第九百四十三話
そろそろ真面目にやりましょうかと言われたんだけど、私からしてみたらアンドレが黙っていたら真面目にやれる予感!
すみません、私しょっぱなで嘘を吐きました。
アンドレが暴露するのは私の過去の所業でしかないので、強いて言えばこれはすべて自業自得なのでした。反省!
よっしゃと身構える私にミコさんは渋い顔。
「霊衣、出せるでしょ? 針も済んだんだし、服を着なさい」
それもそのはず。私ってばずっと裸なのでした。
なんて意味のない露出なのでしょう。女子同士なので問題ないし、アンドレは圏外なので別枠換算ね。
霊衣かあ。カナタが本気で作ったってどやってから、まともに利用してなかったなあ。
いまの体年齢にあわせて、あの頃思い描いた服装になれるかもしれない。
どうせなるなら、しっかりした服装にしないとね。
アンドレがまた恥ずかしい秘密をばらしかねないからね!
イメージだ。イメージが大事。
赤髪の私はラフな服装だったと思う。
そういうテイストもあるよね。強いんだけど服装は地味とか、おさえめみたいなの。
でもね。やっぱりさ。そこは私、やっぱり綺麗にばしっと決めたいんです。
正直に言えば私、背は小さいので。
キラリの身長に憧れながら見上げる私は、悲しいかな背が小さいので! ちびなので……!
ふう。ちびだと認めるだけで、このダメージ。足が震えるぜ……っ!
とにかく、ね?
小学校時代にはノートにオリジナルデザインの衣装姿の私スケッチみたいなのしてたけど、中学になって多少なりとも知恵をつけた私はコスプレにシフトしたよ。あの漫画のあの衣装いいなあとか、あの映画のあの衣装いいなあとか。そういう方向にシフトしたの。
その頃、特にハマったのはあれかなあ。吸血鬼が日本を侵略している漫画の、吸血鬼ちゃんの衣装? あれ可愛くない!? 可愛いんだよ! 可愛いんだよ……。
超絶ミニでタイトの服にぶかぶか袖、しかもニーハイブーツかな? 嗜好性高いよなあ。
ああいうのがいいかな?
露出するとアンドレがまたいろいろ言いそうだけれども。
どうせなら、体型もばっちりよくなったし、押したいところはむしろ見せていくべきなのでは?
体が元の年に戻ったら、より映えるようなのがいいし。
三年か四年くらい前のパリのファッションショーで出されたような、片側の胸元から指先まで露出していて逆サイドの腕はがっつり布に包まれているデザインもいいなあ。タイトな布地で裾も短め。さらにスリットが入っていて、すごく薄めのデニールのストッキングを履いているみたいなのもいいなあ。
透け感がある布地はセクシーだし、色合い次第でボディラインを綺麗に彩ってくれるけれど、セクシーすぎるのはそもそもちょっとね。危ういところまで見せる気はないからなあ。
お前全裸でなにいってんの? って感じですけどね!
迷うし、悩みたいよね! なんならいつだって着替えたいし!
ぴしっとすべてのデザインを一度に決めようとすると、時間がかかりそうだなあ。
ならもういっそ、霊衣と名がついていようと、好きな服装にチェンジできるくらい自由度の高いのがいいんじゃない?
そっちのほうがいいな。お着替えはあがるもの。
そうと決めたらさっそく纏っちゃおう! ベーシックスタイルは?
「おいでませ!」
ミコさんがくれた血が私の心の起爆材料をより鮮明にイメージさせてくれる。
溢れるテンションそのまま、身体中から金色が噴き出て一瞬で白い巨大な布地に変化。
首と袖口に手を通した私をすっぽりと包む、白い布のワンピース。
金色や青い刺繍が入っている。タマちゃんと十兵衞、そしてぷちたちを示す刺繍がね!
「いつでもどうぞ!」
「お嬢さまの欲望あらばこそ、この部屋は妄想を形に変えてあなたの敵意を打倒します」
おおっ! アンドレが初めてまともなこと言った!
これはいける流れなのでは!? ちなみに下着はないので、そのあたりは現在悩み中。
「いつでもどんな手段でも、攻撃してきていいわよ。いつもの春灯の能力を用いて対処するから」
さっきちょろっと吸っただけの血の量で、そこまでできちゃうミコさん尋常じゃないのでは?
あらかたアンドレに暴露されたから、恥を前にいまさら怯む私でもないよ!
それでも暴露されたらてんぱるから、アンドレに「わかってるよな?」って目線を送ったよ。
親指をぐっとあげられましたよ。
こいつ絶対わかってない! 鹿ぜったいわかってないよ!
振りじゃないからな!? 空気読んで!? 読み過ぎないほうが精神衛生上いいこともあるけれど! 今回はお願いだから読んで!?
マジな戦闘シーンやらないと、あっという間に隙間時間が終わっちゃうんだからね!
「ようし! アンドレ! クレイモアで攻撃!」
「いきなり物理ですね、了解です!」
ええい!
「違うよ、クレイモアの展開を忘れたの!? 私の魔法は無限だよ!」
「やまほど妄想していましたもんね。不肖、このアンドレ。しかと覚えております。ときにその柄は、しょく――……」
「アンドレエエエエエエエエエエエエエエ!」
「かしこまりました!」
全力で叫んだ。もういいでしょ!? 私の黒歴史の話は!
あとでカナタに話すときには、事前に振りを考えておこう。
カナタだって思春期男子だし。知識もあったし。トウヤのそれは知らないけど、カナタはさすがに私のひとつ年上なだけに知っているはず! 自分のもっともえげつないプライベートを目撃しているものに迂闊に命を与えたら、盛大に恥を掻くってことをね!
床に転がったクレイモアを手にして、アンドレがミコさんに向かって走りだす。
疾走するアンドレの影から、手が生えた。手の主が飛び出る。アンドレとまったく同じ、影のアンドレα。αに留まらないよ? どんどん増えるの。
「「「 多人数でもいけますよ! 」」」
「余計なことは言わなくていいの!」
そういうことは言わなくていいから! ほんとに!
巨大な空間で大勢が向かっていく。
前の私なら、どうするだろう。ミコさんが戦うのなら、刀一振りで圧倒できるだろうけど。
アンドレの持つクレイモアに与えた妄想の力は、それなりの能力があるよ? 見かけどおりじゃ済まないのですよ!
当然、それくらいは読めるのがミコさんだ。
「それじゃあ――……おいでませ、ユメ」
ミコさんが全力疾走で向かってくるアンドレに構わず、右手を前に伸ばして手のひらを天井に向けたの。手のひらから噴き出た金色の霊子がすぐさま凝縮してぷちに――……ユメになる。
理華ちゃんと繋がるぷちのユメに。
きょとんとした顔のユメは私とアンドレの群れ、そしてミコさんの顔を見て、なぜかどや顔で私を見てきたんだ。
「ご主人に見せていいとき?」
「ええ、そういうこと。さあ――……化けてみせなさい! 天使と悪魔の書物へ!」
「がってん!」
ミコさんの手のひらから飛んで体を捻ると、ユメが一冊の本に化けたの。
迷わず掴んだミコさんが、本を広げてにやりと笑う。
余裕綽々。
たくさんのアンドレが立てる足音はもう、地鳴りのよう。
どんどん増殖していくアンドレたち。数の暴力で圧倒し、押し潰す。
戦となるなら、数は力だよ。それに目立つイメージも力になる。
あの頃は必死に否定したかった。現実の理屈。キラリは沈黙を選んだけど、そんなキラリを盾にひどいこと言ってた子がたくさんいる。だから否定したかった。
なのにさ。あの頃の私は同時に強く憧れていた。
自分が夢中になって否定したいものに。手に入られないものに、強く執着していたの。
だから大勢のアンドレはそのまま、かつての私の欲望の数だしさ。
同時に否定したいと願う“ユメ”こそ、高校生の私が望んだものだった。
ああ、そうだ。
赤髪の私と同じくらい戦えるようになるのなら、そのユメと戦える私にならなきゃはじまらない! だというのに、あの頃の姿に戻ったというのに、私は見たいと願わずにはいられない!
これほどの暴力を払いのけることのできるユメのような奇跡を!
「大勢の味方が欲しいと願う少女は、かつて孤独に浸って壁を作った。それゆえに執事たちは集う」
ミコさんが歌う。
これは奇跡を成すための詠唱か。それとも、本に記載された事実だろうか。
「私はひとりじゃない。欲して望まずにはいられないほど、執事は増えていく――……」
身を切られるような解説。
中学生時代の私は、陽キャだ陰キャだコミュ障だリア充だなんだと理由をつけて、キラリは天使で私は天使じゃないと壁を作った。
結ちゃんが懲りずにずっと気にしてくれたし、結ちゃんを中心に私を愉快な奴認定してくれたクラスメイトがちょこちょこ気に掛けてくれるようになった。もめ事たくさん。乗りこえて縁は増えても、繋ごうとしなかった。
なのにあの頃の私はひねくれてて、ひとりじゃないとひとりぼっちだという言葉の意味すら考えずに孤独に逃げてた。甘えてた。
家に帰れば家族が大事にしてくれる。その救いにも全力で乗っかってた。
ふざけた甘えん坊の弱虫だと自分を責めた夜もやまほどあった。
変われなかったし、なにも変えられなかった。
ほんとにさ。
黒歴史なんだ。あの頃のすべて。
「それらはすべて、いまでは祝福に変わった」
ミコさんが本を閉じて、左手を目前に迫るアンドレに向ける。
「因果応報。執事は仲間に」
指を鳴らした瞬間、すべてのアンドレが爆ぜる。
金色の霊子が散らばるの。拡散した霊子はすべて、収縮して人型へ。
ふり返る。ひとりはカナタ。ひとりはシュウさん。ひとりはトモで、ひとりはシロくん。
ギンがいた。ノンちゃんもいた。
レオくんやタツくんもいたし、狛火野くんだっていたし。
マドカやキラリ、結ちゃんやレンちゃん、ユウジンくんたち星蘭の人もいた。
怯む。
ああ、やられた。
素直に思った。
「“私”は省みた。“私”はユメを見た。故に“私”は繋ぐ一歩を選んだ。そしてこのユメのような絆を結んだ」
ミコさんが歩いてくる。
床に落ちたクレイモアはたった一振り。
金色の霊子でできた私の大事なみんなは消えていく。
化けるのをやめたユメが、ミコさんの肩に乗っかってどや顔で私を見つめてくる。
なんて力だと思った。
私が選んだ夢はとんでもなくあったかいし、とんでもなく残酷だ。
すべての人を救いはしないだろう。振るい方を学ばなければ意味がない。
元の肉体年齢に戻ったとして、いまの私じゃ救えないひとりぼっちはやまほどいるし、そもそも私がひとりぼっちじゃなくなる保証をくれたりもしない。
戦意を砕く。
そもそも戦う気持ちを破壊する。
そういう力があればいいのにって、中学時代に考えたこともあるけれど。
ミコさんはもっと器用に使えるだろうし、いまの私じゃ中学時代と変わらず、その手段が思い浮かばないだろう。
試しの数が足りてない。人生経験も。挑戦する気持ちはやまほどある。けれど、まだまだ足りない。増やしたい。挑戦していきたい。
理想はさ?
世界の命運も、特別な命を守るだの救うだのでもなく。
倒さなきゃみんなが不幸になるような敵を殺すことでも、排除するのでもなく。
頂点を目指して己を鍛えた人と人が、あるいは集団と集団が競い、わかりあいながらも切磋琢磨して勝負する。そんな戦いに持ち込んじゃうこと。
チャンピオンの意味がある。
そんな強さを持って戦いに引きずり込めればいいなあって思う。
でね?
なんと驚き。
いまがそのときなんだよ。
鹿の頭が床に転がっている。
ごめん、アンドレ。私は足りてなかった。あなたが生き生きと戦えるように育ててなかった。
夢だけじゃない。欲望の育て方も、てんでなっちゃあいない!
なら、ここから挑戦していけばいい!
右手をミコさんに突きつける。
間に距離がある。構わない。問題ない。
「タロットは示す!」
叫ぶだけで、机の引き出しが開いてお姉さんにもらったカードが飛び出てくるの。
右手の前に展開する。
「私は――……愚者は行進を諦めない!」
中学の私は如何せん、勉強が雑で適当。
憧れたら、それに邁進する。そっくりそのまま真似して、もうちょっと自分っぽくならないかなと模索して、できればよし。できないこともしょっちゅう。
アルカナは特にその傾向が強かったなあ。
両親が大好きなゲームで、特別なボスがアルカナについて解説してくれるシーンがある。お母さんはテレビに接続するゲーム機でプレイした男の子主人公を、お父さんは携帯ゲーム機の女の子主人公を愛してたけど、私はふたりとも好き。
あれに影響を受けたかな。
で、あれから私っぽくなれないかなって模索した結果がさ?
「散りゆく者たちの思いは消えない!」
叫びに呼応して、散っていった金色が黒く淀んだ霊子に変わって戻ってくる。
そうして、再びアンドレの姿を取り戻していく。
だだっ子のような言い分だ。いくら霊子が応じてくれようと、これじゃあ果てはない。
ユメがすかさず化けようとするけれど、ミコさんは首を横に振って制した。
そうなんです。これで終わらないんです。
カードの束から飛び出た愚者のカードの次に、魔術師のカードが飛び出る。
「愚かな私は気軽に悪魔との契約を求める!」
アンドレたちが一斉に雄叫びをあげた。
黒い炎が欲望の鹿を一切の容赦なく燃やしていく。
「集まれ!」
叫びに呼応して、鹿から軸を炎に移した霊子が私のかざした手に集まってくるの。
手元に浮かぶタロットを燃やされたら困る。だから、肘から手首までの距離感を置いて留まる。
次々に集まる黒い炎。ひとつに凝縮されると、炎は消えて黒い卵へ早変わり。
「英知は対価を見つけ、生みだす。実りを喰らい、私は堕天する!」
こんなこと、本気で考えてたんだ。ほんとに。
下方面じゃない内容を暴露するアンドレがいたら、それはそれで恥ずかしさに死んでいたに違いないね。間違いないね! 痛い奴だったんです! もしかしなくても、現在進行形かもしれませんけどね!
卵を左手で掴んでかじる。
味はない。なにせ卵は妄想の固まりなのだから。
悪魔との契約の証として、対価としてしか考えてなくて、ディテールはおざなりなんだよね。
どうせならドリアンの香りくらいやばい匂いがするとか、でかい卵を茹でて食べたときみたいに大味とか、いろいろ設定つけていいだろうに。都合のいいところしか考えないんだからさ。
育て方がなっちゃあいない!
それでもいまは、これで進むのだ。
ぶっかぶかの霊衣がはためく。布がきゅっと窄まり、私のボディラインを露わにするようにぴったり吸いつく。白は黒へ。
一瞬で染まった布地。タイトなトップスとぴっちりホットパンツが前の部分だけ見えるスカートの構成。ひとまずこんなところで!
タロットを掴んで、すべてのカードをぎゅっと握る。
「私はすべてを司る!」
こういう大言壮語に憧れちゃうところも、かつての私のおばかなところ。
カードは一瞬で銀の流体金属へ変化。
両手でぎゅっと掴んで願うだけで、私が中学時代に妄想した死神の大鎌に変化する。
趣味の盛り込みすぎで大渋滞。
バフォメットの意味を示す悪魔のカードからの錬金術繋がり。
ついでにアンドレで下方面の妄想しちゃうのは、あれね。サタニズムやオカルティズムからのサバトのイメージね。
悪魔崇拝っていうよりも異教繋がりで乱交とかしてるやばい集団が漫画で描かれていたけれどさ。かつてはそれをもろにやってる人たちもいたのでは? とか思うと、世の中って闇が深いね。
ちなみにサバトの牡山羊がアウトなイメージの悪魔らしいですよ?
このあたりのディテールが弱いのもね! 痛いね!
痛くても進むけど!
疾走しながら大鎌を振るうイメージをする。
フィクションで見たことはあっても、実際に自分が使うとなると、どういう振り方が適しているのか考えたことがない。
刈り取るしかないかな?
『刺すか引くか』
十兵衞の言葉にイメージしたし、同時に予想した。
ミコさんは絶対に私を止めるって。それも、さっきまでの私が想像力次第で使えた、けれどいまの私すら思いついていないやり方で。
ならば先手を打つ。
絶対に受け止めてくれる。絶対に超えてくれる。
信頼できるからこそ出せる全力もある。
あの頃の私なりに考えた戦術はある。
「闇よ、広がれ!」
脳内で「いたああああい!」と叫びたい。「あまぁぁああああああああああああい!」のノリで。あるいは「はんばぁああああああああああああぐ!」のノリで!
身もだえするほど痛いけど、叫んじゃう。
イメージはシンプル。
相手がどれほど陽の者だろうと、闇に引きずり込んじゃえばこっちのもの。
光をどれだけ出されようと、その光さえ飲みこむ暗がりに引きずり込んじゃえば一緒。
ダークナイトのジョーカーのように、綺麗なコインの一面を黒ずみに変えてしまえ。
――……すべて、キラリの輝きを否定したい私の弱さの叫びと欲望。
私の周囲から噴き出る黒いモヤが、一気に拡散していく。
ミコさんさえ飲みこむ勢いで広がる透過しない霧に怯まず、ミコさんは呟いた。
あ、怯まずっていったけど、実際は見えてないよ? 自分の闇で見えないの。
これがこの技の短所だよね! あの頃の私、なぜに気づかないのか!
闇を広げたら、自分も見えないでしょ! おばか!
でもね、ミコさんの声でわかったの。
「自分の視界すら塞ぐ孤独に苛まれたひとりぼっちをあたためる、ヒナタよ。おいで」
「ん」
またしても、ぷち召喚。
今度はヒナタ。歌うのが好きな子。体育館に来た子だ。
どことなく聖歌ちゃんに似ていて、誰かにひっつくのが好きな子。
「そして、あんな霧なんか屁でもないことを示しましょう。飲み込める? モア」
「ちょうど喉が渇いてましたし」
さらなるぷち召喚!
お姉ちゃんたちと一緒にゲーム部屋でのんびりお菓子を食べてるはずのモアまで!
ふくふくふくよかぷちね? 食いしん坊バンザイなぷちだよ。
「すぅうううううう!」
吸いこむ音がして、ついでに私の体がふわっと浮かんだ。
脅威の吸引力!
慌てて大鎌で床を深めに突いて抱きつき、必死に堪える。
けれど霧ばかりはそうはいかない。
私が出した霧はすべて、モアに吸いこまれてしまったの。
露わになった私にヒナタが両手を突きつけた。
「ぽかぽかもうふ!」
呪文かな? それともなにかの気合いかな? だとしたら可愛すぎるんだけど、それはいったいなんぞや?
きょとんとしながらも大鎌に抱きついていた私の頭の上から、なにかがぼさっと落ちてきた。
あたたかい。
ヒナタの匂いがする。
お母さんが干してくれた、お日様の熱をもったぽかぽかの毛布だ。
まるでアラジンの魔法の絨毯のように動いて、私をくるむの。
服の上からでもわかる。
めっちゃ幸せな奴やん……!
「ふ、ふぬぬ……っ!」
こいつぁなんて強敵なんだ!
って、どういう戦いなんだ!?
わけがわからない!
ちょっと意味がわからない戦いなのでは!?
「まだまだ手段はあるけれど。そちらは弾切れ?」
「ご主人、その程度?」
ミコさんだけじゃなく、ユメも乗っかって煽ってくるの。
毛布を払いのけて大鎌を引っこ抜く。これしきで止まるものかと抗うよ!
当然だ! 毛布に負けたら、あの頃の私の欲望よわっ……ってなるじゃん!
いや、弱いんだけど! 育て方が足りてないので、ぜんぜんなんですけど!
そもそも強かったら、キラリや結ちゃんとの関係性も、中学時代の過ごし方もだいぶ変わってたから、必然の結果なんだけれども!
ミコさんの血をもらっておいて、これで終わりはちょっと切なくありません!?
「うおおおおおおおおお!」
いっそ自棄になりながら叫んで走りだすも、
「ふゆのねおきのもうふ!」
ヒナタがさらなる呪文を唱えて、背後から抱きついてきた毛布にくるまれた途端に「ああ! 絶対ここから出たくない!」って感情がこみ上げてきた!
ああ、だめ。膝を曲げて、眠る体勢になってはだめ。このままだと負けちゃう……くっ、くっしないんだから! 毛布になんて負けない!
「ふぬぬぬぬ! ――……ふぁ」
欠伸が!
違う。負けないから! ぜったいに! ぜったいに負けたりしないから!
まだあるし!
「ああ……」
でも、一分くらいくるまっていたい……。
いやいや! だめでしょ!?
いやでも……。
そんな思考に苛まれて、まさしくヒナタの術中にハマった私が毛布から抜け出すまでの間、ミコさんは楽しそうに私を見おろしていたよ。
ちなみに五分くらいかかりました。恐るべし! ふゆのねおきのもうふ!
つづく!




