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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第二千九百八十九話

 



 坂を下るごとに眼下の光景がぼんやりと見えてくる。

 入り口からでは明かりがぽつぽつとちらついたくらいだったが、それがなぜかわかった。白く煙るなにかの気体で覆われていた。煙のせいで明かりがぼやけているんだ。恐らく光源自体、光量がたいしたことないのも手伝って、よく見えないのでは。

 視覚よりもいっそ、嗅覚を刺激される。

 つんと鼻奥を突き刺すような生臭さ、酸っぱさ、肉の腐った匂いが漂っている。とてもまともな場所じゃなさそうだ。そんなの、考えるまでもないはずだった。人を爆弾にしたり、頭を潰して放っておくような連中が相手なんだから。


「う、これ」

「匂いがひどく、視界も悪い。おまけに虫やネズミが多い。と言っても現世の、ではないが」

「そう見える邪が大量にいるの。やってることは現世のそれと同じ。食料があるかぎり、それを求めて集まってくるし、住処と食料があるなら繁殖もする」


 ソウイチさんとサクラさんの語りにぞっとする。

 連想するのは、屍肉を漁るものたち。彼らが繁殖するなら、それだけ食料があるということで、その食料は。


「春灯、だいじょうぶ?」


 気づかず歩みが鈍くなっていた。

 トモの指摘に笑って答えられたらよかったけど、無理だ。腹の底からこみあげてくる気持ち悪さに耐えられそうにない。獣憑き状態を解除する。人の鼻なら、まだマシだ。鋭敏な感覚を犠牲にしてでも、この匂いを避けたかった。


「具体的になにがあるか明言しないのは、観察どころではなかったからですか?」

「繰り返すが視界が悪く匂いがひどい」


 ソウイチさんは、まるでそれで説明が十分かのよう。

 もともと口下手だし、寡黙な人だと思っていたけど、そもそも言葉にするのをがんばる人じゃないのかもしれない。言えないけどね!


「虫が多いし、彼らが食べる食料が多くある。食料の正体は、ここまでの道のりで察せられると思うけど、隔離世に飛ばされた人。あるいはそう予想されるもの」


 マドカもトモも、さすがに黙り込む。

 語り手の役割を引き受けたサクラさんは隣を歩くソウイチさんを恨めしげに睨んでから、坂の下へと視線を戻した。


「そして骸が多く、虫がたかるほどの状態であるなら、どんな病が蔓延しているのか見当もつかない。隔離世だけに、病だけでなく呪いが待ち受けているかもしれない。そんな場所に、たった四人で出向くわけにもいかないでしょ?」

「触らぬ神に祟りなしだ」


 ソウイチさんのまとめは簡潔すぎて、大事なことが伝わらない。

 どんな人にも支えがいるけれど、ソウイチさんの場合は語り部がいるのかもしれない。

 それにしても、病に呪いね。


『淀んでおる』

『穴蔵に人を閉じ込めて、現世でできぬ企てを思う存分試すのだ。そも、まともではない』


 タマちゃんと十兵衛の声を聞いて、ますます気鬱になる。

 吐き気はまだひどい。

 改めて気づいた。タマちゃんの言うとおり、淀んでいる。だけどそれは雰囲気がどうこうではない。空気の流れの問題だ。

 およそ空調とおぼしきものが存在しない。私たちが長く歩いてきた通路にだって。

 世界中の鉱物を支える途上国の鉱山には、まともな空調もなければ、そもそも安全対策もろくになされておらず、おまけにいつ死んでもおかしくないような危ない採掘を非常に安価で買いたたかれた労働者たちがいるという。

 その空気の悪さは労働者たちへの健康被害に繋がる。肺を患い亡くなる人も多い。おまけに十に満たない頃や、十代でずっと、採掘の仕事をしている子もいるという。当然、亡くなることもある。

 ここも同じだ。

 ここにいる人たちを守る気が一切ない。大事にする気もない。

 そして実際、そんな場所で、なにがどのように蔓延しているのか、わかったものではない。

 だからこそ、行くべきだと心は感じてる。頭は近づきたくもないと訴える。


「正直、無策に降りるべきではない」

「前回は青澄さんが防護服をこしらえてくれたんだけど、さて、どうしたものかとは思うわね。本当はどう止めるか考えていたところなんだけど」


 サクラさんがまたしてもソウイチさんを睨んだ。

 なにも言わない旦那に膨れている。

 まあ、ソウイチさんなら、それが邪であるかぎり切り伏せそうな勢いだけどさ。それと、無策に行くかどうかはまた別だよね。ここは買って出てほしいところだよ。このまま進むべきじゃないって言うべきでしょ。

 去年の夏休みに緋迎さんちに滞在したときの、ソウイチさんの振る舞いも重ねて思う。

 まだ、彼はサクラさんを失ってからのダメージを抱えている。その影響に圧倒されているんだろうって。

 だとしても、なんだけどね。

 逆にサクラさんは消息不明になってから復帰するまで、まるで完全に時間が止まっていたかのようだ。

 彼女が消えたのは、新宿を軸にした、地下のどこか。この地下網に関連する、どこか。

 どうしたって考える。

 彼女は人か、それともクローンにすり替わっていやしないのか。

 人だというのなら、彼女の時間をぴたりと止めて、そのまま留めておくようななにかが、この地下に存在するということになる。


「なにが潜んでいるかもわからないし、おふたりの話を聞くかぎり、トモカに走ってもらうわけにもいかないね」

「防護服とか、ごついマスクを借りたら行けるんじゃない?」

「甘く見ないほうがいい」


 夫婦の一触即発になりかねない空気にやっと気づいたマドカが、話題を変えようと試みる。

 トモはのんきだ。だけど、私もマドカに賛成。下手に進まないほうがいい。雷速ダッシュは高速で駆け抜ける以上、なにがとっさにぶつかるかわからない。トモがどんな目に合うのか、わかったものじゃない。

 幸か不幸か、坂を下り始めてそれなりだが、まだまだ先は長い。引き返すなら、いまだ。

 でも、それじゃあまりにもね。

 ここまで来た目的を思うと、無策にもほどがある。

 さあ、考えよう。


「暗闇を照らす明かりを作って、現状を確かめてみない?」

「なんで」


 呆れた顔をしながらも、マドカが最初に返事をしてくれた。

 しめしめ。

 みんなに足を止めるように促すべく、立ち止まって胸を張る。


「調査してた四人も観測できていないものを見れるなら、それには価値があるでしょ?」


 具体的な目的を定めれば、やりようはある。

 いきなり無策で突っ込むよりはいい。

 まあ、ここまで無策に下りてきちゃったんですけどもね!

 トモもソウイチさんもサクラさんも足を止めて、耳を傾けてくれている。

 よしよし。話を続けるぞ?


「次。もやがかかって見える、あの煙を晴らせないかな。外の空気を入れたいよ」

「ガスが充満しているかもしれないから、やるなら調査したいところだね」


 私の話に調子を取り戻してきたのか、マドカが腕組みをしながら考え込む。

 なるほど。たしかにね。ガスか。それは考えつかなかったけど、でもたしかに危ない気体が下に漂っていたとしても不思議じゃない。

 考えれば考えるほど、ある場所を連想してしまう。

 いや、場所じゃない。厳密に言えば、施設だ。

 フランクルが昔、収容された場所。様々な歴史映画や小説で目にしたところ。お父さんのビデオライブラリにある白い巨塔で、傲慢に物事を推し進める財前演じる唐沢寿明さんが歩く場面が印象的だった場所でもあるし、ドキュメンタリー番組でかつて収容された人たちが歩いていた場所でもあった。

 アウシュビッツ。あるいは各地の絶滅収容所。

 もしかしたら塚本晋也版の野火における戦場や、兵士たちが潜んでいたジャングル各地の亡骸の山のような、そんな場所かもしれない。

 より陰惨かもしれない。あるいは、よりずさんかもしれない。

 それだけとも思えないけど。

 加工する場所がなきゃ変でしょ。それは、ガス室とは方向性を異にする、だけど残酷で残虐な場所に違いない。

 考えてみれば、戦後の様々なカルチャーの中には戦争の文脈が多く盛り込まれていたんだろうなあ。

 オタク文化とくくられるものの枠なんかよそにして、当時を生きた人たちは反戦と共にあったんだろうなあ。ジブリも、ガンダムも。手塚治虫さんも。仮面ライダーとかもじゃないかな?

 それ見て育っておいて「戦争したい」も「戦いたい」もあり得ないよなあ。いや。あり得ない、なんてことはあり得ないんだ。分岐が生じる以上、人は分かれていく。なにをどう受け止めるかは人による。

 なにをどう選ぶかだって、人による。

 さあ、どうしたい?

 めいっぱい考えて、ここまで来たんだ。

 だいじょうぶ。圧倒される現実を前にするときこそ、支えがいる。その支えがなにか、具体的にはどんなものかがイメージできている。おまけにここは隔離世で、現世よりもずっと無理が利く。


「気体やガスについて調べるためにも、まずはこの視認性の悪さを改善したいね」

「びかびかって照らそうものなら、この空間の連中をまるごと刺激しかねないけどね」

「でも、渋谷とか新宿がすっぽりおさまりそうな、この空間を隠れて歩いたって、たぶん時間が無駄にかかっちゃうだけだよ」


 それは四人がすでに確認済みだ。

 現在進行形で第二次関東事変状態なのに、さすがにそんなに時間をかけられる余裕はない。でしょ?


「トモ。私を背負って、必殺技で、この空間の上のほうに行けないかな?」

「そりゃ、まあ、行けると思うけど」


 雷になって飛んでいく技をトモは一年生の頃から使っている。

 トモが編み出した必殺技を、私たちは何度も見てきた。なんなら組み手で技を食らったこともある!

 だからわかる。あれなら、すごい速度で空中を移動できる。


「それで、この空間を照らす巨大な明かりを作ってみせる。全体を照らして、なるべく多くの記録を取る。金色を使うから、気体に反応することはない。呪いは、ううん。やばそうだったら、トモと一緒にすぐ逃げる」


 そのためにも。


「三人は入り口に戻って、記録の準備。で、やばそうだったら私たちを置いてでも、すぐさま撤退。体勢を立て直す。逆に何事も起きないか、明かりを設置した私たちと合流できる状況なら、そのまま合流して、次の手を考える」


 空気の入れ換えをする。

 明かりをもって状況に即した手を考え、実行する。

 細かく調査したい。さらに先の通路があるなら、丁寧に調べたい。

 サクラさんの真実も知りたいし、連中の根幹がこの先にあるような気がしてならない。

 もちろん、抵抗が予想される。けど、その内訳が具体的になにかがわからない。

 またしても爆弾かもしれない。それ以外かもしれない。


「下にいる人や邪たちが一斉に爆発する可能性もあるし、空に向かって飛んできて、私たちをどうにかしようとするかもしれない。その反応も、いまとなっては必要な情報じゃない?」

「それって限界すぎない?」

「もうその限界なんじゃない? ってことだよ」


 マドカはできれば避けたがっている。気持ちはわかる。

 だけど腹をくくれちゃった私は、内心でビビり散らかして逃げたくて仕方がないくせに「行くしかない」って感じている。

 はあ。

 損だなあ!

 でも絶対に、繰り返すけど、絶対に、ひとりも犠牲者は出しちゃならないからなあ。

 ぼちぼちやるか。


「おふたりとも、お願いできますか?」

「うむ」

「正直、私たちは侍としては自信があるけど、この規模が相手になると打つ手がないの。こちらこそ、無理を頼んで申し訳ないのだけど」

「いいえぇ! 一蓮托生、連帯責任ってやつですよ!」


 私の発言におふたりだけじゃなくてマドカもトモも引いてた。

 だけど実際、やるしかないラインにいる。そこから下がるのか。

 まさか。情けない話、手がなくても行くしかなくて、ここまで来ちゃってるんだから。いまさらどこにどう下がるというのか。後退するのも撤退するのも、次の手のため。次善の策を練り、実行するため。逃げるのが必要なら、徹底的に、とことん、逃げ抜く。

 そのためにも情報がいる。変化がいる。悔しいけど、時間がない。


「じゃあ、やるよ」


 トモに手を伸ばそうとしたら、後ろから抱き上げられてしまった。

 いつの間に後ろに? こんなことに気が回らない私もかなり余裕がないみたいだ。


「まず移動するのは、あたしの役目だ。じゃ、またあとで」


 近所のコンビニに出かけるくらい、気軽な挨拶をしてからトモがすこし屈む。力むトモの髪の毛が膨らんでいく。ふと身体に強烈な圧力を感じた。身体の力や感覚がぜんぶ、トモの身体に引っ張り込まれるような感覚ののち、ふと解放される。


「ハル!」


 事前に話し合うくらいはしておくべきだった!

 ええい。


「んんん!」


 なにかを叫ぼうと思ったんだけど、口を開ける元気もなかった。

 思いのほか開かない口でうめきながら、金色をめいっぱい出してびかびか光る球体を構成する。

 愛生先輩の必殺技、太陽の再現のつもり。だけど、愛生先輩とちがって、私はいつか宝島を照らした、あの光り照らすものをこそ、より強く目指した。

 同時に金色雲を展開して、私とトモをまるごと受け止めさせる。

 問題は、あった。


「ま、まぶしすぎるんだけど!?」


 トモが悲鳴をあげた。そりゃそうだ。空間全体を照らすように、とにかく光らせてる。

 その中にいるんだから。まぶしくて当然だ。


「ま、待って」


 口が開いた。けど、思いのほか弱々しい声しか出せなかった。

 トモのすんごい移動は私には負荷が強すぎるんだ。手加減ってものがいるんだよ。どう考えても! 慣れてないんだから!

 そんなの頭にないくらい、トモもいっぱいいっぱいなんだろう。

 そりゃあそうだ。ここは何度死んでもおかしくないような死地だと、私たち全員が感じているのだから。

 いくらでも集中力がそがれたり、判断ミスが誘発されたりするさ。

 ストレスはそれくらい、私たちの調子をずたずたに破壊していく。

 急げ。落ち着け。

 金色雲をさらに増やして、私たちをまるごとくるんでしまう。そのうえで、壁を形成。

 私をお姫様抱っこしてるトモが立って、ぎりぎりいられるくらいの一畳よりも狭い空間に。おまけになにも見えない。

 ええい!

 上半分を照らすのをやめて、金色雲ルームを展開。開けた足場にしてしまえ。その足場の下に、光る金色をつけてしまえば、少なくとも私たちはまぶしさにさらされずに済む。


「ど、どう?」


 やってみせながらも、私は状態を認識できなかった。

 なぜって?

 目がくらんだからだよ!


「まぶしくてなんにも見えないんだけど!」


 トモもだった!

 ちゃん、ちゃん。なんてオチをつけても、状況は待ったなしなわけで。


「い、いったん下りるね!」


 トモにそう伝えると「待って、屈むから」と答えてもらえた。

 すぐさま屈んだトモが恐る恐る、私を下ろす。だけど、すこしも危なげなくて、なんにも見えないのにするりと金色雲のうえに下りられた。もしかしてトモってば慣れてる? なんの話かな? いまじゃないな。


「狐憑きになって、音を探るよ」

「いいね、尻尾に触りたいところだった」


 軽口に笑う元気もないし、トモも空元気みたいだ。ぴったりくっついているからだろうか。身体の震えが伝わってくる。私とトモ、どちらもきっと、びびり散らかしている。

 狐憑き状態に戻って、耳を澄ませる。

 坂を下りていたときと変わらない喧噪が足下、ずっと下方から聞こえてくる。特段、なにかが変わるような兆候もなにもない。かといって、油断はできないが。


「反応なし。ひとまず、防御シールド的なのを張るね?」

「うん」


 軽口も打ち止めのようだった。

 私なんか、そもそも浮かんでないからね。じゅうぶんすごいよ。

 展開した金色雲の範囲を思い出しながら、金色で防護膜を張る。突然、攻撃されても、すこしはしのげるはずだ。ふたりして目が見えるまで、息を潜めて身を寄せ合う。

 どれほど経ったろう。真っ白に飛んだ視界が徐々に暗さを取り戻していく。ぼやけた世界に輪郭が戻ってくる。とても開けていられなかった目で、ようやくトモのこわばった笑顔が見えた。


「なに、じっと見て。キス待ち?」

「笑える」


 私なりに精いっぱいの軽口を叩くつもりが、空振り。気の利いた言葉が出てこない。

 トモが私の身体に回した腕をそっと外す。いつの間にか、刀を抜いて身構えていた。トモはずっと、私を守ってくれていた。やめてほしい。いちいちちょろくきゅんとくる。いろんな次元があるのだ、そのうちの何人かの私はトモに恋をしているだけじゃ済まないと思う。

 立ち上がって、自分の展開した下方太陽展開状態の金色雲を確認。水平の滑らかな金色床の端から、直視するだけで網膜にしばらく焼き付きそうな光りが見える。すぐに顔を背けて、それからもうちょっと床部分の面積を広げた。太陽部分は面積として、ずっと少なくていいんだ。

 やりながら調整するこの感じ、ほんと、いつ事故を起こしても不思議じゃない。

 どれだけ消耗するかも未知数だ。とはいえ、これでようやく、眼下の状態が見えるはず。

 トモと目配せをした。ふたりで、恐る恐る金色雲床の端から見下ろしてみる。

 坂を下りていたときに見えていた煙は明かりに照らされて、視認性を下げていた。それでも、うっすらと全体像が見えてくる。実に細やかに区分けされたもの。通路が存在しない。最小単位は、ブロック。ブロックが集まって、なにかの形を形成して、それがさらに集まって輪郭を形作っている。

 最小単位のブロックには、大まかに、青く輝く点が見えた。不思議だ。明かりを照らすと、こんなに鮮やかに見える。まるで青い宝石が地の底にちりばめられているかのように輝いている。おばあちゃんちで見上げる星空のように、数え切れないほどの青が見える。どのブロックにも、青がひとつ。


「なに、あの、飛んでるやつ」


 トモが乾いた声でつぶやく。

 地の底の上を、あるいはざっくりと大中小の区分けに分けたとき、大区画の上を飛び交う小さなブロックがあった。触手を生やしたそれは、虫よりもずっと原始的なものに見えた。

 それでようやく、連想できた。

 これは、細胞だ。地の底にある青い光を抱えた最小ブロックは、細胞なのだ。細胞を集めた組織があり、組織を集めた器官がある。

 細胞には大まかに原核細胞と真核細胞がある。

 私たち動物や、あるいは植物の身体を構成する、核をもつ細胞を真核細胞という。一方で、私たちの表皮に常在する菌などの核をもたない細胞は、原核細胞だ。

 もしも私の想定のとおりだとしたら、あの青い光は核なんだ。

 実際、細胞に見える最小ブロックには膜がある。細胞膜のような膜がお互いを隔てている。

 だから細胞単位、組織単位で見るよりも、よっぽど器官単位、あるいは器官が集まった個体単位で見たくなる。けど、全体を見ても、よくわからない。

 空間の中心まで、トモは見事に移動してみせた。おかげで洞穴の中心、その上部から全体を見渡せている。

 なのに、たとえば人体模型の内臓配置のようにはなっていない。他の動物の内臓にも連想できるかぎりでは一致しない。

 あえていえば、円と呼ぶにはすこしいびつな洞穴は人を斜めにして、膝か腕を抱いたような状態でX線で輪切りにしたかのような、楕円になりきれないヘンテコな形をしていた。組織にしたって、がんばって読み取ってみるに、うねるような腸で埋め尽くされているかのように見えた。

 人の体内に、いろんな菌がいる。大腸菌だっている。表皮から体内まで、いろんなところに常在菌がいろいろいるんだ。たとえば体調が悪いだけで性病にかかることだってあるのも、常在菌に性病に関わる細菌がいるから。

 でも、じゃあ、これはなんだろう。

 ソウイチさんとサクラさんは邪がいると言った。虫のようなのが。それにたぶん、頭を潰された人や、球体をつけられた人もいる。

 だけど、でも、この構造からしたら、もっと別のものもたくさんいる気がする。


「これ、なに?」


 トモの問いに答えられなかった。

 細胞、組織、器官。そして、個体。

 そう説明するには、ここにあるものは全体の一部に過ぎないのが見て取れる。

 じゃあ、個体はなんだ。なんなんだ。これはなんの一部なのか。

 お母さんが見せてくれた地下の全体像に、ここと同じような洞穴がいくつかあった。

 まさか腸を再現したくて、こんなものをこしらえた?

 そんなはずがあるか。なんのために? 意味がわからないじゃないか。

 しかも細胞に見えるものの中に、だれかが改造して爆弾にされてしまった人たちがいる。

 気になることは他にもいっぱいあるけど、とりわけ気になるのはね?

 あの青い光の正体だ。




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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