外出? それなら田舎に泊まろう!
影は陽菜や月歩と同じか、少し小さい位の背丈だった。
子供だろうか。
油断は出来ない。
あの山姥の子供かも知れない。
「止まって」
陽菜の言葉で影は止まった。
お互いが動かずに止まっていると、痺れを切らして影が言った。
「君達は……」
やはり自分達と同じ位の子供の声だ。
そして意外な程優しい声音だった。
その優しい声に勇気付けられた様で、後ろに下がっていた月歩が陽菜の隣に立った。
「私達は森の向こうの旅館から来たの」
「森の向こうの旅館?」
不思議そうに首を傾げる影に敵意は見えない。
安心した陽菜は影を呼んだ。
「そこじゃ、暗くて顔が見えないから、こっち来て」
影が進み出ると、土に汚れているが涼やかな顔が現れた。
二人は現れた人物が女だと思った。
中性的な顔立ちや肩口まで伸ばした髪の毛がその判断材料で、汚れて色褪せた着物を着ていて服装で判別し辛かった所為もあった。
自分達と同じという安心感が二人の肩の力を抜いた。
「僕は庄太。君達は? どこから来たの?」
「え? あんた男?」
「そうだけど、なんだよ。別に良いだろ。それで、君達は?」
女の子だと思っていた庄太が男の子だったと知って、何となく二人は顔を見合わせた。
そして陽菜がおずおずと答えた。
「私は陽菜」
「私は月歩」
「あたし達はあの森の向こうの旅館から来たの」
すると再び庄太は首を傾げた。
「あの森の向こうに旅館なんてあったかな?」
「あるよ! 泊まってたもん!」
陽菜は信じてもらえずにむっとしかめっ面を作ったが、一方月歩は知られていない程遠くに来てしまったんだと怖くなった。
日の光がどんどんと少なくなっていく。
これからどうしようかと陽菜も月歩も心細くなっていると、何故か庄太も思案気に下を向いて、ちらちらとこちらを盗み見ていた。
「何?」
「あ、ううん、それでもう帰っちゃうの?」
「帰れなくて困ってるの!」
「もう夜になっちゃうし」
落ち込む二人を見て、庄太の顔がぱっと華やいだ。
驚いた二人に向かって、庄太は夕暮れに沈む民家の中でも一際大きな家を指差した。
「僕の家はあそこなんだ。良かったら泊まっていきなよ」
どうしようかと月歩が陽菜を見ると、陽菜も月歩を見つめていた。
夜の闇の中を帰る手段は無い、夜を越す手段も思いつかない。
二人が無言で見つめ合いながら、段々と庄太の言葉に惹かれ始めた時に、突然二人が走り抜けてきた森から草の鳴る音が聞こえた。
見ると、さっき見た山姥がのっそりと現れてこちらへと向かってきた。
陽菜と月歩が逃げ出そうとしてやっぱり転んだ時には、庄太の方からその山姥に近寄っていた。
「ばあちゃん」
ばあちゃん? と頭の中で疑問符が浮かべた二人を余所に、庄太とおばあさんが話し始めた。
「どうしたの?」
「山ん中で狸の皮を取って来たんだよ、捧げ物に。そんな事より庄太、何こんな所で道草食ってんだい」
「あ、そうだ。あそこの二人が帰れなくて困ってるんだ。泊めてあげようよ」
「あそこの二人?」
山姥にじろりと見られて、二人はたじろいだ。
やがて山姥は腰を抜かす二人にすきっぱの笑顔をくれると、庄太に向き直った。
「何処の子だい?」
「分かんない。この森の向こうの旅館に泊まってるらしいんだ」
「森の向こうに旅館? あたしゃ聞いた事無いよ」
「うん、俺も」
「もしかしてよっぽど遠くから迷って来たのかも知れないね」
「うん、だから」
「あたしは良いから、早く家に案内してあげな」
「うん、ありがとう、ばあちゃん!」
庄太は二人の傍に駆け寄って二人に手を差し出した。
二人が手に捕まって立ち上がると、庄太は道の先に立って手招いた。
「ばあちゃんの事なんかほっといて良いから早く行こう」
「庄太、あんた後でお母ちゃんに怒ってもらうからね」
「ごめんなさーい」
笑いながら歩き始めた庄太の後を二人は少し躊躇してから追い始めた。
日が沈もうとしている。
辺りはすっかり夜になっていた。
風の鳴る音に混じって、何処からか遠吠えが聞こえてくる。
微かに吹き抜ける冷たい風は土と灰の匂いが入り混じっていた。
どれもこれも初めての感覚だった。
たった一つ、やけに星の多い夜空だけが昨日旅館で見た星空と全く同じで、自分達が同じ星に居る事を知らせていた。
庄太は嬉しそうに、二人は暗い夜道に気を付けながら、一番大きな家を目指して歩いて行った。
「二人とも良い服着てるけど、都の商人の家柄なの?」
「少なくともあたし達が住んでるのは田舎で都会じゃないけど」
「商人? なのかな? お父さんの仕事って良く分からないけど」
「自分ちの仕事知らないの?」
「うん」
二人して頷いたのを見て、庄太はへえと息を吐いた。
「本当のお金持ちの家ってそういうものなんだなぁ」
「陽菜はともかく、私は違うよ」
「それにこの服は旅館で借りた物だもん。あたし達のじゃないよ」
庄太はそれでもきっとこの二人は良い家柄の生まれなのだろうと、二人の仕種や喋り方を見て思った。
ふと月歩の事を見て、自分の生まれを残念に思う。
「へえ、大きな家だね」
陽菜の声に庄太ははっと顔を上げた。
既に三人は庄太の家の前に着いていた。
庄太が慌てて家の中に入ると、両親が囲炉裏を囲んでいた。
「ねえ、お客さん来てるんだけど良い?」
「はぁ? 何言ってんだ?」
「道に迷った人が二人居るんだよ。泊めてあげようよ」
「危ねぇ人じゃねぇだろうな?」
「大丈夫だよ。二人とも子供だから。ばあちゃんも良いって言ってくれたよ」
「あー、そんな等俺は別に構わないと思うんだが……」
急に歯切れが悪くなった父親が、今まで黙っていた母親を見た。
二人の視線を受けた母親は「良いわよ」と言って笑った。
庄太が喜び勇んで外に出て二人に泊まれる事を伝えると、陽菜は手放しでそれを称賛し、月歩は無表情でお礼を言った。
二人が上がると、囲炉裏を囲む庄太の両親の眼が丸く開いた。
何か不味かったのかと驚いて立ち止まった三人の前で、父親は庄太をちょいちょいと手招いた。
「どうしたの?」
「お前、まさかあの二人、どっかのお姫さんじゃねぇだろうな?」
「違うと思うけど。都のお金持ちみたい」
「お前、こんなむさっ苦しい所で大丈夫か?」
「え?」
そう言われて庄太が自分の家を見回してみれば、木組みの古ぼけた部屋が蝋燭幾本と薪の火で明るんでいた。
確かに、庄太の想像する都の家の様な光り輝く煌びやかで鮮やかな雰囲気とは程遠い。
これは大変だと陽菜と月歩の所に翻り、こんな所で大丈夫か聞いてみると二人はあっさりと答えた。
「あたしは良い所だと思うけど?」
「泊めてもらえるだけでも嬉しいし」
飛ぶように父親の元に戻ると、陽菜と月歩の言葉を聞いていた父親は母親を見つめ、その頷きを貰った後に、陽菜と月歩に声を掛けた。
「あー、お二人さん、まあむさ苦しい所ですがどうぞ。こっちの火の方に」
そう言われて、二人が草履を脱いで上がると、突然入り口の扉が開いた。
おばあさんが何か赤に塗られた桃色の物を掴んで入ってきた。
「ああ、さっきの二人か。どうぞどうぞ。そんな所に居ないで、早く火の傍であったまんな」
おばあさんは二人が自分の持っている物に注視している事に気が付いて、高く掲げた。
「今、狸持って帰って来たから。今日の晩飯は狸汁だよ。直ぐにあったまっからな」
二人はおばあさんが持っている桃色の物体が狸の肉塊だと知って、陽菜は悲鳴を上げ、月歩は後ずさった。
「都の人は狸も見た事無いんだなぁ」
庄太の一家は四人とも全く同じ事を言った。
煮込まれる狸汁を前にして陽菜と月歩は黙って座っていた。
二人に遠慮してか、庄太の家族も口を聞かずに座っている。
母親だけは席を外して何処かへ消えていた。
やがて煮込み終わって、父親が「出来ましたので、どうぞ」と言った。
躊躇していた陽菜と月歩だが、やがて腹の空きに堪えかねて箸を付け出した。
それを見て、庄太の家族は安堵の息を吐いて、ようやく重苦しい雰囲気が和らいだ。
狸汁を食べていると、母親が戻って来るなり言った。
「客間があるから、今日はそこに泊まりな。今、布団敷いて来たから」
「ありがとうございます」
「二人は何処から来たんだい」
「森の向こうの旅館から」
それを聞いて、夫婦も庄太と同じ様に首を傾げた。
この一家は誰も旅館の事を知らない様だった。
「森の向こうに旅館なんて聞いた事ねぇけどな」
「きっともっと遠い所から迷って来たに違いないよ」
「でも、森を抜けてきたなんてねぇ。只でさえ危険なのに何だって」
夫婦とおばあさんはしばらく唸っていたが、やがて父親が代表して陽菜と月歩の二人に話を聞く事になった。
「ちょっと道に迷った時の事、おじさんに話してくれっか」
「旅館から出て、森の中を通って、それでずっと歩いてたら家があって、中にそこのおばあさんが居て、びっくりして逃げて来たら、ここに着きました」
おばあさんは驚いて噛んでいた物を飲み込んで咳き込み始めた。
母親にその背を撫でられながら、しばらく咳をしていたが、やがて治まると食いかかる様に聞いた。
「あん時のはお前等だったか」
「えっと、はい」
「なんであの時声掛けてくれんかった。そしたら旅館に帰るにしてもこの村に来るにしても連れてってやったのに」
「だって、ねぇ」
「うん」
二人はしばらく言いずらそうにしていたが、不審げな目に眺められて結局は白状した。
「山姥だと思ったから」
「うん、包丁持ってたし、血が飛び出たし、山姥だって」
それを聞いた瞬間、おばあさんを除いた庄太一家は大声を上げて笑い出した。
「そりゃあ、息子の俺だって山ん中で包丁持ったばあちゃん見たら気絶するわ」
「むしろ良く腰抜けずに逃げられたねぇ。偉いよ二人とも」
おばあさんはそれを一睨みすると、ずいと陽菜と月歩に顔を寄せた。
山小屋よりも遥かに明るい中で見るおばあさんの顔は山姥には見えなかったが、それでも半分だけ陰り、顔中の皺に影の浮いた顔で近寄られるのは、二人にとって恐怖以外の何物でもなかった。
「あたしゃね、別に山の中で子供を取って食おうなんてしてないよ。今度のお祭りの時におったな様に捧げる捧げ物を捕まえてたんだ」
息をするのも忘れた二人が何も言えずに黙っていると、おばあさんはふっと息を吐いて離れて行った。
解放された二人も安堵の息を吐いた。
月歩は気になる言葉を聞いて、何やらしょんぼりしているおばあさんに聞いた。
「おったな様って何ですか?」
「おったな様っていうのは山の神様さ。明後日おったな様のお祭りをやる時に、動物の皮を捧げなくちゃならないんだ」
「おったな様っていうのはね、何時もは田んぼを豊かにしてくれるんだけど、子供が大好物で山で子供が迷うと攫っていってしまうの。だから年に一度、二人が迷った山の森で、そのおったな様に動物の皮を捧げて子供を連れて行かない様にお願いするんだよ」
「その日だけは子供は山に行っちゃいけないんだ。特にお祭りをする夜は外も出ちゃ行けなくて僕達子供は暇なんだ」
「まあ、昔っからの風習だけど、本当に信じてるのなんて年寄り位だけだな」
「ふん、祭りをやらなかった年は子供が良く消えたりしたもんだ。やらないよりやった方が良いに決まってるさ」
おったな様というのは怖い神様の様だった。
自分達も山の中で迷っていたのだから、他人事ではない。
月歩達が山の中に迷っていたのに連れて行かれなかったのは、ここの人達のお蔭という事になる。
「ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
月歩が頭を下げたので、陽菜もその意図に気が付いて頭を下げた。
庄太の家族達はそれをおったな様について教えてもらった事に対する礼だと思って面食らった。
「いや、別に、そんな、なぁ、胡散臭い神様のおとぎ話を離しただけで、そんな感謝される様な事を話した覚えは」
「都会の子は礼儀正しいねぇ。庄太、あんたも見習いな」
「お母ちゃんの言う通りだよ、庄太」
一頻り恥ずかしがる父親、感心する母親とおばあちゃんを尻目に、庄太は呆れた様子で遅々として進まない話を元に戻した。
「それで、結局父ちゃん達はその旅館の場所分かったのかよ」
照れから引き戻された父親は、申し訳なさそうに首を振った。
「二人は今日旅館を出たんだろ?」
「はい」
「それならそんなに遠くには来てないはずなんだが、全く分からんなぁ。まあ、とにかく明日は近くの村の奴等と集まるし、その時に聞いてやっから。場所さえ分かれば、後は馬でも馬車でも使って、その日の内に返してやっから。な?」
宥めようとして猫なで声を出す父親に、二人は頭を下げた。
どうやらあまり雲行きは良くなさそうだ。
しばらく帰れないかもしれない。
一人でなくて良かったと、お互いがお互いの存在を頼もしく思っていると、母親が明るく言った。
「二人のお父さんとお母さんも一緒に旅館に居たんでしょ? 二人が居なくなったのに気付いて、今頃探し始めてるよ。旅館の場所は分かんなくても、そういう人達が見つかればその人達に付いていけば良いんだから」
その言葉を聞いて、二人は顔を見合わせた。
陽菜は表情を硬くし、月歩と同じ様な無表情になっていた。
「どうしたの?」
「今、私達家出してて」
「家出? どうして?」
「あたしが、許婚が嫌で、それで……」
言葉の続かなくなった陽菜を元気づける様に、母親が父親を顎でしゃくって言った。
「はあ、成程ね。分かるよ、親に決められた結婚て嫌なもんだよ」
がっくりと項垂れた父親と憮然とした顔をするおばあさんを無視して、母親は陽菜の傍に寄った。
陽菜が顔を上げると、母親は笑ってその頭を撫でた。
「でもね。結婚してみると意外と楽しいんだわ」
はっと顔を上げた父親を無視して、母親は正座をして陽菜の瞳を覗き込んだ。
「勿論。人それぞれだよ? 相手の顔は?」
「見てないです」
「うん、じゃあ、不安になるのも分かるよ。相手の事を何にも知らないんだからね。私は顔は知ってたけど、最初に決まった時はあのゴリラかと思ったもんさ。相手もいないのに駆け落ちまで考えたよ」
「それでも結婚したんですか?」
「うん、断れなかったっていうのもあったけど」
一瞬、母親は何かを思い出す様に遠い目をした。
色々と思うところがあったのだろうと、陽菜と月歩がその寂しそうにも見える表情を見てかわいそうに思ったが、次の瞬間、母親はくわっと快活で凶暴な笑みを作った。
「どうせならね、私が頂点に立とうと思ったの!」
「頂点?」
「そう! あの人はこの村の村長でね、当時は村長の息子であたしにべた惚れだったわけさ」
二人が父親を見ると、恥ずかしいやら何やら良く分からない表情を浮かべて、こちらを見ていた。
「それで、どうせ好きな人も居なかったし、断れないなら相手を家来にして、自分がこの村の一番になろうと思ったの」
「それで、どうしたんですか?」
「んー? 今、この家の一番は私だし」
それを遮る様におばあさんの声が上がったが、
「ちょっとあたしはあんたに負けた覚えはないよ」
「じゃあ、明日から家事やりませんし、お世話もしませんから」
という言葉で封じ込めて続けた。
「この家は村で一番だから、実質この村での一番は私なの。誰もこの村で私に頭が上がる人は居ない訳よ」
母親は実に楽しそうに笑い、父親は恥ずかしそうに、おばあさんは大きく、子供の庄太は呆れた様で、みんなが笑った。
その光景はとても楽しそうで、二人にはとても羨ましかった。
「実際ね、結婚してみたら意外と楽しいもんだよ。許婚って位だから相手は良いとこの人なんでしょ?」
「はい」
「なら良いじゃない。えーっと、ごめんね、名前は?」
「陽菜です。あっちは月歩」
「うん、陽菜ちゃんは嫌で嫌でしょうがないみたいだけど、案外良い人かもしれないよ? うちの人でさえ一緒に住んでみたら中々楽しかったからね。それにもし悪い人だったら、追い出して家を乗っ取っちゃえばいいんだから」
陽菜は笑った。
月歩も無表情だが心の中では笑っていた。
おばあさんもそれに続いて、
「女っていうのはね、家を切り盛りするお殿様なんだ。男は馬鹿だから自分が一番だって勘違いしているけどね。あんまり馬鹿が過ぎる様なら尻引っ叩いて追い出しちまえば良いんだよ。この世界は女の為にあるのさ」
とお尻を叩く真似をしたので二人は笑い、父親が参ったなと言って避ける振りをするのでそれでまた笑い、楽しい気持ちのまま夜は更けて行った。
朝は二人が驚く程早い様で、その為寝るのも二人のいつもよりずっと早かった。
蝋燭に照らされた客間で二人は敷かれた布団に入り込んだ。
木の板で塞がった窓からは何も見えないが、その向こうから風が聞こえてくる。
虫の音でもと期待した月歩には少し残念だった。
「月歩」
「何?」
陽菜に名前を呼ばれてそちらを向くと、陽菜は向こう側を向いていて蝋燭に照らされた後頭部だけが見えた。
しばらく見ていたが何も言う気配が無い。
みしみしと風に揺れる家の悲鳴がやけに大きく聞こえてきた。
更に待って、もう寝てしまったのだろうかと月歩が考え始めた頃になって、ようやく陽菜の声が聞こえた。
「ごめんね」
それだけ言って、陽菜は掛布団を思いっきりかぶってしまった。
月歩は陽菜から眼を逸らして掛布団を跳ね除け立ち上がり、出来るだけ陽菜の方を見ない様に蝋燭に近付いた。
「蝋燭消すね」
返事は無かったので、蝋燭を吹き消した。
辺りが暗くなった。
風の音に紛れて、すんすんと何かを擦る様な音が聞こえてきた気がした。
月歩はその音が聞こえない様に、出来るだけ音を立てて布団に潜り込んだ。
「大丈夫だよ。私、楽しいよ」
そう言って、聞いてはいけない音を聞かない様に、月歩はさっきの陽菜と同じ様に布団をかぶった。
それでも布団の向こうから風の音が微かに聞こえてきた。
それに紛れてほんの微かに、本当に聞こえたかどうかも分からない声も聞こえた気がした。
「ありがとう」
月歩は布団の中でぎゅっと布団を掴み、出来るだけ早く寝ようと力を込めた。




