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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第五章 旧交衝突、絆と縁

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第四十一話

 



 盛り上がりをみせる食堂で手を叩くのは、ラビ先輩だった。


「いやあ……後輩はなかなかのイベンターのようだ。ならば盛り上がりに水を差すまい」


 そう言って騒ぎを収めるだけでなく、みんなを観覧に誘った。

 先輩たちの中には「どのチームが勝つか賭けるぞ」と盛り上がってる人もいたけどね。

 与えられた陣地、山の上の神社で周囲を見渡す。

 巨大な特別体育館の建物の中にはたくさんの先輩達がいて、スポーツの観戦さながらにお菓子をつついたりジュース飲んだりして盛り上がってる。刀を持っている人も、持っていない人もいたよ。

 お城の天守閣にシロくんと狛火野くんが見える。

 きっと漁港区あたりに沢城くんもいるのだろう。

 長屋にはカゲくんたちの姿も見える。「俺らも混ぜてくれりゃあいいのに」って言っていたけど、これ以上は混戦になりそうだしややこしくなりそうだから遠慮してもらったの。


「さて……作戦を」


 住良木くんの声に思わず口を開いた。


「住良木くんと月見島くんには……その」


 口籠もると二人は笑って私を見つめてくる。


「レオでいい」

「俺はタツな」

「じゃあ……私はハルで。レオくんとタツくんにはお願いがあるの」


 頭の中で思い描いた案を二人に説明していたら……笛の音が聞こえた。

 ラビ先輩が吹いたのだろう。それが試合開始の合図だった。

 三人でうなずき合った時だった。


「――……行かせない」


 天守閣から流星のように飛び降りてきた狛火野くん。

 彼が真っ先に私たちの元に来たのは想像通りだった。

 私が踏み出そうとする方向を切り払う。

 それはあまりにも素早すぎて目に見えない壁のようだった。

 だからこそ、作戦があるの。

 シロくんのそれに比べたら大した作戦じゃない。それでも必要な作戦だ。


「狛火野流抜刀術……コマ、てめえ一度たりとも俺らに使わねえなあ」

「一度味わってみたいと思っていた。さあ、いつでもこい」


 レオくんとタツくんの二人に「行け」と背中を押されて、私は走る。

 単純だ。二人に狛火野くんの相手をしてもらうんだ。

 一年生代表四人が集まった一年零組。その実力は先日の邪討伐で見た通りだ。

 二人が駆け寄るから、狛火野くんも私の足止めまではできない。


「くっ!」


 狛火野くんの注意は二人に向いたから、その隙に行くよ。

 沢城くんの狙いはまず間違いなくシロくん。

 シロくんもまた……沢城くん狙い。

 もしシロくんがいつものシロくんなら、カゲくんたちをなんとかして誘ったりして、確実な手を打っただろう。

 けど……今のシロくんはいつものらしさがない。

 沢城くんを意識しすぎるあまり、自分を見失っているんだ。

 本命の相手と戦うことしか考えてないに違いない。

 せっかく狛火野くんという仲間を得ても私たちの足止めに使うだけ。

 じゃあ本人は? すぐに立ち向かおうとしているに違いない。

 沢城くんが勝つと信じているし、それにコンプレックスすら感じているのに。

 なんで……なんでそんなに自棄になっているんだろう。


『男の……それもライバルなのだろう』


 十兵衞、わからないよ。私、そういうの……よくわからない。

 けど……普通に斬り合ったら、沢城くんに分があるのは明白。

 それだと困る。物凄く困る。

 きっと勝った後で冷静になった沢城くんも困る。

 その結果、ものにされちゃった私は余計に困るに違いない。

 負の連鎖しか見えないよ。

 私の問題だから他の誰でもない、私が止めないと!


 ◆


 お城を真っ直ぐ目指したよ。

 シロくんの運動神経なら出るまでに時間がかかるだろうし、沢城くんの運動神経ならあっという間に辿り着くだろうと思ったし。

 だから案の定、城の正面で二人が対峙する場面に出くわすことに成功した。

 遠くから激しい音が聞こえる。

 観客になった先輩達の盛り上がる声が聞こえる中、


「ぐうっ!」

「ちっ……」


 シロくんがはじき飛ばされて転がっていた。それをした沢城くんも、痛そうな顔をしている。

 すぐに二人はにらみ合う。


「そんなに俺が気に入らねえのかよ。こんな、こんなやり方させて!」

「……それは君の方だろ。僕は君の方が凄いって認めてる」

「嘘だな。卑屈な振りしやがって、逃げてんじゃねえよ! てめえはそんなに自分のフィールドで戦うのが嫌いなのかよ!」


 沢城くんの言葉で気づいた。わかってるんだ。シロくんの得意なこと、ちゃんと。

 真っ正直に戦われたらこうなるってわかっているんだ。

 なのにシロくんはがむしゃらに突っ込んできた。

 二人揃って傷つけ合っている。


「君は僕を目の敵にしすぎだ。なんなんだよ! そんなに僕が嫌いなのか!」

「ちっ……だからてめえはばかなんだよ」

「知ってるとも! ああ、いやってくらいわかってるよ! 僕はばかだ! もううんざりなんだよ!」


 泣きそうなシロくんの絶叫に身体が震えたの。

 言葉じゃどうにもならないんだ。

 そう悟ったから、沢城くんが構えた。


「なら、もう……言葉は不要だ」

「ああ……絶対に、君を斬る」


 互いに柄に手を掛ける。


『手を出すのか?』


 当然だよ。


『男の勝負だ。よかれ悪しかれ、その立ち会いで一つの決着がつく』


 美学とか、そういう話かな。

 だとしても……だめ。こんなの……こんなの、見てられないよ。


『なぜだ』


 だってさ……十兵衞。

 二人は何度も同じ事を繰り返してる。

 勝負で区切りがつくのは一瞬だけ。今だけだ。

 今までと同じ経験しか積み重ねられない。

 そうしてきっと……また傷つけ合うんだ。目に見えるようだよ。

 なら、それは止めなきゃ。

 たぶんだけどね?


「また巻き込まれる予感がするもん!」

『いっそ清々しいのう』


 いいの!

 二人の緊張が高まった瞬間、私は二本の柄を握りしめ跳躍。

 交差の寸前で割って入った。

 両手に受け止めるは二人の凶刃。


「なっ」「邪魔すんな!」

「お断り……です!」


 十兵衞の思考をたぐりよせて、乱暴に振るって二人を離す。

 そして二人に切っ先を突きつけて言うの。


「巻き込まれるのがいやなので、巻き込みに来ました! 青澄春灯です!」

「ど、どうして!」

「さっさと、消えろ!」


 困惑に顔を歪めるシロくんとは違って、沢城くんは凄まじい形相で飛びかかってきた。


「くっ、ううっ!」


 目に留まらぬ早業で繰り出される剣筋は無数に私を分割するような線を重ねて、面で攻めてくる。けど、


『十兵衞!』

「応!」


 力を貸して、という願いに応えて剣豪が防ぐ。

 ただの人間同士にはありえない、火花の嵐。

 手にする刀が悲鳴をあげる。

 動きのデタラメさも、刀の強靱さも沢城くんは群を抜いてる。

 受け続けたらいずれ限界がくるのは明白。


『ちぃっ、腐っても妖刀か!』

「ならば」


 タマちゃんの悲鳴に十兵衞の動きが変わった。

 私に訴えかける念はそのまま、十兵衞の教えそのもの。

 半歩下がり、跳んで、身を屈めて。

 避ける。避ける。ただひたすらに、避ける。


「ちっ」


 舌打ちして大ぶりが増えていく沢城くん。

 それこそが十兵衞の狙いだった。


「まだ――……未熟!」


 ただ、一閃。

 十兵衞の刀が沢城くんの肩に触れ、一気にはじき飛ばす。

 長屋の扉を壊し、中のものをめちゃくちゃにして……壁を破壊して、這いつくばる。

 動き出す気配はない。


『要領は掴めたか』


 しょ、正直自信ない。けど。


「シロくん……次はキミに勝つ」

「なっ」


 タマちゃんの刀をしまい、十兵衞の刀を両手で握りしめる。


「……ぼ、僕は! 僕の狙いは、ただ……ただ、アイツに認めてもらおうって」


 だめだ。そう思った。

 だってその手段で沢城くんは苦しんでる。そしてシロくんはもっと傷ついちゃうに違いない。

 本当なら十兵衞の言うとおり、二人がどうにかするべき問題だ。

 他人がどうこうするところじゃない。

 なら……私にできるのは、止めて。できれば自分で気づいてもらえるように努力するだけ。


「認めてもらったら、どうなるの?」


 深呼吸をして……構える。


「優しくないの、やだな。シロくんが戦う道を選ぶなら、私も全力でやる。覚悟して」

「くっ――」


 シロくんがその手に握るのはきっと、ひとかどの刀だった。

 けれどその声がもし届いているのなら、シロくんの動きも、行動も、そのすべてが違ったはず。

 だから……私でも、斬れたに違いない。

 お堀に落ちていくシロくんにはもう、立ち上がる気配はない。

 遠くで聞こえた剣劇がやんだ。

 すぐに……三人が歩いてきて、堀に落ちたシロくんを狛火野くんが助けて終わった。


「勝者、青澄チーム」


 笛の音の後に聞こえたメガホン越しのラビ先輩の声が結果……だと思ったんだけど。


「何をしている」

「あらあら。やんちゃですね……今年の子は」


 正面玄関から二人が来たの。

 にこにこ笑顔で綺麗な着物姿のニナ先生が寄り添っているのは、ニナ先生と同じ着物姿のライオン先生だった。

 そのこめかみに一目ではっきりとわかる筋が。筋が。


「茶道部の活動に顔を出していれば……昨日の今日でなんだ、この騒ぎは」


 ぎろり、という睨みに誰も何も言えませんでした。

 そ、そうだ! 先輩達もいるんだから、きっとなんとかして――……あれ?


「えっと?」


 周囲を見渡すと、残っているのは一年生だけ。

 よくみると壁のカゲから出てきた先輩たちが、玄関からダッシュで逃げていく後ろ姿が見える。

 ず、ずるい! そんなのずるいよ!


「あ、あの、これは、その」

「問答無用。全員並べ、特別体育館の無断使用と騒乱の罰を与える」


 刀を抜いたライオン先生。

 頼むまでもないよね。

 全員斬られちゃったんだから。

 そのせいで、ライオン先生の刀の力によって三分間だけ素直に心のままに語っちゃうモードになるの。

 不平不満をぽろぽろこぼす私たちを尻目に、シロくんと沢城くんは隣り合っていた。


「黙って学校変えるなんて……さみしいじゃねえか。本当は好きなんだよ、お前のこと。それくらいわかれ……シロのばかやろう」

「きみこそ、いい加減……素直に絡んでくれ。それなら僕だって、ちゃんと応えられたんだから。あと、僕より目立つな。いつもいいところを持っていくんだ、キミは」

「俺は普段通りにしてるだけなの」

「知ってるよ……キミのことならなんでも」

「……俺も、お前が困ってたの知ってた。でも……それ以上に、てめえのいいところはてめえより知ってんだ」

「僕もだ」

「なら……てめえのいいところ、俺よりもっとわかってみせろよ。寂しいじゃねえか」

「……ああ。わかったよ」


 二人で顔を見合わせると、諦めたように笑い合う。

 それから拳を重ね合わせる。


「次はもっとちゃんと二人っきりで……な」

「ああ……ケンカの約束だ」


 やれやれです。でも……それが見たかったの。

 結局、二人で解決しちゃったね。

 大事なのは向き合うこと、お互い素直に見つめ合えるかどうか……なのかな。


「それはそうと、ギン」

「ああ、そうだな。筋は通さねえとな」


 二人はうなずき合うと、急に私を見たの。


「悪かった……」

「君を……みんなを巻き込んだ。まあ、だからこそ君にやられたんだろうが」

「次はぜってぇ負けないから。それまでは、まともな勝負はお預けだ」


 拳を突きだして笑う沢城くんはあんまりにも沢城くんらしくて……つい笑っちゃった。


「うん、わかった」


 やっと真っ直ぐ私に言葉をかけてくれたのが嬉しくて、だから頷けたんだと思う。


「ギン……本気でやりあうつもりか? そんなに彼女が気に入ったのか」

「ったりめえだろ。お前はどうなんだよ」

「僕も……今度こそ、約束を果たせるように頑張るよ。だから見ていて……もらえるだろうか」


 真剣な顔で私を見つめるシロくんは……いつものシロくんだったから。

 ほっとしながら頷くよ。


「見てるよ。私だけじゃない。きっと今日から、みんながシロくんを見守るよ」

「まあ……討伐に比べると、いいとこなかったけどな」

「う、うるさいな! 取り戻してみせるさ!」


 赤面して俯くシロくんの肩を抱いて、沢城くんが笑った。

 シロくんもつられて笑って……私も笑っちゃった。ライオン先生にすぐ怒られちゃったけど。

 そういうすべてが楽しかったから……その時は気づかなかったの。

 狛火野くんが私をじっと見つめていたことの意味に。


「……ん? なあに?」

「いや……」


 首を振った彼はレオくんとタツくんに連れられて行っちゃった。

 どうしたんだろう?

 ……なんだか胸がざわざわするの。




 つづく。

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