ミラーワールド 第一話。
俺の名前はパトリック。
アメリカ生まれ、H大卒のエリート白人だ。
俺は昔から日本に興味があった。
歴史、文化、食べ物、もちろん、日本の女性にもだ。
東京、渋谷————
パトリックは東京、渋谷の街中で≪松屋≫を見つけると目を輝かせた。
意気揚々と≪松屋≫に入ると、早速お目当ての≪チーズ牛めし≫を券売機で購入し、アメリカ人特有の大きな声で注文した。
「≪チーズ牛めし≫、お願いします。」
パトリックは悲願だった≪チーズ牛めし≫を口いっぱいに頬張ると、満足そうに両手で頬を押さえた。
「Oh、ジャパニーズ牛丼、最高!!」
牛丼を食べ終わったパトリックは、店員に両手を合わせ、日本風にお辞儀すると≪松屋≫を後にした。
アメリカの片田舎で育ったパトリックは、人の多さに圧倒されつつも≪大都会、渋谷≫を楽しんだ。
その時、パトリックは街中でサラリーマン風の中年男性がヤンキー達に絡まれているのを見つけた。
「おい、おっさん金出せよ。」
その光景を見たパトリックは右手でダメダメとジェスチャーをしながら、ヤンキー達に話しかけた。
「止めるんだ!!」
パトリックを見るとヤンキー達は逆上した。
「何だぁ、このチー牛みてぇな白人がぁ!!」
グサッ!!という鈍い肉を斬る音がした。
「ああ、そんな……。」
パトリックは刃物で刺され腹から血を流すと、仰向けに倒れ心の中で呟いた。
(俺は……俺は死ぬのか?勉強もした、思想だってリベラルだ。嫌だ、嫌だ、嫌だ——ッ!!)
目を閉じ薄れゆく意識の中で、パトリックは大声で叫んだ。
「俺は、俺は……まだ、童貞なんだーッ!!」
パトリックは大声で叫ぶと、起き上がり周りを見渡した。
そこには≪大都会、渋谷≫の姿は無かった。
行き交う人の姿も無く、ただ、廃墟となったビル群が空虚に立ち並んでいた。
「ここは、どこだ?俺は生きているのか?」
パトリックは腹を見た。
刺されたはずの傷がない。
不思議に思うパトリックの鼻に強烈なドブのような匂いが漂ってきた。
パトリックはクンクンと鼻を鳴らした。
「何だ?この強烈な匂いは?」
その時、パトリックの背後に灰色のクリーチャーが現れた。
頭部はなく、本来頭がある位置に、ドイツ車のようなブタ鼻が上を向いて付いている。
パトリックは驚き、鼻水を垂らしながら慌ててクリーチャーから逃げ出した。
「嫌だ、死にたくない。まだ、女を抱いたこともないというのに!!」
パトリックは逃げ出すも、小石につまづき尻からすっ転んだ。
クリーチャーから逃げようとするも立ち上がれないパトリック。
「止めろ、止めてくれ……。」
パトリックは涙を流し後ずさりした。
その時、パトリックの背中にドンッ!!と何かがぶつかった。
恐る恐る振り向き、上を見上げるパトリック。
パトリックの目に赤いフードを被った女性が見えた。
女性の右手のひらから、霊魂のような青白い炎がユラユラと揺れる。
女性はパトリックを無視するようにクリーチャーへ歩むと、すれ違いながら呟いた。
「死ねよ。」
「ブタ野郎!!」
ブヒーッ!!と叫ぶと、頭部にあるブタ鼻から黄色い体液を吹き散らし、灰色のクリーチャーは倒れた。
そのまま立ち去ろうとする女性の後をパトリックは必死に追うと話しかけた。
「あの……ここは?あなたは、誰?」
女性が小高い丘の上に立つと振り返った。
パトリックが女性の前に立ち、丘の上から下を見ると大量の灰色のクリーチャー群が見えた。
ブヒッ!!ブヒッ!!ブヒッ!!
鼻を鳴らし、我が物顔で荒れた大地を踏みしめるように歩く灰色のクリーチャー群。
すると、パトリックの前で女性が赤いフードを下ろした。
肩口まで伸びた青く美しい髪の女性。
女性はパトリックを見て言った。
「ここは……ミラーワールド。」
ミラーワールド。 第一話。 終わり。




