第10話「守る者の誕生」
森の朝は、相変わらず静かだった。
風が通り、畑が揺れ、水は透き通っている。
――理想的な環境。
「よし、今日も平和だな」
主人公は満足そうに頷いた。
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「否定します」
即座にレイナが言った。
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「は?」
「平和ではありません」
「なんでだよ」
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レイナは森の奥を見る。
「観測数が増えています」
「何の」
「外部人員です」
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その時だった。
ガサ、と音がした。
茂みが揺れる。
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「……来たな」
低い声。
エルドだった。
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すでに立っている。
剣に手をかけている。
視線は一点。
完全に“戦う者”のそれだった。
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「いや、待て」
主人公が慌てて止める。
「戦うなよ」
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エルドは視線を外さずに答えた。
「無理です」
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即答だった。
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「ここに来る連中は、善意では来ない」
「いやでもさ――」
「侵入です」
言い切る。
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次の瞬間。
茂みから男が飛び出した。
軽装。
刃物。
明らかに盗賊の類。
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「……見つけた」
男が呟く。
視線は畑へ。
そして小屋。
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「やっぱりあったな、“噂の場所”」
にやりと笑う。
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「おいおい……」
主人公は頭を抱えた。
「噂ってなんだよ」
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男はゆっくり近づいてくる。
「価値のある場所って話だ」
「帰れ」
「帰らねえ」
前にも聞いた流れだった。
だが今回は違う。
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エルドが一歩前に出た。
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「それ以上、踏み込むな」
静かな声。
だが、圧がある。
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盗賊が鼻で笑う。
「なんだお前」
「住人だ」
「だったらどけ」
「無理です」
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短い会話。
そして――
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動いたのは、ほぼ同時だった。
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盗賊が突っ込む。
刃を振るう。
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だが、その動きは止められた。
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金属音。
一瞬。
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エルドの剣が、すでにそこにあった。
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「……なっ」
盗賊が目を見開く。
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次の瞬間。
地面に倒れていた。
武器は弾かれ、動けない。
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完全な制圧。
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主人公はぽかんと見ていた。
「……早」
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エルドは息一つ乱していない。
「最低限です」
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「最低限ってレベルじゃねえよ」
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レイナが近づいてくる。
倒れた盗賊を見る。
そして、周囲も確認する。
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「単独ではありません」
「え?」
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その言葉の直後。
さらに気配が増えた。
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木の陰。
草の中。
複数。
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「……マジかよ」
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エルドが構える。
「数は問題ありません」
「あるだろ!」
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だが、もう遅い。
盗賊たちは一斉に姿を現した。
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「囲め!」
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包囲。
完全に戦闘状態。
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主人公は頭を抱える。
「だから嫌だったんだ……」
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「下がってください」
エルドが言う。
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「いや、お前も戦うなって」
「無理です」
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またそれだった。
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次の瞬間。
エルドが動いた。
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速い。
迷いがない。
無駄がない。
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一人、二人、三人――
次々と倒れていく。
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森の空気が、変わる。
いや、正確には――
“整う”。
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侵入者だけが排除されていく。
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数分後。
静寂が戻った。
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倒れているのは盗賊たち。
立っているのは、エルド一人。
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「……終わりました」
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主人公は、ゆっくりと言った。
「終わらせるなよ……」
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エルドが振り返る。
「侵入者の排除は当然です」
「いや、そうなんだけどさ……」
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レイナが一歩前に出た。
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「確認しました」
淡々とした声。
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「何を」
主人公が聞く。
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「防衛の必要性です」
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嫌な予感しかしない。
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「当生活圏は、外部から価値を認識されています」
「やめて」
「それに伴い、侵入リスクが増大」
「やめて」
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「よって」
一拍。
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「防衛概念を導入します」
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「やめろ」
即答だった。
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レイナは無視した。
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「常時監視」
「やめろ」
「侵入時の排除対応」
「やめろ」
「役割分担の明確化」
「やめろって!」
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止まらない。
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「戦闘担当――エルド」
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エルドが静かにうなずく。
「了解」
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「了解するな!」
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「防衛体制を構築します」
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完全に決まった。
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主人公はその場にしゃがみ込んだ。
「……なんでこうなるんだよ」
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誰も答えない。
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ただ一つだけ、確かなことがあった。
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この場所はもう――
“ただの住処”ではない。
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守るべき場所になった。
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そして。
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守る者が、ここにいる。
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エルドは剣を収める。
静かに。
当然のように。
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その姿はもう、ただの来訪者ではなかった。
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この場所の――
“騎士”だった。




