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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第八十八章 四校激突! 金色はなにを照らすの?
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第千四十八話

 



 大昔、道場なんてない頃は刀があっても振り方を知らずに、とにかく人はがむしゃらに戦っていたのだろうか。わからない。

 学びは気づき。矯正よりもむしろ、本質は取り組みへの原動力を養うもの。

 授業で触れる剣道に刀をぶら下げる構えなんてない。

 だからいま、俺は学んでいるに違いない。


『悠長なことを抜かす。盗めばいいだろう? 相手は着の身着のまま、刀を持つのみよ』


 五右衛門。そう言うのはわかるが、俺は警戒してるのさ。


「どうした? かかってこないのか?」


 この手の展開、マンガじゃ「くそっ! 隙がねえ!」とか言いがちだ。

 じゃあ隙ってなんだ? 打ち込みやすそうな抜け感か? それとも相手の油断か?

 ただ、踏み込めなかった。

 沢城に食ってかかった去年の経験で身についた危機感が訴えている。

 踏み込むな。近づけば斬られる。


「わりいが、かわいこちゃんとしか睨めっこしない主義でね。臆病者にも用はねえな?」


 笑いながら歩きだす。こちらへ。


「士道誠心でアウトロー気取りのオロチが相手なら、楽しくなると踏んだのになあ?」


 雷鳴と花火。いずれも騒がしい。負けずに騒ぐ心臓の鼓動が鬱陶しい。

 勝てる気しねえ! どうすんのよ!


「ちっ!」


 右手の人差し指と中指を捻って相手の刀に意識を伸ばす。

 奪い取れ!

 願うと同時に五右衛門が笑う。そうこなくては、と。

 手応えを感じた。旗を見向きもせずに歩みよる男の手から刀が消えて、俺の右手に収まる。


「そうとも! 真っ正直にきちゃダメだ」


 けれど男は動じない。歩みながら左手に握るのは、リモコン。


「だがな? そいつぁ最もダメな手だったな?」


 かち、と。

 音がしてすぐに右手の刀が膨らむ。

 風船のように。どんどん。

 咄嗟に手放すけれど、間に合わない。間に合わない!

 両脚で後方に飛ぶ。壁に当たると同時にあちら側へ逃れようとするが、


「――……ッ!?」


 弾けた。衝撃をもろに浴びると覚悟した。

 代わりに体を襲ったのは、風船の内側から数えきれないくらいの量で発射された綿菓子。

 一口サイズの綿菓子のカバーに、祭りで見かけるポップなテイストのアニメペイントが施されている。


「はっはっは! あはははははは! ああ――……ダメだろ? ルール違反は負けちまうんだからさ! ひとつといわず、綿菓子でも食って糖分補給しろ?」


 リモコンをほうり投げて、男が手を叩いて愉快そうに笑う。

 完全にしてやられた――……ッ!


「テメエの力もテレビ録画を違法にアップロードした動画で見たよ。ダメだなあ、なっちゃいねえよ。泥棒にゃ盗みがクライマックスにして必殺なの。手の内を明かしちゃあいけねえな?」


 手を叩くのをやめて、膝を叩く。バシバシと。そこまで笑うこたないんじゃないんすかね!?


「精進しろよ、オロチ。御霊がどれほどひとかどの人物だろうとな? 大昔の奴だ。いまどきにアップデートすんのはテメエの仕事。だろ?」

「自分はできるって言いたげだな――……いや、にやけんな。わかってる。リモコンにゃしてやられたよ」


 手品の数じゃ向こうが上。

 技量でもそう。

 これがゲームでよかった。

 じゃなきゃ殺されていた。文句のひとつもつけられないくらい、鮮やかに。


「旗を盗んでみるかい?」


 煽られるが、もちろん乗らない。


「お前は俺より先にここにいた。既になんか仕込んでんだろ? 乗るかっつうの」

「じゃあ俺に盗まれるだけだ。泥棒が泥棒に盗まれるってのは、なんの冗談だ?」

「ちっ――……だから、にやけるなっつってんだ」


 いろいろと考える。

 フックショットでも出して旗を狙うか?

 いや。

 男に言ったように、旗に既になにかが仕込まれている可能性がある。

 盗んだと思ったら、旗まで再び爆発なんて目にあったらたまったもんじゃない。


「俺が仕込んだ時点で星蘭の勝利になっていた。そう思えなくもないんじゃないか? 急がなくていいのか?」


 相手は旗を触らせたがっている。

 狙いが見えない。本調子のラビやいつものユリア先輩よろしく、表情の裏にある思惑が読めない。一切。役者は相手のほうが上。悔しいが、相手に比べて圧倒的に経験値が足りてない。


「だったらお前が旗を取ればいいだろ?」

「そいつは俺の仕事じゃないんでね」

「は?」


 なにいってんの。こいつ。

 これだけの男を抱えている星蘭が、敢えて派遣したのは俺と遊ばせるため?

 んなわきゃねえだろ。ねえはずだ。ねえのか?

 明坂ミコの狙いは。安倍や北斗、山都、もちろんうちの学校の一部にだけ共有されてる情報がある可能性は? 否めない。だが答えはわからない。すくなくとも、いまは。


「素直にかかってきてもいいんだぜ? さっきみたいに泥棒らしく盗みで斬り合いってのもいいしな?」

「どっちかっつうと狐と狸の化かし合いだろ」

「いいじゃねえか。うちにもそっちにも、生粋の侍馬鹿がいるだろ? 狐と狸もまあいるだろうし」

「そいつにゃ同意だ。で? 泥棒同士、腹の探りあいって具体的にどうすんだ?」

「決まってる。わからねえなら、お前が俺に負けるだけだ」


 正直びびってる。

 相手にはもう刀がないはず。なのに、それでも危機感は拭えない。

 なんでだ? 相手はもう、なにも持っていない。なにかを隠している素振りもない。

 これでなにか取り出せるなら、それこそ本物の三世や怪盗じゃねえか?

 本物じゃないか。

 もはや。こいつは。


「滅多にしないけど、もう一度いってやる。野郎との睨みあいは趣味じゃねえから」


 自然に、ポケットから手を取りだした。握られているのは、ワルサーP38。

 なんの冗談だと背筋が凍る俺に向かって、


「ダンスの時間だ」


 引き金を引く。火薬の弾ける音。けれど放たれたのは弾丸ではなく、紙吹雪。

 一気に拡散して視界を塞ぐ。ずっとおちょくられてる。馬鹿にされている。

 けれど怒らない。そんな暇などない。

 刀を抜いて、咄嗟に身構える。かち上げられた。

 見えない。まだ。相手の獲物が。


「反射神経はいいな!?」


 必死に刀を振るう。正中線を守れ。十字を切れ。


「けどいい子ちゃんのやり口だ! 欠伸が出ちまうよ!」


 上機嫌に笑う男の刀を防ぐので手一杯。

 ああ。くそ。してやられてばかりだ。たぶん、いや間違いなく負ける。

 勝てる気がしない。マモリちゃんたちの仕込んでくれたスーツの機能を使う余裕もない。

 ないないだらけじゃ負けちまう。

 ないのか? 本当に?

 紙吹雪が邪魔だ。男は意にも介さず俺を斬り放題なのに、俺だけ視界に困ってる。


「食い荒らせ!」


 吠えてスーツの機能を生かす。

 ユリア先輩のオロチよろしく紙吹雪すべて食っちまえ。

 露わになった視界に男の姿はない。

 空が光る。

 花火によってか、それとも稲光によってか。

 いずれにせよ、足下に影が見えた。すかさず刀を掲げた。

 重たい一撃を受け止める。

 跳躍した男の振り下ろしをかろうじて防げた。


「運はある。そいつぁ大事な資質だ」


 見上げると、すぐそばに顔があった。

 男は余裕。

 対して俺は必死で瀕死。


「けど遊びが足りねえな?」


 互いの顔の合間ににゅっと男がくす玉を割り込ませた。

 刀を手放してサングラスをつけ、にやっと笑うのだ。

 くす玉が炸裂する。眩い光が弾ける。

 くそ。くそ! こいつマジで本物か!?

 瞼を閉じようとしたけれど、間に合わず、俺は目が眩んでしまう――……。


 ◆


 三校の刺客を蹴散らして、目を回すほど翻弄しきった眼帯を嵌めた青年がふり返る。


「天蓋にて青龍が笑う。朱雀の呪いは満ちた。白虎を走らせるか?」


 閉じた扇子で手のひらを何度も叩きながら、細い目を開けて周囲を見渡す。

 術を行使する少女は陽気に祈祷中。

 彼女を守る陣は十二分に活躍した。

 倒れる生徒たちの中で、士道誠心の生徒が悔しげに呻く。


「ちっ……結城に頼まれてきたっつうのに、安倍じゃないのかよ」


 自分を睨んでいる彼は、たしか青澄春灯の歌手活動にダンスで協力している青年だった。

 去年、京都に来たときも活躍したと聞く。鬼切丸を手にしたのだったか。酒呑童子と茨木童子との立ち会いに挑んだ勇気ある男に敬意を表して説明する?

 いやいや。それはない。


「白虎の時間やね。それから黄龍は準備を」


 呼びかけると、陣地に集まる少年少女たちが忙しなく準備に移る。

 目立つのは金毛九尾の小さな少女を肩に乗せた美しき狐憑き。

 ただ勝つためにやるのがゲームではない。

 これは遊戯だ。

 遊ばなくてはつまらない。

 他の学校はどこも真面目すぎる。

 ちがう、ちがう。そうではない。

 その点においては彼女は――……青澄春灯はわかっている。

 花火をあげながら歌って進軍中。

 実に愉快だが、彩りの添え方がまだまだ足りない。

 ここは西の要が行かなければなるまい。


「いこか」


 呟いてすぐに、山ほどの車が出現した。

 デコレーションされたトラックたち。

 昭和に隆盛を極め、けれど平成の終わりになる頃にはずいぶん穏やかになってしまったものたち。

 彼らを守るようにやまほどのバイク隊が並ぶ。

 華を添えよう。

 ただ旗を取るだけではない。

 神々が見ている。幽霊たちも妖怪たちも。島の住民たちさえも。

 みなが期待している。ただゲームの勝敗を見たいのではない。彼らはみな、興奮したがっている。遊びたがっている。

 ならば華を添えよう。

 それには花火だけでは足りない。

 ケンカの真っ最中。ケンカは祭りの華と言うが、だとしたらもっともっとあげていこう。

 果たして、ついてこれるだろうか。

 彼女は。

 期待はするが、結果の如何は大して気にしない。

 まず、自分たちがなにをするかだ。


 ◆


 花火メドレー、ただいま熱唱中。

 多くの歌手やグループが歌い上げてきた。

 単語で調べると、同じ曲名がずらりとカラオケのデンモクに並ぶことがある。

 ひらがなだったり、カタカナだったり、漢字だったり、ローマ字だったり。英語に変えたりしてさ?

 恋、初恋でさえたくさん。

 ポジティブな歌詞? ネガティブな歌詞? 悲恋を歌う? それとも幸福を歌う?

 いまは失恋歌。

 会いたい。ただひたすらに会いたいと願う歌。


「――……」


 歌うとどんどん気持ちが入っていく。

 金色はみんな同じに見えるのに、休みなしに花火に変換するファリンちゃんはいろんな花火に変えていく。もしかしたら私が思うよりも金色は複雑なのかもしれない。ファリンちゃんが表現してくれているだけなのかもしれない。

 バラードに似合う花火は大きな大きなもの。連発じゃなく、単発。

 あがって弾けては、ぱらぱらぱらと火花を散らして落ちていく。

 幸福の愛の歌は、いつだってカナタを思い浮かべて歌う。

 けど、いまは失恋の歌。

 だとしたら似合うのは、きっと失恋相手の顔。

 それって不謹慎? カナタに悪い? かもね。

 だから昨夜食べたかったけど我慢したお菓子とか、そんなことばっかり考えている。

 それがよくなかったのかなあ。

 周囲の目を引きつけながら平原を抜けて街を目指すマシンロボは集中砲火を浴びていて、なのにギンが華麗に舞っては斬って私たちを守り抜いてくれるし、八雲さんが舞うとマシンロボを狙う遠距離攻撃がすべて弾けて消えてしまう。

 不思議ながらもなんとか進めていたけれど、だからこそ止めようとする周囲の人たちの本気を誘う。


『に、西から大量の霊子反応です!』

『ちっ』


 ギンが舌打ちをして、誘われるようにモニターを見た。


『デコトラ、暴走族……ですか? 広島ヤンキーのノリ?』


 八雲さんの呟きに動揺する。知ってるの!? って。

 歌いながらも歌の外のことで心が揺さぶられてしまう。

 モニターに拡大表示されたのは、暴走しながら近づいてくる数えきれないバイクの群れと、その後ろで走るデコトラの群れだった。

 ビカビカに飾り立てられた電飾が光る。昭和のノリ満載な漢字に無理矢理変換された挨拶や標語が光ってる。ぶっちぎりとか、よろしくとか、ぶっころとか、そんな単語だと思う。

 それよりも気になるのは、バイクに乗っている人たちがみんなしてリーゼントなの。

 いたの!? そんなに!? 成人式の中継でしか見ないよ!? っていうくらいたくさん、気合いの入った人が大勢いた。


『ああいうの、日本で流行ってるの?』

『『『 いやいやいや! 』』』


 私以外の三人がファリンちゃんの問いかけに必死で否定する。

 そりゃそうだ。いまやむしろ私たちの世代じゃ「どうした!?」って言いたくなるようなヘアスタイル。特攻服を着ている人も見えるけど、いないよ。そうそういないよ。いるところにはいるんだけど。たくさんいて、たぶんしのぎを削り合っているんだろうけど。普通に暮らしていると、もうそうそう見かけないと思うよ? 地域によるだろうけどね!

 トラックの荷台が割れる。左右に開いて、巨大なメガホンが顔を出す。

 きぃいいいんと耳障りな音を立てた直後、爆音を鳴らすの。

 私の歌をかき消すように流れるのは、まさかまさかの男の勲章。


「嘘でしょ」


 思わず呟いちゃった。

 繰り返すよ?

 時代錯誤なヤンキースタイルの子ばかりがバイクに乗っている。

 拡大表示されたデコトラの運転手もよくよく見ればみんなしてリーゼントか、八十年代アイドルヘアスタイル。みんなノリノリで大合唱。その音声が、巨大メガホンを通じて響き渡るの。

 雨はいつしかやんでいた。雷さまはごろごろ言ってる。

 そんな中、ヤンキーたちがデコったトラックとバイクで突っ込んでくる!


「どどどどどど、どうしたら!?」

「「「 へっ、へるぷ! おまわりさん助けて! 」」」


 私だけじゃなく、ぷちたちさえもビビりまくり。

 金色を出すどころじゃない。元がなくちゃあ花火も出せないわけで。


『ばか! 本業のテメエが飲まれてどうすんだ!』

『ギン! 叱咤激励も大事ですけど! 迎撃か退避を!』

『わぁってる!』


 マシンロボが街に進路を取った。

 逃げるんだ。いまはまず、逃げるんだ!

 幸か不幸か平野部には大勢の敵味方が入り交じっている。

 カナタもきっと、どこかにいるはず。


『ん~。やっぱり、バラードだとああいうノリに打ち負けちゃいそうですね?』

『でも、曲の切れ目が狙い目じゃない?』

『選曲次第ですね』


 む、むずかしいハードルきた!


『彼らみたいなタイプも好きな曲だったらいけるんじゃない?』


 そんなのわかんないよう!

 リーゼント男子と付きあいとかないもん! さすがに!

 えええええ?

 待って?

 ヤンチャタイプでしょ?

 真面目な子よりも恋愛ごとに積極的なイメージある。

 前にテレビで見たよ? 初体験はやい人多いのを逆手に取った、童貞はいるのかみたいな検証! 女子もはやいタイプが多いのでは?

 ひとりになったとき、失恋でぐすぐす泣いたり、もちろんいけないことだけどやんちゃ仲間とお酒飲んでガチ泣きしてるかも。それがコーラとかジュースだったら、むしろ可愛すぎて愛しいレベルだけど、それはさておき!

 バラードも、だったらありだ。西から攻めてくる彼らが好きそうな失恋の歌。

 狙うなら、それ。


「ファリンちゃん。彼らの昂ぶりを転化することってできる?」

『やれないことはないよ。心の昂ぶりが霊力を刺激して、霊子を溢れさせている。それを転化するだけ』

「じゃあ――……お願いがあるの」


 プランを告げて、頷いてくれた彼女に合わせて深呼吸。

 ぷちたちに尻尾に戻ってもらう。

 ここからはさらに力を、もあもあましまし! でいくよ?


 ◆


 一年生全体は基本的に三年生と二年生の補佐に回っていた。

 聖歌や姫ちゃんをカバーしながら、平野部の混乱を最大限おさめるべく観測して状況を生徒会長たちに伝達。運ばれてくる「ばんたきゅ~」な人たちを聖歌が治療する。

 本音を言えば主戦場に生きたいけれど、我慢。

 高台から見渡すだけでも、四校の幻想的なやばさを体感できて学びが大きい。

 立沢理華としては、それでも暴れたいところ。

 そんな願いが、実は早々に叶いましてね? 実はただいま、戦闘中!


「わん、とぅ!」

「ッ!」


 ビキニにスカートという軽装にもほどがあるお姉さんのパンチを必死に避けているだけなんですけども!

 瑠衣は五人の男女を相手に大立ち回りの真っ最中。

 知り合いなのか「未熟!」「成長が見れない!」とダメだしされまくっていた。

 忍びの里の仲間? だとしたら、手数が多くて素早いお姉さんに完全に足止めにされている私は相手の手のひらで踊らされている状態に違いない。


「次は回し蹴り、いくよ!」


 予告されても避けるのに精一杯。

 そのまま倒れて転がる。衣服が泥まみれになるけれど、もはや構っていられなかった。

 ちらりと見えたスカートの下も完全に水着。

 ずぶ濡れで、素足でぐちゃぐちゃの泥を足場に機敏に格闘戦が出来るって、どんな化け物!?

 必死に地面を押して体を起こして、よろけながら距離を取って構える。

 待ってくれているんだから、やるせない。

 息がすこしでも整うと、すぐに攻めてくるからたまらない!


「瑠衣の彼女ちゃん、次は三連打! さっき見せたコンビネーションだよ!」


 言いたいことはやまほどある!

 誰だ。瑠衣。私たちのこと誰に言ってる?

 どれだけ噂が広がってる?

 気になってしょうがないし、切りかえないとやられてしまう!

 溢れる金色の花火に触れたら、照らされたら、いくらか回復できた。

 けどそれも途切れて久しい。遠くから聞こえる懐メロ感満載の歌はなんだ。爆音のエンジン音はいったいなんなんだ。見たい。見たくてしょうがないのに、それどころじゃない。

 光明が欲しい。

 乱戦って困る。いやだ。連絡が取れないと、こうもたやすく窮地に陥って孤独を感じるものか。ああ。たまらない。ゲームでよかった。でも安心できない。彼女の打撃は食らうと痛そうだ。痛いのはいやだな。ああ。

 糸口が欲しい。そう願わずにはいられず。


『――……すぅっ』


 息を吸う音が、小さく見えるマシンロボから聞こえた。

 春灯ちゃんの声が掠れて聞こえた。早く。ああ、早く。

 響かせて。


 ◆


 大好きよ、と。

 熱唱する。バックになにもなくてもいい。

 思いの丈を込める。

 立浪くんと狛火野くんが斬り合っている。楽しそうに。

 御霊を宿した者は互いに引きあう、だなんて法則があったら?

 ううん。御霊なんてたぶん関係ない。引きあえばいい。互いに求める相手の元へ。


「――……」


 私は既に尻尾を消して大神狐モード発動中。

 大量の金色を出すの。

 ファリンちゃんが片っ端からそれを周囲に拡散して、濡れた大地に落ちた霊子と、みんなの吐きだした霊子を吸い上げながら転化していくの。

 上タン塩の焼ける、とてもとてもいい匂いにね!


「――……」


 体を揺らしながら大熱唱。

 浴衣が煩わしくて、はだける。

 ブラを水着に化けさせて、スタンドマイクに両手を這わせながらイメージするのはね?

 あまあまの最中の歓喜と願いと欲望と愛情。ぜんぶ。

 溢れる金色もすべてがおいしくなれと願うもの。

 バイクが止まる。デコトラも。周囲で私たちを狙う人たちの手も。

 みんなが涎を浮かべて、ごくんと喉を鳴らす。

 体を動かして、必死にがんばって、でもってそろそろくたびれてきて。

 だったらもう、お腹がすいた頃じゃないですか?


「――……」


 私自身を黒毛和牛の上タン塩焼きに例えるのなら。

 おいくらでもいいの。

 幸せいっぱいの味をお届けするよ?

 ギンがマシンロボを動かす。城を目指す。

 八雲さんが両手に扇子を手にして、ご機嫌そうに踊るの。なぜかバブル期のボディコンばりばりなのが似合うダンス。い、いくつのセンスなの!?

 いいや。ファリンちゃんがどんどん拡散して、あれだけ賑やかだった周囲の喧噪が穏やかになった。

 頃合いだ。次の曲にいこう。


「すぅううう――……ふぅううう」


 深呼吸の合間に曲を切りかえる。と同時にファリンちゃんが周囲に拡散した霊子のすべてを転化するの。

 匂いと霊子を転化して変わっていく。

 ふわふわと地上から浮かび上がる金色と、金魚たち。

 宙を泳ぐの。


「――……」


 バラードに持ち込む。

 みんなが見つめればいい。

 はっとすればいい。

 空腹が刺激されて、はっと我に返ったいまこそ見つめちゃえばいい。


「――……」


 雷鳴がずっと前に止まっていた。

 ならばと大神狐モードのいまだからこそ祈る。

 雨よ降って。めいっぱい降って。優しく、空の黒を落として恵みをちょうだい。


「――……」


 願いどおり降り始める雨に、体中から一気に力が抜けていく。

 応えてくれた空に捧げた霊子が消えただけ。

 だいじょうぶ。

 私の霊力は、これくらいじゃびくともしないよ。


「――……」


 失恋の歌のようで、でも相手の幸福を願う歌でもあると信じて。

 空を泳がせる金魚たちを一斉に、指を鳴らして金魚花火に変えながら思うんだ。

 カナタのこと。愛情を。


「――……」


 歌いきる。

 これで、舵を取れる。

 私のターンに戻せる。

 まだいける。

 霊子は雨降らしで――……狐の嫁入り発動でぐっと減っちゃったけど。

 まだいける。

 そう思っていたのに。

 私の金色が、一瞬で西から吹いた風に乗って花びらに変化して舞い散っていくの。

 見事なくらい、色鮮やかに。


「え――……」


 私、なにもしてない。

 ファリンちゃんが「なに、これ」と驚愕していた。

 明らかに私たちの思惑とかけ離れた奇跡が、西から吹いてきたのだ。


 ◆


 ぐっと親指を掲げてどや顔をする狐憑きの少女に微笑みを返してから、扇を一気に広げる。

 策はなった。せんせも、これなら気に入るだろう。

 もっとも、去年の京都でも十二分に活躍してみせたはずだが。

 如何せん自分たちの教師は遊びに対して理想が高いから。

 自分たちはそれよりもっと先を求めずにはいられないのだ。


「さて……さて」


 北斗の狸少女、山都の知古もそうだが――……彼女はどう出るか。

 願わくば見せてほしい。

 去年、自分に一杯食わされた彼女のままでつまらない。

 あと一手。

 そう。

 たった、あと一手でいい。

 打てるようになってほしい。

 せんせや現世で知りあった彼女に縁のある人々の願いであり、彼女を気に入っている自分にとっての願いでもあるから。


「天孤になったなら」


 彼女に願うのは、ただあと一手。

 アクシデントを自分のものにする機転。その一手なのである。


 ◆


 頭が真っ白。

 でも綺麗な花びら。

 悪意のある力じゃこうも鮮やかなことはできないはず。

 周囲を見渡す。

 雲が晴れていく。雨に濡れた花びらが舞う姿は、普通なら汚れてしまって残念に見えてもおかしくないはずなのに。

 ひらひらと。漂う花びらがあんまり美しく見えて仕方なくて。

 真っ白だから、頭に浮かんだのはせいぜい、ただひとつだけ。

 こんな素敵な場所で歌いたい曲って、なんだろう。

 すぐに連鎖反応的に思いが膨らむ。爆発しそうなくらい、一気に。

 メドレーだから、花火にちなんだ曲で似合うのって、いったいなんだろう?

 いっそ夏でもいいし、夏じゃなくてもいい。

 花が大事。

 締めくくりになる歌。あるはずだ。

 花が咲いたんだよ?

 こんな瞬間に似合う曲、ぜったいにあるはずじゃない?

 いまある素敵を否定したり「いや私の金色はこっち!」って頑固になるよりも、いまある素敵に乗っかっちゃうような勢いが欲しい。

 だったらさ?

 もういっそ。

 花がよくない?

 花こそがいいんじゃない?


「花を咲かせたキミと出会えたこと。たぶん、これって運命で奇跡だ」


 呟く。マイクを通して、たぶん響いてる。

 構わない。別にポエムに浸りたいわけじゃなくて、予期せぬ刺激を楽しみに変えれるっていう気づきを掴めた喜びへの感謝。


「――……」


 すう、と息を吸う。

 今日のゲームのラストナンバーは、花に決めた。

 いくよ?




 つづく!

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