終章:それでも“うち”(最終話)
最初に戻ったのは、“会話”だった。
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アルカディア中央。
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会議室。
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長机。
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各国の使節。
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商会の代表。
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宗教関係者。
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静かに、言葉が交わされる。
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「水資源の分配について——」
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「交易路の優先権は——」
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「巡礼の受け入れ数を——」
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すべてが、重要だ。
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すべてが、世界規模だ。
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そして。
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すべてが、ここで決まる。
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アルカディア。
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世界の中心。
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実質国家。
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誰もがそう認識している。
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だが。
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その中心は――
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いない。
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「……あの方は?」
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使節が問う。
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沈黙。
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そして。
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「畑です」
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一言。
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場が止まる。
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「……は?」
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同時刻。
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アルカディアの端。
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いつもの場所。
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土の匂い。
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柔らかい地面。
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主人公は、鍬を振るっていた。
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変わらない。
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何も。
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周りだけが変わった。
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それだけだ。
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「……今日の飯どうする?」
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何気ない一言。
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レイナが即答する。
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「国家運営の前に食事ですね」
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「国家じゃない」
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間髪入れず否定する。
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ガルドが笑う。
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「その飯が一番価値あるんだがな」
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「やめてくれ」
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ミアが苦笑する。
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「さっきまで世界会議してたんだけど」
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「知らない」
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エルドは短く言う。
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「問題ありません」
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「あるだろ」
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ルルナは静かに頷く。
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「食事は優先されます」
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「やめてくれ」
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誰も、止めない。
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止める気もない。
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むしろ。
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当然の流れとして受け入れている。
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主人公は、畑を見渡す。
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作物は育っている。
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相変わらず。
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異常に。
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「……適当に収穫するか」
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手を伸ばす。
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引き抜く。
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それだけ。
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その様子を。
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遠くから、誰かが見ている。
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「……あれが?」
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外国の使節。
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信じられないという顔。
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「はい」
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村人が頷く。
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「いつもああです」
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「……あれが中心?」
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「そうですね」
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納得はしない。
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だが。
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否定もできない。
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事実だから。
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水場。
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主人公が桶を沈める。
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水を汲む。
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ただ、それだけ。
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だが。
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周囲の者たちは、静かに見守る。
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「……聖水」
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「違う」
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即答だった。
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火が起こされる。
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音がする。
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包丁が動く。
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鍋が煮える。
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香りが広がる。
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いつも通り。
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何も変わらない。
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ただ。
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範囲だけが違う。
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その匂いは。
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外まで届く。
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人が集まる。
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使節。
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兵。
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商人。
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巡礼者。
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関係なく。
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並ぶ。
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「……少し分けてもらえないか」
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「並べ」
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短い指示。
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従う。
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全員が。
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国も。
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宗教も。
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身分も。
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関係ない。
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一列。
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ただの列。
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ガルドが笑う。
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「これが世界経済の中心だ」
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「違う」
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主人公は、即座に否定する。
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レイナが静かに言う。
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「最適化の結論は単純です」
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「言うな」
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「生活の最大化」
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一拍。
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主人公は、少しだけ考える。
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そして。
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「最初からそう言ってる」
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初めて。
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完全に一致する。
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その時。
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「わっ」
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小さな声。
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子供が、畑に踏み込む。
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作物が揺れる。
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一本、折れる。
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主人公が振り向く。
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「こら」
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短い声。
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子供が固まる。
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「ごめんなさい!」
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頭を下げる。
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主人公は、少しだけ見て。
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息を吐く。
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「次から気をつけろ」
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「はい!」
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それで終わる。
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何も変わらない。
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世界がどうなっても。
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やることは同じだ。
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エルドが、ぽつりと呟く。
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「……平和ですね」
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「そうか?」
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夕方。
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全員が集まる。
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いつもの場所。
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食事が並ぶ。
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湯気が立つ。
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匂いが広がる。
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ガルドが言う。
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「結局これだな」
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ミアが頷く。
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「戻ってきた感じがする」
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ルルナは静かに微笑む。
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「ここが“うち”です」
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レイナがまとめる。
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「安定しています」
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主人公は、少しだけ考える。
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周りを見る。
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人がいる。
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笑っている。
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満ちている。
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それで。
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「……まあ、いいか」
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小さく言う。
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誰も何も言わない。
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ただ、食べる。daiiti
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静かに。
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普通に。
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それが。
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ここでは、一番大事なことだから。
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その日。
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アルカディアは――
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世界の中心で。
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ただ、生活していた。
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それが、この場所の正体だった。




