清彦のラップ
コンビニの袋を下げて、景山さんは帰ってきた。
「あ、お帰りなさい」
「ただいま」
レジ袋からコーヒーのチルドパックを取り出すと、1つを私に差し出した。
「はい。どうぞ」
「え…お気遣いくださり、ありがとうございます」
礼をして受け取った。
「絹代さんも、出たい時は遠慮なく出てくださいね」
「はい。ありがとうございます」
類さんと善哉さんにも言われたが、基本的に仕事上何かないと外出はしない。
なんか、スッとこうして買いに行けない。
社畜魂が染みついているのか、ただ面倒くさいだけなのか…
どっちもかも知れない。
そんな事を思いながら、しばらくじっと頂いたコーヒーの成分表の辺りに目を向けていた。
「そうそう、知らない土地なのになぜか懐かしい感覚になる事もあります。その場合、過去生の時に生まれた場所だったり、住んでいたという事もあります。」
景山さんはそう言ってコーヒーを一口飲んだ。
途端、清彦が現れ両親指を立てて自分へ向けるポーズをした。
「我と姫が出会った都♪それここK市平安の都なりっけりっ♪」
久々に出た。世にも奇妙な光景。平安貴族がラップを奏上している。
相変わらず理由はないけど何か不快。
景山さんは不自然に肩を揺らす平安貴族をじっと見ていた。
「…清彦君はいいとして、若葉さんの過去生が気になりますね。」
景山さんは何も見ていないみたいに正面に向き直り、話を続けた。
「…はぁ」
「姫と我はセットじゃぞ!!ニコイチじゃ!絹代殿の前世すなわち、我の過去じゃ!!」
「そんな事はないでしょう」
景山さんはにこやかに答える。
清彦はぐぬぬと顔を赤鬼のようにして景山さんを見た。
「絹代さんの前世、ちょっと覗いてもよろしいですか?」
「へ?」
景山さんはそう言うと、コーヒーを一気飲みした。
清彦も目を点にし、口を開け放して驚いている。
「景山殿、そんな術を持っておるのか…」
清彦は景山さんを感銘したように眺め回す。
「もし、嫌でなければですが」
景山さんは苦笑いして息をついた。
「いえ!私も、気になっていました!!」
コーヒーを置いて、景山さんに礼をする。
「お…お願いします!!」
顔を上げると、景山さんは席から立ち上がっていた。
「分かりました。じゃあ、今から準備するので待っていてください」
そう言うと、奥の資料室へと入っていった。




