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『また従妹に譲ってくれ』が四十八回目だったので、儀礼台帳を白紙に戻しました  作者: ヲワ・おわり


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第49話 北のために、ではなく

 エドワルドが去った翌夜、城館は静かだった。


 灯りが少なかった。廊下を照らす燭台の炎は、風もないのに時々揺れた。石の壁は昼の熱をまだ少し持っていた。しかし夜の冷気はそれをゆっくりと押し返していた。アシュリーは廊下を歩いていた。眠れなかった。眠れないことは分かっていたので、眠ろうともしなかった。ただ歩いた。ぐるぐると同じ廊下を歩くのではなく、歩きたい方向へ歩いた。城館の中でどこへでも行けるわけではなかったが、深夜にここを歩くことを誰も咎めなかった。それがここの習慣なのか、それともロドリクの意向なのかは分からなかった。どちらでもよかった。


 窓辺で足が止まった。


 外は月があった。雲は少なかった。北の山の稜線が、月明かりの中にはっきりと見えた。昼間とは違う山だった。昼の山は動いているようだった。光の角度が変わり、影が動き、山肌の表情が変わった。夜の山は静止していた。そこにただあった。アシュリーは窓枠に手をついて、その山を見た。見続けた。山は何も言わなかった。答えも求めなかった。ただそこにあることだけを、ずっと続けていた。


 廊下の奥から足音がした。


 ロドリクだった。書類は持っていなかった。仕事の途中という様子でもなかった。小さな灯りを一つ持っていた。アシュリーを見つけると、足音が少し緩んだ。急ぎの用がある歩き方ではなかった。近づいてきた。窓辺まで来ると、アシュリーの隣に立った。


「眠れませんか」


「……少し」


 アシュリーは答えた。


 少し、という言葉は正確ではなかった。眠れていなかった。しかし嘘でもなかった。眠れないことが苦痛というわけではなかった。ただ今は夜の中にいたかった。その感覚を正確に言葉にする方法がなかったので、少しと言った。


 ロドリクが隣に立った。同じ窓から外を見た。二人の間に少しの間があった。急ぐ間ではなかった。ロドリクは特に何かを言おうとする様子ではなかった。ただそこにいた。アシュリーもそこにいた。月明かりの中で、北の山が静止していた。二人とも同じ山を見ていた。同じ沈黙の中にいた。


「殿下に、断りました」


 アシュリーが言った。


 報告するつもりではなかった。ただ、口に出た。今日一日、自分の中にあり続けた言葉だった。昼間は何度も口から出そうになって、出さなかった。しかし今、夜の廊下で、ロドリクが隣にいる状況で、自然に出た。出てしまったら、少し軽くなった。


「聞いていました」


 ロドリクが言った。


 アシュリーは少し目を向けた。ロドリクの表情は穏やかだった。特に驚いてもいなかった。


「……やはり聞こえていましたか」


「廊下で待っていたので」


 短い答えだった。それ以上の説明はなかった。聞くつもりで待っていたのか、それとも偶然に通りかかったのかも言わなかった。ただ聞こえたと言った。アシュリーはそれをそのまま受け取った。聞こえていたなら、聞こえていたのだろうと思った。


「よかったです」


 ロドリクが続けた。


 アシュリーは少し間を置いた。


「よかった、というのは……」


 答えが返ってくるまでに、わずかな間があった。ロドリクは外を向いたまま言った。


「あなたが自分の言葉で答えたから、です。内容ではなく」


 アシュリーは何も言わなかった。


 内容ではなく。その言葉がしばらく残った。断ったことへの評価ではなかった。断り方への、何かだった。アシュリーが自分の口で言ったということへの、何かだった。誰かに言わされたのではなく、誰かの言葉を借りたのでもなく、自分の中から言葉を出したことへの、何かだった。その「何か」の名前をアシュリーはまだ持っていなかった。


 廊下の炎が揺れた。理由のない揺れだった。また静まった。


 少しの沈黙があった。


 沈黙は重くなかった。ロドリクも急がなかった。北の山は動かなかった。月は少しずつ雲に近づいていた。風はなかった。城館の石は夜の冷気をゆっくりと受け取っていた。ここにいると、時間の動き方が違うと感じることがあった。王都では時間が圧力を持っていた。常に何かが次の何かへと続いていた。しかしここでは、今があった。今だけが、とりあえずそこにあった。


「一つ、聞いてもいいですか」


 ロドリクが言った。


「……はい」


「あなたはここにいることを、どう思っていますか」


 アシュリーは答えられなかった。


 問いが来ることは分かった。しかし問いの中身は予想していなかった。仕事のことかと思った。これからの役割のことかとも思った。しかしロドリクが言ったのはそうではなかった。ここにいること。それをどう思うか。


 考えようとした。考えが出てこなかった。


 四年間、そういうことを問われたことがなかった。ここにいていいかどうかを考えることはあった。ここにいる意味を考えることもあった。しかしここにいることを「どう思うか」と問われたことは、一度もなかった。問い方が違った。問い方が新しかった。だから答えがなかった。答えを今から探さなければならなかった。探し始めていた。


 月が雲にかかった。廊下が少し暗くなった。ロドリクが持っている灯りが、二人の足元を照らした。小さな炎だった。それでもないよりはずっとよかった。


 アシュリーは答えを探していた。


 悪くないと思っている。それが最初に出てきた言葉だった。しかしそれを言っていいものか、少し迷った。あまりにも小さな言葉だった。ここに来るまでのことを思えば、もっと別の言葉があるはずだった。感謝や充実や、何か前向きな名前のある感情を言うべきではないかと思った。しかし今の自分の中にあるものを正直に言えば、悪くないだった。それが事実だった。


 アシュリーが答えを考えていると、ロドリクが静かに続けた。

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