私は山吹の名を継ぐ者!
クールかと思ったら意外にふざけてる主人公の酒口進と、少しポンコツなヒロインとの異能力学園ファンタジーです。
俺こと酒口進は、難なく高校を受験し、合格を果たした。
成績が特別よかったわけではない。なんなら特別悪かった。この学校には『受験時最強能力者』という特待制度があり、俺はその枠……学費全額免除の特待生として入学を決めたのだ。
だが、うまい話には当然、裏が存在する。
「ねぇ!そこの蛇男!」
ガラリ、と教室の引き戸を開けた瞬間。
頭のてっぺんに刺さるような、甲高い少女の声が俺の鼓膜をぶち破ってきた。
視線をやると、教室の中央で仁王立ちし、こちらをビシッと指差している女子生徒の姿があった。
「え?……俺のことを言ってるのか?」
「そうよ!私の名は山吹華! 山吹の名を継ぎ! 最強能力者の称号を持つ者よ!」
「称号を持ってるのは俺だが」
俺が呆れ顔で返すと、華という少女は顔を真っ赤にして地面に足を叩きつける。
「もう! 貴方はズルしてその称号を得たんでしょう! 私は! 山吹の! 名を! 継ぐ! 者! なんだから!......決闘を申し込むわ!」
思わず溜め息が出た。
そう、特待生制度の『リスク』とはこれだ。この学校では、特待生は他の生徒から決闘を挑まれた際、拒否権がない。という説明を受けたがこんなすぐに、するなんて
「はぁー……最初の授業すら受けさせてもらえないのか。……あと、俺の名前は酒口進だ。しっかり覚えて呼んでくれ」
「そんなイキっていられるのも今のうちよ!」
「イキってねえし! ……ハァ、分かったよ、やってやるよ!」
「もともと貴方に選択肢なんかないし!」
カツカツと鋭い足音を立てて早歩きで去っていく山吹華の後を、俺は面倒くさそうに追いかけた。
案内された決闘場は、まるで古代ローマのアリーナのようなすり鉢状の競技場だった。
どこで聞きつけたのか、それともアナウンスでもあったのか、観客席には続々と生徒たちが集まってきている。ざっと100人以上はいる。ざわざわとした熱気が会場を包み込んでいた。
「ふふん、これで私が特待生になれるわ」
「えぇ……コイツ、マジで勝つつもりで来てんのかよ」
「そりゃそうでしょ! だって私は山吹の......」
「はいはい、同じこと繰り返すなよ」
「静粛に!」
審判の厳しい一言で、観客席のざわめきが一瞬で静まり返った。大した威厳だ。
「これより決闘を開始します。ルールは単純。倒れた状態で30秒経過した場合は敗北。命の危険があると判断した場合は即座に審判が割り込み、中断し、敗北を判定します。……では! いざ尋常に、始め!」
合図が鳴り響いた瞬間、山吹華の脚が地面を蹴った。
一気に間合いを詰めてくる。そしてそのまま何やら独特の発声で、能力のトリガーと思われる言葉を叫んだ。
「東海道新幹線アタック‼︎︎」
(ん? 何言ってるんだ、コイツは……って、ヤバい!)
一瞬笑いそうになったが、直感で察する。
もしかして、あの能力は『依代系』か。特定の概念や言葉を発することで、その力を一時的にその身に宿すタイプだ。「虎」と叫んで虎の筋力を得るような、尖った能力。どんな破壊力が来るかと一瞬身構えた俺だったが......
(……あれ?)
目の前を迫ってくる山吹華は、風船を表している時のように「ふわふわ〜」と効果音がつきそうな程実にゆったりとした速度で向かってきていた。
「こ、これが……東海道新幹線なんだねぇ……」
あまりの拍子抜けに苦笑いを浮かべつつ、俺は差し出された彼女の手を優しく握りかえし、密かに能力?を発動させる。
「神経毒だ。これで40秒は動けないからな」
「あっ、あっえおあっえお〜!?」
「えっ? 今なんて?」
ろれつが回らなくなった山吹華が、その場にへたり込んだ。こうして、壮大な前評判の割に呆気ない戦いは幕を下ろした。
30秒のカウントが過ぎ、敗北が確定したのち、40秒が経過して毒が抜けると、山吹華はガバッと立ち上がった。スカートの砂をぱっぱと叩き落とし、俺ではなく観客席の生徒たちを睨みつける。
「ねぇ!見てる人がいなかったら、もっと本気出せたのにぃー!」
捨て台詞を残し、カンカンと足を鳴らしてアリーナから走り去っていった。
当然、漫画やアニメのような熱狂的な歓声など起きるはずもない。
しんと静まり返ったアリーナで、俺は肩をすくめた。まあ、そうなるよな。あんな張り合いのない不完全燃焼の試合、観ている方も面白くないだろう。
俺はゆっくりとアリーナの外へと歩き出した。
この決闘で私は「敗北したら即退学」みたいな少年漫画っぽい過酷なリスクがなくて良かったな、と思いました。
気を取り直して残りの授業を受けることにした俺だったが、決闘の疲労からか、いや普通に授業に興味がないからか、席についた途端に猛烈な眠気が襲ってきた。瞼が重くなり、そのまま机に突っ伏してしまう。
「ん……? あ……俺、寝てたのか」
目を開けると、教室はすっかり赤色に染まっていた。壁の時計を見ると18:20を示している。
「いや、誰か起こせよ!」
誰もいない静まり返った教室で、虚しくツッコミを入れた。悲しくなってきたので手早く荷物をまとめ、教室をあとにしようと廊下へ出る。
すると、曲がり角で不意に誰かに肩を小突かれた。
「いたっ……え、何お前……えっと、誰だっけ?」
「山吹華よ! ていうかそれより〜、今日の授業中ずっと寝てたわね〜! この学校は頭が良くないとダメな進学校なのよ? だから貴方みたいな能力だけのバカはすぐ退学になっちゃうからね!」
「……俺には『受験時最強能力者』っていう特待制度があるんだが?」
(警察学校にも学力が必要なんだな)
「そっ……それは私が貴方を倒して特待を奪えばー」
「あんなヘナチョコパンチでか?」
俺が笑いを噛み殺しながら言うと、華の眉間にしわが寄り、一気に表情が険しくなった。ヤバい、本気で怒らせたかと思っていると華は目を見つめてこようとする。慌てて目をそらす。華は笑顔になって話す。
「私に喧嘩売ってるってことだよね。……屋上来て♡ 来ないと絶望させるね♡」
妙なハートマークを語尾につけながら言い残し、彼女は去っていく。
不意に良いアイデアが頭にひらめいた俺は、後ろ姿に向かって大声で叫んだ。
「おう、行ってやるよ! ただ、あのヘナチョコパンチで俺に勝てると思うなよ!」
華は更に早歩きになり、怒気を含んだ足音を響かせて屋上へ向かって階段を上っていった。俺はふっと鼻で笑うと、階段とは逆の方向の、下駄箱に向かって歩き出した。
行くわけがないやーん。
この高校は、全寮制で男女共同の寮が敷地内に並んでいる。
部屋は基本2人1部屋で、組み合わせは男・男、女・女もあれば、女・男という珍しいケースもあるらしい。同じ程度の実力を持つ者を同室にすることで、切磋琢磨させるのが学校側の狙いとのことだ。
寮の2階へ上がり、割り当てられた自分の部屋のプレートを確認する。どうやら俺の部屋は「男・女」のペアのようだ。
(……女子と同室か。少し気まずいが、まあそのうち慣れるか。仲良くなれるチャンスでもあるしな!)
部屋の中に個別のトイレや風呂はなく、共用となっている。廊下を出てすぐにトイレと「男湯」があるのを確認し、一応「女湯」の場所も把握しておこうと一階に降りてみた。
廊下の突き当たりに、『女』という文字が消えかかっているのれんを見つける。
満足した俺は、一日の締めくくりとして風呂に入ることにした。
俺は風呂が好きだ。一日の疲労や思考のモヤモヤを、温かい蒸気が全て吹き飛ばしてくれるような気がするからだ。
脱衣所で服を脱ぎ、カゴへ放り込む。ふと洗面台の鏡に目をやると、そこに映る自分と目が合った。
光を反射して怪しく輝く、緑色の硬い鱗に覆われた全身。
人間と同じ輪郭をした、だけど鱗に覆われている顔。
そして、5本の指の先には鋭く尖った黒い爪が生えている。
(……うん、いつもの俺だな)
自分の姿を再確認し、バスタオルを手に取って浴場へと向かった。
湯船に浸かり、身体や頭を洗い流しながら、ふと「屋上で待ちぼうけをくらっている山吹華」のことが頭をよぎる。
……が、硬い鱗の隙間に入り込んだお湯が皮膚をくすぐり、むず痒い感覚に意識を奪われているうちに、どうでもよくなって忘れてしまった。
鱗のせいで手入れは面倒だが、温かい湯はやはり心地いい。総合的には満足だ。
部屋に戻り、丁寧に歯を磨く。
やがて消灯時間を告げるチャイムが鳴り、俺は暗闇の中でベッドに潜り込み、深い眠りに落ちていった。
夜が明け、うっすらと空が白み始める時間帯。
ギィ……と静かに部屋の扉が開く音で目が覚めた。
(……入ってきたのは、同じ部屋の奴か?)
こんな早朝まで何をしていたんだろうか、と朦朧とした頭で疑問を浮かべたが、またもや襲ってくる猛烈な眠気に勝てず、俺は再び意識を手放した。
次に目を覚ました時は、完全に遅刻確定の時間だった。
(……もういっそ今日は休むか?)とも思ったが、昨日屋上に放置された華がどんな反応をするかが気になり、学校へ行くことにした。
廊下に出ると、ちょうど歩いている華の後ろ姿を見かけたので、ニヤニヤしながら声をかける。
「よお華! 昨日の星空は綺麗だったか?」
華はくるりと振り返ると、不気味なほどの笑顔を浮かべた。
「ふふ、貴方と一緒に見たかったわねぇ。……昨日、曇りで何も見えなかったけど!」
「そうだったか?」
「大体、何で逃げたのよ!? そしてなんで堂々としていられるの!?」
「知ってるか? 自分の実力を正しく分かっている奴ってのはな……己の力を誇示してるお前みたいな奴や、ビビって動きが鈍くなる奴とは違うんだ。自信を持って生きつつも、逃げるべき時はちゃんと逃げる。……『辛くなったら逃げろ』なんて甘いことを言う奴もいるが、本当に自分の実力が分かっている奴は、辛くなる前に察して逃げるんだよ」
「……」
「俺は自分の実力をちゃんと把握してる。だから逃げた。勝ったらまた付き纏われるし、負けたら特待が消える。逃げる以外の選択肢がなかったんだよ」
俺が長々と語ると、華はジト目で俺を睨みつけ、ピシャリと言い放った。
「長いわね。10文字以内で答えて」
「おまえめんどくさいな」
「うるさいわね!加害者のくせに!」
「被害者なんだから黙っとけ!」
「なんでそこだけ完璧に分かってるのよ!」
「言ったろ、俺は、」
「もうその話はいいから! 早く先生に遅刻の連絡しないと殺されるわよ!」
「……警察に通報してから行くか」
「比喩よ! さっさと行きなさい!」
そんな押し問答を繰り広げながら、俺は先生に遅刻の連絡を入れるために俺は職員室に向かったのだった
進がずっと授業で寝ているせいで、大切な説明を聞き流してる可能性があります。




