第千六百九十九話
臨み挑めば勝ちだけがあり、勝利にのみ価値があるのだとしたら?
勝てない挑戦には価値がないことになる。
得るものが見えている挑戦に良さがあり、そうでないものにないのなら?
やはり、得るものが見えている挑戦にしか価値がないことになる。
このとき、身の回りにある不足や不備について、勝利もなく、得るものも見えないとき、それを変えることに価値はないことに?
考えずにはいられない。
人はやがて老いる。病にかかるし、衰える。時流に対して、波もある。自分が自らを保てていても、周囲もそうとは限らない。
勝利だけとはいかず、得るものが見えない壁に突き当たることもしょっちゅうだ。
壁は、じゃあ、なんだ。
私たちを阻むもの?
不足は。欠けた穴は、なんだ。
足りないものは、価値がないことではないのか。
ほんとにい?
『人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし』
急ぐべからず。
徳川家康公が残した言葉だ。十兵衞に応えるように、私も思い描く。
不自由を常と思えば不足なし。
『心に望みおこらば困窮したる時を思い出すべし』
堪忍は無事長久の基。
怒りは敵と思え。
『勝つことばかり知りて、負くることを知らざれば、害その身にいたる』
己を責めて人を責むるな。
『及ばざるは?』
過ぎたるより勝れり!
個人的には最後の一文が、いまちょうど考えていたことに繋がるかな!
ただし、これは悩ましい話でもあるんだ。
放言を好き勝手に放つように、安易に、端的に、前後の文脈も縦横無尽の先も考えず、ずびずばと一刀両断に言っているほうが楽だ。易しく済ませていくほうが、身軽で気ままでいい。
自由だ。
距離を置けて。
好き勝手いえて。
背負うこともなく。
責任を突き放してばかりで。
勝つことばかり。
常勝でいるには、どうすればいい? 勝てる試合ばかりしていればいい。けれど、勘所を鈍らせないように目端を利かせ、それなりにできることを増やしていけるほど、勝てる試合を増やせる。
それより遥かに楽ちんなのが、勝てる試合だけを見せる。
どちらもツッコミどころはあるよ? たとえば勝てることの規模が縮小していったら、常勝の価値も合わせて小さくなっていく。
それって、どうだろう。おじいちゃん、おばあちゃんになっても、孫やひ孫の初心者相手に、なにかのゲームで勝って、それを誇りまくるみたいなの。どうかな?
自分より明らかに弱くて、勝てる見込みのある試合しかしない。その常勝に、どれほどの意味があるのか。
私には正直、わからない。
たとえば有名な棋士さんで、べらぼうに戦い、どえらい時代を戦い抜き、変化によって白星よりも黒星が増えながら、それでも自分を貫く人がいて、その人なりに学び続けているという。腕利きの人たちに、自分の布陣で挑む者。
それってもう、将棋という道を突き進む旅人だ。
私が望み、臨んでいきたい道は、そっちにある。
だけど、何事にもあらゆる先があってさ?
縦横無尽の先へと足を伸ばせること、それ自体がもう力や前提の誇示に繋がってしまうことがあるんだ。そして、そこでいままさに懊悩して、立ち止まり、悩み苦しんでいるだれかであり、至らない私の位置ないし、足を伸ばせない地点へと引き返してくることはない。
言葉が見つからない。気持ちが見えない。わからない。掴めないし、進めない。もがき足掻くなにかは、達者に語り、自分よりものを知っているだれかほど捉えきれない。まさに苦しんでいるのに。当事者なのに。至らぬ者として、ますます追いつめられてしまう。
あの感覚へと、進むほど戻れなくなるし、厚顔無恥になるようで、語れない。語るべきかどうかさえ、見失ってしまう。ひどい恥を晒すだけならまだしも、今度は自分が暴力を振りかざしているような気がして、二の足を踏む。
トシさんの行きつけのお店で、いい大人たちと話しながら、たまに哀切に触れる。
それは同窓会に誘われて行ったときの違和感だったり、深夜の電車の光景だったりする。同い年のだれかが会社員になって、結婚して、こどもが学生になって、家庭で居場所がなかなかないとか。仕事で他業種の人と軽く打ち合わせて、新しいことを始めようと盛りあがっている場面とか。そういうときに感じる厭世観に苛まれているときに言われる「自由でいい」や「好きなことやってていい」ほど、心を抉るものもないのだと。
なれたらなっていた。安定した収入。クレジットカードを作れて、ローンも組めて、家も買えて、家庭を養っていく生活。自分という価値とは無慈悲に分けられる、商品価値。損なったときの未来のなさ、潰しのきかなさ、いまさらなれないし迎えいれてもらえる余地もない“普通”という枠組みとの断絶。
なれるものならなっていた。選べない代わりに、いまを生きている。だとして、そこには自分より圧倒的に偏って、すごくできる人、すごくだめな人がいて、中途半端な自分の居場所にさらに戸惑う。そんな、哀切。
不自由は常にそばにあるもの。
その内訳は、大きく異なるようであり、同じ形をしていると思いきや痛みの度合いが異なるようであり、ままならず。
家康公の遺訓によれば「不自由を常と思えば不足なし」だし「心に望みおこらば困窮したる時を思い出すべし」だ。人質となった時期、戦乱で強く輝きを放つ人もあり。抜け目なく恐ろしい人もいて。かの人の人生を思い描きながら考えると、不自由も、困窮も、かなりハード。
ただし、自分の口からだれかには言えないや。いまの私には。これから先も言えないかもしれない。
私の不自由は私のもの。私の困窮もそう。
だれかの不自由、だれかの困窮は、その人のもの。私に語る術はない。なにより、そのときだれかを相手に暴力を、無自覚に振るいそうで、恐ろしい。
そう考えても尚、相手が家族やカナタだったり、ぷちたちだったりすると、頭からすっぽ抜ける瞬間がある。マジで。ほんとに。ガチで、ある。
勝ってほしい。負けないでほしい。経験値うんぬんがすっぽ抜けて「こうあるべし」と望んでしまう。期待しちゃうから、裏切られたとき「なんで!?」って思っちゃう。なのでつい責めてしまうときさえあるし? そりゃあ「己を責めて人を責むるな」となるよね。わかる!
歩荷と山登りの話をしたから、最初の一文を持ってくるとさ? 人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし、だ。急ぐべからず。急ぎたくなるほど、重荷を手放したくなる。重荷だと感じることほど、遠ざけ、身構え、攻撃的にさえなる。
実際、なんでもかんでも背負って生きていくことはできない――……気がする。やったことないから、わからない。
愛着。アタッチメント。繋がり。
生きて出会うすべての人を相手に繋がってきたわけじゃない――……というより、それってどういう状態を含めるのかがまず、わからない。
足りないなあ。
足りないぞ? 私は。
あと、へんてこな気がしない?
重荷を背負って遠い道を行くようなものなんでしょ? 人の一生は。なのに過ぎるより、及ばず足りないほうがいいなんてさ。矛盾してない?
『ものごとすべて、人の感じようだと言えるだろう?』
信長公も秀吉公も、過ぎる。やらずにいられないことがある。
激しい人。そういう印象がある。
ああ、足りない。足りないぞ? なんとかして補う。得て、勝ち取るぞ。
気づくとどんどん、過ぎていく。
でもじゃあ、足りないことに気づいて、行える人は過ぎている?
なら足りないことを受け入れ、なにもしないほうがいいの?
『不満を目指すのでない。不満に駆られるからでもない』
わからなくもないの。いまの私でも、それは。
だけど堪え忍ぶことは無事長久の基礎みたいに言うのならさ? 心に望みが生じたとき、困窮したときを思い出して、と。不自由を常だと思えば不足なしだと言うのなら、まるで我慢はすべての基礎みたいだ。
それってむしろ、執着しません?
『なにが気になる?』
んー。
悟りと遠い気がするの。
最初の一歩、心構えの第一弾! みたいな?
だけど、教えは今度は呪いにならない?
『であれば、家康公なりの、みゅうず、なのではないか?』
なるほど? 家康公にとっての、かあ。
彼の人生から生じたもの。彼の遺した味。
耐えてきた。望んだときほど、つらいときを思い出してきた?
足りないと感じるほど、過ぎてしまうもの。マイナスの数値が大きいとき、求めるプラスの数値が高くなるほど、生じる差は広がり、過剰になりやすいもの。
成れば、いい。長く伸びる種を見つけ、育てる術が見つかるのなら。いいように思える。
けれど周囲に比べて勢いよく育つとき、過ぎたぶんだけ、周囲に刺激を与える。大地の栄養を吸いあげてしまう。
すると、どうなる? 根づかない。あるいは枯れてしまう。育たないか、影響を受けずにはいられなくなる。環境に要素が増えていく。好ましい要素だけとも言い切れない。それは視点によって変わるもの。
なかなか思うようにいかないなあ。
みんながそれぞれに挑戦し、遊んでいる。空を飛ぶ乗り物を用意して、挑戦している。必ずしも成功しているとは言いがたい。ただ、退屈に対して受動的に祭りに参加するよりも、楽しそうだ。ぷちたちと一緒になってくれる人もいる。カゲくんたちなんかがそうだ。私はというと、ハラハラしながら見守るので精いっぱい。
理華ちゃんたちはクラスのみんなと、なにかに挑戦しているという。小楠ちゃん先輩たち生徒会はというと、刀鍛冶のみんなの協力や準備に忙しいよう。
そんな中で、ノノカがスマホに通話してきた。呼び出しだ。
迷ったけど、ぷちたちを集めて会いに行くことにした。最初は、まだマシンで遊んでいていいよって言ったんだけどね。一緒じゃなきゃだめって顔してた。カゲくんや茨ちゃんたちが提案もしてくれたんだ。けど、正直さっきと同じことになりそうだったから辞退した。
出目金マシンが気に入ったのか、マシンに乗ったままで、みんながついてくる。けど、慣熟運転も、調整も不十分の試作品だ。ぷすんぷすんと金色の放出が弱まって速度が出なくなったり、弾みすぎて弾まなくなったりしてくる。そのつど金色を足して、足りないところを補うのだけど、正直なところ応急処置が過ぎるので、だんだん歩みが鈍くなる。
だからか、合流予定のお宿から、ノノカが来てくれた。マシンを片っ端から触れて、私の尻尾にひっつける。私の霊力とマシンを繋げて、霊子が自動的に供給されるようにしてくれた。ぷちたちもペダルをこぐのに疲れたのか、ある程度はスッキリしたのか、不満がる子もいたけど、ひとまず落ちついたんだ。
おかげで宿までスムーズに行けた。
道中、あれこれと話してくれるかと思いきや、ノノカは自慢げに笑いながら「ついてのお楽しみ」と繰り返すばかり。
宿についたらついたで、なぜか宿の浴場手前の更衣室に通される。
扇風機に冷房が稼働している、ヒノキの香りのする部屋で、小楠ちゃん先輩やノンちゃんたちが「さあさあ、まずは脱いで!」と、疲れた笑顔のハイテンションで圧をかけてきた。
なぜに? と思いつつ。せっかくお風呂のそばならばと、めいっぱいペダルをこいだぷちたちに「お風呂に入っておいで」と送り出して、出目金マシンを金色に戻して尻尾に吸収。私も服を脱いだ。
下着姿になっても、みんなの圧が強い。
「――……え。裸?」
「「「 それはもう! 」」」
「女子更衣室ですし!」
ノンちゃん、その付け足しはわかるようでわからないぞ?
「い、いやあの。みんなにがっつり見られながら裸になるのは、さすがに」
「「「 いいからはよう! 」」」
「えええええ……」
なにその圧ぅ。やだぁ……。
まあ脱ぐけどさ。なんかできたんだろうし?
いやでもなあ。
せめてみんなも脱いでいるならまだしも、私だけすっぽんぽんって。
どういうプレイなんだ。脱ぐけど!
籠に服を入れると、ノノカとノンちゃんが待ってましたとばかりに、近づいてきた。
「それじゃあいまから装着しますね? ノンたちの自信作です」
「五つの首にゴムバンドをはめる。現世の布地を使ってるの。おかしなことにはならないと思う」
「はあ」
黒いゴムバンドに見えるのに、伸縮性がある。
手際よく、ふたりがつけてくれるんだ。手首と足首はそのまま、首のは留め具式。
思いのほか、装着感がきつい。
「すこし、息苦しいんだけど」
「待ってね。これはきつめじゃないと困るの」
パイレーツオブカリビアンの一作目でエリザベスがコルセットの紐をきつめに絞られて参っていたような、あの感覚。ぎゅっぎゅと、ノノカが容赦なく絞る。
隙間がなくなるなんてものじゃ済まない。思わず「うえっ」となっちゃいそう。
思わず抗議に睨んだけど、次の瞬間にはふっと緩んだ。
それだけじゃない。
バンドから身体の中心に向かって、白い繊維が伸びる。
私の身体の輪郭そのままに、ぴっちりタイトなスキンスーツに早変わり。
生地は極薄。装着感がまるでない。裸でいるときと変わらない。
ゆとりなんてろくにないのに、身体を反らしても、ねじっても、ツッパリがない。
「軽く足踏みしてみて?」
「問題なければ、腕や足をぐるぐるっと大きく回してみていただけますか?」
ふたりに言われるままに、いろんな動作を試みる。
ふり返ってみたり、海老反りに反ってみたり。鏡を見て、尻尾穴がちゃんと空いていることを確認した。というより、尻尾の周囲に伸びた繊維に、なにかが干渉して、繊維の伸び具合が中途半端なんだ。尻尾の霊子が理由かな?
「これ、尻尾は?」
「想定だと尻尾の付け根でまとまって、尻尾穴になるはずなんだけど――……伸び続けては止められてるって感じだね」
「これでいいんです。尻尾にもバンドをと思ったのですが、事前に試したかったので。もう少し、動いてみてもらえますか? どこまで馴染んでいるか確かめたいので」
「はあ」
スーツになろうとして、なりきれていない。繊維の一本一本が、まるで蛇かなにかみたい。
気にはなるけど、現状の仕様どおりの想定どおりだというなら、いいや。
身体のラインがはっきり出てはいるものの、バストトップや腰回りのデリケートなラインまでは隠れている。そのあたりは配慮済み。じゃなきゃ困るけどね! 助かる。
ひとまずラジオ体操あたりから、柔軟へ。前屈、屈伸、開脚、股割り。
どれも特に問題なし。
むしろ抵抗を一切かんじないぶん、頼りないくらい。
ほんとに裸でいるみたいで。
ひとしきり終えて「こんなとこ?」と問いかけて、びっくり。
みんなして、ずっと睨むように見ている。
のみならず、再びノンちゃんとノノカがくっつくほどそばにきて、あちこちぺたぺたと触れてきた。念入りに確かめるように撫でてくる。正直だいぶくすぐったい。素肌に触られているのと大差ない。そのわりに、扇風機や冷房の風をそれほど感じない。
あと、思ったよりも補正力が強い。けっこう上下に動いても、揺れない。ズレを気にせずに済むから、正直だいぶ助かる。着心地を感じないのもね。どうせなら快適なほうがいい。息がしやすいのも、ラインが崩れないのも、実によし。
「これ、どういう素材なの?」
「バンドにちょっとした細工をしてあって。装着者の霊子を吸収して、肌に添って布地にする。隔離世の刀と同じ素材」
「超極薄ですけどね」
いやあの。その表現って、どうなんだ。
「霊子刀剣部で、霊子を練り上げて刀を作っているんですけど。いっそそのノリで、衣服を練り上げる装置が作れないかと思って」
「キラリさんの要請に叶いますし。もっとも、あくまでアンダーウェア扱いですが」
アンダーウェアで手足だけ残るの、いいなあ。
露出を抑えて、しっかりガード。
「この上に、個々人の好みのデザインをのせたり、戦闘スタイルに合わせたなにかをつけたりすればいいかなと思いまして」
「なるほどね」
たしかに、ありだ。
あとは、強いて言うと、この姿で出ていくのはきついので、付け足し大事。
「最低限の防具ってとこ?」
「はいです。現世のアーミーウェアはどうしても性能を求めるほど、重たく、動きにくくなりがちなのだそうで。隔離世ならどうか、まだわからないですが。最低限を追求してみました」
引き算を繰り返して、最低限必要な機能を洗い出した結果が、これね。
「もっとも、ハルさんの霊子を糧に編み出されるスーツなのに、ハルさんの尻尾に干渉する理由は謎なんですけども」
「穴なんだろうね、やっぱり」
「どうなんですかね?」
ノノカとノンちゃんが話し込み始めてすぐ、小楠ちゃん先輩が咳払いをした。
「春灯。バンドあたりに金色を出してみて? スーツが変化するか知りたい」
言われてすぐに従うけれど、スーツは真っ白のまま。
「どうしたの? やってみて」
「――……あのう。変わりませんけど」
「「「 ええええ!? 」」」
これには見ていた刀鍛冶女子のみんなが悲鳴をあげる。
「そもそもなんで白になるの?」
「黒でも青でも金色でもいいはずだよね、青澄さんなら」
「いやいや。自分が着るとき考えると色を選べないのはきついって」
「そういう話をする段階じゃないだろ、まだ」
「白って逆にえっちじゃない?」
「そうじゃないだろ!? あれえ!? バンドと同じ黒になってたよね、みんな」
「さっきまで試してたときはそうだったね」
わいわいわいと、みんなしてああでもない、こうでもないと議論を始める。
ずれた話題も混じってますけどもぉお!?
ただ、なんか、白はイレギュラーみたい?
話が盛りあがって、しばらく止まりそうにないので、鏡のそばへ。
改めて見ると、全身タイツのアメリカンなヒーローたちみたい?
いや、どうかな。
あんまりボディラインが露わなのも、どうなんだろ。
気にはなるけど、このうえになにを着るかが問題なんだよね。
「ノノカ、これってバンドをひとつでも外したら、裸に戻るの?」
「いまはねー。バンドと霊力を接続したらアンダーウェアスーツが生成される仕組み。大事な試作品のひとつだから、弄らないでね? 出目金マシンみたいに、作りたてだから、なにがきっかけで壊れるかもわからないの」
「……おぅ」
けっこう危ないね!?
「じゃあ、この状態で戦闘して、バンドが破壊されたら裸に?」
「そうならないために、さらにスーツと霊衣を接続したり、機能つきの衣装を上から羽織る形で生成したりしたいんだけど、鋭意制作中」
「はあ」
マジでがちの試作品なんだ。
「どうせなら変身アイテムっぽさが欲しいでしょ? 塗る神水もファンデもベビーパウダーも、やっぱなんかしっくりこなくてさ」
「いえいえ。下地が欲しいよねっていう話です。アイテム選択の自由が欲しいけど、すべてのアイテムにキラリさんの要求を応える設計をするのは、むしろ非効率だと思いまして」
たしかにぃ!?
ノンちゃんの言うとおりだ。もちろん、ノノカの言うこともわかる!
これだって思えるものを足したい。
ただ、人によって異なるものすべてに等しく同じ機能を作りだす術を探るなんて、かなりの無茶ぶりだ。だったらいっそ、まずは下地を作っちまおうというのは、よくわかる。
尻尾の付け根を目指しては阻まれる、蛇みたいににょろにょろした細かな繊維を鏡越しに確認してみるとさ? バンドは言うなれば、常に繊維を作りあげる装置だ。ノンちゃんの作ってくれた転化グローブに転化銃より、もっとシンプルなもの。
現在進行形でスーツを調整しているんだ。霊子から作りだされた繊維が。それが私の身体を包んでいる――……。
「裸になるのって、繊維の邪魔になるから?」
「そ。さっき試したとき、見事にひと組ズタボロになってさ」
「おおお」
だれのかは知らないけども。
この試作品、がちでできたてだね?
「男子はどうしてんの?」
「同じの作ってるよ? カナタ先輩主導で」
「ふうん」
パンツ、ずたぼろになってないかな。だいじょうぶかなあ。
やらかしている気がするなあ。八割くらいの確率で!
あと、脱いでおいてよかった。失敗するから、回避方法が明らかになっていくと。
なるほどなあ。
ところでこれ、防御力はどんなものなんだろう。
手のひらでお腹の布地に触れてみる。ツルツルサラサラした触感だ。ひんやりしている。ゴムやナイロンというより、絹みたいな感じ。軽く叩いてみると? 素肌を叩くのと同じ感覚。
「あの。これ、攻撃を防げるの? なんか素肌と大差ないんだけど」
「あ、まだ防御力とか機能とか、そういうのすこしもないんで」
「へ、へえ?」
ノンちゃんの軽い返答に顔が引きつる。
じゃあこれ、なんのために作ったの? なんて、言えない。
言い出せやしない。
みんなして議論を続けている。なぜ水を差すような話をするというのか。
「こ、これからいろいろついていくんだよね?」
「それはもちろん! ただし――……今日じゃないですけどね!」
「だよねえ……」
どや顔で言われてもさ。
そのセリフは、使いどころというか、どやりどころがちがうんじゃないかな!?
「それより、今度は尻尾にバンドをつけてみましょうか」
「佳村さんとノノカで準備してたんだよね。今日の本題でしょ? ほら、尻だして」
いや、あの。
尻だしてって、そんなご無体な。
あとさ。いろいろ聞いてきて、不安になってきたよ?
突貫工事の末にできあがった代物じゃない? これって。ねえ。そのへんどうなの?
怖くて聞けないよ!
「へ、変なことになりません?」
「尻尾の先にバンドをつけられないから、最悪の場合は毛先に繊維が伸びようとして、毛と繊維が絡んでひどいことになるかも? まあ、それくらいかな!」
「たぶんだいじょぶです! 試してませんけど! 成功確率十パーセント、あとは勇気と希望と夢と愛とか、なんかそういうので補ってもらえれば!」
ほらあああ!
聞いたら怖くてやりたくなくなるからあ!
「補えないからね!? それ、確率十パーセントのままだからね!?」
「冗談です。穴は尻尾にあるし、そのへんはきちんと調整してあります」
それ先に言ってよ!
「ほら、いいからお尻だして。いまからつけるから」
「ちゃっちゃとやりましょ? いますぐやりましょ。試して調査、大事ですから!」
いま試してるのぉ!? ねぇえ!
「に、逃げちゃだめ?」
「「 もちろんだめ! 」」
ひえええ。
ゼロから作るの、まじでおっかないね!?
しぶしぶ、お尻をふたりに向けて、九尾の付け根にバンドをはめられました。
特に問題なく、繊維がバンドから伸びて繋がって、尻尾回りの素肌が隠れただけでした。
だまされた気分で一杯なんですけどね?
「さて、ここから先が問題ですね」
「尻尾の穴だよなー」
むしろ問題はここからなわけで。
どうする気だろう。毛先にバンドでもつける気かな?
つづく!




