【閑話】悪役令嬢が悪役令嬢となるまで…
「はじめまして。わたくし、こうしゃくけのちょうじょ、しょこらともうしますわ」
プリン王子とショコラが出会ったのは5歳。
双方の両親が2人の婚約を結び、婚約者となった。所謂政略結婚である。
王子はショコラに冷たく、愛想がない。彼は5歳とは思えないほどに大人びていて、周りの手を焼かない子供だった。
「君がショコラか。ぼくのこんやくしゃのわりにははながないね」
ショコラの王子に対する印象は最悪だった。これは初対面の女性に言うような言葉ではない。幼いショコラでもそれだけは理解していた。
「ぼくはいずれこの国の王となるんだ。君はしょうらい、ぼくを支えるおうひにならなくてはいけないよ。君にできるとはおもえないけど、せいぜいがんばってよ」
ショコラは大人のようにスラスラと喋る王子の綺麗な顔が大嫌いになった。
いくら陽の光のような眩しい金髪でも、見る者が吸い込まれそうな深い茶色の瞳でも、好きになれないと思った。
「わたくし、あなたがきらいになりましたわ。でも、おうひになれるようにがんばります。おかあさまからもそういわれてますもの」
王子は残酷だった。
ショコラという婚約者がありながらも他の令嬢との交流の場を多く設け、それを諌めるショコラをそっけなく扱う。
両親に訴えても困った顔をされるばかりで改善されない。
「もう、嫌ですわ!」
分別のつく年頃になると、さすがのショコラも王子に愛想を尽かしてしまった。
「じゃあ僕にしとく?」
ショコラに声をかけたのは第二王子のゼリー王子。キラキラとした銀色の髪に角度によって七色に見える瞳。プリン王子に負けないくらいに整った顔立ち。
「いいえ。貴方の方が性格は良いですけど、私はプリン王子の婚約者なのです」
プリン王子と結婚し、王妃となるのは決定事項なのだから、どんなにプリン王子が嫌だとしても役目を全うするべきだとショコラは言う。
「それは残念だな。それで、君は兄さんのお気に入りってわけか」
ゼリー王子は肩を竦め、頑張れよ、と言い残して去っていった。
お気に入りって私は玩具か、とショコラは心の中て突っ込むが答えるものは無い。
「…私は、プリン王子の婚約者なのですわ」
幼いショコラは己にそう言い聞かせるように、ぽつりと呟いた。
…周りの期待に応えたかった。
…プリン王子に寄り添って国を豊かにしたかった。
…王妃として、自分に誇れる女性になりたかった。
…前世の記憶を思い出した今も、その気持ちは変わらない。
だけど、もう、無理だ!!
だって、中身は俺なんだから!男なんだから!
もともと、中身が生粋のご令嬢だったショコラもあいつのことたいして好きじゃなかったみたいだし…。むしろ嫌いだったみたいだし…。
でも、あんなに聡明であられた王子があんな女に騙されて感情のままに婚約破棄をするなんて、なんか悲しいな…。
「せいぜい、頑張るんだな…。俺がいなくても頑張れよ、プリン王子…」
読んでくださってありがとうございます!
プリン王子って、賢かったんですね…。
書いた自分でもびっくりです…。