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17 どこへ行く気だ?

 早いもので、ユキエの護衛(カバン持ち)をやらされて、2週間が過ぎた。

 まだ5月の頭にもかかわらず、初夏の装いを感じさせる天気が、俺達をジリジリと焼いている。

 あれから救済企画は行われることはなく、俺はポイントを細々と消費し、なんとか生活を維持していた。

 ユキエがなぜ俺を護衛(カバン持ち)などという名目で、連れ歩く必要があったのか。

 その理由も、この二週間で理解できた。

 学園主催の『ラブレターゲーム』が開始される前から、顔だけ・・には恵まれてるユキエは、多くのラブレターを受け取っていたようだった。

 その返事を俺が用意した文面を使ったもんだから、中には勘違いした生徒が、ユキエにお近付きになろうと襲ってくる機会が度々あったようだ。

 持ち前の暴力で彼らを確実に粉砕するユキエであったが、当然校内での暴力はペナルティに属する。

 そこで、俺という替え玉が必要になる。

 ユキエに付きそう騎士(下僕)である俺は、暴力で発生するペナルティの身代わりとして機能するのだ。

 悶絶している生徒を見つけ風紀員が飛んできた場合、その凶行は俺がやったものだと判断される。

 俺は、どうも人から自然に勘違いされる特性を持っているらしい……。

 確かに、見た目お嬢様であるユキエに比べれば、一般生徒である俺が暴力を振るったと考えた方が自然に見えるのであろう。

 そういう事にしておく。

 俺としても、ユキエと一緒にいることがまったくの不利益というわけでもない。

 ユキエがノノカを襲わないか心配するより、俺がユキエを監視できる位置に常にいれば問題を事前に察知することが出来る。

 これは、非常に有益なことだ。 

 ついでに加えるとしたら、ペナルティを受けるという事自体、実は意味がある。

 俺に、ペナルティを科すのは常に法馬の役目だった。

 ヤツはいつも絶妙なタイミングで現れ、俺にペナルティを科して去っていく。

 ユキエも初めこそ嫌っていたものの、話のわかる相手と認識して以来、アイツの登場に違和感を持たなくなったようだった。

 こちらとしても、法馬にペナルティを払うという約束を守ることができるので文句はない。

 ただ、常にヤツに監視していると思うと居心地がいいものでもないが……。


「お前さあ、自分より背の高い男は苦手だって言っておきながら、全然問題ねぇじゃねえか」

「ああ、あれね。なんでかしら、自分のペナルティじゃないって思うと、自然と怖くないのよね」


 輝くばかりの笑顔を、ユキエは振りまいていた。

 俺は要らん自信と優越感を、ユキエのヤツに植えつけてしまったのかもしれん。

 廊下を歩いているだけで、最近は校舎を取り巻く空気が変化しているのに気付く。

 ぎこちない視線で会話をする男女が、急増しているのだ。

 一部では、手を繋いで歩くカップルもいる。

 初々しさを感じさせる可愛らしい光景だが、『健全な男女交際』というお題目を守るため、その関係はどこか常にピリピリした様子がある。

 見ているだけで、胃に穴が開きそうだ。


「最近、男女のカップルが増えてきたわね……」


 ユキエがボソリと俺に耳打ちしてきた。

 校内の雰囲気を感じ取り、ユキエも同じ事を考えていたようだった。


「ゲームの効果が出てきたんだろ。とりあえずカップルになっておいた方が、後々面倒がなくていいと思うからな」

「やっぱり、そうなのかしら。でも、なんか気持ち悪いのよね。どうして、女同士じゃ駄目なのかしら……その方が絶対キレイなのに」


 とりあえず、お前の価値観で世界は動いていないからな。

 常に頭のなかに百合の花が咲いているお前の世界に、この学園の生徒は入ることはないだろうな。

 絶対に。


「俺らの仲間内でカップルになってるのって、カサネとサヤぐらいだよな? ジュンとマヤは、なんでカップルにならないんだ? お前の計画では、その組み合わせで良いんだろ?」

「当初の予定ではそうよ。でも、なぜかあの二人距離を置いてるのよ。どうせ偽装パートナーなんだから、登録だけでもしておけばいいのにね」


 ユキエのヤツも、理解に苦しんでいるようだった。

 ユキエの提案した偽装パートナーにいち早く賛同したのは、ジュンだった。

 アイツ自身、ユキエも、サヤ・マヤも有名人だから問題ないと乗り気だったはずなのに、カップルになる様子がない。

 別のクラスだから一緒にいる時間が少なくなるのは仕方ないにしても、ジュンとマヤがカップルになるのは問題ないように思える。

 ジュンが他の女生徒と一緒にいる気配もないし、躊躇する理由がわからない。

 

「マヤは、『あたしの問題だから気にしないで』とか『大丈夫。そんなことより、ユキエはカズキくんと、しっかり愛を育んで』とか、分けのわからないことを言っているのよ。私とカズキが愛を育むだなんて、正気じゃないわ……。頭どうかしちゃったのかしら……」

「……そうっすね」


 否定する理由もないので、同意はしておく。


「ジュンくんは、何か言ってないの?」

「特になんにも。不必要な事はたくさん話すくせして、自分のことはさっぱりだな。『恋人を作らないのか?』って聞いても、『今は時期じゃない』の一点張り。マヤに興味がない、ってわけではないようだけどな」

「そっか。ふたりとも草食系なのね」


 ユキエが、若干的外れな感想をポツリと漏らしいる。

 ユキエのカバンを引きずりながら、俺達はやっとエントランスまで辿り着いた。

 今日の授業はもう終わりだ。

 この糞重たいカバンを、女子寮まで運べば俺の仕事は終わる。

 

「私、今日は用があるから、先に帰っていいわ。いつも通り、カバンは寮に戻しておいてね」

「へいへい。――っていうか、お前はどこに行くんだよ?」


 俺の質問に、ユキエは口を尖らせた。


「いいじゃない、そんなこと」


 良くないね。お前が、ノノカを襲わないとも限らん。

 俺が不服そうな表情を作っていると、ユキエは少し間をおいて


「委員会に行くだけよ」


 と、漏らした。

 腕を組み、頬をふくらませている。

 なんだ、なにがそんなに気に喰わないんだ、お前は?


「へぇ~お前、委員会なんかに所属してたのか。何委員だよ?」

「それは……」


 そこまで突っ込まれてユキエは、目を泳がせた。

 頬がほんのり赤味を増し、「む~」と唸り声を上げている。


「そ、そんなこと、どうでも委員会! な、なんちって……」


 額に汗をかきながら、ぎこちない笑顔で冗談めかした。

 さむっ!

 俺の周りが一瞬にして凍りついたのは、言うまでもない。


「お前、大丈夫か? お前こそ、頭おかしくなったんじゃないか?」

「うっさいわね! あんたには関係ないところよ! とっとと、カバンを運んで帰りなさい!!」


 赤面にして怒鳴ると、ユキエは猛ダッシュで逃げていった。

 めんどくせー。

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