41.ローアン国 sideフォーリア
ローアン城に辿り着いた私たちは、身を清め、一時間後に国王様に謁見するように、と伝えられました。
私たちは身分を隠し、平民のような姿で旅をしていました。
ましてやスヴェン殿下は身を隠さねばならぬようなことをなさった直後。
豪奢な馬車の旅など出来る筈もありません。
幸いだったのは、門前でスヴェン殿下の顔が効いたことでしょうか?
私たちの身形では、そのまま追い返されてもおかしくありませんでしたものね。
*
一時間後。
私たちはそれぞれ、王子、執事、令嬢の姿に戻り、謁見の間に居ます。
「陛下、私はこの通り我が婚約者、エミリア嬢を保護し、共に帰城することが叶いました。つきましては、私を王太子にお戻しいただきたく…」
…さわ…さわ…
スヴェン殿下が揚々と口上を述べておられる中で、謁見の間は俄にさわめき立っています。
「…!?」
周囲の様子を不思議に思ったのか、訝しげに顔を上げたスヴェン殿下が私を見て、ギョッ、と目を剥きました。
「…!」
流石のレイブンも驚きを露わにしています。
二人の様子も無理ないでしょう。
なぜなら私は、国王様の御前で顔を上げたままでいるのですから。
「エッ、エミリー!陛下の御前だぞ!礼を取れ!」
スヴェン殿下が慌てて私に礼を促しますが
「…なぜ、私を拐った人たちに礼を取らねばならないのです?」
…ざわっ
私の言葉に、今度こそ謁見の間がざわめき立ちました。
「なっ、何を言うんだ、エミリー!へ、陛下!これはエミリーの戯言です!どうかお聞きにならぬよう…」
「…それはどういうことなのだ、エミリア嬢?」
「へ、陛下…っ!」
狼狽えるスヴェン殿下を他所に
「………」
私はエミリア様ではありませんので、国王様の呼びかけにどう答えるものか…と思案していると
「…フォーリア嬢」
国王様の側に控えていらしたケヴィン殿下が、ポツリと私の名を呼びました。
「…フォーリア嬢?彼女はエミリア嬢ではないのか?どういうことだ?」
突然知らぬ名が出てきたことに困惑気味の国王様がケヴィン殿下に問いかけます。
「陛下、彼女はアズライト国第二王子殿下の婚約者殿です」
「な、何っ!?彼女はエミリア嬢ではないのか?髪の色も顔立ちもエミリア嬢そのものだぞ?…それに、その瞳の色は…」
「フォーリア嬢はアズライト国、ロゼライト公爵家のご令嬢です。そして先程も申した通り、第二王子セイン殿下の婚約者殿。その上、フォーリア嬢が言った“拐われた”というのが本当だとしたら…」
…ざわわっ
国王様とケヴィン殿下の会話に聞き耳を立てていたらしい、謁見の間の貴族たちが更にざわめきました。
「…それは、他国の王族を拐ってきた、ということか?」
「何てことを…アズライト国から攻め込まれてもおかしくないぞ…」
「以前は婚約者に一方的に婚約破棄と国外追放を突き付け、今度は他国の王族を拐ってきたのか…」
「そのような事をする者に、王太子の座は相応しくない」
「この分だと、廃嫡もあり得るのではないか?」
そんな会話が飛び交い始めました。
「なっ、何だと!?ケヴィン、エミリー、勝手なことを申すな!」
貴族たちの会話が聞こえたのでしょう、顔を真っ赤にして憤るスヴェン殿下に対して
「勝手なこと、とは何でしょう?これは事実。…ですよね、フォーリア嬢?」
ケヴィン殿下は確認をなさいました。
「ええ。改めまして、私はフォーリア・エルレイム・ロゼライト。アズライト国第二王子殿下、セイン様と婚約している身でございます。…私はアズライト国から突如、そちらのスヴェン殿下によって拐われ、ローアン国へと連れ出されました」
「…何と、いうことを…」
私の言葉に愕然となさる国王様。そして
「これは立派な国際問題。…兄上、貴方は如何様に責任を取るおつもりか?」
ケヴィン殿下はスヴェン殿下を問い詰められました。しかし
「私はアズライト国に奪われた自分の婚約者を取り返したまで!何も疚しくはない!よって、私が責任を取る必要も無い!」
スヴェン殿下は反論なさいました。
「貴方が乗り込んだ、アズライト国のパーティーの場でも言いましたよね?エミリア嬢に婚約破棄を突き付けたのは貴方だと。それに、彼女がフォーリア嬢であるかエミリア嬢であるかを抜きにしても、貴方が他国からご令嬢を拐ってきた罪は充分、重い」
ケヴィン殿下の仰ることは最もです。
「…っ、ぐ…っ」
スヴェン殿下もケヴィン殿下の正論にはそれ以上反論出来なかったのでしょう。
言葉に詰まり、悔しそうな声を漏らすのみ。
そこへ
「へ、陛下!!」
息せき切った文官が謁見の間に駆け込んできました。
「何だ!?どうした!?」
スヴェン殿下の所業に怒りの気配を滲ませていた国王様が、鋭い声で文官に問いかけられます。
「…たった今、アズライト国から早馬が到着しました。こちらの書簡です。お改めください」
「………!!」
文官から差し出された書簡を読んだ国王様は、サッと顔色を変えられました。
「…陛下、書簡には何と…?」
恐る恐る尋ねる文官に国王様は皆の前で書簡を読み上げられます。
「“我が国の王子の婚約者が貴国のスヴェン王子によって拐われた可能性がある。ついては、調査と令嬢の救出のため一軍を派遣する。了承されたし”…」
「まさか、侵略…!?」
「何ということだ…っ!」
「我が国はアズライト国に軍事力で劣る…。一軍の規模がどうであれ、武力で迫られたら勝ち目は無いぞ…」
「…これ程の事態を招くとは…やはりスヴェン殿下は王太子に相応しくない!」
書簡の内容を聞いた貴族たちが、三度ざわめき始めました。
私としてはアズライト国からの迎えは嬉しいのですが、この事態、国王様はどう収められるのでしょうか?
「…静まれ。書簡には調査と令嬢の救出、と書いてある。これは侵略目的ではない筈だ。我らも彼らの調査に協力し、此度の騒動が本意では無い、と示すのみ」
「…ですが、如何されるので…?」
「先ずは、フォーリア嬢の保護を。これはケヴィンに任せよう。そしてスヴェンとそこの従者には聴取を。事実を詳らかにし、アズライト国へ伝えねばならぬ。…二人を連行しろ」
『はっ』
国王様の命に、兵士たちがスヴェン殿下とレイブンを取り囲みました。
「なっ!?離せ!私はただ婚約者を取り返しただけのこと!…エミリー!エミリー!私を助けてくれ!!」
「………」
…何て自分本意な主張なのでしょう。
自分の所業を棚に上げ、女性に縋り付く姿は、私を呆れさせるのに充分でした。
「さようなら。今後一切、貴方とお会いすることが無い様、願っております」
私はスヴェン殿下にそう答え、最高のカーテシーを披露しました。
…ほぅ…
貴族から、感嘆のため息が零れます。
「フォーリア嬢、どうぞ此方へ」
「ま、待て…っ、エミリー!エミリー…っ!!」
そして私は貴族にも、スヴェン殿下にも背を向け、ケヴィン殿下の案内に従って謁見の間を後にしました。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ストックが無くなったので、暫く更新お休みします。




