第八百三十八話
お互いの気持ちが合致しないことなんて、よくある話。
相手がのんびりしたいときに、自分はなにかしたくてしょうがないかもしれない。
趣味もそう。
クリスマスを楽しみたいタイプと、クリスマス・イズ・ヘル! という過激派タイプもいる。
友達同士でも、恋人同士でも、夫婦でもソウルメイトでも親子でも。なんでもそう。
うまく噛み合わないときがある。
根本的に噛み合わないことが多すぎても、お互いに歩み寄れれば問題ないだろうし。頑として譲らない箇所がお互いの衝突の理由になり始めたら、ケンカが増えてやがて別れたり、最悪の場合は犯罪にまで発展してしまうかもしれない。
そこまでじゃなくても、たまのケンカの理由になるケースもあるよね。
掃除しといてとまではいかずとも、注文したそば粉のダンボール箱を片付けておいてって言ったのにさ? 言ったのにだよ? 夜遅くに仕事で超絶やらかしてうんざりしつつめちゃめちゃ凹みながら帰ってきたときの、ダンボール箱の存在感よ。
私よりも先に帰ってきた彼氏が湯上がりほこほこの顔して部屋に戻ってきて「あ、すまん。汗を流してからやろうと思ってて」と言われるたんびに、頭の中で爆発が起きそうになるの。
いっそ捨ててやろうかみたいなイラッと感がまったくないわけじゃない。
私は聖人じゃないし。
でも、相手の大事なものを尊重する精神は大事。捨てたら寮部屋で戦争が起きる。
それくらいはわかっている。
大事なのはお互い様の精神。私も我慢しているんだから譲れよと上からいくと、やっぱりおかしなことになるし、だからってカナタが我慢しているんだから私も我慢しなきゃとなると、ストレススイッチは消えないままで精神衛生上よくないし。
表現方法が問題。相手が受け止められるやり方が、結局究極シンプルに役立つ。
なので、私はここでユーモアを用いる。
このケースで言えば「カナタが放っておいたら私から岡島くんに渡してそばうってもらっちゃおうと思っていたのに。残念だなあ」って言っちゃう。
わかるよ? お前のユーモアはこの程度かって思われるだろうね! 自覚はあるの!
仕事終わりでストレスマックスの私の繰り出せる、現状のユーモアはこのくらい。目指せ、もっと高みへ! というわけで、修行中なのです。あったかい目で見守ってくだせえ。
でもって、いまですよ。
「借りれたなあ、ふたり風呂」
下着を脱ぎ終えた瞬間、待ってましたとばかりに後ろからはぐをされた。
彼氏だからって、別に相手のタイミングに合わせていつでもおっけーってわけじゃない。
それは相手も一緒。同意がいつだって必要。お互いの尊厳を尊重し……いや、わかってるの。去年度、めっちゃ押せ押せだった私が言えた義理じゃないってことは。
でもさ? カナタがその気になれるように私はがんばってきたわけで。カナタにも期待しちゃうわけで? それでだめなら無理なわけで。
めちゃめちゃ期待されているのは、はぐで感じ取れちゃうわけで。
「だねえ。霊子たっぷり風呂だっけ。等級は、神さまのお使いクラス……どれくらいなのかなあ?」
なんとか流そうとするし。
首筋に顔を埋めてすっかりその気のカナタさん。肩口から首筋にかけてキスしてくるのがいやなわけじゃない。髪の毛を撫でるように頭に手を置くのは、別に促すわけでもなく。
落ち着けっていうメッセージをこめているだけ。どうどう。
「人よりも高そうだよね。だったらここは――……」
さすがに何回もしているだけに、カナタさん的に慣れた流れでアゴを手でそっと引きよせて口づけをしようとしてくるの。拒みはしない。前に一回ノー! と引いて本気でへこまれたことがあるからね! ちょっと引いて焦らすくらいはするけど、いまはそれじゃ余計にカナタさんのテンションがあがってしまうだけ。
さあってと! どうすっかなあああ!
タマちゃんに教わった技はいくつかある。
容赦なく急所攻撃。口を使えるときは噛みつく攻撃。
脱がされる前なら次への楽しみと焦らしを用いて流しちゃうムーブ。
裸になったらやっぱり膝! とか。そもそも狐火や化け術でおどかして腰を抜かせるとかね。
この場合、私が瞬時にラビ先輩に化けようものならカナタもさすがに止まるのでは?
でもそれで反撃とばかりに小楠ちゃん先輩に化けられたら、私は攻めるべき?
いやいや。さすがにそれはないよ。薄い本にしても、この手のムーブはさすがにないのでは?
いや、それはどうだろう。ありそうな気もする。変態の想像力を舐めてはいけない。えっち方面は特に舐めてはいけない。
そういう話ではない。
「ん――……と」
キスの合間を見計らって、呼吸するより言葉を放つ。
ドラマでよく見るなあ。いいだろ? みたいな台詞を相手役がよく言うのだ。
男子に限らない。女子も言う。
お仕事でする人にも限らない。
盛り上がっているタイミングで使われるシーンとしてはありがちな気がする。
果たして、カナタさんはどう出るのか。
「春灯の好きな神水を出す。飲みながらっていうのは?」
う、ぬう……!
お主、やりよる!
って、揺れている場合じゃない。
それに、その振りでこられたら「たんに神水だけ飲みたいです」となってしまう。
「んー?」
「ろ、ろ……よく滑るやつ。あれにするのは?」
ろまで言ったら最後まで言えばいいのに。
興味がないでもないけど。いつもならわりと前向きに乗るところだけど。
「んー」
「……あれ!? その気なの、俺だけ!?」
「んー」
そうなんだけど。そうだよって言いにくいし。
間だけで察しちゃうよね。さすがのカナタさんも。
「……うう」
きゅうんという鳴き声が遅れて聞こえた。
尻尾が揺れている。銀の九尾がわさわさと。
突然とはいえ寒くなったし、それでカナタの中の狐が騒ぎ出したのかな。
いまのところ、私にはまだそんな予兆ないけど。
きちゃったのかな。そのときが。発情期が!
だったらもうちょっと押しが強くていいんじゃないかな。
初対面の私の手を取って歩きだしたあの日のカナタの押しの強さはどこへ。
てんぱらないと出ないとか?
だったらいまのカナタはまだてんぱるほどじゃないとか?
それはそれでちょっとやだな。
私はわがまま。
「用事が済んだらね?」
「ここ……二時間しか借りれない」
露骨に拗ねてる!
「延長すればいいじゃない! ね?」
「俺の神水の蓄えが……」
一瞬、じゃあ私が現金で払うよって言葉が喉まで出かかったし。
言ったら言ったで揉めそうだなあと思ったし。
くっそめんどくさ! と思いもしたし。
そのへん平等でいいじゃないって心の底から思ったんだけど。
「ふたりで霊子を出す。私が多めに負担して、それでちゃら。ね?」
「だったら俺も出すし」
このあと文字通り精を出すし? なんちゃって!
あはははははははは!
ほんとごめんなさい。忘れてください。下ネタ言ってる場合じゃないんですよ!
「じゃあそれで。早めにお願いしちゃお。ね? なんならオール……」
いや待て、明日ゲネプロやぞ。
「朝までコースは無理だけど、いれる限りはここで大丈夫だから。ね?」
「すぐ言ってくる!」
タオルをがっと掴んで急いで腰に巻いて駆け出す彼氏を見送ってから、私は深いため息を吐いた。
走っていってひらりとめくれたタオルのおかげで見えたよ。
彼氏のぷりけつと興奮に膨らんだ尻尾が。
けっこう頻度高めなほうだけど、それほど楽しみにしていてくれるのは素直に嬉しい。
振り切れてきて、素がどんどんゆるくなっていっているのも個人的には大歓迎。
どうぞ、ゆるめになっていってと思う。
シュウさんと殴り合いな成長を続けてきたカナタには、マイペースなコバトちゃんとまでいかずとも、もうちょっと笑顔でいられる生き方に近づいてくれたらいいなあと傲慢にも願っちゃう。
世の中にはけっこういるからさ。殴り合いとか戦うのが当たり前な生き方の人が。
それを否定はしないけどね。そういう生き方をする人がいるとして、そういうものだと思う。
ただカナタがそんな風に私と接してきたら、私は正直耐えきれる自信がない。
それにカナタはそういうタイプじゃないとわかっているからこそ、もっとゆるくなれ~と思っているのです。
どうでもいいけど、コバトちゃんのマイペースはサクラさんっていうよりソウイチさん似な気がするなあ。シュウさんもなんだかんだでマイペースだよね。我が道を貫くタイプ。
カナタはもうちょっと振り切れてもいいとは思う。カナタがどうしたいのか次第だけどね。
きっとカナタも私に対していろいろと思っているんだろうし、いまのカナタの頭の中は桃色でいっぱいに違いないですよ!
めずらしい!
◆
時間を確保してきたと鼻息荒めにやってきたカナタをなだめて、さっと体を流す。
せっかくふたり風呂なんだからと、個室温泉を利用していちゃつくべく私の背中を流しにかかるカナタに、いつ飛びかかってくるかわからんと思ったのでね。
「いやあ、ごくらくごくらく」「それなー」「しらんけど~」「わかる」
ぷちたちを出して、一列で背中の洗いっこに移行したよ。
え? 残酷? やっだなー。しょうがないじゃん。こうでもしないと背中を流すと称して手が前に伸びてくる可能性が高いんだもん。背後から聞こえるふんすふんすという鼻息に、そりゃあなんぼのんびりやの私だって対処するよ。
反対側に交代と言い出してふり返ったら、ふてくされているかと思いきやカナタもカナタで自分のぷちを出して背中を流していたから吹いちゃった。
こういう臨機応変さが好き。
「カナタさんのマグナムはだいじょうぶ?」
「俺は制御できる!」
おかしなこと言い出したよ。
「ごめん、ジョーク」
「……今日は触れない感じ?」
きわきわを攻めてくるなあ。ほんとに珍しい。今日はほんとにその気のようですよ。
「あとでいくらでも引き金を引けばいいよ。それよりさ」
さらっと流して本題に向かおう。
「カナタは炎ぷちを生み出したけど、私は同じアプローチをするよりまずいまいるぷちの個性を育てたいの」
「こせー」「ゆにーく」「ひっこせ?」「私はここに帰ってきた!」
私の後ろでぷちたちが適当なこと言ってるよ。
無個性っていうほどじゃないけど、たとえば世間のみなさんにお披露目した場合、誰もが個性的だねっていうレベルはすごく高いんだよね。自分で思っているより凡庸なんだ。そう思って謙虚に、だけどしっかり見守って種を育てるくらいでちょうどいいと思っているの。いまは特にね!
「で、ぷちたちの霊子を調べてもらいたいなあって思っていてさ。どうせなら神水風呂があるなら、風呂に浸かって霊子を増やしながら調べればより確実かなあって」
「ガチじゃん」
カナタのぷちのツッコミに危うく吹き出しかけた。
あれ? 主よりラフじゃない? ざっくばらんじゃない?
「お姉ちゃん、いまはその気じゃないよ?」「たぶんしっかりお仕事しないと今夜は盛り上がらないね」「残念だけどしょうがないって。いったん水でもかぶってきたら?」
カナタのぷちくんたち、だいぶ冷静なの。笑えるし、笑っちゃ申し訳ないんだけど。
「「「 あはははははは! 」」」
私のぷちたちは容赦も我慢も知らないので、私がこらえても大笑いをかましちゃう。
つられて吹いちゃう私であります!
「カナタさん、元気はある?」
「いま落ちついたとこ」
なんの元気が、なんて敢えて聞きはしない。
強いて言えば元気っす! 状態がしゅんとなったに違いないね。
「「「 だっせ! 」」」
ぷちたちがそろって大笑い。
背中を撫でているカナタの顔が赤く見えるのは、カップル用のお風呂場があったかいからに違いない。
◆
個室で仕切るカップル風呂。温泉地域の中層にある温泉宿の施設で、ロッジが敷地に設置されているの。さっきもちょいちょい体を流すとか言ったけど、水道は完備。温泉は掛け流し。木目調の建物なんだけど浴槽は白い岩をくりぬいた、丸い形のもの。
ロッジの外には仕切りがあって、露天風呂を楽しめるようになっている。
どっちも掛け流しの温泉に、どういう理屈か霊子を込めてあるのだそう。
霊子を消耗していて回復したかったり、浸って自分の霊力の可能性を探りたいお客さんはもちろんオススメ。温泉の霊子にこもるリラックス効果を促す作用は抜群で、くつろぎたいお客さんにもオススメなのだそう。ちなみにカップルとか甘い夜を期待するふたりにもオススメできるらしい。リラックス効果にはいろんな含みがこめられていそうですね! といってもデートスポットの雰囲気効果くらいなんだろうけどさ。
なにせいま、露天風呂でぷちたちがばっしゃばっしゃ泳いでいるのを私は微笑ましく見守っているもの。
我ながら目的のためとはいえ、効果的すぎたかも。
盛り上がる彼氏をなだめる手段に、子供を持ち出せ作戦は。
カナタには効くよ。そりゃあもう。
特別効果があるよ。クリティカルヒットで効果は抜群だよ。
いま、仏の顔して私のぷちたちに体をぺちぺち叩かれたり頭を撫でられて「元気だしてね」って言われてるもの。
膝の上にぷちをのせたりしてさ? じゅうぶんかわいい。
ちなみに私もカナタのぷちを膝にのせている。
見れば見るほどちっちゃな子供だ。
どう足掻いてもふたりのぷちは幼児なので、いちいち気にしもしない。
「ねえカナタ。それで、どうかな? 私のぷち」
カナタがわからないなら、別に自分でやるつもりだし。
もしわかるならめっけものくらいの感覚です。
そもそもカナタがその気すぎて一時回避策で利用しただけで、そもそも私なりになんとかする予定だったからね。
でも、こういうときに外さないのがカナタさんでもある。
「春灯の推測通り、前よりも一年九組の面々の霊子に寄っている気がするな」
「やっぱり?」
「特にこの、おしゃまなぷちは立沢に近いなにかがある。立沢と繋がっているという言葉を具体的に示すだけの反応は、俺にはまだ見つけられないが」
ううん。どうやらまだ、高望みはできないみたいだ。
「霊子が似ているならわかるとかないの?」
「というよりも俺のぷちと比べて、明白に霊力が宿っていてな?」
霊力。心の力。
化かしただけのぷちにはないはずのもの。でも、あっていいもの。
私にとってはあったほうがずっと素敵で面白いと思えるもの。
尻尾にだって気持ちがある。そっちのほうがいい。ずっといい。
「ぷちたちそれぞれの霊力が九組の面々に近しいのではないかと、推測はしている」
「けど具体的には言えない?」
「心というか、霊力って奴は指紋みたいなもので、まったく同じ霊力はあり得ないっていうのが隔離世協会の指標でな」
かくりよきょうかいとな。
「ぷちにしても、御霊と侍――……いや、御霊とその相手の中に稀にいる、そもそも波長の合うコンビにしても、同じ霊力ではないんだ」
カナタが言い直した理由なら私はもう道中で聞いて知っている。
いないいないと思われていた刀鍛冶の御霊は、きちんと存在した。
侍のように刀にならない理由は謎だけど、私はすっきりした思いだった。
刀鍛冶にも何かしらの可能性があるんじゃないかって、ずっと思っていたから。
侍だけじゃないよね。刀だけでもないと思っていたんだ。
カナタの膝上に乗っかった私のぷちがカナタの足にかかとをこつこつ当てる。
理華ちゃんに通じるなにかを感じる、おしゃまで賢い私のぷちは、理華ちゃんそのものというわけではないようだ。
じゃあ、波長が合うとしたらどれくらい近づくものなのか。
「波長の合うタイプっていうと、ギンと村正みたいな?」
「あれは波長というより相性がいいって言い方のほうが近いな。春灯と玉藻、ユリアとオロチ……あとは山吹、天使、ユニスと……あと八葉か、月見島あたりが俺にしてみれば一番イメージに合うな」
「なるほど……そのラインなんだ」
トモやシロくんはむしろ自分の霊力を鍛える方向性で強くなっているし、狛火野くんも言うまでもなくそのタイプだ。
「じゃあ、たとえば小悪魔な私のぷちちゃんも理華ちゃんと波長が合うとかっていうことはないの? すっごく似てる霊力とかさ。私とお姉ちゃんのような双子の姉妹みたいな!」
「可能性はないでもないが……そもそも話として、ひとつ確認させてくれ」
「ん?」
なんだろう。改まって。まだあまあま話なのかな。
「そもそも、このぷちは立沢のようにならなきゃいけないのか?」
すぐに恥じました。おろかな想像をした自分を!
そして直ちに猛省しましたよ! 言われてみればたしかにそうだね!
「そういうわけじゃないね。繋がっていたらわかりやすくていいなあって思ってはいたけど、その子の希望はガン無視だもんなあ」
自分に言い聞かせるように自嘲する。
それってなんか、教育を押しつける嫌味な親って感じ。
私はそういうの嫌い。なのに意図せずやっちゃうんだから。
人は完璧じゃない。それを言い訳にするんじゃなくて、自分に問いかける癖をつけないと。
やっぱり子供は早いよなあって思っちゃうんだけど。引け腰になるより、前向きに考えていこう。前向きに!
「カナタのぷちちゃんと同じで、私もぷちたちがどういう風になりたいのかを確かめて育てていくだけの話なんだなあ」
呟いてみて実感した。
ミコさんは明坂の人たちに、いろんな刺激を与えているという。
連れ回すんだって。
よく、一流になるためには一流を知らなきゃいけないっていう。
恣意的に切りわけていったり、中傷するために使うんなら私は反対。
でも、知らないとやりようがないっていう見方をして、いろんな体験をしていってもいいのでは? という提案なら大賛成。
ミコさんはそれこそ素敵なショーとか芸術とか、なにげなくバズった海外の料理すらも明坂の人たちに体験できるように動いているんだとか。
仕事もするし、海外にだって行く。海外だけでも国内だけでもない。幅広く把握して行動する。ミコさん自身は移動にいろいろと制約があるみたいだけど、必要とあれば神さまとだって交渉して移動しちゃうくらいの強さはあるよね。
なんでそんなことをするのかって、明坂のためっていうのはもちろんあるだろうけどさ?
メンバーがそれぞれ、なにができるのかっていうと、歌と踊りだけじゃもったいないじゃない。人生はいろいろ。やれることもたくさんあるんだもの。
教授が悪徳を味わうのに一生懸命なら、ミコさんは世の中の幸せを集めるのにひたむきなんだよね。
そうしてメンバーがそれぞれに自分なりに輝く道を見つけていくよう促しているんだ。
ひとつに限定しない。むしろ個性はそれぞれいろんな方向に育んでいっていい。
教授みたいなのは困りもの。でもそうでなければ別に問題ないよね、なんて雑にいっちゃおう。いまこのときくらいは。
「ぷちたちの……尻尾の気持ちかあ」
わかっていたようでわかっていないし。
考えていたようで、ちっとも考えていない。
一緒に過ごす時間が足りないんだなあ。
昔のサッカー漫画であったんだって。最初の訓練で、サッカーボールと一緒に生活するっていうのが。お父さんが嬉々として話してくれたとき、ちんぷんかんぷんだったよ。
でもいまならちょっとは想像できる。
ぷちたちとそれぞれ一緒に過ごすことで、ぷちたちの性格や考え、感じ方とかいろんなものが見えてくる。
私はめんどくさいなあとか、まだ早いなあとか、いろんな理由を並べてその機会を遠ざけていた。それでも勝手に出てきちゃうあたり、私のぷちは私に似て自由だなあって思うけど!
それに甘えてばかりじゃよくないよね。
私から知っていこうとしない限り、私が知ることはないよなあ。
「いまどこにいるのかわかったかな」
すっきりした。すっごくね!
「ありがと、カナタ」
「ああ」
笑顔でさらっと返事をするだけに留めたカナタの後頭部にしがみついていたのかな。ぷちの赤尾がにょきっと生えたように見えた。カナタが今日つくった子だ。
「やっとおわかりになったようでなによりですけどぉー。主さま、ここで馴染んじゃうとあまあまが遠ざかりましてよ?」
「「「 むしろいまかっこつけてるところだから、そっとしておけって 」」」
「あっ、そ、そういうことでしたの?」
カナタのぷちたちと掛け合いをするのがやたら微笑ましいし、笑顔のカナタの口元が一瞬で引きつったのはさ。
ごめんなさい。正直に白状するけど、結構笑えちゃったの。
ぷちたちをなだめたら、あまあまするからさ。
私もその気になったからさ。
いまくらいはすこし、楽しい空気でのんびりいようよ。
お願い。私の大好きな人。
つづく!




