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闇ニ玉散レ百剱  作者: 亜空間会話(以下略)
王歴8年:とある蟲毒の結果
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6「刃気の朝」

 投稿時間ももう朝。遊びすぎて夜が明けた感じでしょうか。


 どうぞ。

 トカゲがそれに気付いたのは、羽尾蜥蜴(ウイングテイル)へどうやって攻撃したものかと思ったときのことだった。思考が芽生えた後でも、かれらの持つ自明の選択は活きている。


 できる、と意識した瞬間にそれは可能になった。そしてこちらを向いて威嚇というよりは挑発し、口を開けてキャラキャラと笑うかれの喉元に、ざくりと刃気を突き入れた。




 それと同じように突き込まれる紅い刃を、ミヅノはさっとかわす。


「む。気配の正体はこれでござるか」


 ただならぬ気配の正体は、正しく「刃気」のためだった。


 かれの尻尾と同じ切れ味を持つ魔力の刃を発生させ、ほんのわずかな時間だけ移動することで消費を最小限にしつつ、見せかけの攻撃力を使うことなく相手を倒すことができる。相手が気配というものを察する知能を持っていなければ、相手の警戒は尾剣に向く。その隙に急所でもなんでも狙い放題、なるほど恐ろしい攻撃ではあるが――逆に、自らの急所を理解しており、そこに攻撃が来るだろうと予想できるもの、つまり人間やそれ以上の知能のある相手には、その攻撃は効果が薄い。


 衣服の異常な形状のせいで、ミヅノの急所を察することは難しい。はっきりと分かるのはその細い首くらいのものである。


 怒りのうなりを上げながら、トカゲは真剣を振るう。もともと魔力の少ない種族がそれを振り絞って届かなかったのだから、もはや剣以外に頼れるものなどない。ただ発生させるだけならばまだしも、動かすには魔力を食いすぎる。一撃必殺である代わり、デメリットは非常に大きかった。


 橙色にきらめくエディルム・モールト鋼の刀は、トカゲが気能によって切れ味を強化した尾剣と同等の切れ味を持ち、重さはさらに上、速度はやや上である。


 ごくごくわずかに残った魔力を振り絞りながら、どうやっても致命的になってしまう軌道は刃気で弾き、それ以外は剣を鍛えるつもりでぶつけている。それでも分が悪いのは事実だったが――


 トカゲは剣をぴたりと止めた。


「む、気付いてしまったようでござるな」

「シュゥ……」


 相手は、じゅうぶんにかれを殺せるだけの力を持っている。それをしないのは、彼女がただ単に打ち合いをしたいだけだからである。


 そもそも――人間の身長は、平均しても2ルーケを超えている。限界まで尻尾を伸ばしたところで、トカゲの剣はミヅノの首に届かない。


「兄者を殺してから、まともに打ち合える相手がおらぬ。モンスターならと考えた次第でござる、まこと失礼をば(つかまつ)った」


 異形の言葉を吐いても、トカゲは反応しない。方言(なまり)や時代がかった言い方、難しい言葉やことわざを理解することはできないのだ。


「……トカゲ。それがしの兄者は畜生にも劣る外道であった。人を殺し、肉にして亜人に振る舞って……余った金で育てられはしたが、感謝などしておらぬ」


 ミヅノはとうとうと話し続けたが、馬耳東風の言葉通り、文語が多めに含まれているうえにそもそも人間の言葉、まじめに聞くようなトカゲではなかった。


「――兄者は優しかったのだ。干物屋を継ぐ男には見えても、人を干物にするバケモノには見えなんだ。しかし、殺しには長けていて……止めようとて止められるほど強いそれがしでもなく、転化を果たすまでくすぶっておったわ」


 あっそ、という反応すらなく、かれは日向ぼっこを満喫している。


 数行にまとめてしまうと、兄が人殺しだったので怪物になって殺した→もともとの家業だった鍛冶屋を継いだ叔父が刀をくれた→武者修行に出た、という流れだった。


「アイテムボックスなる呪物のおかげで、車に積むような山ほどの刀を持ち歩けている。あの橙色の刀は軽い方、銀の刀にはそれがしですら持つに苦労するものもあるぞ」


 道具箱という名前だが、呪物としてのそれは「重みを保ったまま内容物を増やす」というすさまじい効果がある。1ドンというなんのことはない重量の箱にものを入れれば、形が合ったものしか入らず、当然入れた分だけ重みが増える。しかしアイテムボックスは、定められた重量までであれば無制限にものを入れることができ、内容物の重量と箱の重量に矛盾が生じても気にすることなく持ち歩ける。1ドンの箱に1ズドンの重量を入れようと、所持者が感じる重みは1ドンのままなのである。また、箱の大きさが半ルーケ四方であっても、2ルーケ程度の長い棒は平気で入ってしまう。


「む、どうしたトカゲよ」


 トカゲは激しく尻尾を振り、鱗を鋭く立てて地面へと突き刺した。


「離れ形見か。それがしの過去には感じ入ったと見える」


 とくに興味を持っていないが、追い払うには使えるかな程度の認識である。技術を盗むには礼が必要であろうとの思いも少しはあり、それは複雑ながら、相手を友として認めた証であった。


「……離れ形見を残すものは大成するという。それがしの刀の中でも、最高傑作と言われていたものにこれをはめておこうぞ」

「シィ……?」


 トカゲは、にわかに鱗を立てる。ミヅノの取り出した刀の放つ何かが、身震いするどころか敵意さえ感じさせるほどの冷感をもたらしたからだった。


「死骸を炉にくべるとよいものができる。なかでも亜人はもっとも良いそうだ。そうやって培ってきた歴史のなかで偶然できた最高傑作らしい……」


 どろりとした異形の力を感じさせる、清浄な銀色の刀である。


「柄の部分がな、こうして口を開けるのだ。こうしてはめ込むと、外側から見えつつ内側に収まる。しかも形は自在に合わせてくれるという不思議な力を持っている」


 脅威になるのではないか、とトカゲの本能は判断するが、それはすぐに上書きされる。将来の脅威ではなく、いま現在すでに脅威であり、そしてこの刀に立ち向かうほど愚かなこともない。刀が振るわれた瞬間にかれは二つに分かれ、血を噴いて絶命するだろう。刃気などというちんけな力が通用するほどの切れ味とは思えなかった。


 鱗を立てこそすれ、トカゲはまったく動けず、そのまま刀がしまわれるのを待つ。


「ずいぶんと恐れていたようだが、あれは意志持つ刀ではござらぬ。何かをはめ込むことで性質を引き出す、呪物を役立てるための刀にござる」


 何らかの性質を持つものをはめ込むことで、中間的性質を持つ銀色の刀身から色や形さえも変えてしまうという、恐るべき道具である。


「それがしはこれにて失礼。……この先に何かがいるようだから、注意するのだぞ」


 警戒するに困るような遠距離から、波のような感覚がゆったりと寄せては返していく。もっとも巨大であればあるほど移動速度は上がるため、この波が濃くなるごとにそれが近付いていることになるのだろう。トカゲは早急にこの場所から離れることにした。




『ほうほう、勘が鍛えられているようですね』

「アンデッドにはない機能だな……と冗談を言っている余裕はなかった」


『言ってるじゃぁありませんか』

「再確認のために口に出しただけだ」


 監視のために操られている小鳥さえ、術の支配を抜けて逃げ出そうとするほどの相手である。トカゲが三日はかかろうかという距離からさらに逃げようとしている事実から察せられる等級は――


『例のカマキリくんですか』

「見るに、知能を持っている……発話している。小鳥を通してでも会話をして、どうにか手懐ける必要があるな」


『転生者とはまた、厄介ですな。安定した暮らしを望むものが多いとか』

「ふむ? いい情報だな、ゾンバァロ」


 ゾンバァロは「いえいえ、いい死体が入るのを待っているのですよ」と濁った眼球を回しながら笑う。


「二体も転生者入りが手に入るとは、助かるね……。こちらの人手不足や素材不足をしっかりとカバーしてくれそうだ。ただ、それ以外の双命核入りは……こちらも注目したいものがたくさんいる」

『こちらはまともな死体が入らなくてね……。蠱毒のときは、またよろしくお願いしておきますよ。実験体が死んだら、こちらに連絡を入れてください』


 いいとも、と言っている顔はひどく嫌がっているが、じっさいタルクに拒否権などない。壮健な魔王は「戦力を増やせ」とそればかりを告げ、死体のひとつを解体して糧食にすることすら許さなかった。


 ゾンバァロの体が去っていくのを尻目に、タルクはため息をつく。


「まったく……。蠱毒での死体をそのままにしておくのは、怨念の蓄積という意味でも非常に有用なのだがな……」


 剱蜥蜴のような何かを蓄積していくモンスターが再びその場に現れたとき、怨念は多大な影響を与える。古い骨をかじってどうにか生き抜くといったこともまれにあり、基本的に蠱毒の後片付けはしないものなのだ。


「武勲を上げて王になった男といえば英雄視されるのはいいが、支配者気取りは困ったものだ……いつ予算を削られるやら、わかったものではない」


 若いころから数々の武勇を誇り、それが国一番に達した時点で彼は魔王になった。しかしながら統治の難しさは彼の能力を超えていたらしく、今でさえ魔将軍たちの補佐を必要としている。各部署の予算の節約をしながら戦力を増強する、というプラン自体におかしな点はないが、国力としてもっとも大きな国に戦争を仕掛けてくる集団などそうそうない。文化基盤や生活基盤など、ある程度の重要施設を整えたうえで国の発展を目指すのが常道のはずだった。


「ま、モンスター研究が既存の生物のみになるのは致し方なしとして……心配すべきはそちらではない」


 戦いに生きるものが増えれば、そのぶん国は逆に弱まっていく。文官を重んじない国はその体に振り回されて統治能力を失い、ばらけていってしまう。


「今さらふつうの暮らしになど戻れるものか。最高傑作をひとつ作ったからと満足して人生を終えるほど、おとなしい私ではないぞ……」


 長椅子に腰かけ今後の計画を練ろうとしたタルクのもとに、伝令の者が走ってきた。


「どうした? 王直々の呼び出しでもあるまいに」

「それが……! 王への挑戦者が現れました!」


 タルクは、にやりと笑った。


「ほう、それは面白い……」

 挑戦者は例のチートクソガキ。諦めろアホ、てめーじゃ敵わん(シーン丸ごとカット)。まああとでちゃんとやりますけど……いつになるやら。




「魔王国クソ化の流れ」


1、勇者とか名乗る不審者襲来。ウザい地方領主ぶっころは構わないけど王にまで飛び火、王さま死亡。何を勘違いしたんだろう。


2、文武両道じゃアカン、力こそすべて! つか人間強すぎなんで強いモンスターの力を借りる。勇者のクソ野郎は影響汚染まで残しやがって、マジくたばれ。


3、強いけど知能が伴わない王が即位し始める。勇者の汚染がクッッソ頑固すぎて掃除できないです、助けて……。あれ、あの王さまもしかしてヒトじゃない……?


4、もう汚染掃除すんの諦めるわ……王さまが正体を現し「魔王」を名乗り始める。なんでやねん。国の名前まで変わって、各国の領主が次々に正体を現す……もうあかん、オワタ。


5、なにもかもあの勇者のせいやんけ、クソが! 次ィ同ンなじようなモンが来たら即刻ぶち殺すからな、覚えとれやワレぇ!(号泣)


6、……転生者来たってマジ?(凶器を握りながら


7、あ、配下になるんやったら別にいいけど。うまいこと利用して後で憂さ晴らしに殺ったろ! ……あれっ、もう二人死んでた? ざまァみろ。

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