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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十六章 期待外れのメンバーシップ?
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第千百九十四話

 



 率直に言うと、朝まで気が気じゃなかったよね!

 清川さん即寝だし! 兄が来たらバトル勃発だし! だって成敗筆頭候補だよ? 特に兄!

 やばいことになっちまったとハラハラしながら獣耳を立てて音を探り続けたよ。

 ――……まあ、考えても無駄なんじゃないかってくらい、家中の人のすやすやとぽかぽか布団に爆睡きめちまいましたけども!

 で、ふと「やば!?」と思って目を開けたら、学生寮。

 肉体のほうが先に目覚めたみたいです。となればぷち体になった魂も肉体に戻っちゃったわけで。

 いろいろ考えちゃうよね。

 今日も仕事あるんですけど、とか。隙間時間がないし、そもそもなさすぎて勉強やばやばで中間試験が大ピンチなのです、とか。ああでも事情は聞きたいし、だったらもう呼ぶしかないのでは~、とか。どうなんですかね?

 内緒にしきれないよなあ。口止めもされなかった。むしろ共有しないと理華ちゃんが痛恨の一撃を食らわせそうです。なにせ清川さんがウィザードの道具を持っていて、狒々と牛鬼に変えたのだというところまで突き止めちゃったんだから。

 もっとも理華ちゃんの捜査方法だと裁判に使えないから、たとえば清川さんを相手にした場合にはちっとも立証できないよなあ。警察に提供したら、捜査の焦点を絞れはするだろうけど。

 それを望むかどうかだよね。市民の義務ではあるんですけどね!

 問題しかねえなあ!

 やばっ!

 危機感からなのか、なんだかんだ熟睡できたのか、目覚めはばっちり。

 体を起こそうとしたら、妙に重たい。

 がっつり抱きつかれた。谷間に顔を埋めたカナタさんが「いかないでええ」と寝言をいってる。ほっぺを挟んで顔を持ちあげてみたら、泣き顔なの。寝てるのに。

 どんな夢を見てるのかな? それか地獄で絞られたとかかな?

 あばら骨が軋むほどのハグになってきて、カナタさんの肩を必死にタップ。起きてぇええええ! 死んじゃうぅううううう! ってなもんですよ!


「ちょ、カナタさん!?」

「んんん……あ!? ごめん!?」

「……はい?」


 寝起きに謝られるとはなにごと?


「俺あの、昨夜、初めて現世で、生で、その、ハイになっちゃって」


 朝からハイカロリーな話題ぶっ込んでくるねえ!?


「それこそ朝まで何度もみたいなノリで……つまり、あの……それって、春灯からしたら不安かなあって」


 落ちついてよ、相談したうえでじゃんとか、まあでも実際ほっといたら怖いなあって危機感がなきゃ私も精気をがっつりいただかなかったよなあとか思うとね。


「ゆっくり進めていけばいいんじゃない? 気づいてくれて、気にしてくれてありがと。だいじょぶだいじょぶ」


 地獄でなにをどう絞られたのか容易に想像つきますねえ!

 お説教くらったんじゃないかなあ。

 でもまあ気づいてくれたなら、そっちのほうがありがたいのでね。

 全力で乗っかるよ! そりゃあもう! もちろんですとも!

 それはそれとして。


「どこにもいかないからさ。腕、ちょっと強いかな」

「あっ」


 あわててハグパワーを緩めるカナタさん。ホッと一安心だ。


「すまない……その」

「いいよ。怒ってないし、ちゃんとわかってるって。昨夜の顔に書いてあったもん。きんもちいーって」

「……なにも言い返せないです」

「でしょうねえ?」


 にやにやしながらカナタさんのほっぺをつねる。

 別に完全にテンションを日常に切りかえられているわけじゃない。

 ただ、いまを大事にしたいの。浸りたいだけ。


「最高だった?」

「――……まあ」


 めちゃめちゃ照れてんの。

 珍しい。


「ん。じゃあよし」


 それで終わりにして、ほっぺをふにふに摘まんでみようとする。

 でもカナタさんのほっぺは薄すぎてむにむにできなぁい! 物足りなぁい!

 しょうがないから髪の毛を撫でると、ますます照れくさそうに俯かれた。

 へんなの。


「――……さて、と」


 間が持たなくて呟きながら、いろいろ考える。

 ふり返ってスマホを弄って時間を確認。早朝だ。

 起きてもいいし、ゴロゴロすることもできる。

 慣れた布団と大好きな熱。安心できる場所。

 なんて大げさに表現してみせたところで、清川さんちで爆睡した事実は消せないですけども!

 眠れたってことは、私がビビるような事態にはなってないってことだろうし。さすがにね。

 なので、よしとしよう。あとで連絡いれとかないとね。

 んーで。そうだなあ。


「じゃあどれだけ改心したのかな。私を安心させてくれます?」


 体力もってかれるけど、精神的スタミナの補充といきますかね!


 ◆


 わたしはいま~。

 朝の食堂で怒られてるぅ~。


「だいたい修行だとしても、猶予をもらうくらいの交渉をしようよ!」


 べちべちべちべち、とテーブルを激しく叩くマドカの怒りは、ちょっとやそっとじゃ収まりそうにありません。

 情報共有したら、スイッチが入っちゃったんだよね。

 スイッチに激怒って書いてあった。かろうじて見えたよ! いまは連打中で見える気配がないけどね!


「交渉! 交渉だよ! それが大事なの! しないと相手の言いなりになっちゃうの! おかげでなにぃ!? 春灯は標的に御霊をあげて助けなきゃいけないってぇ!?」

「マドカ、いいじゃんかもう……許してやれよ。きつねうどんが伸びてるし、うどんの麺に罪はない」

「そうじゃないでしょ!? キラリはわかってない! これって実に!」


 立ち上がって、私をじとっと睨むマドカが、指先を振る。

 ランダムに術が発動したりするんですかね?


「私たち向けすぎるんだよ!」

「じゃあよくね?」

「せやねん!」


 地団駄踏みそうなマドカのテンションと発言内容にギャップしかない!


「ああでも、どうせなら好条件で手を組めばさあ! うまく手に入れられたでしょうよ! ウィザードが釈放されたら元も子もないよ!? 警察に報告したら怒られるだけのやつだよ!」

「――……だめかなあ」


 恐る恐る尋ねると、マドカがセット済みの髪の毛をぐしゃぐしゃとかき乱したの。

 さんざん引っかき回してから、腰だめに肘をつけ、両手を開いて中腰に。

 そして、


「ゲットしたプラスとマイナスが共に極値じゃん!」


 吠えた。

 でかしたってことですかね?

 朝の食堂に集まってる人たちがいよいよ「なんだなんだ」と視線を向けてくるけど、気にせずにマドカは腰を下ろす。私に「うどん食べてていいよ」ときっちり言うの。


「私なら即通報、即逮捕。でもってしかるべき司法制度に委ねるけど。いいよ。それは。条件が限定されたあとじゃ、議論してもしょうがない」

「ほんと、よく眠れたな……」


 キラリのドン引き指摘に気まずい思いでうどんを啜る。じゅるじゅる。


「ん……だって、あったかいし。みんな寝てたし」

「妙なところで図太いよな」

「そ、そんなことないと思うけど」

「ある。なきゃ寝ない。あたし無理。ぜったい無理!」


 露骨に気味悪がってる顔してるキラリからしてみると、清川家の問題は相当きついみたいだ。

 身近な問題かそうでないかが露骨に分かれそうだとは思う。


「怒鳴りこむもん」


 我慢できないって断言するキラリの場合、別方向で怒っているようだけども。


「いきなりヘビーだな。それもかなりシビアなのきたな……」


 もうちょい中間点はないのかよ、とキラリは言いたそう。

 わかるけど。現実問題、関係性が深くてもこっちの都合なんか考えてくれるもんじゃないよね。だから考えてくれたらありがてえって話だし。してもらいたかったら、まず自分からしていこうって話でもあって。したくねえが積み重なって最悪の形になったのが、清川さんちの問題なんだろうなあとも思う。


「単純に金色どうこうじゃ済まないし、兄の邪やばそうだな……」

「本人が変わらない限り、欲望は消えず、邪は生まれ続ける。隔離世の邪討伐が一時的な処置に過ぎない限り、清川さんを救うことにはできないと。そりゃあ警察内部でも侍隊に対する風当たりがきついわけだね」

「言ってやるなって。警察自体、事件が起きたあとに捜査するのが基本だろ?」

「まあねー。だから春灯が出てきて潮目が変わるまで、ぎりぎり現状維持できてたんだろうね。それよりも」


 うどんをじゅるじゅる啜る私よりも、マドカはハイ。


「キラリのアプローチでなんとかならない? 星で兄を改心」

「そんな雑に振るなよ。願い次第だけどな……手間取る予感しかない。父親なんて、願いが新たな家庭を持ちたいだったら、あたしにはどうしようもないし」


 キラリの願い星。それって私たちが任意の願いを選んで押しつけるような類いのものじゃあない。あくまで本人次第。

 本人が望んでいないことは強制できない。

 もちろん、強制するべきじゃあない。

 そうなると? 簡単な解決は望めない。

 現実の問題なんて、だいたいそんなもんみたい。

 いままでもずっとそうだった。今回も同じだ。

 問題が繊細できわどくて、しかもどうしようもない形に発展したあとに私たちが関わることになっただけ。

 お仕着せじゃあどうにもならない。

 それだって、私の小学校時代や中学校時代がめちゃめちゃだったこと自体を取り消せないのと一緒。あの当時、どうにもできなかったことと一緒なのです。


「兄だって、妹を嫁に欲しいとか願ってたら、あたしガチで積む」


 もしかして、これって地味な弱点なのでは?


「春灯の金色で癒やすのは?」

「や、でも……邪討伐とたいしてちがわないかなあ。根本的に変わらない限り、中毒になってることから離れられないと思うのね? ぜったい時間がいるよね。薬があっても、体が慣れたら強い薬になるだけでしょ?」

「まあ、なあ……」


 キラリが腕を組んで、ちらっとマドカを見た。

 さっきまでのハイはどこへやら。乱れた髪をむすっとしながら、指先で整えているだけ。


「マドカさ。光を捉えられるなら、闇も捉えたりできないか? で、それを引っこ抜いて退治するとかさ」

「そんな簡単に変わらないって」


 キラリの提案もばっさりだ。


「なにが大変かってさ。基本的に、臭い物には蓋するんだよ。蓋の中身は誰も片付けないのにね。そういう形で排斥するか、蓋をするかの二択だけ。根本的な解決って、それ一番むずかしいから。だから春灯は厄介な条件を持ち込んだなって言ったの」


 おぅ……!

 マドカさん、激おこでは!?

 気にせず私はうどん啜ってますけども! もうちょっとで食べ終わるから、許して!


「心の闇みたいなものを引っこ抜いて化け物にして、成敗したら改心してくれる。それなら楽ちんだよ? 水戸黄門とかの時代劇から脈々と受け継がれた成敗ものに共通のテンプレでさ」


 食堂じゃなかったら、テーブルに組んだ足を乗っけかねないくらい、マドカはピリピリしていた。


「でも現実はそうじゃないじゃん」


 断言する理由こそが、ピリピリの原因なのだとしたら?


「刑務所に入った独り身の高齢者が、なぜ同じ罪を犯して刑務所に入りたがるかって、居場所がなくて金もないからでしょ? アルバイトがあるからとか、働けって言っても状況は変わらない。また万引きなりなんなりするわけ。ぐるぐる回る罪の連鎖には、ちゃんと理由がある」


 マシンガンのスイッチは入ってる。


「みんなが同じ倫理観で生きてるわけじゃない。強いて言うなら、心地よさを求めて生きている。正論をどれほど振りかざしても、子供の頃に徴兵されて戦後は職もなく、体を売るか盗みを働くしか食い扶持を稼げない人や、それほど追いつめられて生きている人にはただの暴力だ」


 早口なのに噛まない。

 鬱屈した思いは感じる。響いてくる。


「正論パンチのなにが胸くそかって、結局言って終わる程度でしかないんだよね。距離を詰めて近寄る気なんかさらさらないの。高いところからものを言うだけ。そういうヤツばっか。長期的にケアするヒーローなんていやしないんだよ」


 そこまで言いきってから、一口も飲んでない私のお水のグラスを持って、一気飲みしちゃう。

 いいんだけどさ。別に、注いでくれば済む話だし。それはいいんだけども。

 愚痴が重たいんじゃあ!

 わかるんだけどね!

 めちゃめちゃ言いたいことはよくわかるんだけどね!


「じゃあどうする? 私たちにできることを探してケアするしかないじゃん。でも経験がない。蓋をする以外の手段って、一時的な行動じゃなくて長期的なプランと継続的な支援がいる。なにより本人のモチベの維持が大事。それって正論程度のもんでどうにかなる話じゃあない」


 だから深刻だと、マドカは腕を組んで黙り込み始めた。

 考えているのかもしれない。

 シロくんとは違う形で、マドカは作戦を練る。

 この手の振る舞い、きらわれたりするだろうとか、いやだろうとか、いろいろ思いがち。

 キラリと私にしてみると、慣れちゃってる。

 たまにマドカは三人の中で一番の常識人ぶるときがあるけど、私もキラリもマドカはヘンテコだと思ってますよ! 私も人の事いえないけどね! ……あれえ?

 ま、まあいいや。

 おつゆをちびちび飲んで、ご満悦。

 ごちそうさまと手を合わせた。食事も済んだし、私なりに参加してみるか。


「余裕なくて物事の解像度が低いときってさ。むしゃくしゃするとか、いらいらするとかの二択じゃない? ほっとすることなんか滅多になくて。そこで気を抜けても、すぐにいらいらする現実に戻らなきゃいけない、みたいなところない?」

「覚えはあるな」


 キラリが私と目を合わせてくれた。

 たぶん、お互いにイメージは一致してる。

 中学時代、私たちふたりそろって常に苛々してたもんね。しょうがない。過去の話だけど、ふたりの苛々だからこそふたりそろってよく覚えてる。


「その解消方法がさ。人に迷惑かけることだったり、自分を強く傷つけることだったりしたらさ。そりゃあ止まるべきなんだろうし、するべきじゃないんだろうけど、でも、それをしちゃうことってあるんだろうね」

「やらないヤツがいれば、そりゃあやるヤツもいるんだろうさ」


 マドカの、と呟いたキラリがマドカを一瞥する。

 でも考え中のようで、一切反応がない。

 それならとキラリは続けることにしたみたい。


「さっきのマドカの、一時期は戦地だった場所の例でいうならさ。率先して盗みに参加する子もいれば、それしか手がないから仕方なくやってたり、目標金額を決めて商売はじめたいヤツもいるかもだろ?」

「ギャング映画のチクリ屋とかさ。ギャングたちもそうだけど、チクリ屋だって、ギャングを辞めたいとかいろんな事情を抱えて警察に協力してるよね」

「そ。あたしは正直、今回のは乗り気じゃない。あたしが春灯の立場なら、兄貴を何回ぶん殴っても足りない。警察に突きだしても、許せる日はこないと思う」


 キラリの断言に私はなにも言えないや。

 キラリの気持ちもわかる。痛いほどわかるよ。


「でも未来って子は、ある程度の察しがついてて、あたしよりぶち切れてて憎しみもあるのに、長期的な手を選ぶわけだろ? その時点で、あたしは全然イメージつかない。むしろ未来って子の願い星のほうが探りたいレベル」

「それやろ」

「だろ? ――……って、マドカかよ」


 なんだよもうって呟いてから、


「なに!?」


 マドカを二度見するキラリは微妙なレベルだけど芸が細かくなってきてる。


「当事者の気持ちを察せることのできるところが強みだよ。そりゃあ一時的で、対話とたいして変わらない。残酷さも一緒だよ。露わな気持ちを探るんだから、ときにひどく残酷だ。でも、私は情報が欲しい。キラリも、春灯もそうでしょ?」

「まあ、なあ。ただし兄貴はやだ。父親も無理。キモさが無縁すぎる」


 ときにキラリは残酷!


「私は願ったり叶ったりかな。キラリじゃないけど、気持ちが知りたい。私の場合、直で話せって言われちゃいそうだけどね」

「じゃあ春灯はなしで。嘘つけないもんね」

「おぅ……」

「正しく言うなら、ついてもばれるかな」

「おおぅ……」


 マドカの棘がひどいんじゃあ!

 ふたりがピリピリする理由も、そりゃあわかるんだ。

 あまりにひどい話だもんなあ。

 とはいえ、見方を意識するのも違う。


「ごめん。相談なしにいろいろ決めちゃって」

「あたしは気にしてない――……マドカ?」

「……ごめん。なんかウィザード絡みだと思うと、ストレス耐えられない。当たり散らしてる時点で、私もたいしたことない。それが余計に腹立つ」


 ピリ度が減らないねえ!


「ごめんなさい」


 すぐに両手を掲げて降参してみせる。

 とはいえマドカも冷静に判断するのは難しそうだ。


「いい。生徒会長と理華ちゃんに相談してくる」


 逃げるように立ち上がって離れるマドカを見送る。

 じゅうぶん離れたところで、ようやくキラリが私に囁くのだ。


「マドカ、妙にぴりついてるよな? ウィザード絡みってだけか?」

「さあ……」


 清川さんに重なるところでもあるのかなあ。

 お母さんはマドカほどテンション高くなくて、どちらかというと物静かな人だ。

 お父さんの印象はないなあ。ゼロといってもいい。

 んんん?

 イメージするほどのことを知らないぞ?


「なんかあるのかな」

「知りたいけど、いま聞いてもキレるだけだな」

「だねえ」


 マドカはぴりぴり。清川さんちは繊細な場所。

 中間試験は目前。アマテラスさまは容赦ない。

 カナタさんはうきうきハイテンション。状況は不透明。

 対する私は処理能力を超えた状態で、今日もお仕事!

 わあいやったぁ!

 誰かたすけて!?




 つづく!

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