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バレオロゴスの罠 20


 ◆


 クロエの勝利は他が膠着している今、ありがたいことだった。

 シーリーンとパヤーニーは共に智天使ケルビムとぶつかり死力を尽くしているし、私もドゥーカスで手一杯。となれば、髑髏の騎士が誰かに手を貸せるこの状況は、我等を有利にする材料となるであろう。


 一瞬でも、そう考えた自分が恥ずかしい。何故なら後方に下がった髑髏の騎士が、しれっとクロエの横に留まっているからだ。


 って……おおおおいっ! 髑髏の騎士! なぜ後ろでクロエと共に督戦しておるかっ! 前線に出ぬかっ! 一体何なのだっ!

 クロエか、クロエの仕業なのかっ? あやつ、テオドシウスの手を引っ張り、再び戦場へ出さぬようにしておる! やはりあの小娘、引っ叩きたいっ!


「ふーっ、ふーっ!」


闇妖精ダークエルフ、何を興奮している。それにしても、随分と余裕だな。私を無視して余所見とは」


 思わず荒くなった私の鼻息に、ドゥーカスが反応した。ヤツとしても、髑髏の騎士に驚異を感じていたのだろう。私の下にテオドシウスが来なくて、ホッとしているに違いない。


「ふん、私が油断していると思うなら、さっさと斬りかかってこい、この腐れ妖精エルフがっ!」


 ドゥーカスは私との距離を、詰めようとも、離れようともしなかった。

 ヤツはチラリとクロエ達を見て、彼等が動かないことを確認すると、乾いた唇をペロリと舐める。

 私と斬りあっている隙に彼等が迫ってくることを警戒して、ドゥーカスは動かないのであろう。


 ――――


 いや――そんなことよりも、陛下の御身が心配だ。

 傷を癒す暇を与えられず、結界を持たぬままフランチェスコと戦っておられる。


 陛下とフランチェスコは、激しい剣戟を交えていた。

 流石に陛下の攻撃が掠めれば、フランチェスコといえども無傷ではすまないらしい。到る所に出血がみられ、純白の法衣が朱に染まりつつあった。

 

 だが一方で陛下には結界がなく、治癒魔法を唱える余裕もないようだ。いくら巧みな技量でフランチェスコの攻撃をかわしていても、背中の傷は痛々しかった。

 心なしか、お顔も蒼白になっておられる。徐々に動きも鈍くなっておられるから、立っているだけでも辛いのではなかろうか。


 見ていると、徐々に陛下の動きが鈍くなってゆくのが分かる。傷の癒えない身体では、「光速化スピード・オブ・ライト」も使えないのだろう。


「シャムシール――覚悟っ!」


 そしてついに、その瞬間がきてしまった。

 陛下の横なぎに払った剣をかわし、フランチェスコが突きを繰り出したのだ。

 光の刃が腹部に深々と刺さり、一筋の血が陛下の口から零れ落ちた。


「陛下っ!」


 私はたまらず叫び声を上げた。身体が勝手に駆け出している。

 ドゥーカスが斬り込んで来た。今まで動かなかった男が、猛然と私に迫っていた。

 しかし私には、もうヤツに構っている余裕などない。陛下だ――陛下をお助けしなければっ!

 だから背を向けて、私は陛下の下へ向かった。


「シュラッ! 何をしているのっ! 何を考えているのっ!」


 シーリーンの声が、頭上から響いた。

 背中に違和感を感じる。そして熱が広がった。

 ――背中が焼けるように熱い。どうやら私は、ドゥーカスに斬られてしまったようだ。


「主従仲良く、あの世へ行け!」


 ドゥーカスの愉悦に満ちた声が、背後で響く。

 知るか――私はともかく、陛下は死なない。私が回復魔法を掛けるのだから……。


「陛下……っ!」


 這うようにして、私は陛下の下へ向かう。

 陛下は一端フランチェスコから飛び退ったが、腹を押さえて荒い息をしておられる。血がボタボタと地面へ滴り落ちて、既に足元には血溜まりが出来ていた。


「シュラ、逃げなさいっ! もう、大丈夫だからっ!」


 五月蝿いな、シーリーン。一体、何が大丈夫だというのだ。全然ダメではないか。陛下が、青い顔をしておられる。これで大丈夫などと……これだから新参者は。

 そこへいくと、私は陛下の忠臣だ。だから命を賭しても、必ず陛下のお命を守らなければ……。

 

 その時、不意に辺りが暗くなった。地面には、鋭角で禍々しい翼影が映りこんでいる。これはなんだ? ――竜? 


“バサリ……”


 大きな羽ばたきの音、そして巻き上がる砂塵。次に訪れたのは、紅蓮の炎だった。そして空間にぽっかりと空き地が出来て――真っ黒な竜が降りてくる。


 ん? アーノルド……? これは、陛下の騎竜――私は、夢でも見ているのだろうか。こんな所に、どうして黒竜が……?


雷撃ラアドゥン


 眠たげな――それでいて夜風に揺れる鈴の如き澄んだ声が、黒竜の上から聞こえた。――と、次の瞬間、私の背後で雷鳴が轟き、「ぐっ!」と驚愕の声が上がる。

 慌てて私が背後を振り返ると、ドゥーカスが後ろへ転がりながら、落雷を避けたところだった。

 つい先程までヤツが居たであろう場所には黒く深い穴が開き、そこから灰色の煙が立ち昇っている。


 しばらくすると黒衣の第一夫人――ネフェルカーラさまが悠然と竜の背から飛び降り、私の前に立った。

 それから縄で背中に括りけた漆黒の鎧を、「よっこいしょういち……」と言いながら地面に下ろしてゆく。


「何者だ、貴様っ!」


 ドゥーカスが額に汗を浮かべて怒声を張り上げても、ネフェルカーラさまには何処吹く風。懐から取り出した無花果いちじくを食べ始め――「まだすっぱい……」と眉を顰めておられる。

 それからようやく気付いたように私へ目を向け――蔑むような目を、だが――こう仰った。


「おい、シュラ。敵に背中を向けて――何のつもりだ。逃げようとしていたのか?」


 酷い。いきなり濡れ衣だ。しかも顔を踏まれた。


「あ、ああ……ネフェル、カーラ……さま。違い……ます」


「気安く名を呼ぶな、下郎」

 

「う、うぐ……い、痛いです。顔を踏まないで下さい……」


 さらに顔をグリグリとするネフェルカーラさまは、私の傷に食べかけの無花果いちじくを投げた。「すっぱくて、もう要らん」

 不思議なことに、無花果いちじくをぶつけられたら傷が塞がった。痛みも消えて、体力も回復したようだ。

 ネフェルカーラさまは、これに目を丸くしていた私に小さく頷くと、腹部を押さえる陛下をご覧になって、首を傾げていた。

 

「なんだ、この惨状は。お前がいながら、どうしておれのシャムシールが、怪我をしておるのだ?」


「こ、これには訳が……ご報告しましたとおり、結界が……」


「ならばなぜ、貴様が身をもって敵の攻撃を止めぬっ!?」


 ああ……ネフェルカーラさまが、お怒りだ。非情な蹴りが、私の顔面を跳ね上げる。迫る爪先が大きくなった瞬間、目の前で火花が散った。


「ぎゃっ! は、鼻が折れました。か、顔を蹴らないで下さい……!」


「ふん、修行が足りぬ。しかも何だ、その言い草はっ! 我がシャムシール軍の尖兵たる貴様は、退かぬ、媚びぬ、省みぬ――を体現せねばならんというのに、憐れにもおれに媚びるとはっ!」


 いやいや、媚びてない。というか、なんだ、「退かぬ、媚びぬ、省みぬ」という妙な三原則は。陛下はそんなこと、一度だって仰ったことがない。

 しかしここで反論しても、さらに激しい暴力が待っていよう。ならばここは、従うのが得策か。


 私は鼻を押さえながら立ち上がると、ネフェルカーラさまをキッと睨んだ。


「うむ、良い目だ。退かぬ、媚びぬ、省みぬ――その気概が大事である。だが、何だな……睨まれると、無性に腹が立つ……」


 結局、今度は殴られた。


 それからネフェルカーラさまは、懐から無花果いちじくを取り出し私にくれた。食べろということだろう。相変わらず理不尽過ぎる方だ。

 ともあれ無花果いちじくを受け取り、口の中へ入れる。少しすっぱかったが、それを食べるとみるみる私の鼻は回復し、血も止まった。


「ふむ……味はイマイチだが、どうやら回復効果のある果物が出来てしまったようだな。肥料にアエリノールの髪を混ぜたせいか。無駄に聖性の高いバカ女め……」


 えええっ! これってアエリノールさまの髪の毛が肥料だったんですか! 

 傷が完全に治る果物が獲れるって、凄いことですよ! 大発見ですよ、ネフェルカーラさま! アンタ、普段、何をしてるんですかー!


「まあよい。とりあえず、シュラ。シャムシールはおれが癒すゆえ、お前は、適当に戦っておけ」


「は、はぁ」


 そう言うとネフェルカーラさまは指をパチンと鳴らし、アーノルドを上空へ退避させた。

 それから鎧をズリズリと引き摺って、欠伸をしながら陛下とフランチェスコが戦う場所へと歩いてゆく。

 不思議とシャムシール陛下の表情が曇っておられるのだが――もしかしてフランチェスコよりもネフェルカーラさまの方が恐い、なんてことは……あるのかも知れないな。


 ◆◆


「そぉーれ、それ……大火球アル・ナール・ナハブ


 歩きながら人差し指を中空へ翳し、ネフェルカーラさまが魔法を唱えた。すると頭上に竜ほどもある火球が五つ、グルグルと回り始めたではないか。

 それをネフェルカーラさまは楽しそうに、「ひとーつ」「ふたーつ」と敵に投げつけてゆく。その度、地面が抉れ、人が焼け、宮殿の胸壁が崩れていった。


「ふははははは! 人がゴミのようだぁー!」


 爆風に衣服を靡かせながら狂喜乱舞するネフェルカーラさまは、もはや当初の目的を忘れているのではなかろうか。


「ネ、ネフェルカーラさまっ! 西門を崩してはなりませぬっ! 敵に脱出させぬ為、塞いでいるのです……! それに、味方もおりますればっ! 何より、陛下をお救い下さいませっ!」


 私は、声が枯れんばかりに叫んだ。実際、西門には不死隊アタナトイがいる。兵力を減らすわけにはいかないのだ。


「ふむ……シャムシール」


 激しい火炎の中でフランチェスコと戦う陛下に目を移すと、ネフェルカーラさまは足を止め、崩れかけた西の胸壁に手を翳した。


不死隊アタナトイを、無駄にするわけにもいかんな。よかろう――大召喚イステドアァッ!」


 不思議な事に、ネフェルカーラさまは何かを召喚しようとしておられる。

 不死隊アタナトイを再度、甦らせようというのだろうか。


 しかしネフェルカーラさまが紡いだ魔法は、私の予測を斜め上に飛び越えていた。

 瞬く間に空が闇色に染まり、紫色の太陽が中天に浮かんで――大地からは禍々しい瘴気が立ち上ってゆく。

 

「冥界と現界を結ぶだとっ! この女、魔王の類かっ!?」


 フランチェスコが唇をワナワナと震わせ、後ろへ下がった。


「ふははははは! おれは熾天使セラフだ!」


「嘘をつけっ!」


 何やらフランチェスコとネフェルカーラさまが、珍妙なやり取りをしている。あの方は、まさか遊びにきたのだろうか。だとすれば、巻き込まれたフランチェスコには同情を禁じえないが。


 ――ともあれ、ネフェルカーラさまの魔法は止まらない。地面がボコリと盛り上がって、ガラガラと大地を揺らしている。人間の騎士達は、この状況に喚き、喘ぎ、うろたえていた。


「騒ぐなっ! 帝国の第一夫人、ネフェルカーラさまの魔法だっ!」


 私の言葉にバレオロゴスの騎士達は安堵し、敵は逆に恐慌をきたす。

 もっとも、ネフェルカーラさまの事だから、味方を考慮した魔法を使うとは思えぬ。だから私は安堵した味方に、心の中で謝罪した。「死んだら、すまん」


「ネフェルカーラ、助かった」


 そんな最中、陛下がネフェルカーラさまの肩に手をのせ、感謝の言葉を口にした。

 すると黒衣の悪鬼――もといネフェルカーラさまはモジモジと身体をくねらせ、立ち止まる。それから懐に手を入れると、またあの無花果いちじくを取り出して、陛下に食べさせようとしていた。


 ……一体何個、あの方は無花果いちじくを持っているのであろうか。

 いやいや、そんなことを推測しても仕方が無い。

 ともあれ、陛下は無花果いちじくを食べることで完全回復なさったので、全ては良しとしよう。まあ、多少は不思議なお顔をなさっていたが……。

 

 そうこうしている間にネフェルカーラさまの生み出した化け物が、その全貌を見せた。

 全ての天変地異が収まると、爽やかな青空にはまったく似つかわしくない、巨大な不死骸骨スケルトンが姿を現したのである。

 その大きさたるや優に宮殿の胸壁を凌ぎ、見上げるほど高い位置で、巨大な髑髏がカタカタと不気味に笑っているのだった。

 

「西門にいた不死隊アタナトイを全てくっつけて、大きな不死骸骨スケルトンを作った。可愛いだろう」


 ネフェルカーラさまは得意満面で、巨大な不死骸骨スケルトンを見上げていた。口元を薄布で覆っている為、詳しい表情は分からないが――多分、恍惚としているのだろう。相変わらず、変なモノが好きなお方だ。


「行け、おれの超巨大魔導兵器っ! 神に鉄槌を下してやるがいいっ!」


「ズモモモモォォォッ!」


 ネフェルカーラさまが、人差し指をフランチェスコに向けておられる。

 巨大な不死骸骨スケルトンはと言えば、空洞の口を大きく開けて、咆えていた。それから身体に相応しい巨大な曲刀を振りかざし、フランチェスコへ迫っている。


「ちっ……!」


 フランチェスコが魔法弾を放ちながら、中空へ舞い上がった。遥か上から剣を振り下ろされ続ける、というのを嫌ったのだろう。

 巨大な不死骸骨スケルトンは、やはりその身体に相応しい大きな円形盾を翳して、フランチェスコの魔法弾を受けていた。


 ――――


「チラチラと、相変わらず余所見とはな。援軍が来たからといって、もう勝ったつもりか?」


 おっと――私もドゥーカスと剣戟の最中であった。

 とはいえ、此方は些か膠着状態にある。速度に勝る私と、防御に勝るドゥーカス。質は違えど、剣の腕が互角だったからだ。

 互いに隙を突こうと幾度か技を繰り出してみたが――どちらも致命の一撃には至らなかった。

 

「貴様も、様子見をしているだろう。引き際でも考えているのか?」


「まさか――ヘルメスさまがおられる以上、私が退く事は無い」


「随分と厚い忠誠心だな」


 二十合以上剣を合わせる中で、ドゥーカスについて分かった事がある。

 この男は、フランチェスコが神だと知りながら仕えていた、ということだ。


「神に仕えて、なんとする。フランチェスコ……いや、ヘルメスはお前たちを、単なる使い捨ての道具くらいにしか考えていまい?」


 突きを放ちながら、私は問う。ヤツが少しでも戸惑えば――と思うが、同時にヤツの内心が知りたいという気持ちもあった。


「この戦いが終われば、私は神剣士セイバーズの一員となる。そうすれば、妖精エルフ以上の存在となれるのだ! 貴様如きに、理解できることではないわっ!」


 私の剣を弾き、ドゥーカスが笑っている。その血走った両目が、狂気を孕んでいた。


神剣士セイバーズ”とは、確か神直属の軍だと聞いた事がある。それぞれに神格を許され、“記録レコーズ”を授かるのだと、ジャンヌ・ド・ヴァンドームが言っていたな。

 ドゥーカスは、そんなモノに魅せられたのか。下らん、憐れな男だ。

 

 ――――


「ぬおっ!」


 私が戦っていると、空からパヤーニーの間抜けな声が聞こえてきた。仕方なく視線を転じると、どうやら苦戦しているらしい。

 というか、いつの間にかヤツは手足を失い、頭と胴体だけで敵と戦っていた。いい気味だ――と思わないこともないが、流石に見た目が気持ち悪いし、気の毒でもあった。


「降伏せよ。その様では、もはや戦えまい! 貴様の力は中々のもの。以後、ヘルメスさまの為に力をふるうならば、我が飼ってやるっ!」


「なんのっ! 手足なんぞ、飾りである! 偉い人には、それが分からんのであるっ!」


 窪んだ眼窩を真紅に輝かせて、精一杯の強気発言だ。パヤーニーの心は、まだ折れていなかった。

 というか、偉い人ってなんだ? お前、元不死王(イクシル)だろう。自分も充分、偉いではないか。

 まったく。何を言っているんだ、アイツは……。


 しかし、そんなパヤーニーを気に入ったらしい天使マラーイクは、ニヤニヤと笑いながら、指の骨をボキボキと鳴らしている。

 見れば敵は獅子の鬣にも似た煌びやかな金髪を持つ、実に雄雄しい天使マラーイクだ。これでは干物のパヤーニーに、勝ち目は無いだろう。見た目的には、既に惨敗だ。


「おう、パヤーニーとやら! 豪気なものだな。貴様ほどの男は、このダネル……ううんと……十年、二十年、いや、三十年……ええと、二百年ぶりだっ!」


 む、む……だが、どうやらパヤーニーの敵も、少し残念な男らしい。

 指を鳴らし終えた両手を開き、指折り数えた挙句、よく分からなくなったようだ。二百年というのは、多分適当に言っただけだろう。今も小指を折り曲げたり、薬指を伸ばしたりして悩んでいる。

 ……間違いない。あれは馬鹿の仕草だ。アエリノールさまも数を数える時に、よくあんなことをしているからな。


 まあ、敵が馬鹿だとして、それは充分納得できる。

 何しろダネルと名乗った天使マラーイクは、上半身の長衣を肌蹴て隆々とした筋肉を見せびらかしていた。

 しかもヤツは武器を持たず、肉体が武器だと主張しているかのようだ。となれば、脳まで筋肉で出来てることは、まず間違いないだろうから。


「パヤーニー・レールガンッ!」


 唐突にパヤーニーが、強力な光線を放った。悩むダネルに、隙を見つけたのだ。

 まさに見事。さすが、空気を読まないパヤーニーと言える。

 しかしダネルは、「ハッハー!」と笑いながら、悠々とかわす。そして猛然とパヤーニーへ突進した。


「堕ちろ、干物男っ!」


「むっ! 緊急脱出っ!」


 轟音と共に、ダネルの拳がパヤーニーの腹部へ食い込んだ。


 “ドパァァァン”


 緋色のローブと共に、パヤーニの胴体部分が霧散する。まさに、跡形も無い――と云えるだろう。粉塵と化したパヤーニーの胴は、大気に紛れ、風と共に消えた。


「ふう……危ないところであった。回避が僅かでも遅れれば、余の命は無かったであろう……ま、もう死んでおるがなぁ。はっはっは!」


 頭だけになったパヤーニーが、高らかに笑っている。

 自らがどれ程の危地にいるのか、あのミイラは分かっているのだろうか?

 もはや残されているのは、頭部のみ。あれが破壊されれば、流石のあやつも死ぬ――いや、天に召される他ないであろうに。


 しかし――パヤーニーは乾いた皮膚を引き攣らせ、笑った。「キシリ」

 ポロポロと乾燥した頬の皮膚が零れたが、パヤーニーは気にせず、レールガンを再び放つ。


「軌道が読めるのだ! そんなもの、当たりはせんっ! ……ぐわぁぁぁっ!」


 パヤーニーの目から放たれた怪光線を回避したダネルは、しかし背後から別の怪光線に貫かれていた。


「ぐわあああああああ!」


 さらに下方から一条――加えて、もう一つ。やがて五つの光線に貫かれ、ダネルの身体は塵も残さず、蒸発した。


「余がいつ、目からしかレールガンを撃てぬと言ったか……愚か者めが」


 中空には、パヤーニーの手足が漂っている。それは、消えたダネルの身体を四方から囲み、手の平や足の裏を翳していた。

 やがて手足がパヤーニーの元へ終結すると、


「んがああああ!」


 ミイラの悲痛な叫びが木霊した。


「余の、余の身体ぁぁぁ! アレが無いと、手足がくっつかないではないかぁぁあ!」


 もう、アイツのことは放っておこう。真面目にやっているこっちが、馬鹿馬鹿しくなってしまうからな……。

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