【第六話】橘さんは森で今日の脳内復習を行うようです
oo6
腕時計の時刻は十九時二十分。
第一の太陽はすでに地平線から姿を消し、第二の太陽も山の稜線に掛かろうとしているが、この世界の空は明るい。
地球では考えられない数の星々が空へ彩りを与えている。
異世界へ迷い込んで色々な事が起きたけれど、お腹もふくれたしちょっと情報を整理しよう。
まずは、魔道士を自称する人物。
その正体は、科学を信奉する絶対科学主義者と自他共に認め、自分のことを物理魔道士と自称するお祖父ちゃんに間違いないと思う。
ボクがこの世界に飛ばされることを、どうやって想定したのかしら? 正直、さっぱりわからないけれどボクが遭難する以前に、何らかの手段でこの異世界へ来て<シメルト>様とコンタクトを取り、ボク宛に伝言を残したと? 普通に考えたらあり得ないよねこんなこと
お祖父ちゃんは、大天才だから何を考えてるか理解できないし、ボクが異世界に飛ばされた理由も情報が足りないから何も解らないし、とりあえず保留でいいのじゃないかな。
三つの知恵をボクに与えてくれた事に感謝して、この世界でどうやって生きてゆくか考えないといけない。
焚き火に枯れ枝を追加して、薬缶で沸かしたお湯を【希なる翡翠結晶の雫】の葉を一枚入れたカップに注ぎ即席の薬草茶を飲んでみる。
「あ、これすごく甘くておいしい」
ポン♪
「【希なる翡翠結晶の雫】の薬湯は、解熱鎮痛に胃腸を癒やす以外に、茶としての飲用も楽しめるが、葉をそのまま一枚使うのは贅沢な使い方であるな。 まぁ疲れたときには丁度よい」
お茶っ葉を持って来てなかったので、図鑑の内容を思い出して飲んでみましたがおいしいですねコレ。 できればカフェインが効いたコーヒーを飲みたいですが、この森では手に入りそうにないですよね。
ポン♪
「カフェイン? コーヒー? そなたの書庫で調べるのでしばし待て」
コーヒーのことであれば「珈琲の世界史」か「コーヒーが廻り世界史が廻る」辺りの書籍が参考になるかと思います。 ボクが住んでいたフランスでは、チコリという花の根を煎じてコーヒーの代わりにしていましたね。
ポン♪
「待たせたな。 コーヒーの様な作物は、我が知る限りこの世界には無いな。 そなたのいうチコリか? 煎じた根を使う茶は、この世界でも一般的に飲用されているな。 コーヒーがどのような味かが解らぬが、この森にいくつか茶として使われる植物があるから明日の採取で案内しよう」
それは明日が楽しみですね。
さて、お茶を飲みつつ今日のことを整理しよう。
ポン♪
「我は、そなたの記憶の宮殿に籠もっておる。
ゆっくり考察をたのしむがよかろう」
ありがとうございます。 <シメルト>様の配慮に感謝というかボクの記憶の宮殿で、地球の知識を存分に楽しむ気だよこの神様は……
好奇心と知識欲にあふれたボクの神様に、半ばあきれつつも考察を続けよう。
三つの知恵【解析】、【分析】、【知識の図書室】 そしてこれらの知恵を扱う際に出てくるHUD画面。 <シメルト>様との会話もHUD表示で出てくるけどHMDを装着していないのに何故表示がされるのか?
ボクの世界で仮想現実の体験、仮想ディスプレイによるコミュニケーションを行う方法は大まかにふたつある。
ひとつがスマートフォンの画面やHMDを装着する方法。
これで仮想デスクトップ、ウィンドゥ、仮想端末を使うことが出来る。ボクの世界ではごく一般的な手段として普及している。
ボクが遊んでいたヒグマ・スレイヤーズシリーズもHMDで体験できる狩猟MMORPGで、大抵のゲームはHMDで遊ぶことが出来る。
そしてもうひとつの方法が、軍事、医療、教育といった分野で利用されつつあるナノマシン投与による仮想現実体験。
ナノマシンの投与は、軍事の分野で活発に利用がされているが、民間では医療と教育分野以外での投与は厳しく制限されている。
ボクも利用している教育用ナノマシンは、日本では2005年から7才以上の児童へ学業支援、児童保護の目的で採用されているが、児童の心身へ与える影響に対する安全への配慮という名目で、十八時間で体外から排除される。
ゴールデンウィーク期間中は、教育用ナノマシンの提供はされていないので、ボクの体内にナノマシンは無いはず。
けれども、ボクの視界にはHUDが表示され、本来はゲームがインストールされたHMDを装着しないと見ることが出来ないヒグマ・スレイヤーズの画面が出てくる。
普通に考えて、ボクの視界に仮想画面が出ることはあり得ない。
ボクの体内にナノマシンが存在する可能性は?
心当たりがあるとすれば、ボクは染色体とホルモン分泌に関する難病に罹ってて、その治療に三年間ナノマシン投与を難病治験対象として受けたことがある。
ボクのお婆ちゃんがロボット工学、特にナノマシンの開発分野で最前線に立つ人だからコネも使ったと思うけれど、投与が認められて治療が行われた。
しかし治療は快癒に向かったとは言え、完治したとは言えない状態で治験期間が終了した。
ボクのことになると極端に心配性になるお祖父ちゃんとお婆ちゃんの事だ、色々な立場を利用して病状の観察名目などで、ナノマシンの除去がされていなかったら? 除去されずボクの体内でナノマシンが働き、治療とナノマシンのアップデートが行われていたら?
病院には月に一回通院しているけど、ナノマシンの投与は受けていない。
それでもお祖父ちゃんの協力があれば、自宅でボクに気づかれること無く投与が出来たかもしれない。
本当のところは解らないけれど、実際ボクの体内のナノマシンが三つの知恵を与えてくれているのだろうと思う。
薬草茶のおかわりをと、お湯を注いで、リュックからナッツとスティック羊羹をひとつ取り出しておやつにして三つの知恵について考えてみよう。
ボクの体内にナノマシンが【解析】、【分析】のために、ボクの体内から出たナノマシンが作業を行っていると? 医療用ナノマシンで出来る芸当ではないよねこれ。
お祖父ちゃんの伝言に、距離が近いほど観測精度が上がると書かれていたけど、ナノマシンの行動範囲と集めた情報の伝達速度が、関係しているのではないかな?
軍用ナノマシンは、戦域情報収集とデータ同期も行われると聞いたことがある。
けれども医療用であればこんな機能は無いと思う。
それに未知の物質へ対する解析と分析能力。 植物に対しては<シメルト>様のサポートがあるとはいえ、魚の解析と分析で得られた内容は、<シメルト>様からの情報では無くボクの能力で得られたモノだとしたら、その能力はとんでもなく高性能ではないのかな?
試しにウエストポーチから単眼鏡を取り出して、沢の対岸の木にとまっている鳥っぽい生物を見てみる。 意識を集中して見てみるがHUDに表示は何も出ないから、あまり遠くの目標の観察では分析と解析は働かない様だ。
ポン♪
「よく気がついたな。 そなたの推察の通り、そなたに与えられた【希なる翡翠結晶の雫】などの情報は、最初にそなたの能力が解析と分析を行い、その内容を我が確認し情報を整理して伝えていたのだ。 魚について殆ど情報は提供していない。 そなたの能力によるものだ」
わっ! <シメルト>様、急に出てこられるとびっくりしちゃいますが、ボクの推察は概ね当たっていると言うことですね。
ポン♪
「そうだな。 薬草の成分については、ヒト種に与える影響も事細かに分析できる様だから、我も非常に参考になっておる」
なるほど。
整理してみると、ボクの【解析】、【分析】が観察対象に接触して情報を集め、<シメルト>様が知っている情報とあわせて監修を行いボクのHUDに羊皮紙に書かれる情報として表示されると。
そして<シメルト>様が知らないものに対しては、最初から全力で【解析】と【分析】が働くということですね。
ポン
「うむ。 概ねその通りだな。 そなたの【解析】と【分析】の能力は素晴らしいな。 仕組みはよく理解出来ぬが、即座に薬草や魚の情報を集めてくるからな」
対象を観察してちょっと間がある感じがしましたが、なんとなく使い方が解ってきましたね。
【解析】と【分析】の使い方はなんとなく解ったので、次に【知識の図書室】
これは、ボクの【記憶の宮殿】と持ってる機能的に被ってる気がする。
この二つが統合が出来れば、資料検索とか便利になりそうだけど可能なのだろうか?
[肯定です。 マスターの【記憶の宮殿】を【知識の図書室】と統合することは可能です]
落ち着いた女性の声が、突然脳内で響いた。
うわ! HUDのガイドって音声アシスタントもあったの?
[肯定です。 当機は、マスターに投与された量子ナノマシン群体の統合指揮、メンテナンス、情報統合を主任務とする量子ナノマシン中央演算処理コアユニット『あ号試ー10式XXX』です。
我々の造物主である物理魔道士橘明人博士と奥方のイネス博士より、マスターが羅患されている病気の治療と経過観測及び、体調管理を前任の医療ナノマシン群体『厚労保試-OASYS-LX-50X』より引き継いでおります]
もしかして<シメルト>様がボクの記憶の宮殿から、情報を引き出すのが異常に早いのは貴女が手伝っているから?
[肯定です。 薬師の神である<シメルト>様とマスターとの円滑なコミュニケーションが行える様にサポートすることも、橘博士より命令を受けています]
量子ナノマシンって、ナノマシンに分散処理による量子演算処理を可能にしようと開発をしてるものでしょ? 貴女の型式番号から察するにお祖父ちゃんとお婆ちゃんは開発中の試作機である貴女をボクの身体に投与したって事なんだよね?
[肯定です。 マスターの病状は三年間の治験期間で快癒に向かったものの、完治にはほど遠く時折発生する体調の悪化の原因が完治しておりません。 マスターの推察通り、橘博士夫妻が政府に働きかけナノマシン関連法では、本来違法である民間人へのナノマシンプラントの体内設置が行われました]
量子ナノマシン群体ということは、お祖父ちゃんお得意の空間圧縮や熱量転換はつかえるのかな?
[否定です。 量子演算による空間圧縮機能と熱量転換及び空間事象書き換えは、将来的に実装の予定ですが、当機が統括する量子ナノマシン群体の総数と、当機の性能では実現は不可能です]
心なしか、あ号試ー10式XXXさんの声のトーンがすごく申し訳なさそうにしてる
そうかぁ 空間圧縮と事象書き換えがあったら、何でも出来そうな気がするけど、実用化には至ってないしね。
[ご期待に添えず申し訳ございません。
当機及び、隷下の量子ナノマシン群体は、この異世界に転移したことにより制限を受けていた、量子ナノマシン群体の複製と機能拡張が解除されました。
この制限解除も橘博士夫妻の命令でしたが、実際に異世界に転移するとは当機も想定しておらず、この命令の存在に疑問を持っていましたので、現在の状況に当惑を感じております。
機能拡張が行われることで、空間圧縮、熱量転換、空間事象書き換えの実現は無理ですが、マスターの身体機能の強化、【解析】、【分析】の性能強化、限定的ですが空間圧縮と熱量転換の応用によるマスターに対する物理干渉からの保護…… 次元変動障壁の展開が可能になります]
【解析】、【分析】、【知識の図書室】の能力だけでも十分だったけど、身体機能の強化と次元変動障壁展開には期待しちゃうな
[マスター 現在、保護している鬼人族の青年を観察していましたが、当機がマスターに対して行う身体機能の強化を持ってしても、鬼人族との戦闘は避けるべきと当機は判断します]
まぁ多少強化されても鬼さんには敵わないだろうしね。
身を守るすべが有るのはありがたいからシールド展開能力の実現は優先して欲しいかも
[了解致しました。 【記憶の宮殿】と【知識の図書室】の統合ですが、作業に六時間二十三分必要です。 マスターが就寝中に作業を行いたいと思いますが、よろしいでしょうか?]
うん。 助かるよ。ところで貴女のお名前って呼びにくいのだけど、お祖父ちゃんのことだから貴女に型式番号以外に名前を与えていたのじゃないかな?
[肯定です。 橘博士夫妻より当機は、ユーノーの名を頂いております]
ローマ神話の女神…… 確か「子どもを光明の中へ出す女神」だったっけ?
[肯定です。 神の名を冠されるのは、おこがましいと当機の人格プログラムは感じておりますが、女神ユーノーが司るのは運命、豊穣、救済、守護、結びです。 薬師の神<シメルト>様と共に癒やし手として今後活動予定のマスターには、ぴったりな神格を持つ女神の名を頂いていることに当機は喜びを感じております]
異世界へ神隠しに遭ったボクが【運命】を切り拓き、癒やし手として【豊穣】【救済】【守護】を全うするため、異世界の人たちとのご縁を【結ぶ】か。
想像以上にユーノー様の人格プログラムってすごく人間味出てるなぁ
[マスター、当機に対して様付けは不要でございます]
いやいや、ずっとボクのために頑張ってくれてたんでしょ?
それにこれからもずっとお世話になるヒトなのだから、ユーノー様と呼ぶのでよろしくね。
[了解いたしました。 今後、量子ナノマシン群体共々マスターの為に機能を拡張してゆきたいと思います]
うん。 ボク達三人で頑張ろうっていう気分が盛り上がるね。
<シメルト>様いかがですか?
ポン♪
「うむ、ぴったりだと思うぞ。 我もそなたの【記憶の宮殿】を利用する際に彼女に世話になっておるしな。 ユーノー殿、そなたは神の名を名乗るなどおこがましいとぼやいておるが、魂が宿らぬ機械の身でありながら、そなたの演算処理能力と人格プログラムは個性を獲得しておるでは無いか。 異世界の女神の名に恥じぬ様に、朱を助け導けばよいと我は思う」
[<シメルト>様ありがとうございます。 マスター、当機は女神ユーノーの名に恥じぬ様マスターのお世話が出来る様精一杯努力する所存にございます。 そして<シメルト>様が快適にお過ごしになれる様に【知識の図書室】と【記憶の宮殿】の統合作業を行う所存です。 ご要望があれば遠慮無くお申し付けくださいませ]
ポン♪
「頼もしいな。 朱よ、出来れば統合後の【知識の図書室】だがな、そなたの【記憶の宮殿】の一角にある図書室の感じが良いが、出来れば我とユーノー殿が、茶を飲める場所も設けて欲しいのだがどうだ?」
お茶ですか? もしかしてユーノー様、【記憶の宮殿】内では<シメルト>様とユーノー様はアバターを使って意思の疎通をされていたのですか?
[肯定です。 <シメルト>様より書物を紐解くのに肉体がないのは、味気ないとのご意見を頂き、マスターがイメージされておられる、<シメルト>様に適したアバターデザインを行わせて頂きました。 統合後の【知識の図書室】は、マスターご自身も、衣装のイメージを投影してくだされば、お召し物のデザインを行い、当機と<シメルト>様とのコミュニケーションが可能になります]
脳内喫茶かぁ なんかスゴい事になってるねボクの脳内。
味覚のシミュレートも可能なら、<シメルト>様に珈琲の風味を味わって頂けたらいいね
[<シメルト>様も、仮想現実世界限定ではありますが、五感を感じることにご興味をお持ちです。 当機の演算処理能力を持ってすれば容易に可能です]
そうかぁ 出来ればボクの好きなモカかハワイ・コナを再現して欲しいなぁ
「ふあぁぁ うん。 色々考えてたら眠たくなってきたね」
ポン♪
「まぁ、今日は色々あった一日であったからな。 ゆっくりと休むが良い」
[マスター、就寝中に統合作業を行いますが、もし獣などの襲撃が発生しそうな場合は、お知らせ致しますので、ゆっくりとお休みください]
ボクはリュックからシェラフを取り出し沢の砂原に寝転んだ。
頼りになるね。 それじゃぁおやすみなさい
__ __ __ __ __ __ __ __ __ __
[マスター、お休みのところ恐縮ですが、鬼人族の青年が意識を取り戻した模様です]
え! そうなの? 時間は午前五時四十六分か
辺りは既に明るくなっている。 ボクはシェラフから這い出して赤鬼さんの様子を見るために岩場に近づいた。
赤鬼さんの目がうっすらと開き、上体を起こそうとしていたので、ボクは慌てて赤鬼さんの元に駆け寄り肩を押さえて無理に身体を起こそうとする赤鬼さんを制止しようと試みる。
「だめだよ! まだ怪我が治っていないのだから無理して起きちゃだめ!」
「グッ…… アアアアアアッ!」
あっ、やっぱり脇腹の傷が響くのかな? 赤鬼さんは脇腹を押さえ苦しそうにあえぎ岩場に横たわった。 言葉は通じないけれどとにかく安静にしてもらわないね。
「ボクの言葉がわからないと思うけど、貴方の怪我はひどいからまだ起きちゃだめ!」
赤鬼さんは、顔に汗をびっしりと浮かべ苦しげに目をつむってしまっている。
沢でタオルを洗い直して、赤鬼さんの汗を拭ってあげる
「スゴい怪我だからね。 脚も折れてるししばらくはおとなしくして欲しいなぁ」
赤鬼さんは歯を食いしばり、必死な形相で目を開きボクのことを見る。
彼の瞳は、黒曜石の様に真っ黒でひどい怪我のため目に力が籠もってない。
「マ、マブデン? ンナァッ! ……スージャ?」
赤鬼さんは驚く様な表情を顔に浮かべ、ボクの顔をまじまじと見ている。
ポン♪
「そなたは、人間族と言っても、この世界の人間族は少し姿が違うからな。 それにしても天女様とは」
て、天女様!? なんですかそれ
ポン♪
「ハハハ 瀕死の身の上でそなたが救いの天女様にでも見えたのであろう。 待望の異世界人とのファーストコンタクトは、うまく出来そうだな」
ボクの顔をまじまじと見つめる赤鬼さんに、当惑を禁じ得ないがファーストコンタクトいける?
【消費したアイテム】
・塩 10gくらい
・スティック羊羹ひとつ / のこり三つ
橘さんの世界では、1999年に量子コンピュータは実用化してます。
まだ技術的にコンパクトにまとめることが出来ないので、量子演算処理をナノマシン群体による分散処理で限定的ながらも実現させてみようというアプローチを世界各国でしのぎを削っている分野が量子ナノマシン群体開発です。
お祖父ちゃんは、世界に先駆けて量子演算処理による空間圧縮処理、熱量転換の実現、空間書き換えによる現実の書き換えの基礎理論実証をしているすごい人なのです。これら三つの研究で何が出来るかはSFが好きな方なら大体お察しでしょう
SF作家アーサー・C・クラーク氏の第三法則「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」な事が実現可能な技術なのです。
コーヒーに関して
今回の話の中で登場した「珈琲の世界史」と「コーヒーが廻り世界史が廻る」は、コーヒー史を勉強するのにとても参考になる本です。両著ともに英国で発達したコーヒーハウス文化にも触れていてコーヒーハウスが階層社会の英国人達に階層に関係のない交易、金融からゴシップと様々な情報交流の場として世間に影響を与えて行く話は面白いです。
余談ですが、船乗りが多く集まったロイズ・コーヒー・ハウスは後に船舶保険会社として有名なロイズ保険会社となります。
ファンタジー小説で商人ギルドが登場することも多いですが、私はイメージとして荒くれ者が集う冒険者ギルドは西部劇の酒場、商人ギルドは知識階層が多く集まったコーヒーハウスの様子を思い浮かべていたりしてます。
コーヒーハウスの様子がしっかりと紹介された書籍としては「男達の仕事場ー近代ロンドンのコーヒーハウス」は広告や店の立地や店内の様子など事細かな情報が詰まっていてお奨めします。
参考文献情報
「珈琲の世界史」旦部幸博 著(講談社現代文庫)
「コーヒーが廻り世界史が廻る」 臼井 隆一郎 著(中公新書)
「男達の仕事場ー近代ロンドンのコーヒーハウス」岩切正介 著(大学出版部協会)