27 決まってるだろう?
例えばの話だ。
大好きな近所のお姉さんに、とある事件の容疑が掛かり、とても親切な警察官が「お姉さんがどこに行ったか心当りない?」と尋ねられた場合、どう答えればいいだろうか。
大前提として、お姉さんの居場所は分かるとする。
俺は黙秘した。
幼いながらに知った言葉で、大事なことを口に出せない場合は、そうするのだと教えられていた。
困った表情を作った警察官は、俺の隣の小さな女の子に同じ質問をした。
女の子は顔を上げて、警察官を見詰めた。
丸い大きな瞳に、警察官の顔が映しだされていた。
女の子は、手探りで俺の手を掴んだ。
小刻みに震えた思いが、伝わって来る気がした。
意を決し、女の子が何か言おうとした時、俺はその子の手をぎゅっと握った。
ハッとして、女の子は俺の顔を見た。
そして、その子は【嘘】を付いた。
自分の姉は、どこどこにいる、と嘘を付いた。
親切な警察官は、姉の無事を思う妹の言葉を信じ、伝えられた場所を探した。
探し続けてくれた。
当然、お姉さんが見つかることはなかった。
数日後。
お姉さんは、俺達の知っている場所で発見された。
俺達の予想した通りの場所だった。
俺達が最後に見た制服姿のまま、俺達の知る場所で――吊るされている所を発見された。
俺はそれ以降、女の子が嘘をつくのを聞いたことがない。
彼女はまったく、嘘をつかない。
その声を使って、嘘を付く事は一度もない。
声を出すことがないのだから。
***
「僕の立場からすると、あまりこの件でカズキに協力することは良くないとは思ったんだけどね。僕個人として、非常に面白いことを知ることができたから、今回は特別に無料で情報を提供するよ」
依頼した出来事を調べ終えたジュンは、満面の笑みで俺に伝えてきた。
俺としては、とある関係があったかどうか、それを調べてくれればよかった。だが、それ以上の出来事をジュンは見つけたらしい。
「結論としては、カズキが予想した関係はあったみたいだよ。僕としては、その被害者が非常に愉快だけどね」
今でも思い出し笑いをしながら、体をくの字に曲げている。
なにがそんなに愉快なのか、俺にはさっぱりわからんが、まあいい。
「それで、カズキくん。なんで、私達はこんな所に呼び出されたの?」
少々不満気なマヤが、俺に問いかけてきた。
時間は、17時45分。
日頃使っている殺風景な通常教室に、俺達は集まっていた。
サヤ、マヤ、そして、カサネとジュン、そこに俺が加わり計5名となる。
通常なら、ここにユキエも追加され計6名となる所なのだが――俺が、いくらメールで呼びかけても返事がなく。マヤが電話を掛けても、俺が関係していると知るとすぐに電話を切られてしまったらしい。
マヤが少々、ご立腹なのもそれが原因だ。
う~む。
ジュンの言うとおり、フォローをしなかったのは不味かったか……。
気を取り直し、俺は顔を向ける。
「恐らく、ここが秘密を共有するのに一番安全な場所なんだよ」
「ここが? どうして?」
マヤは信じられないという様子で、見慣れた教室に何度も視線を走らせた。
「秘密の会議とかを開くなら、防音の自習室があるじゃない。そこじゃダメなの?」
「あそこは一般の生徒に秘密にするのなら問題はないんだろうがな、情報を採取できるような上の奴らには、筒抜けなんだよ」
俺はわざとらしく肩をすくめ、ジュンを横目で見た。
「例えば、百合姫のユキエが、俺を出し抜いてノノカに手を出そうとしているだなんて、一般の生徒が知ったらドン引きのことをだ。まるで以前から知っていたかのように、トイレで平然と話題に載せてきたりしてな。あれは、確か自習室での出来事だったはず。そう考えると自習室は、安全な場所とは言いがたい」
ジュンは、少々驚いた表情を作り「おやおや」と小声でつぶやいた。
「それに以前、俺は、ノノカにこの場所に呼び出されたことがある。その時、俺は、この教室で不意に顔を撮られたんだ。だけどな、ある人物は、その事実を知らなかった。まったく、的外れのことを言っていた。ノノカの奴が、理由もなく俺をこんな場所に呼び出すとも思えないしな。きっとここは、安全地帯であると教えるために、呼び出したんだと俺は思ってる」
ジュンは難しい顔を作って、腕を組んだ。
にこやかな表情は鎮まり、俺の言葉の真意を探ろうと、口をへの字に曲げている。
マヤも、言葉の意味を理解できず、首をかしげた状態だった。
「だから、この秘密の安全地帯で、いったいなにを話すのよ!?」
「そりゃ、決まってるだろう?」
俺は、ニヤリと大きな笑みを全員に披露した。
「恋愛ゲームの必勝法だ」




