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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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最近はDLCが当たり前の時代ですし

悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていた。の続きです。改訂版からの繋がりはありません。

 俺はもうすぐ中年と呼ばれるくらいの男、名前は新島礼(にいじまれい)

 社会人の辛さを噛み締め、ビーフジャーキーを噛み締める。

 人生の苦みに例えられそうなブラックコーヒーを一飲みする。


「またエミリエンド?…じゃない。これ、あっちだ。原作者が不在でのリメイクで、プロデューサーがねじ込んだヒロインの方。ネットで色々言われてるけど、俺的には有り寄りのアリ。つまり、大賛成」


 そしてネットでは九割が不評を言っている。

 ゲーム界隈では老害と言われる年齢だが、原作忠実厨と同じにされたくない。

 グラフィック向上、豪華声優陣、とってつけたような新要素。

 リメイク不可能と呼ばれた作品を最新携帯機で遊べるのだ。


 とは言え


「今回はユーノエンドを狙ってないんだよ。そもそも、このエンドは…、多分あそこの選択肢をミスってた。クリア前にグルグル回ったのが失敗だったか。って、反省は後だ。このエンドは──」


 その九割がバッドに投票している理由が分からないわけじゃない。

 とあるとんでも要素が追加された。

 余りにも斬新…と言いたいが、ゲーム好きならば他ゲームのパクリネタだと直ぐに気付く。

 

「やべ。早く切らないと、右下がクルクルしてる。クルクル…ってまさか!オートセーブされてる!?ダメダメダメ!電源を、いやコンセントを抜くしか」


 ビーフジャーキーをタバコのように咥えながら、長くも短くもない腕を懸命にコンセントに伸ばした。

 サブカル的な汚部屋だが、文字通り汚部屋でもあるから、バキバキペキペキガサガサと色んな音がする。


『アルフレド、でも‼」

『ユーノ、僕だって分かってる。でも、決めたんだ。僕は——』


 脳というものはとても優秀で、雑音の中でもゲーム内のイケメンの声は聞き取れる。

 そして俺は、ドン‼と机バンならぬ畳バンをした。


「くそっ!また(・・)間に合わなかった…。なんでまだペットボトルが並んで…」


 ──あれ?


「オートセーブされた?オプション設定でオートセーブがオンになってる…。そうか、あのアプデか‼…DLCのバージョンが変わったんだ。あのクソ長アプデで設定がリセットされてたんだ。今までのアプデだとそこは変わらなかったのに」


 クラウドの同期が完了?

 いや、そうじゃなくて、さ


「…間に合わなかった。世界中の全俺のセーブデータがユーノエンドになってしまった。…おいおいおいおい!マジで勘弁してくれよ!このゲーム何万年やってると思ってるんだよ‼いや、何万年は言い過ぎ…か」


 言い過ぎ…?いや、そうだっけ?

 何万年もやったような気が、いやいやそんなわけ


「人生は一度きり、という当時のキャッチフレーズを再現しました、じゃねぇんだわ!恋愛ゲームは周回プレイゲームだぞ?二十個くらいはセーブスロットが欲しいんだよ‼それが一個しかないって…、しかも──」


 俺は別の情報誌をジロリと睨んだ。

 出来るだけ情報を入れずにクリアしようとして、実際にクリアした。

 だが流石に出たばかりのDLCの情報は少ない。

 しかしそれでも尚、余りにも苛烈な追加要素の為、ゲームメディアが食いついた。

 その審議は本来は絶対に許さないフラゲー野郎によって決着がついている。


「はぁぁぁあああ…。確かめるしかないか。本当に俺の──」


 とても大事なことだ。

 本当に本当に重要な事の筈だ。

 多分、セーブデータ…。本当に多分そう。それは間違いなくて


 カッコよいオープニングムービーのキャラクターに向かって、人生のアドバイスをしたりもする。


「オープニングムービーのレイモンドはカッコよいんだよなぁ。でもまぁ、格好をつけているところ悪いんだけどさ、お前のクソ雑魚ムーブは変わらんだろうさ。俺のプレイング次第だけど、お前はもうすぐ死ぬ。今回こそはランダムイベント仕掛けてくんなよ。ま、それでもレイモンドはさ」


 噛ませ犬、お邪魔虫なレギュラーキャラであるレイモンド。

 ゲームは好きでも彼は大嫌い。

 セリフを覚えるくらいやり込んだから、彼の行く末を知っている。

 やりこんだから俺は特に知っている…


「でもまぁ、気持ちは分かるぞ。すぐ側に俺こと勇者様がいて、メインヒロインを含めた八人の女の子が、みーんなアルフレドにぞっこんだからな。お前が狂っちまう気持ちは分からんでもない…。あ、正確には九人…か」


 前回だって、レイモンドイベントが起きて…


 でも、全部うまく行って…


 無事にトゥルーエンドに辿り着いた。


 あれ…、レイモンドのトゥルーエンドってどんなだっけ


「主役になれないってのは現実世界の俺も同じだ。モテる奴はみんなから好かれる。モテない奴は…」


 ゲームをして現実逃避。

 それが俺のルーティンだが、今日()特別な日になる。


「さぁて。噂の真偽を確かめるか。オープニングムービー見ないとメニュー画面さえ出ないって、タイパはどうした、タイパは」


 なんて、今風っぽい愚痴をこぼしながら、俺は浴室へ向かおうとした。

 そこで


「痛っ!」


 今まで、多分だけど感じたことのない痛みが脇腹に走った。

 慌てた俺は、痛みを感じたところに手をやるが、あの時と同じで特に変わった様子はなかった。

 そしてやはり布団の上に一本の爪楊枝が転がっていた。


     ◇


 主人公の肉体がどのように機能停止したかは終わった話だ。

 そして、主人公の魂である新島礼は混乱していた。


「あれ…。真っ暗になった。一瞬で寝た?…いいや、俺はこの空間を知っている?」


 記憶は痛みを感じたところで止まっている。

 真っ暗になったから死んだんだろう、なんて突飛な発想に普通はならないが。

 彼は違っていた。


「ここはゲームのスタート画面…。でも、なんで?何が起きた?」


 ──何が起きた?


 とは言え、この言葉はおかしい。

 とてもよく知っている場所なのに、どうして自分がここにいるか分からない。

 

「俺はもう死んでいる…筈。いやいや、そんなわけっ。さっきまでの世界は?俺、ドラステのDLCをやったところで。そもそもDLCってなんだよ。俺が死んだのはついさっきのことじゃなくて」


 さておき、礼は混乱していく。

 混乱したからって、何が分かるわけでもない。


 何が起きたかなんて、分かる訳が無かった。


 そんな状態で始まる。


 ピ…ピピピピ…


「な?」


 聞き馴染み電子音と自身を照らす白い光。

 彼にとってはある意味で見慣れた景色だ。

 だのに何故か、果てしなく異様な光景だった。

 電子音と同時に刻まれるのは、容易に解読が可能、即ち日本語だ。


『ニューゲームを開始しますか? YES? NO?』


 ここはゲームの世界だ。

 コンティニューという選択肢が現れていない。

 であれば当然、ニューゲームしか選択ができない。


 それが何を示しているのか、本当なら察せた筈だ。


「でも、あれ?夢…だよな。俺は寝落ちしたってことで」


 どうして思い出せないのか、それさえ知っていた。

 だけど、思い出せないのだから素の反応をしてしまう。

 勿論、こんな彼だからこそのリアクションではあるが…

 

「ま、この状況を分析するか。俺はこの画面を知っている。で、俺の家にこんなデカい暗室もテレビもない。夢なのは確定として、どうするべきか。選択肢にノーがある。夢だからと割り切ってノーを選ぶのも悪くない。でも、もしもノーが死と同義なら流石に勘弁だな…。イ…、イエスで」


 キン!

 すると電子音と共に巨大な文字は消える。

 この先も勿論知ってる。だって大好きなゲームなのだ。


 本当にそれでよろしいのですか? YES? NO?


 表示されるべきはソレ。


「次もイエス…、…あれ?」


 だが、今回は違っていた。


『バージョン2.1を確認しました。新たに始めますか? YES? NO?』


 キン!

 そして電子音と共に巨大な文字は消える。 


「あれ…?今ので良かったんだっけ。二回イエスさせるで正解のはず…。あんなメッセージだったっけ」


 そうだった気もする。

 ボタン連打で覚えていない気もする。 


『主人公の名前を決めてください。 アルフレド_ 』


 その直後は、やはりあの文字列が現れた。 


「デフォルトで名前が決まってるゲームにありがち。俺がやっているゲーム、ドラステワゴンの主人公もアルフレド。これは夢で決まりでいいのかな。都市伝説的な死に至る夢でもなさそうだし…」


 肩を竦め、息を吐き、ゲームこそ人生だったと自嘲する。

 まだ夢の続きらしく、その文字列は消えてくれない。


「夢なんだろうけど気に入らないな。アンダーバーが点滅しているってことは、まだ名前を変えられるってことだろ?白昼夢くらい俺を主人公にさせてくれ。——レイだ。主人公の名前はアルフレドではなくレイで行…」


 夢の中でくらい主人公になりたい。

 そんな思いで文字列を見守る。

 アルフレドの文字が右から一つずつ消え、そして左からレが現れて、次にイが現れた。


 ——つまり『主人公の名前を決めてください。 レイ_ 』の状態に変わった。


 だが、その時。

 礼の止まっている筈の心臓が大きく跳ねた。


「…かない‼それはやっぱり…、駄目だったような」

 

 このユーザーインターフェースには大きな欠点がある。

 名前を決める画面の下には、普通は五十音もしくはアルファベットが並んでいる。

 だが、それらしいものは見当たらない。

 ソレを言い出したら、さっきのYESかNOかの質問だって同じだし、アルフレドが消えてレイになったのも意味が分からない。


 でも、これは夢という設定だ。


 夢だったなら、やっぱり主人公がいい。


 だけど——


「俺のゴーストが駄目って言ってる…。やっぱ無し。アルフレドはアルフレドのままにしてくれ」


 この夢はそういうんじゃあない。

 夢なら何でもありってことじゃない。

 これはちゃんと意味のある夢…、——何故かそれだけは分かった。


 新島礼はアルフレドになってはいけない。


「もう一度言う。——主人公の名はアルフレドだ」


     ◇


 ピッ


『主人公の名前を決めてください。 レ_ 』


 ドット文字で浮かび上がった主人公の名前『レイ』に変化が訪れる。

 『レイ』の『イ』が消えて、直ぐに『レ』も消えた。

 そして左から順番に『ア』が打ち込まれる。


『主人公の名前を決めてください。 アルフレド_ 』


 この文字が完成した瞬間、文字列は光り輝いて消えた。


「それでいい。アルフレドはアルフレドのまま。お前はお前のまま。その後は——」


 そうさせたのは自分だが、新島礼はその後を訝しんで見守る。


『一人目のヒロインの名前を決めてください。 フィーネ_』


 という文字が浮かび上がり、これもまた光った後に消えた。

 更には、他のヒロインの名前の入力画面が出ては消えていく。


 皆も存じている名前たちだ。

 エミリ、マリア、ソフィア、キラリ、アイザ、リディア。

 そしてサラ。その後やって来るのが


『九人目のヒロインの名前を決めてください。 ユーノ‗』


 礼は軽く目を剥いて、魂の形で溜め息を吐いた。


「そう来る…か。バージョン2.1ってのはDLCが入ってるってことだ」


 少し前のアップデートで追加されたサラは、DLCに繋がる伏線だったことがプレスリリースで明かされた。

 ちゃんと繋がるエピソードだったかはさて置き、他のヒロインを押しのけて、シナリオさえも押しのける新ヒロイン、ユーノ。


『主人公のライバルキャラを決めてください(※胸糞野郎になります。知り合いの名前を入れる場合は自己責任でお願いします)レイモンド_ 』


 そして、レギュラーキャラおよびライバルキャラの入力画面だ。

 ドラステワゴンにおけるプレイヤーが入力する最後の項目がやってくる。


「あ、そうだった。考えても仕方ない。今は入力画面だったな。ゲームマスター、そこは変更したい。レイモンドを俺に。モンドを消して、レイに変更してくれ」


 するとアルフレドの時と同様、UIユーザーインターフェース無しで反応する。

 だから文字が右から順に消えていく。

『ド』が消え、『ン』が消え、『モ』が消える。

 そして消えた『モ』の位置にアンダーバーが点滅し始めて、一瞬強く明滅した。


「それでいい。決定だ」


 すると、『レイ』と白く浮かび上がった文字全体が粉々に砕け散った。


 ピシッ


 砕け散った衝撃によるものかは未だに謎、女神の力としか言えない。

 暗転していた空間にもヒビが入り始める。

 ヒビの隙間からは眩い光が差し込み、ガラスが割れるような音とともに、新島礼であった空間が割れ落ちて、レイがいる世界が、DLCで新しくなって広がった。

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