31 パートナーは?
ハリのあるぴっちりとした太ももが、健康的なピンクな染まり、大きくあらわになっている。
豊かに育った大きな胸は、白いレオタードのような水着に包まれ、その艶やかさを魅せつける。
そして、細い長い五本の指先は――ガッツリと俺の首を締め付けている……。
「カズキぃいイイ……何なの、このゲームは!? また、あんた私を嵌めたわけ?」
「ちょ、待て……。このゲームの主催は生徒会と学園だろ……なんで、俺のせいなんだよ……」
生徒会および風紀委員会、さらには学園側をも参加して行われる今回の擬似パートナーゲームは、学園併設の温水プールで行われることになっていた。
そのため、ギャラリーとして多くの生徒が集まり、俺と法馬、そしてユキエの水着姿は多くの聴衆の目に晒されている。
「い、一ノ瀬さん。さ、さすがにこんな聴衆の前で、そんな堂々と暴力を振るうのはマズイって……僕だってどうしようもできない」
すぐ側の法馬が、オロオロと狼狽えるように、ユキエの行動を制止した。
ユキエは手を離し、腕を組んで頬を膨らませた。
ケホケホと咳き込んだ俺は、ユキエを睨みつける。
ユキエは、視線を合わせたくないと言わんばかりにそっぽを向いた。
その視界にギャラリーを認めたユキエは、一回渋い顔を作る。
足早にその場から離れると、プールサイドに控えていたマヤから、大判のタオルを受け取り、全身を覆い隠した。
悠然とした足取りを取り戻し、男二人を睨みつけたまま、その間を割って入るように立ち止まった。
「やあ、どうも皆さん。お集まりいただき、光栄です。今回は、新一年生に向けての擬似パートナーゲームへの参加、本当にありがとうございます」
スーツ姿を着込んだウサギ姿の生徒が、プールの床を革靴で高々と鳴らしながら現れた。
表情は分からないが、その声は明らかにジュンのものだった
ウサギの登場に、法馬はメガネ越しに眉根を上げた。
「確かに僕は、ゲームへの参加は認めた。だけど、こんな大々的だなんて聞いて――」
「ちょっと、どうなってるの!? 私には、こんなゲームだなんて一言も知らされてないんだけど!?」
法馬が言い終わる前に、ユキエはウサギに掴みかかり、その首が落ちそうな程に強引に振り回した。
ウサギのかぶり物が目を回しているのを見ていると、他人事とは思えず可哀想になってくる。
「今回のゲームは、生徒会主導というより、そのまま校長先生のお耳に入ったようでして、校長先生が直接許可されたモノなんです。ですから、一ノ瀬さんには――」
「校長――また、あの男。また、あの男が私をコケにしてるわけ……。あぁァァもう! ふざけんじゃないわよ! 早くあの変態をどうにかしなさいよ。生徒会は、何をしてるのよ、まったく!?」
「まあ、まあ、落ち着いてください、一ノ瀬さん」
ウサギは、怒り狂うユキエを必死になだめている。
怒りをウサギにブツケていたユキエは、突然くるりと振り返り、俺の方を見てニヤリと笑った。
「カズキ、これはパートナーゲームなのよ、わかってる?」
「ああ、もちろん分かってるさ」
俺は、ムスッとした表情で切り返す。
ユキエは余裕の表情のまま、緊張して直立する法馬の腕に自分の腕を絡ませた。
「私と法馬くんは、すでに今回のゲームでは、ペアになるって決めてあるの。カズキくんの、パートナーになってくれるような人はいたかなぁ~? 見当たらないんだけどなぁ~。それとも、偽装パートナーでも準備して来たのかしらぁ~」
やたらと厭味ったらしくユキエは、俺を見下す。
その横で、色んな意味でカチンコチンになっている法馬を、俺の目は捉えていた。
わかりやすい?
いや、むしろ分かっていたことだ。
法馬は、ユキエが好きなんだろう。
マジな話。
だから、俺に食って掛かり、俺につきまとい、俺にペナルティを下すことで常に横にいる、というより元凶であるユキエに会いに来ていたといえる。
ユキエのペナルティが全部俺に来ていたのは、完全に法馬の采配だ。
面倒にも程がある。
だが、男に興味のないユキエにとって、法馬はただのその他大勢にすぎない。
今現在だって、真横で身を引き締めている人物の動きなど、眼中にないのだろう。
俺を見下すことだけに全神経を使い、周りの状況などお構いなし。
頭に血が上ったユキエは本当に――騙しやすい。
「どうするの。パートナーがいないなら不戦敗? つまんないな~コテンパンにしてあげようと思ったのに。それとも、そこのウサギさんとパートナーでも組む?」
「それは、面白いですね」
ウサギは、ユキエの言葉に素直に返答した。
ユキエは驚き、その無表情のウサギに顔を向けた。
「な、何言ってんの、ジュン。あんた、そこまでカズキとベッタリなわけ……」
眉間にしわを寄せ、ウサギから顔を遠ざけるユキエは、毛虫でも見るように俺とウサギの顔を白い目で交互に見る。
なんだ、百合姫のくせに、BLは否定すんのか?
いや、まだその話は早いか。
ウサギは、自分の頭を両手でしっかり掴んだ。
頭だけを持ち上げ、ゆっくりとそのかぶり物を外していく。
静電気で張り付いていた細い髪がサラリと落ち、短く切りそろえた髪の毛が暖簾のように同じ高さで並ぶ。
幼く、その童顔を見ると、座敷童という言葉が非常によく似合うその顔。
俺が、忘れることのできない相手。
「の、ノノカちゃん!!!!」
悲鳴を上げたユキエの表情は途端に変化し、食い入るようにその姿を凝視した。
ノノカの頬が赤い。
ハニカムような柔らかな微笑を向けながらも、まだほんの少しだけユキエへの苦手意識が感じられるようだった。
「さて、組み合わせも決まったところで、ゲームを開始しましょうか」
ノノカの頭から外されたウサギのかぶり物が、ジュンの言葉を流し続けていた。




