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寄り道  作者: 春野セイ
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命を懸けてくれた



 小三郎は声を出そうとしたが、息が詰まってうまく声を出せなかった。


「すみません。間違っているかもしれませんが、なぜ、貴方がはたし状を書いたのか、愚鈍なわたしなりに考えたんです。きっと貴方はこの事態の収拾を一人で背負おうとした。わたしと英さんの醜聞をもみ消そうと……。貴方が命を懸けたことで、おかげでわたしたちは何もなかったかのように……終わりました」


 わたしは本当に英さんが好きだったんです……。


 安川は畳を睨んでいたが、畳の上に涙がぽとぽとと染みていった。

 小三郎もいつの間にか泣いていた。

 彼の気持ちが痛いほどわかった。

 小三郎もまた、英之助と離れている間、苦しくてつらかった。

 安川はこれから国許に戻るのだから、当然、こんな気持ち分かっているはずだ。

 だから、何も云えなかった。


 二人を離そうと考えたわけではなかった。

 自分が邪魔をしているのなら、英之助に斬られて自分がいなくなれば……、二人がしあわせになったら、とだけ考えたのだ。


「英さんに会ってください」

「え?」


 安川はぐいっと涙を拭いた。


「貴方は何か誤解している。わたしはしあわせでした。英さんを貴方から奪ったのはわたしです。申し訳なかったと心から思っています。ですが、後悔はしていない。わたしにとって、英さんと一緒にいられた時間はしあわせでした」


 安川の笑顔が、小三郎の胸を突いた。


「すまぬ……。すまなかった、安川……」

「なぜ、謝るんですか? その謝罪は何ですか?」


 小三郎はどう答えたらいいのか分からなかった。


「貴方のほんとうの気持ちを英さんに伝えてください」


 安川はそれだけ云って、深くお辞儀をすると立ち上がった。


「元気になってくださいね。そして、また会いましょう」


 颯爽と部屋を出て行った。

 小三郎は涙が止まらなかった。

 安川は男らしいじゃないか。

 なぜ、こんな風になったのか。奪ったのは俺じゃないのか。

 俺がいなければ、もしかしたら、こんな風にならなかったのかもしれない。

 あんなにいい男と何もなかったことにさせてしまったのは、自分じゃないのか。


 小三郎はひどくみじめで悲しみが心を占めていくのを感じた。



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