいだったからな。アニメとかでよくある学園の魔は俺達が祓う! 的な?」

「あー。そっかー……風雅君の立場からしたらそう見えるのもおかしくないよね」


 琴音は一人で納得したように頷き、空を見ながら質問に答えた。


「アニメみたいな存在は私だけ。春葵はこの間の文化祭で偶然気付かれちゃって事情は話してあるの。今日のこれも私にとっては日常の一部だけど春葵にとっては偶然なんだ」

「そっか。そうだよな。アイツが俺に隠れてこんな事できる訳ないか」

「春葵もそうだけど、風雅君もごめんね。巻き込んじゃって……」

「琴音ちゃんのせいじゃないだろ? ってかたぶん、俺のせいだ」


 琴音はゆっくりと風雅の表情を伺う。いつもの笑顔は消え、影がさしていた。

 なんてことのない琴音の視線にすらいたたまれず、風雅は目を逸らす。山積みになった疑問の中から確信めいた物を握りしめる。ガラスの破片のように風雅の心を傷つけるものであった。それでも風雅は意を決し、琴音を正面から見つめ返す。


「アレさ、蘭ちゃんだろ?」


 アレが何を指すのか琴音には分かっていた。そしてその答えを知っており、風雅を傷つける物であるというのも風雅自身でさえ分かっていた。分かっていても訊かずにはいられない。傷ついてでも知らなければ進めないのだ。

 琴音は思わず顔を伏せそうになり、それでも懸命に風雅から視線を逸らさなかった。


「そうだよ……。厳密に言えば蘭ちゃんの一部、側面の一つとも呼べる。風雅君の予想は間違いないよ」

「だーよな! 俺が蘭ちゃんを、見間違える訳、ない……から……な」


 風雅はいつものように笑えず、俯く。覚悟していたはずの痛みでも無慈悲なまでに風雅の心を貫いた。

 琴音は目の前で黒い感情が濁流のように溢れているのを黙って見つめる。焦りでも諦めでもなく、ただそうあるべきだと思い見守った。これは必要不可欠な黒い感情なのだと知っていた。生きていれば黒い感情が生まれるのは当然の摂理。その感情に囚われ永劫苦しむことさえなければいいのだ。


「俺、蘭ちゃんを追い詰めるつもりはなかったんだ」


 ぽつり、ぽつりと風雅が話す。一言一言が氷の(つぶて)のような痛みを伴う声だった。その痛みは(どちら)の痛みだろう。


「蘭ちゃんは人にも自分にも厳しすぎるとこがあってさ、そのせいで自己評価も低い。そりゃあ向上心があって慢心しないのはいいことかもしれない。けれど自分で自分の首を絞め続けている蘭ちゃんが辛そうだった。少しでも蘭ちゃんに自分自身を肯定してほしくて、俺はありのままの蘭ちゃんが好きだってことを言ったんだ」

「それって、風雅君のどこが悪いの?」

「っていう建前だったってとこ。俺は蘭ちゃんを理解し、蘭ちゃんによかれと思って発言した。本当は違う。俺は理解したつもりでこれっぽっちも理解できていなかった。蘭ちゃんからしてみれば自分の価値観がひっくり返るくらいの天変地異だったんだ。自分で60点の評価をつけたのに120点だからそのままでいいと言われる。それって自分のことを理解してないから言える台詞なんだろうって蘭ちゃんは感じたんだ。俺は蘭ちゃんの特別になりたいが為に蘭ちゃんの信頼を裏切った。そんなつもりはなかったのにそうなってしまったのだから俺の落ち度だ。俺の下心がなければこんな事にはならなかった」


 それは違うと琴音は否定しなかった。いつの間にか風雅の吐き出す黒い感情は霧散している。過程はどうあれ風雅は琴音の導きたい答えに辿りついているのだと分かったのだ。

 だから琴音は風雅の言葉に耳を傾けたまま何も言わない。暗雲の切れ間から陽が差し込み、そっとこの場所が暖かになっていくのを少しだけ頬を緩ませながら感じていた。


「うまくまとまらなくて長ったらしくても、ちゃんと話せば良かった。蘭ちゃんがどれだけ剣道を頑張っているかなんて、一緒の道場にいる俺が知らないわけないんだ。剣道から居合抜刀術に重きを置くと決めた時の覚悟の顔だって俺は知ってる。ちゃんとその道を極める為に前進しているのだって見てた。実績だって伴っている。蘭ちゃんの賞状とトロフィーを飾る専用のショーケースがもういっぱいで、新しいのを買わなきゃなって道場にいる皆が笑うんだ。蘭ちゃんがすごいって皆が知っている」


 風雅の記憶は琴音の知らない景色である。それでも色鮮やかに情景が浮かぶ。一切の脚色がない真実の言葉だからこそできる魔法であった。


「俺には音楽の知識がない。蘭ちゃんにベースでなんか弾いてって言ってもなんの曲もかも分からなかった。俺の知っている曲の楽譜通りに弾いたと言われてもなんとなくそうなのかって思うくらい。ベースって目立たない楽器だなーとか言ってたらたぶん相当怒られただろうな。実際そんなことが言った奴がひどい目に遭わされてたし。そう――蘭ちゃんの剣をすごいって言う奴はいっぱいいるけど、ベースがすごいって言う奴はほとんどいなかった。蘭ちゃん、人にも自分にも厳しすぎてバンド組めずにいたからさ、音楽へ理解がある人も気付けなかったんだろうな。それでも蘭ちゃんはベースが好きで、誰にも理解されずとも黙々と練習してた。ベースを構える蘭ちゃんの後ろ姿は少しだけ寂しそうで、けどすげぇ格好良かった。好きなものを好きで押し通せるって簡単じゃない。だから格好良かった。何が邪魔になるか分からないからそっと見てるだけしかできなかったのが俺の心残りだな」


 琴音は頬が熱くなるのを感じていた。心が締め付けられるほど苦しい感情が湧きあがるのに、撥ねのけたいとは少しも思わない。紛れもない恋の物語に琴音の心が躍る。


「文化祭でバンド発表があるっていうのは俺も蘭ちゃんも知っていた。蘭ちゃんは一言も出たいなんて言わなかったけど、文化祭が近づくにつれて学校へ楽器を持ってくる生徒を見つけては目で追ってて、あの人は何年何組の誰なのかって灯歌や円歌に尋ねていた。本人からしてみればそれとなく訊いているみたいだったけど灯歌と円歌は察しがよくてさ、すぐに蘭ちゃんの為の舞台を用意したんだ。バンドが組めないならソロで出ればいいってぶっ飛んだ発想だよな。バンドとバンドの繋ぎで演奏するってことはより多くの人に蘭ちゃんの演奏を聴いてもらえるし、蘭ちゃんも抱え込みすぎてた生徒会の仕事から解放される。これ以上は無いってくらいのアイデアだ。蘭ちゃんも最初は断っていたけど出るって決断した時、すごく嬉しそうでさ、俺も楽しみだった」


 そこから先の物語は琴音も知っていた。より一層の鮮やかさを伴ってあの時の光景が甦る。

 暗い階段の踊り場で、風雅と琴音は同じ映画を見ているようだった。


「蘭ちゃんのベースパフォーマンスはすごくよかった。そしてそれ以上に春葵とうさ男と演奏しているあの時間がどうしようもないくらい感動した。あんなに笑顔で演奏して、ノリノリでベースソロ弾いて、うさ男のドラムソロの終わりに合わせて叫ぶあのカウントダウンが今も俺を奮い立たせているんだ。すげぇ可愛い。綺麗だ。めちゃくちゃ好きだ。あの笑顔を俺だけのものにしたい。俺があんな風に蘭ちゃんを笑わせたい。蘭ちゃんを幸せにしたい――」

「できるよ、風雅君なら」


 琴音は風雅の手を力強く握りしめる。たったそれだけで琴音の全身が光を帯びた。蛍のような淡い光は風雅の手と同じ熱を持つ。

 風雅は少しだけ驚いたような顔をし、それからすぐにいつものように笑った。


「ありがとな、琴音ちゃん」

「私の方こそ感謝してる。今ならなんだって出来そうなくらい力が湧いてくるの」

「俺もだ」

「じゃあ、今の言葉と気持ちの全部を蘭ちゃんに伝えないとね」

「あぁ!」


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