ビッグパフェ鬼盛生クリーム丼ぶり
丁度4人が座れるテーブル席に着き、私はひかりの隣に座った。
ひかりの前には類さん、私の前には景山さん。
皆それぞれ食べたいフォーを選んで、注文した。
「お仕事場は、この近くなんですか?」
ひかりがどちらへともなく聞く。
「うん、歩いて5分くらいかな」
類さんが頬をポリポリ掻きながら答える。
「絹代さん、昨日は大変でしたね」
景山さんが労いの言葉を掛けてくれる。
「いえ、善哉さんと田村さんが守ってくださったので…」
「前田さんは、趣味とかあるの?」
類さんがひかりに絡む。
「読書と、服かな…?私、服が好きでアパレル販売の仕事してるんです」
「へぇー、通りでオシャンティーで可愛い!」
オシャンティー?
前の職場で60代のおっちゃんが言ってた。
オシャレという意味らしい。
「ありがとうございます」
ひかりは天使スマイルで応える。
…何か、不思議な感じだなぁ。
ひかりと、善哉事務所のお二人と一緒にランチするなんて。
現実と夢の世界線が繋がったみたいな感覚。
「善哉さんは、今日お休みしてますよ」
「…そうでしたか」
良かった。
いつもポーカーフェイスの善哉さんが、かなり辛そうにしてたもん。
ゆっくり身体を休めて欲しい。
「清彦は事務所でじいやと一緒に休んでるよ。アイツも、頑張ったね」
「そうですね。清彦も、ついてきてくれて…」
「きぬちゃん、昨日はお仕事大変だったんだね?」
ひかりが心配そうに私の顔を覗き込む。
はっ。そうだ、私はお掃除屋さんの事務員なのだ。
「まま、まぁ?たまたま色々立て込んでたというか!?」
「でも、清彦が居ないとやっぱ寂しい?家でも仕事でもずっと一緒だったもんね!」
!!!!!
景山さんも私と同じ反応をしていた。
類さんだけ、のほほんと笑っている。
「え?きぬちゃん、職場で彼氏できたの?」
ひかりが口に手を当てて驚いている。
「しっ、しかも、同棲して…!?」
「ちっ、違うちがう!!!」
類さんはようやく気付いたみたいだ。
笑顔のまま固まった。
「お待たせしました、フーティウランチです!」
私とひかりが手を挙げる。
すぐに、類さんと景山さんのフォーも到着し、とりあえず頂きますをして食べ始めた。
「わぁ〜!食べたかったんだぁ、美味しそう!!」
ひかりは嬉しそうに写真を撮る。
私も撮っとこ!
ズルズルと皆で麺をすする。
うん、エビのおだしがあっさりと美味しい。
でもちゃんと旨味と深みがある…
ひかりを見ると、ウキウキと口にフォーを運んでは微笑んでいた。
さっきの話、ひかり忘れてくれたかな?
ねぇ、忘れて?
「…きぬちゃん、彼氏いたんだぁ」
「ゴホッ!!エホ!!!」
類さんの方を見る。
類さんは大きな目を更に見開いて言葉を探っていた。
「いや、彼氏と言うか、違うというか…ね?」
「え…?」
ひかりはまた私の方を見る。
「彼氏じゃないのに、四六時中一緒に居るの?」
あかん。
さらにややこしくなっとる。
「…違うの」
何て言えばいいの。
「うちの会社にはですね。"清彦"という社員研修ロボがあるのです。」
その手があったか!!!
清彦がラップを奏上している時、カクカクしてるしもうあいつロボでいいや。
「絹代さんは勉強熱心なので、毎日家に持ち帰っていました。昨日、"清彦"ロボが動かなくなり、予備のロボである"じいや"を動かそうとしたのですが動かなかったのです。それで2体一緒に事務所で修理中です」
清彦とじいやが壊れたロボットにされて不憫だけど助かった。
景山さぁぁぁん!!!神フォローすぎる。
しかし、この取って付けたフィクションが通用するか…!?
ひかりはしばらく固まって聞いていた。
どっちだ…?どっちの反応だ…!?
「なぁ〜んだ!私、勘違いしちゃった!」
ひかりはテヘッ☆と照れ笑いし、フォーをすすり始めた。
ホッ…。類さんもほっとした顔をしている。
景山さんは私を見て微笑み、少しうなづいた。
ありがとうございます!!
心の中で感謝し、私もうなづいてフォーをすすった。
「きぬちゃんの上司さん、面白いね」
ランチを食べてから、2人と解散した。
しばらく歩き、ひかりと本屋さんに向かって歩く。
「…おかげ様で、楽しくやらせてもらってるよぉ!」
かなりヒヤヒヤしたけど。
類さん、白目剥いてフォー食べてたなぁ。
「きぬちゃん、彼氏できたら教えてね!」
「ひかりもね」
「アパレルのお店って、中々出会いがなくて…」
ひかりはモジモジしている。
本屋さんに続くエスカレーターに乗って、お店に入る。
「ねぇ、きぬちゃんの職場の人と合コンできないかなぁ?」
「エッッ」
無理無理無理。
類さんは女性だし、景山さんはこの前知り合ったばかりだし、善哉さんは…
「無理ッ!!」
アサシンモードの善哉さんが浮かんだ。
合コンいかぁっすか?なんて言える立場じゃない。
それに、善哉さんイケメンだし気遣い屋さんで優しいし、彼女居てもおかしくないし。
「そっかぁ、残念…」
…すまん、ひかり。
ひかりは好きな作家さんの新作本を買った。
私は、何となく気になった本を手に取り、少し迷ったけど購入した。
本屋さんを出て、また灼熱の中10分程歩いてカフェに入った。
「はぁ〜涼しいね!」
ひかりは青色のハンカチで顔の汗を拭く。
「ね、外出たくなくなるね…」
ん?
案内された席に着こうとしたら、隣の席の人と目が合った。
「絹代さん?」
「善哉さん?」
善哉さんの目の前にはこのお店の名物、"ビッグパフェ鬼盛生クリーム丼ぶり"が。
え!?!?!?
善哉さんと鬼盛り生クリーム丼ぶり!?
いつもクールな漢の中の漢が、鬼盛り生クリーム丼ぶり!!?
意外すぎてパラレルワールドに来てしまったのではないかと疑う。
てかまた仕事場の人と出会ってるし、今日は何なの!?
「…きぬちゃんの、職場の人?」
ひかりも驚いた顔をしている。
また私の職場の人に出会ったから?
それとも硬派っぽいイケメンが鬼盛り食べてるから?どっちに驚いてるの?
何を隠そう私はどっちもに驚いている。
「え?うん。お世話になってる、社長…」
善哉さんはとんでもない量の生クリームをせわしなく口に運びながら会釈した。
「代表の、善哉です。」
「はじめまして、きぬちゃんの友達の前田ひかりです」
気まづいな。
隣か…。
善哉さんも気まづいだろうな…
って全然気にしてねぇ!!
ヒョイパク、ヒョイパクと一心不乱に生クリームを摂取している。
ほんまに善哉さんなのか…?
生クリーム摂取ロボじゃあないのか…?
いや、失礼だぞ絹代。
漢の人が鬼盛り生クリーム丼をヒョイパクしようが、何だって良いじゃないか。
「あ、すみません。ビッグパフェ鬼盛生クリーム丼ぶりおかわりお願いします」
「え!!?」
しまった。思わず声が。
「す、すみません!」
善哉さんは曇りなき眼でこちらを見た。
それから、窓の外に顔をやった。
なんて事だ…!!
あんなに優しい善哉さんを傷付けてしまったか?
何て挽回の声かけをすれば…
てか注文する時ちゃんと「ビッグパフェ鬼盛生クリーム丼ぶり」ってフルで言うタイプなんだ…。
悶々としているとひかりが耳打ちした。
「かっこいいね、あの人」
ひかりの頬は赤くなり、窓を見る善哉さんの後頭部にぽんやりとした視線を送っていた。
「…だよね」
多分身長は180cmはある。お顔は色白で、切れ長の目に幅の狭い二重。
眼光は鋭くて三白眼っぽい。その目の間から、シュッと伸びる高い鼻。
毛先がツンツンした、サラサラすぎない黒髪短髪。
でも、善哉さんのカッコ良さは、見た目じゃないんだ。
「いつも従業員の事を第一に考えて守ってくれる、めっちゃ強くて優しい社長なんだよ」
そう言う私の顔を見て、ひかりはハッとした顔をする。
「きぬちゃん、がんば!」
何が?
「へ?」
テーブルから乗り出して、私の耳元でコショコショと囁いた。
「好きなんでしょ?社長のこと!」
「なっ…!!?」
何を!?
ひかりは座って、ニコニコと目を細めた。
聞こえてないよね!!?
耳まで熱くて、顔が真っ赤になっているのが分かる。
善哉さんの方を見ると、2杯目の鬼丼を持ち上げて口をつけ、食べると言うより吸い込んでいた。
ラーメンの汁?
こちらには普通のパフェが来て、2人で食べ始める。
まだ胸がドキドキする。
…いきなりなんて事言うんだ、ひかり。
善哉さんは食べ終わると席を立ち、私たちに声を掛けて退店した。




