第千四十七話
影渡り、影の国。
宝島でも無事に発動した。理屈は謎。
五右衛門にしてみても不思議なようだが、こいつが俺自身の霊力の賜物だというのなら?
八葉カゲロウの夢ってなんだ!
知らねえ。わかんねえ。
まったく思いつかねえわけでもねえ。
マモリちゃんとの爛れた時間こみこみの、糖度ましましなすべてとか。たまに刺激的なこともありありで、実によし。彼女によし。俺によし。そう、ぐっど!
男をあげなきゃ、自分を鍛えなきゃ、それこそ映画で見かけるエージェントクラスにイケてる野郎にならなきゃユリア先輩は振り向かず、いずれマモリちゃんからも愛想を尽かされる。
そいつはごめんだし、俺自身としても望んでる。
とんでもない世界で刺激的な毎日を過ごしたい。そいつが俺の夢といえる。
柊ちゃんの熱意はほどほどだが、俺の霊衣に関する熱量は高いまま。
シオリもいなくちゃ困る大事な仲間だ。
シロもミナトの野郎も関わりたがりだけど、要するにあれだろ? 俺みたいに刺激的な毎日を過ごしたいわけだろ? このまま大人になって普通に仕事できるかどうか、普通に結婚できるかどうか、そんなところでひいこらいうくらいならさ。タンカーの前方と後方のタイヤの隙間の狭い空間をバイク倒してすり抜けるくらいのアクロバットな毎日を過ごしたいわけだろ?
俺もだ。
んで、ユリア先輩もマモリちゃんも、俺がその程度楽々とこなせる男になってもらいたいってところは一致してるんだよな。
モテるねえ。モテる男はつらいねえ。
でもそれはほんとのこと言うと、俺自身のことじゃない。
ただ、刺激的な世界で活躍する可能性に対して投資されてるだけ。
マモリちゃんから感じる愛情を、もっともっと俺個人に向けてもらえるように。
ユリア先輩が放っておかずにはいられないくらいの最高な俺になれるように。
俺自身もまた、俺の未来にすべてを賭けて日々に挑むだけ。
バイクは順調。
アクセル全開。
予想よりも楽に目的地に近づけている。
そりゃそうだ。
空が星蘭の艶やか少女、鹿野ちゃんのテリトリーなら、ここは俺のテリトリーなのだから。
「一緒に入れるなんて思わなかった」
サイドカーの天蓋を開けて、マモリちゃんが背もたれに腰掛ける。
メットはなし。長い髪が風に煽られて揺れている。
個人的には大事に保存しておきたいくらい、絵になる光景だった。
知りあう前は向上心旺盛で強気な女の子ってイメージだったけど、付きあう時間が増えるほど第一印象なんて当てにならないと思い知らされる。
たまに見せるのだ。
遠くへ行きたい。退屈さに殺されてしまいそうだと喘ぐ彼女の繊細な一面が横顔にでるときがある。
「雨、降ってないですね……霊子も捉えどころがない」
柊ちゃんの声に視線を前方に戻した。
街に向かっている。ただただ一直線に。
地面はぬかるんでおらず、バイクにとって都合がよすぎるくらいに走り心地がいい。
こちら側でも雨が降っていたのなら? 想像したくない。
まだ、雨の日の運転には慣れていない。
サイドカーをふたつもつけて走っている状況にもだ。
「街まであとどれくらいだ?」
「柊の見立てだと、いまの速度で十五分前後かと」
「交通規則だの、警察だのがいなくてよかったよね?」
マモリちゃんの指摘に苦笑い。
スピードメーターは百を超えた時点でチェックしていない。
「反対側を見ろ。警察並みにおっかねえから」
すぐにマモリちゃんが地面を見おろした。
平野部の戦闘は激化の一途を辿っている。
カズマ先輩やタツたちが率いる侍部隊が星蘭の妖怪部隊、山都の歩兵部隊と交戦中。
随分前に立浪を見かけた。雨に濡れて凄絶な笑みを浮かべて、ばっさばっさと敵をなぎ払っていた。狛火野が向かっていた気がする。あいつらの戦いは相当見物だ。今回のゲームが終わったら、絶対に誰かが撮影しているだろう動画をチェックしよう。
爆発音、雷鳴、銃声。そんな戦場に飲まれてたまるかと、なんなら私が食ってやるとばかりにハルがご機嫌に歌っている声が聞こえた。花火の音も聞こえる。
「賑やかすぎない?」
「そんな表舞台の裏で、俺らは水面下に城に潜入。しれっと旗をいただいちまおうって算段なんだから! 賑やかなくらいがちょうどいいって!」
「ご機嫌ですよねえ!」
柊ちゃんまでメットを外して抱き締めながら笑う。
君らね。いくら走り心地よくて順調に進めているからって、気ぃ抜きすぎじゃない?
あと風でスカートめくれてもよくない?
下心がよくない?
あ、そうですか。すみません……。
「この作戦、悪くないと思いますけど。そんなにうまくいきますかね?」
「いくんじゃない? どの学校も城で激戦の最中なわけでしょ? 空じゃ星蘭の人たちが睨みを利かせてる。こんな状況で華麗に旗を取れる人なんていないって」
「それこそ――……本物の怪盗でもいなきゃあな」
呟きながらも先を急ぐ。
両脇に美女。そりゃ正直たまんないが、それ以上に俺らを結びつけるたまんないのはなにか。
極上の刺激。まずはそれから狙うとしよう。
旗はいただく。
「予告状を出せないのが残念だ」
『オロチ、聞こえる?』
ヘルメットの通信機能にアクセスあり。
聞こえたのはシオリの声だった。
「どうした?」
『キミ、いまさ? 城に向かってる?』
「じゃないとつまらないだろ?」
『そうこなきゃ』
ひひ、と。
妙な笑い声が聞こえた。たしかに聞こえた。
『あと何分でつきそう? こっちは結構いそがしくてね』
「――……へえ?」
なんでかな。
違和感しかねえのは。
たしかにシオリの声には違いなかった。
信号もなにもかも、あいつを指し示している。
なのに違和感が拭えない。
「期待して待っててくれてんのか?」
『待てるのは五分までかな』
「じゃ、急ぐよ――……どこの誰かは知らないが」
まただ。また、ひひ、と笑う声が聞こえた。
通信はすぐに途絶えて、その頃にはもうマモリちゃんも柊もメットを装着してシートの天蓋を再度装着させていた。
「信号は明らかにシオリ先輩のものでした――……ただ、通信前のデータ波形にノイズのようなものがあります」
「変声機みたいな感触はなかった。ただ、待ってるっていうなら敵かも」
「だろうなあ」
そいつ、ないしそいつらは俺のことをマークしていたってわけだ。
相手のほうが先に目的地にいる。
わざわざ確認なんかしやしない。五分だけ待つ。たどり着けなきゃ、きっと先手を取られてしまう。今回で言えば俺たちの狙いの品が先に奪われるってとこか。
「普通に行くんじゃ間に合わねえ。一気に近づく手段は?」
「やっぱ空を飛ぶしかないんじゃない? ってことで、よろしく!」
「アイハブ! 柊、こんなこともあろうかと! 新たな機能をつけておきました!」
なにそのノリ。
「「 スイッチオン! 変身、オロチ飛翔形態! 」」
ノリノリかよ。俺も混ぜてよ。
高校二年生になったけどさ。そういうのわりと好きだよ?
サイドカーとバイク本体の隙間に、サイドカーから噴出した流体金属が流し込まれていく。
バイクの先端が伸びるだけじゃない。俺の体を包み込んでいく。
左右に翼が伸びていくのがちらりと見えたが、最後まで見届けるより前にカバーに覆われてしまった。左右の壁が開いて、柊ちゃんとマモリちゃんが見える。近づいて、隣り合うように座る。
前傾姿勢の俺は胸を押されて背もたれに上半身を預ける格好に。
逆にふたりの少女は前傾姿勢で、俺の前方で座る形に。並ぶお尻を見るなと言うほうが無理。
ふたりの前面にやまほどのスクリーンが投射された。
遅れて外の景色が天蓋に表示される。
「操縦桿はこっちで握る?」
「柊たちのお尻を眺めるのにお忙しいようですし、それもありかと」
「いやいや! 俺まじめにやるよ? 飛ぶよ! 俺!」
「「 お尻みながら言われても 」」
いやだって! これかなりすごいよ!?
なんてことだ。なんて日だ! ふたりとも制服のままでくるから!
「いまからでも席のレイアウト変えます? 柊ただいまドストレートなセクハラにげんなりしてます」
「かわいいお尻してるから見たいんでしょ」
「ホント、すみません」
まじまじと見るなって話ですよね。ごもっとも。
「んじゃ、急ぎで頼む。頂上についたら尖塔に突っ込んでくれ。通常空間に復帰すると同時に、外に出る」
「了解です」
柊ちゃんが忙しなく指先を動かして程なく、浮遊感。
体が背もたれに押しつけられる。加速しているのだろう。エンジンの音がどんどん大きくなっている。
「敵とひとりで交戦する気? 私たちもサポートの準備してるけど」
「わり。ちょいと興味がでてさ。やばくなったら助けてよ。でもまずは、雷雨にやられないように安全な場所に移動して欲しいかな」
「自分ひとりなら逃げられるから?」
「元も子もないこと言うとな」
「――……ん。万が一だけど、通信妨害なんかされたら困るから。そしたら音声入力で逃げるんだよぉ~って言えば、煙幕がでるから」
「前もっと簡単に出せた気がするんだけど!?」
なんで!? その台詞なんで!?
二部なの!? ねえ、二部なの!? 俺は特に四部のノリが好き!
そんな話はどうでもいいんだよ。
「到着まであと僅か。カウント入ります」
「負けないでよ?」
ふり返るマモリちゃんにキスでもしたいけど、お尻にしか触れそうにないし、それしたら足でげしげし本気で蹴られるだろうし、ガチで暫く機嫌悪くなって無視される気がするので我慢。
我慢! 我慢だ!
もちろん柊ちゃんのお尻を眺めてもいけない。
「おう!」
「「 いまの間はなに 」」
言わせないで!?
◆
室内戦は最悪。
岡島くんも茨ちゃんも苦戦していた。
あたしたち三人そろって、広々とした空間で枷なく暴れるくらいがやりやすいタイプだ。
外は苦しい。雨の中で戦うのはつらい。雷が落ちると思うと余計に怖い。
そんな中、予想外だった。
城に辿り着いて戦える子が他にも大勢いたなんて。
「――……ッ」
腰を落として上半身をそらしてかわす。
切っ先が通り抜け、遅れて炎が噴き出た。
北斗の侍少女の刀は炎を纏うのか。
真中先輩とはまた違う火の力。
霊衣や自分の霊子を空気代わりに吸い上げて燃える。
おかげで対峙する時間が延びるほど、脱がされていく。
本気で誰かにいますぐ代わってほしいのに、みんなそれどころじゃない。
刀を合わせるのはもう諦めた。
刃で受けると力を吸われてしまう。
ここまで無茶苦茶な力を持った奴が北斗にいたとは思わなかった。
加速しようにも、刃を重ねているうちに余力が減って、もう力があまり残っていない。
勝ちたいけれど、維持が限界。維持するほどに相手に力を吸われては燃やされて、先がない。
岡島くん、茨ちゃんのふたりもそれぞれに手強い相手と戦闘中。
逆に言えば、城に潜入した誰もが相手を見つけて戦いに勤しんでいた。
だから、止められなかったのだ。
エレベーターが登っていく。誰かが乗っているに違いない。誰だ。どの学校の誰なんだ。
「よそ見は――……!」
切っ先が横に向いた。
手のひらで峰を捉えて押しつけてくる。
避けるときだ。避けるときだけ加速する。
体に残った雷速に回せる霊力は限界寸前。
刀で受けちゃいけない。避けるしかない。
上半身をぐっと倒して、足で床を強く蹴る。
手のひらで床を捉えて押し上げた。
スカートでバク宙させるな! と怒鳴りたいし。
「するな!」
着地した私めがけて、刀から炎を噴射させた彼女の怒りもごもっとも。
血の気が引いたし、足には力が入らず、霊力は限界。
どうにもできない。ひっ、と喉が鳴る。
直後どこからか城の壁面が落ちてきて、私に迫る炎を防いでくれた。
「仲間! 引こう!」
「それか無茶して上へ!」
岡島くんと茨ちゃんの逼迫した声に頷きたかった。
けれど、悔しい。本気で悔しくてたまらない。
霊衣の機能を使う前に、足を使う前に、相手に燃やされてしまった。
こんなこともある。
ああ。大いに教訓になった。
下唇を噛んで、刀を構えた。深呼吸をする間に、壁面に縦の線が入る。
一瞬で赤熱する縦線に続いて横線。遅れてがむしゃらに線が入って、壁面が溶けた。
肩で息をする相手を睨む。
北斗の制服。お嬢さま学校で知られた衣服は激戦でボロボロになっていて、黒いインナーの上下を露出させていた。
なのに燃える刀を手にして雄々しく立つ彼女は真実、侍だった。
あるいは本能寺あたりを背にした女の子? どうでもいいかな。
「ごめん。あたしは相手を見つけたみたいだ」
エレベーターに乗る誰かを追う余裕がない。追えたとしても、いまの体力だとたぶんろくに戦えもしない。
雷速移動ももはや、残り一度が限度だろう。
「意気やよし。去年――……そう、去年の京都で見かけたか? 士道誠心の」
妙な呼びかけだな。
「どうでもいいよ。あなたとあたし、今日が本気でぶつかる初日に違いないでしょ?」
「ふっ」
普段からそんな口調で大丈夫? とからかったりはしない。
彼女はいま、スイッチが入っているのだ。本気で戦いたいというスイッチが。
あたしも同じだからわかる。
「雪村コマキ。北斗、二年。火の侍を名乗る者なり」
「仲間トモカ。士道誠心、同じく二年。あああ……雷が得意かな。空の彼女には負けるけど」
いつだったか。人の力を使うんやない、なんて感じに怒られたことがあったっけ。
鹿野ナツキ。彼女との手合わせをイメージしていたけど、これはこれで嬉しい誤算だ。
「雪村さん。次がたぶん最後の一手。だからあたしは全力で一撃を放つ」
「し、心理戦か?」
いやいや。待ってよ。そこで動揺しないでよ。
「じゃなくて。こういうときは、そっちも全力で返すか。絶対に勝ちたいなら捻り手をくりだすか。どっちでもいいよってこと」
「やはり心理戦ではないのか?」
北斗の二年ってことはハルの中学時代の友達の神力ちゃんと、あと金長レンちゃんの友達でしょ? にしては、なんでか微妙にアホウでは?
急に親近感が湧いてきた。
「違うって。最強の一撃だしてよ。あたしも出すからさ」
「さっ、先にそう言え! 萎えてしまうところだった!」
やばい。このあと絶対からまなきゃ。
いろいろ話ききたい。士道誠心には愛生先輩以降の火の使い手って、あまりイメージがない。
ハルは狐火を使えるけれど、あまり活用していないように思う。
火の捉え方、自分もあまりよく考えたことがない。そう考えると難しい。
彼女の視点を知りたい。興味を抱いた。
そのためにも、見てみたい。
「燃やしてくれる? ルール違反にならない範囲で。あ、あと下着が見えるくらい燃やすのはやめてよ?」
「加減した最強の一撃とはなんだ……て、哲学か?」
「そこはうまくバランスとってよ」
「どっ、どのみちルール違反にならないようにすればお前も恥ずかしい姿を晒すこともない! 私だって人に恥を掻かせるつもりもないしな!」
いいとも、と切っ先をこちらに向ける。
本当にわかっているんだろうか。心配だが、余力がないのは事実。
さっさと挑むとしよう。
遠くからハルの歌声が近づいてくる。
けど――……雪村さんのように、まだまだ知らない力がやまほど存在していそうだ。
思いどおりにはいかないぞ、このゲーム。
それでいい。
失敗上等。
成功も失敗も段階に過ぎない。
あたしたちは進むって決めたんでしょ?
止まるな。いけ。
「イレスカムイ――……点火ッ!」
吠えた彼女の全身が灼熱に燃えて、業火を纏ってこちらに突っ込んでくる。
絶望が迫ってこようとも。
それでも進め。一歩を踏み出せ。
雷が落ちようとも刀を抜いて挑むのが本能ならば! いざ進め!
◆
表の世界に飛び出てすぐに搭乗席が左右に割れて落下。
問題ない。体を捻って雷雨の中、尖塔の中を転がる。
手足を床に押しつけて勢いを殺し、立ち上がる。
と同時に刀を抜いて背中に構えた。
重い手応え。甲高い音。
「はええな。予想よりも」
楽しそうな男の声。
シオリの声じゃない。そう思ったら、
「オロチ。早いっていうことは、いいことだね」
すぐさまシオリの声で語り、ひひ、と笑う。
刀を振るって手応えを押しのけて身構えた。
返す刀で俺の首筋に刃を当てる相手を、やっと視認した。
「戦闘技術はまぁまぁってとこか。俺に比べちまったら可哀想だ」
男だった。
細い。手足が異様に長い。背が高いが、それにしてもスタイルが良すぎる。
日本の、というよりはパリのモデルみたいな男だ。
濡れたワイシャツ、ネクタイはなし。黒いパンツは星蘭の制服だったはず。
刀に特徴はなし。初打ち段階で敢えて止めている?
「面ァ見せる度胸もねえ奴が怪盗を名乗っちまうんだ。退屈な世の中だと思わねえか?」
口角をぐっとあげて笑う。
瞳に宿る光は、ロシア大使館で見た男よりもずっと真っ直ぐで、ラビやユリア先輩、そしてあの男に負けず劣らず鋭いもの。
ただ者じゃない。明らかに。
いたのか。星蘭に、こんな奴が。
「まだその面、見せる気ねぇか? それともよほど人様に見せたくない面なのか? だったら暴くのも可哀想だ」
刀一本、こちらは影打ちで相手は初打ち。段階で言えば俺のほうが上。
霊衣だってそうだ。こっちは完全装備。相手はなんにも装備していない。
どう考えても俺のほうが装備でいえば優勢。
なのに中身の勝負で負けている。そう感じるのは、なぜだ。なにが理由か。
『けったくそわりい! 俺はな! 派手が好きだ!』
わかってるって。
柊ちゃんの仕込んでくれたスーツの機能を迷わず使う。
「焦るなって」
手の甲から一瞬で煙幕を展開。
ヘルメットに衝撃が走るが、堪えて影を渡って反対側へ。
ついでにメットを外しておこう。バイザー部分にヒビが入っていた。
峰で殴られた?
構うもんか。
吹き抜けの壁から雨の混じった風が吹き込んで、煙が晴れる。
花火がどんどん近づいてくる。青澄の歌が景気づけに響いてくれる。
おかげでいくらでも勇気が湧いてくる。
男の子にはそれ、だいぶ大事だぞ? 女子もそうかな。じゃあ、みんなに勇気が必要だってことにしとくか。マモリちゃんと柊ちゃんには無茶してほしくないけどな。
「へえ――……そいつがてめえの面か。悪くない。隠すなよ」
刀を下ろして、片手をポケットに突っ込んだ男は猿のような顔をしていた。
顔も髪も濡れている。肌に張り付くシャツの下にはなにも着ていない。
本当に、刀一本で目の前に立っていやがる。
スーツを着ている自分とは違う。
まだ、余力がある。
「そいつはどうも」
言いながらもテンパる。
互いの間に旗が揺れていた。
勝利と書かれた赤い旗が。
掴めば勝てる。
いっそ影渡りで出る場所を旗のすぐそばにすりゃよかったんじゃないか。
いや、無理だ。
沢城とやりあうときのように痛感する。
相手の間合いに入ったら、いまの自分じゃ勝てる見込みがない。
「泥棒同士の勝負だ。たまに腕っ節を競う必要があるってんだから、銃のひとつも欲しいぜ? まったくよ」
目を細めてにやける男は、
「けど、日本に生まれて互いに刀を持ってんだ。斬り合いってのも、案外乙なものかもしれないぜ? どう思う」
刀一本、初打ちのまま、御霊の力を露わにする素振りも見せない。
底知れなさが怖い。
「星蘭の立浪と、うちの沢城のガチの斬り合いみたいなのは御免かな。命の取り合いじゃ、ゲームにならなくなっちまう」
「そりゃあそうだ。けど、旗はひとつ。勝者は一校。なら、どっちが取るか決めなきゃなんねえ」
「わかってるよ」
やりたくねえけど。
「やるしかねえ。なら、せいぜい愉快に斬り合うか」
「そうこなくちゃ」
互いに構えた。
勝てば御の字。負ければ旗は奪われて星蘭が勝利する。
おいおい。
俺なんかに任せていいのか?
みんなで助けに来てくれてもいいんだぜ? マジで!
つづく!




