DLC編エピローグ(下)
相変わらず、イーリが持ってきたカギッコホネッコが映像を垂れ流す。
ここは超越世界で、ゲーム画面を見ているのと同じ。
画面内のアルフレド達の周囲は何度も昼と夜が入れ替わっているが、この空間では一時間も経っていない。
「言語モデルの話は分かったけど、まさかゲームクリアがハッピーバッドエンドで、バッドエンドがハーレムハッピーエンドって。逆張りと逆張りで何処に向かって走ってるのか。そもそも、俺はアルフレドを倒した覚えないぞ」
ドット絵時代に一世を風靡したドラステは、三十年の時を経て迷走中に滑落してしまった。
そのショックから漸く立ち直ったが、結局分からないは続いている。
「大体、クロ…、じゃなくてユーノと俺の幼少期のムービーが最後。確かに俺はユーノを攫ったけど、物語の主人公はアルフレドの方だぞ」
プレイヤーのミスやフラグ管理でバッドエンドに向かうなら分かる。
プレイヤーの目である勇者以外のキャラがバッドエンドに導いたなら、やはり炎上不可避。
物語の目とゲーム内の目のキャラが違うからややこしいが…
「あー、旦那。それは違うっす」
「ちょっと待て、イーリ。それは」
「別にいいじゃないっすか。でなきゃ、旦那が納得しませんぜ」
たった一度のゲームプレイでは失敗した。
たった一度のリアルプレイで成功した。
バッドエンドとはいえ、ハーレム勇者エンドに導けたのは奇跡としか言いようがない。
でもユーリとユーノ、即ちシロとクロは神様で、イーリは神の使い魔だ。
「…鬱陶しいから、字幕を途中で消した」
「じ、字幕を…消した?」
当然、彼女達のバックアップがあったからと推測されるのだが
待っていたのは、実は常識の範囲の言葉だった。
「字幕オフモードもあったからの」
人によっては会話文が現れない方が良い、と考える。
ユーザーフレインドリーな機能が用意されたゲームの終着点。
「…字幕が消えてたってつまり…」
ムービー中の字幕が途中で消えていた。
ドラステは知っての通り、ムービー多めのレール式シナリオ。
ムービーは先収録で、ムービーで起きることには逆らえない。
作中の表現で
レイ「何が勇者の伝承だ。何がその為にお祈りだ。俺が全部嘘っぱちだって証明してやるっ」
となるところが、
「何が勇者の伝承だ。何がその為にお祈りだ。俺が全部嘘っぱちだって証明してやるっ」
となる。
字幕のお陰で、レイはニイジマだけでなく、キャラクターレイがユーノを好きだと知れたわけだし。
極めて重要なムービー、即ち世界の意志。
「じゃあ、あの後も実はムービーがあったのかよ。何処がムービー?最期の方は絶対にムービーだから」
「さての。何度も衝突しておったからの。何処かのタイミングで勇者のHPが0になっていたかもしれぬな。魔物と人間とではHPの桁が違うし、ダメージにはランダム要素もあるのじゃろ?」
例え瀕死でも、HP1あれば動ける。
HP自体が魔法のようなもの。その表現は作中で何度も触れた。
だけどそれは逆の意味にも使えるわけで。
互角に戦っていた勇者アルフレドのHPのステータスはずっと赤字で警告を訴えていた。
軽く触れるだけで、ダメージ1が入って、バッドエンドのムービーが始まった。
字幕が出ないから、ムービーと知らずに演じていた、はありうる。
だが、シクロは肩を竦める。
「問題はいつ勇者が負けたかではない。バッドエンドが成立する魔神レイを出現させること。レイがゲーム機操作で実感したように、通常の進行では魔王の間のラスボスがレイにはならんのじゃ」
そこはレイも頷いた。
「先ずはレイモンドだ。俺も旅立たないといけない。それから他のヒロインのイベントを殆ど回収しないといけない。俺がレイモンドになったのは、つまりそういう」
「それもあるっすけど…」
「イーリ」
「レイの旦那。それしかないっすよ!」
多少怪しい。
ただ、もう一つは顎関節を痛めるほどに、レイは口を開けた。
「先ず、ドラステDLCはレイモンドは正式名称じゃなくて、レイが正式名称っす。名前入力も前提条件だと思われるっす」
「俺自身の名前を入力って、そんな馬鹿な」
「ありえんこともない。何せ、儂はゲーム世界を創るのに、シクロアメージングキャトルミューティレーティングダイナミックモデル・ぺけぽん・インテリジェンスを使っておるからの」
「あ…、ゴメン。前の方しか聞き取れなかったし、聞いても分からないから」
「ったく仕方ない。お主の世界で言う、ホログラム理論じゃ。お主が後生大事にしておる神・設定資料集だって、かつてのレイが作った世界があちらのホロにこちらの世界が反映された結果じゃからな」
そこからあーだこーだとゲーム内転生の仕組みが語られる。
説明が面倒臭いのではなく、説明が不可能、神の超理論故に割愛する。
「隠しボス、魔神レイの出現条件はヒロイン全員を連れてユーノを救出し、その後一定回数以上のイベントを発生させる。レイの旦那なら条件を満たせると思ってたっす」
「インタビューのハーレムルートって言葉だけが頼りだったからな。でも、好感度MAXはやばい。それでもブレないアルフレドもヤバい」
「ここから先は賭けもあったのじゃ。儂やポンコツイーリの心配はそこじゃった」
「あのぉ。シクロ様。…じゃないっす!その通りっす!」
「条件を知らない俺にとっては、賭けばかりだった気もするけど…」
画面内の勇者たちは故郷への凱旋を果たしていた。
皆、スタトの民に祝福されている。
フィーネ分の空き缶をそこに投げ捨てると、まさかのUターン。
旅の経路をドラステで駆け抜ける。
「アルフレドはキャッスル生まれ、スタト村育ち。花嫁の故郷は全世界に点在…か。で、何がそんなに心配だったんだ?」
シクロの白と黒の爪先はやはり画面に向けられた。
雨が降ればルーフが出てくる魔法の車。今はフェリーでアーマグに向かっている。
「DLCの追加要素じゃ。イベント報酬でも勇者たちはレベルが上がるじゃろ?魔神レイを出現させるには相当のイベントをこなす必要がある」
「レベル上限が撤廃されて、ありえないレベルになるんすよ」
画面のその後、アルフレドは新たな王になった。
王妃リディアは城でいくつかの仕事をこなした。
と思ったら、エクレアで高級ホテルでヒロインたちとベッドを共にする。
何故か、魔王軍幹部でありアイザの姉が居て、九人の女と共に寝る。
「…あ、そういうことか。レベルインフレはゲームあるある。サブクエこなしすぎると、ボスが弱すぎて味気なくなる。でも、その条件で魔神は出現するんだぞ」
画面内の住民は大忙しだ。
王は再びフェリーに乗り、デスモンドに姿を見せた。
ドラゴンステーションワゴンはさらに肥大化、記憶が戻ったキラリと三姉妹がいて、勇者の花嫁の数が更に三人増えて、十二人になる。
っていうか、ドラステのネームド女キャラが全員揃っている。
「ユーノの力で魔物のステータスは半減っすよ?ボタン連打でも余裕勝ちっす。魔人レイイベントなんて、プレイヤーからしたらご褒美みたいなもんっす。あのレイをボコれるんすからね」
アズモデたち、魔物たちは闇で蠢いていた。
だが、話し合いの結果か、それとも勝手にか、幹部たちが大勇者アルフレドに嫁いだのだろう。
政略結婚の意味でもあるのだから、この瞬間に、画面内の世界の平和は約束された。
「ただでさえプレイ人口が少なくて、俺は雑魚。ドラステファンからするとレイは因縁の相手で、更に負ける方が難しいって。で、魔神レイに勝ったら、今度こそユーリ戦で」
「実はユーリも弱いっす。ですよね、シロ様」
「ウチは弱くないもん‼ゲームシステムがチートすぎるだけだもん‼」
懐かしいラビの喋り方も登場し、レイの魂の記憶を微かに刺激する。
「ん?…でも、俺は勝ったけど。ま、勝った実感もないし、あそこからもう一戦あるんだろうなって思ってたくらいだし」
「そこですよ、ご主人‼」
「そこっすよ、旦那」
「イーリは黙って。ウチが説明するんだからっ‼ご主人、ウチたちにもゲームバランスが読み切れなかったんです‼」
ぴょんとウサギ耳が跳ねる。
そして漸く、レイのデジャヴの正体が明かされた。
「俺はDLC前もゲーム内転生していた…?だから端々に妙な感覚があったのか。新島礼はただの陰キャなのに、いきなりで戦えてたのもソレ…。いや、だとしても。ターン制バトルは関係ないんだし。実際、好感度MAX技は俺の命を削ってたし」
一瞬だけ見えたラビの姿は、名残惜しさを残してシクロに収束した。
それから巫女服の中の肩が、見えにくいが僅かに上がる。
「シクロアメージングキャトルミューティレーティングダイナミックモデル・ぺけぽん・インテリジェンスはあくまでコピー。ムービーは再現されるが、コマンドバトルまではコピーできん。お主の魂は知っておる筈じゃが?」
レイは軽く仰け反り、あっ!と声を漏らす。
ドラステ転生のバトルはプレイヤーが望まない限りはオープンワールドと変わらない。
それは魂が知っている…のだが
「いやいや。ラストバトルはどう考えても、そもそも動け…」
動けなくなる。
現に今も動けない。
それが答え。というか、闇女神の波動を放っていたのは
「ユーノ。じゃなくて創造神シクロの力かよ!」
「それだけじゃないっすよ。レイの旦那がレイという役を失いそうになった時々。名前を失った時——」
例えば存在感を失いかけた人間時代
例えばただのアークデーモンになりさがった時
魔人レイと認識されたが勇者からは相変わらずモブ扱いだったり
「ユーノかカギッコホネッコ、もしくはユーリが関与していた…。俺がレイであり続けたのは超越存在がその度にレイを強調してたから…」
確かに。毎度毎度、余りにもタイミングが良すぎた。
光と闇の女神が出た時点で、読み手にはずっとバレていただろうけれど。
レイだけが、この姫プレイに気付かず進んだ結果が今。
「俺は支えられてたのか。確かにターン制じゃないと、あの猛攻は耐えきれない。助けてくれて、ありが」
「全く、相変わらず愚鈍なヤツ。その逆じゃ」
「逆?だって実際に回復魔法がないと…。あれ?そもそも好感度MAX技を知ってたから、最初から撃たせない?」
「それもあるが…の」
「かつてのアルフレド時代、そしてレイモンド、魔人、魔王、邪神を経た魂の経験は魔物の体と相性が良すぎたんすよ。秘密の塔の戦いとか、ヘルガヌスの大魔法とか。あれ、誰がどう考えても死んでるっすよ。肉体的にも精神的にも」
「魔物だから死ににくいって設定が…」
説明するまでもなく、サラも四天王たちもその時驚いている。
ムービーで蘇るならともかく、基本的には人間の進化形が魔物だ。
あれだけやられたら、普通は死ぬ。
更には
「それにあれは?見えない壁‼俺は魔神レイの役があったから見えない壁で死ななかったって言ってなかった?」
「ほう…。誰がじゃ?」
巫女袴の少女は肩眉を上げ、態々歩いて
「誰って…、俺だけど」
手を伸ばして、人差し指でレイの口を止める。
「馬鹿者。お主がクリアしたゲームに魔神レイは出現したのか?DLC前ならともかく、カット可能な存在に見えない壁など存在せぬわ」
「あ…、言われてみれば」
「そしてお主は遅かれ早かれ、勇者が何度か死に戻っていること気付いたじゃろ。勇者を殺したら時間稼ぎが出来ると考えたかもしれぬ…」
「実際にそうだった。でも、そっか。あの戦いに関しては死に戻りしなかったのか。負けたらバッドエンド送りだから…。あれ?でもそれって」
白黒の髪が揺れる。
創造神は頬を膨らませて、ぷいと横を向いた。
「ふぁ、ファンならば。せ、折角用意したムービーを堪能するべき…じゃろう…が…」
態々、字幕を消して
一人のプレイヤーとして、一人の少女として——
「ムービー……」
アルフレド、レイモンド、魔人、魔王、邪神を経て、強靭となった歴戦の猛者。
あれだけの猛攻、あれだけの殺意の中でも顔色一つ変えなかったのに、
「あ……」
レイの顔。
ツワモノの顔が——ありえないくらい真っ赤に染まった。
そして、
そんな二人のやり取りに使い魔は肩を竦めた。
「そもそもシクロ様がユーリとユーノだった時点で…。…い、いえ。なんでもありやせんって」
主の鋭い視線に頭を下げ、イーリは神視点の世界を垂れ流し続ける。
そのイーリだった残骸は映し続ける。
魔王城はクリスタルキャッスルに戻って、魔改造されて紫禁城の如く女たちが戯れていた。
煌びやかな部屋で、世界に並び立つ十二人の麗しき乙女たちに囲まれていた。
勇者様が相変わらず忙しそうにしているのは、本来は真面目な性格だからだ。
全ての嫁の家族とも関係を構築して、全員を纏めて愛している。
世界を救った勇者は、ちゃんとハーレムを真面目にやっている。
例え、負けルートだったとしても。
ここで、久しぶりのデジャヴをレイは感じた。
「…えっと。俺は前にもここに居たんだよな。世界って前もこんなだっけ」
全員を等しく愛し、等しく愛されるアルフレド。
見たような気もするが、何処か違和感があった。
とは言え——
今そこに居るのは、金色の髪が美しい青い瞳の勇者だ。
その勇者を覗き見る銀髪の男。彼の顔を、女神はジト目で軽く睨んだ。
「お主。自分がハーレムを築いていたとか考えておるのではあるまいな?」
女神にツッコまれると、魔神レイは息を軽く吐き、肩を竦めた。
「まさか。出来る訳ない。だって俺は嫌われ者のレイなんだぜ。それに、——新島礼は昔からユーノが、シクロが好きなんだ。そして、そのシクロがここにいる。これ以上の幸せがあるなら逆に聞いてみたいもんだ」
女神は見えないようにほくそ笑み、使い魔も見えない程度に「やれやれ」と首を振った。
前の世界は、量子化されて、新たな命が吹き込まれた。
勿論、その量子が紐づく、前の世界は残っているかもしれないが、ここはDLCの世界。
負けエンドだから、スタッフロールがないのか、ここから先はゲーム後の世界なのか。
とんでもない速さで、街の姿が変わっていく。
それを魔神レイは呆然と眺めていると、創造神シクロは宙に浮き、軽く肩で肩を小突いた。
「締めの文句の一つもあってよかろ?」
すると銀髪悪魔は、少し頬を染めた。
画面はもう見ていない。
一人の女神を前に男は言った。
「定番だけど、めでたし、めでたし、かな」
DLC編・完
今、レイとは別のゲーム内転生モノを考え中です。
夏までには連載始められると思います。




