第一話 主役復権
ようやく帰って来られた。
思えば大分長いこと変な感じだった。
アカウント乗っ取りでもされていた? って思うような違和感があって。
いやいやまあまあ。
まさかのタイムトリップだったが、和尚も無事、後輩も無事。
その上瘴気を吸収し過ぎた核も破壊できた。
大地闘神の覚えめでたき? って感じだし、終わり良くて全て良しと思うことにしようか。
さて、和尚、後輩と共にカプルコン寺院に戻った私を待っていたのはブランクとリーレイ。
「ただいまっす! ……ってあれ? トンダっちは? お〜いトンダっち〜、かわいいキャミィちゃんのお帰りっすよ〜」
真顔で言える後輩の図太さときたら。
しかしトンダはお使いか?
「いしし」
「何すかリレイっち。変な笑い方して」
「むふふあのね……」
「トンダは結婚した」
え、何?
もっかい言って。
「ちょっとブランク先輩ぃ! それアタシが言おうとしたのにい!!」
リーレイがブランクの腰辺りを乱打する。
ブランクはうるさそうに両手で両耳を塞ぎ完無視の構えだ。
「け、結婚? トンダっちが、っすか? 相手は……」
結婚かぁ。
そりゃ相手はミノンさん一択で
「ええと、ハラミ……」
違う!?
私と後輩はピシリと固まった。
その直後リーレイはブランクの大きな手で頭を叩かれ床に潰れた。
「ミノン婦人だ。学院に勤めていたそうだから知ってるだろ?」
びっくりしたなあもう。
「ビビったっす。トンダがミノンさんをフッたのかと思ったじゃないすか」
「はは、めんごめんご。ハラミさんは下町のオークさんだった。ラーニャが家政婦やってる所の奥さん」
うるさいよ。
しかし懐かしい。
トンダのこともラーニャたちシスターズのことも聞きたいことは沢山ある。
「聞きたいことは沢山あるって顔してるね〜」
リーレイが私と後輩にヘッドロックをかけてニヤつく。
分かってるって顔で人の心を読んだ気になってからに。
……ズバリそのとおりなんだけどさ。
「ふむ。相変わらず仲が良さそうで安心したぞ。ブランク、リーレイ、世話をかけたな」
他所の寺院から援助に来てくださっていた道士との挨拶を終え、和尚が戻って来た。
「和尚!」
ブランクとリーレイは左掌に右拳を当てる挨拶を手早く終えると、笑顔で和尚に駆け寄った。
「和尚、ご無事そうで安心しました」
「心配しましたよ! ささ、ご飯でも食べながら色々聞かせてくださいね」
二人とも和尚大好きだから、久々に会えて嬉しいのかな。
「クワ……」
ここには自分をかわいがってくれそうな人が居なさそうだと感じたのか、レベッカが力無く鳴いた。
レベッカ、強く生きるのです
天下の大泥棒の母のようなメッセージを心で送り、私もお帰り会の準備に加わった。
「え〜、大地闘神が元はお一つだったって?」
「俺はここに座す闘神像しか知らないけど、他の場所に座す闘神像は全く違う御姿なんだろう?」
食事を終え、旅の話で盛り上がっていたのだが、前時代の神像の話をすると、リーレイもブランクも難しい顔になった。
「間違いないっすよ。その頃は神様一人で魔物を抑えてたんすけど、結構ギリギリの飽和状態だったんす。そこにボクたちが祈りを捧げて、祈りが神様の力になるって分かったから、神様は体を分けて今の形に収まったんす」
「ん〜、でもさ、それアタシらの世界とはまた別の世界かもしれないじゃん。よく似た世界のさ」
「むっ、リレイっちのくせに」
「あっ、そういう言い方良くないんだぞ」
「痛い痛いっす! ごめんっすリレイっち!」
後輩は自信満々に言ったけど、確かに私たちが歴史を変えたみたいな言い方だから大袈裟だって捉えられてもおかしくない。
でもね――
「あちらの時代でご神像は約束してくださった。神の御力で人に魔法や技を授けるのではなく、人が自ら身につけた力を神に披露し、その代わり魔物を弱めてくださることを」
そう、和尚のおっしゃるとおり。
それまで神の碑文を通じて、人々に分け与えていた力を回収なされた神は、その分の御力を分体の生成と人の祈願成就に充てられた。
またその副産物として魔物ドロップが発生するようになった。
「まさに今の世の在り方そのものであろう? 実際にあのような稀有な体験を経た拙僧どもからすると、違う世界の話だとする方が不自然だと思うのだ」
和尚はしみじみと言った。
なんだろう、和尚ってば結構神様との出会いに感動してたのかな。
この時代に戻る前はあまり顔に出してなかったけど。
「う〜ん、難しい話はよく分かりません」
「今の世の中があるのはボクたちのお陰ってことが分かればいいっすよ。特にリレイっちはボクを崇めた方がいいってことっす」
「そっかあ」
「そうっす」
「あっはっは」
「うひゃひゃひゃ」
またリーレイが考えることを放棄して、いつもの如く後輩がそれに乗っかり自分優位な情報を植え付けようとする――お?
「だから、大人を、バカに、しちゃダメって、言っ・て・る・でしょうが!」
「痛たた! ギブギブ! ごめんなさいっす!」
リーレイがコブラツイストで後輩を締め付ける。
おお、あの脳天気で考察を人任せにしがちだったリーレイが進化している、気がする。
よし、そこから投げにいって起き上がり際に気功拳を重ねるんだ!
「でもそうすると」
不意に真剣な顔でブランクが声を出した。
「三魔像と言うのはどうした?」
私たちタイムトリップ組は顔を見合わせた。
「どうって、今に至るまでに誰かが討滅したんじゃない?」
つい反射的に言ってしまったが、それはおかしい。
「まだ魔物が発生しているのに?」
そう、魔物は相変わらず現れているのだ。
「でも、学院でも三魔像なんて単語聞いたことなかったっす。迷宮は悪いものだって習ったんすけど」
ダンジョンコアは三魔像の瘴気を吸収させる核の、成れの果てだということは分かっている。
核は元々魔物に滅ぼされた生命や風化した自然物の結晶だ。
前時代の神様がいくつそれを作ったか分からないけど、今世となり瘴気を吸収し過ぎた核は迷宮を作るようになってしまった。
私たちのみが知る迷宮誕生の秘話である。
なぜ根源の瘴気に注目されないのか。
――瘴気の出所たる三魔像が何処にも無いから――
答えはその一点に尽きる。
もし三魔像が今世にあったらどうだろう。
魔物の氾濫を起こされる関係で和尚お一人では手出し困難だったが、今世の寺院には和尚クラスの道士がお見えだ。
更にスライメン先輩など大道士クラスも、極僅かだが、いらっしゃる。
三魔像を討滅することだって可能なんじゃなかろうか。
結局三魔像の行方は分からず、その話は打ち切られた。
「総本山に行き報告をしてくる」
翌日和尚が言った。
タイムトリップしたとはいくら信用高い和尚でも他人には言いにくいだろう。
それでも世界平和に関わることだから、と言い和尚は一人旅立った。
「あ、お帰りなさいっす和尚。早かったっすね」
一週間で和尚は帰宅した。
往復一年以上かかる所を一週間とは、さすが空間属性持ち。
疲れたのか和尚の顔色は青い。
「みな、少し待ってくれ」
私たちがお風呂や食事の準備をしようと動き始めるのを、和尚は止めた。
そのまま和尚は私たち一人一人を見て口を開いた。
「総本山が消えた。四年に一度の大手入れで集まっていた大道士や道士も共に」
“消えた”
その言葉をどう解釈していいのか分からず、私たちはただ和尚の次の言葉を待った。
「柱……山を埋め雲を貫く、理外な柱のみが総本山のあった場所に立っていた」
更に和尚は説明する。
総本山周辺の道士たちが一斉に姿を消した。
元々世界で最も魔物の強い場所にあった総本山である。
周辺の魔物を抑えるのに道士クラスが複数必要だ。
和尚は遠方のこの寺院を任されているため、総本山周辺に待機することは免除され戻って来た。
ちょっと想像が追いつかない。
私たちはひとまず和尚に休んでもらうことにした。
あれから二ヶ月。
総本山の異変に目を向けなければ、私たちは以前と変わらない日々を送っている。
そんな仮初めの平穏を破る一通の手紙が届いた。
ミコルルの故郷、北の国ナムツォからの調査要請であった。




