第二十四話 犯人はあいつだ
坑道を抜け荒野を進んだ。
クラス四以上の魔物が当たり前のように現れるようになっている。
そのことに不安を覚えたのは、カッツォやルケア、王国出身者たちだ。
途中通った幾つかの町や村の人々も、突如強くなった魔物に怯えていた。
ブダゴルラたちは行く先々で、人々が魔物に襲われ危うかったところを助けた。
人々はブダゴルラのことを当初、猪面を被った巨漢と思っていたようだ。
しかしブダゴルラが魔族と分かっても過剰に取り乱すことはなかった。
それどころか、魔族は人類を害する危険な生物と言うのが誤解であることに、すぐに理解を示したのだった。
「いい調子っすね。このままゴルラっちが王国との親善大使を務めるればいいんじゃないっすか?」
「あ、じゃあルケアが王国側の大使ってこと? いいそれ〜」
語尾にハートマークが付きそうな口調でローラが同意した。
キャミィのファッションセンスや可愛いモノに対する愛情、それに反する彼女の強さはローラを惹きつけた。
旅の間にローラはすっかりキャミィのファンとなっていたのだ。
「大使とは一体? ――――く、国の代表? それがしにはちと荷が重い気がするのだが……」
「ブダゴルラさん、荷が重く感じるのは私もです! でも互いの国のため、一緒に頑張りましょう!」
ルケアはこれまで通った町や村での出来事から、直接触れ合えば魔族への偏見を消せそうな手応えを感じていた。
また彼女にとってブダゴルラは既に同志であり、それぞれの立場で協力者がいればより事態は改善するという希望を持ち始めていた。
「うむ。しかしゴブシム師と比べるとそれがしではあまりに力不足だと……」
一方ブダゴルラはゴブシムと己を比べ、自信を失いつつあった。
「何言ってんすかゴルラっち。まだ二十歳前後だろうに自分を卑下してぇ」
「えっ!?」
「そんなウジウジしてる暇あったら修行でもしてないと、姉様にしばかれるっすよ」
「いやはや指摘もっとも。しかしキャミィの姉は厳しいのだな」
「厳しいって言うか〜、ヘンタイって言うか〜」
クシュン
また何処かで一人の乙女がくしゃみをした。
「これキャミィ。姉をそのように言うでない。……確かにミサは変わった所もあるが。それを言うならお主も同じであろう」
「フォローにはなってないっすよ和尚」
「むむ、これは参ったな」
「あはは、和尚ってば〜」
キャミィとゴブシムの掛け合いを聞いていたのはブダゴルラのみ。
他の面々は――
「ブダゴルラさんって、若いの?」
「四十は固いと思ってた……」
「ルケア、聞いてみてよ」
「わ、私ですか!?」
そして背中を押されたルケアは尋ねた。
――ブダゴルラは十九歳だと判明した。
「先輩」
「ブダゴルラ先輩」
「な、なんだ急に?」
「いや、これが一番無難……しっくり来るかなって」
ブダゴルラは友達以上先生未満、的な位置付けにされた。
急に妙な呼び方をされ始めブダゴルラは戸惑ったが、嫌な気分ではなかった。
「さてさて、このまま人里を巡って世直し・人助けの旅、も悪くないっすけど、魔物の強化が起きてるとなると急がなきゃっすね」
どうにも姉貴分がこの件に関わっている予感が拭えない。
笑顔で気楽そうに言うキャミィの額に冷や汗が浮かぶ。
「そうだな」
密かにキャミィと同じ予感を抱いているゴブシムが、短い言葉で彼女に同意した。
もうすぐ王都に着く。
今七人は王都にほど近い栄えた町を歩いている。
「やっぱり魔物が多いから、これだけたくさんの兵士が見回りしてるのかな」
カッツォたちは巡回中の兵士が以前より多いと感じていた。
「あ、勇者さま!? ……あの! 勇者様方ではございませんか!?」
一人の兵士がカッツォたちとすれ違い、振り返り声をかけた。
「あ、お久しぶりです。もしかしてゲルギオ隊長もここに来てます?」
その兵士はカッツォたちがこの世界に来て半年間、訓練を共にした者であった。
兵士は背筋を伸ばしてバネ仕掛けの人形のような動きで敬礼をした。
「はっ! お久しぶりであります! 小職はこの町に特別派遣された身分でありまして、ゲルギオ隊長は変わらず王都にてお勤めなさっておいでであります!」
「そ、そうなんですか。ありがとうございます」
堅苦しい兵士と挨拶を交わし、巡回がもうすぐ終わると言うのでそれに合わせて彼からもう少し話を聞くことにした。
兵士の詰所で複数の兵士から聞いた話によると、魔物の強化や増加は王国の至る所で起きているらしい。
この町への兵士の特別派遣もその対策と言うことだ。
魔物と戦ったりトラブルを起こしたりしている少女の情報は無かった。
「ミサはどこにいるのだろうか」
「う〜ん、ボクと一緒に飛ばされたからこの世界にいるとは思うんすけどねえ」
こうなると何か分かりやすくトラブルを起こしてくれた方が……
キャミィ、ゴブシムはいやいやと師弟揃って首を振り、その考えを否定する。
「ところで魔族と呼んでいた人たちのことなんだけど……」
「おお、勇者様から直接そのお話を聞かせていただけるでありますか」
カッツォたちは凡人種以外のことを話し始めようと、ブダゴルラとゴブシムの方を見た。
兵士たちは何か進展があったのかと身を乗り出した。
情勢不安定な中、明るいニュースかと否が応でも期待は高まる。
バン
荒々しく扉が開かれた。
若い兵士が息を切らせ詰所に入ってきた。
誰だ水を差す奴は、と兵士たちが厳しい眼差しを向ける。
若い兵士はそんな先輩兵士の様子が目に入ってないようで、大きく息を吸って口を開いた。
「た、大変であります! 王都の教会に族が侵入! 教皇を攫い現在も逃走中とのことであります!」
「何だと!? 要求は何だ!」
「賊の人数は! 行き先は!?」
「教会の他の方々は無事なのか!」
若い兵士が責められるように集中砲火を浴びる。
「はっ!」
若い兵士は答えた。
――賊は一名、若い女。
要求、行き先は不明。
教会内の人々は教皇に手を出さないように言われ無傷、教皇は女に抱えられて行った――
「ま、魔族なのか?」
兵士の一人がその可能性に思い至った。
カッツォたちが見せた渋面に気づく者はいない。
「いえ、人間の、少女と言って良い位の若い女だと言うことであります!」
「oh!」
「ぐぬ」
キャミィとゴブシムが唸った。
勇者が連れて来た少女と覆面の小男が、頭を抱え額に手を当てている。
兵士たちから見れば不審な行動である。
だが気にしている場合ではない。
「我々への任務は!」
「はっ! 検問の実施と宿台帳検め、それに巡回の強化であります!」
「了解した! ……それでは勇者様方、我々は与えられた任務に従事いたしますので」
「あ、ご苦労様です……」
不意に向けられた敬礼に反射的に返事をして、カッツォは少し考えた。
「……あの僕たち、教皇様と犯人を探しに行きます」
兵士たちの注目がカッツォに浴びせられる。
すぐに場は沸き立った。
「勇者様が捜索に当たってくださるとは心強い!」
「我々も情報収集に努めます!」
熱い眼差しを送る兵士たちから見送られ、七人は町を後にした。
「すいません、二人のこと、言い出せませんでした」
「なに、そう焦っても良いことは無かろう」
「そのとおり。それがしも地道に進めた方が吉と思うぞ」
「ゴブシムさん、先輩……ありがとうございます」
「さてさて、それよりも早くその教皇と賊を探しに行くっすよ」
「まずは現場かしら?」
「ちっちっち、姉様のことはボクが一番よく分かってるっす。ルケアっち、神様の像があるって言う聖地に案内してほしいっす」
「聖地、ですか?」
「姉様のことは、って、まだ犯人が誰かも分からないのに」
「姉様じゃなきゃ兵士さんたちに任せとけばいいんすから。姉様はボクたちが真っ先に押さえないと」
半ば強引に行き先が決められた。
一体姉様とはどのような人物なのか。
ローラたちはとんでもない怪物を想像して身震いした。




