『序』
公爵令嬢が死んだ。
──聞きまして?
──昨夜、ご自分の部屋で亡くなったそうですわ。
──きっと、婚約破棄が原因ね。
──公爵家の期待に耐えられなかったのではなくて?
──あの方、昔から少し張り詰めていましたもの。
──でも、随分と気位の高い方だったでしょう。
──誰にも弱みを見せなかったものな。
──だから、周りも助けようがなかったんじゃないか?
──それに、あの平民の令嬢を虐めていたという噂もあった。
──殿下を束縛していたとも聞きましたわ。
──では、自業自得ではなくて?
──けれど、その噂は本当だったのかしら。
──私は、実際に虐めているところなど見たことがありません。
──もしかしたら、誰かが流した嘘だったのでは……
──しっ。殿下に聞かれたらどうするのです。
──それでも、亡くなるほど悩んでいたなんて。
──誰かに相談すればよかったのに。
──皆さん、静粛に。
──昨晩、皆さんの級友であった彼女が命を落としました。
──彼女は常に貴族としての責務を果たそうとしていた、立派な生徒でした。
──この悲劇を無駄にしないためにも、皆さんもまた、正しく成長していかなければなりません。
──先生のおっしゃる通りですわ。
──ご立派な方でしたものね。
──ええ。あの方を見習い、私たちも務めを果たしていきましょう。
黙れ。
そんな言葉で、あいつを飾るな。
綺麗事で終わらせるな。
貴様らは知らなかったのではない。
気づかなかったのでもない。
あいつの苦しみを見ていた。
あいつの声を聞いていた。
そのうえで、目を背けた。
なんて愚かで、馬鹿馬鹿しい。
追い詰めた相手が死んだ途端、悲しげな顔をして、聞こえのいい言葉を並べ立てる。
まるで自分たちは何もしていないとでも言いたげに。
無様で、滑稽で、醜悪だ。
そんな貴様らに、俺から贈り物だ。
夜が来るたび、思い出せ。
眠るたび、後悔しろ。
あいつが味わった苦しみを、何度でも思い知れ。
さあ。
終わらない悪夢の始まりだ。
何もない公爵令嬢の部屋。
黒い影だけが、静かにそこにいた。




