いつか来るだろう
その後、縫合した傷もあらかた塞がり、だいぶ動けるようになったが、父から謹慎を云い渡された。
家督の話は次男に話がまとまるようで、小三郎よりも善兵衛の悲しみは深く、だいぶ落ち込んでいる様子であった。
安川はとうに国許へ戻っただろう。
すっかり季節は冬になった。
怪我も癒えて、江戸の長屋に戻った小三郎は居間でだらしなく寝そべって外を眺めていると、ちらちらと雪が舞い始めた。
寒いはずだ、と体を起こし火鉢を突くと、襖の向こうで善兵衛の声がした。
「若旦那さま」
「ん?」
「お客さまがいらしております」
「そうか、客間へお通ししろ」
「いや、ここでいいよ」
聞きなれた男の低い声がして、襖が開いた。
苦虫を潰したような顔の善兵衛を押しのけて、英之助が立っていた。
突然のことで、小三郎は息が止まってしまうかと思った。
「小三郎、久しぶりだな」
「――うん」
いつか来るだろうと思っていた。
だが、こんなに早く来るとは。
心の余裕はなく小三郎は頷きながら呆然としていた。
英之助の肩には白い粉雪が解けずに残っていたが、部屋の暖かさですぐに消えた。
英之助は部屋に入ってくると、刀を左に置いて小三郎と向き合った。
火鉢のそばにいた小三郎は、はっと我に返った。
「動いても平気なのか?」
「う、うん。もうなんともないよ」
「そうか」
英之助がほほ笑む。
小三郎はごくりと唾を吞んだ。
言葉を探すのに何も出てこない。
「あっ。そ、そうだ。なにか持って来させよう」
慌てて云うと、
「小三郎」
と、立ち上がろうとした手を英之助がつかんだ。びくりと体が震えた。
「いらない」
「……そうか」
小三郎は視線を合わせられず、再び座って外を眺めた。
粉雪が風に吹かれて舞っている。英之助の顔を正面から見ることができなかった。
「善兵衛には人払いするように頼んだ。だから、誰も来ない」
「ああ……」
「小三郎、俺を見ろ」
顔を向けると、射抜くような鋭い目が小三郎を見つめていたが、ふうっと力を抜いて笑顔になった。
「元気な姿を確かめるまで、生きた心地がしなかったぞ。何度、見舞いに来ても門前払いで、小三郎はほんとうに無事なのか、善兵衛の言葉だけでは信用できなかった」
「うん……」
先ほどから、ああとかうんしかしゃべっていない。
小三郎の舌は干からびてしまったように、からからであった。
不意にガタガタっと腰高障子を叩きつけるような強い風が吹いた。
外では木々が揺れている。
二人とも何も云わなかった。




